少女は華麗に変身する
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嬉しい~、ありがとうございます!!
もうちょっと早くにこの話を完成させるつもりだったんですが、思ったより時間がかかりました。
でも、アレクサンドラの天然っぷり炸裂の笑える話になっている……と思います。
まあまあの文量ですが(分けるかどうか悩んだ)、お楽しみください。
アレクサンドラ・ヴォルコフの魔法属性は、“氷”だ。
休学明け(浄化後)に魔法の授業を受けた時、アレクサンドラは大きな衝撃を受けたあと、内心で狂喜乱舞していた。
(魔法?!わたし、魔法がつかえるの?!)
しかも、氷の魔法である。
となると、アレクサンドラはどうしてもやりたいことがあった。それは―――
某3Dアニメの“雪の女王”である。
前世に病室でDVDを何度繰り返して観たことか。
日本語版の歌は完璧に覚えている。ぜひ、歌いながら氷の城を作りたい。
早速、こっそり庭で試してみることにした。落ち着いてゆっくり記憶を辿ってみると、基本魔法はほぼちゃんと使える。そして、魔力量もかなり多いことが分かった。これなら出来るはずだ。
「ふふふ~ん、ふふ~ん……♪」
ところが、やってみたいことを実際にやると、なかなか難しかった。そもそもこの世界で魔法を発現させるには、特殊な魔法印を空中に描かなければならない。歌いながら描くと、どうしても歪になるし間違えるのだ。
まずは無意識でも印を描けるようにならなければ!と魔法印の練習をしつつ、同時に氷の階段や城も作る練習を始めた。
が、でっかい氷の塊を出現させるなら簡単だが、“形”を作るとなると難易度が格段に跳ね上がった。歌いながらヒュッと手を振って出来るようなものではない。
(エル○……じつはすごい魔法つかいだったのね……!)
さすが“雪の女王”だとアレクサンドラは尊敬の念を新たにした。
その後、一か月間も真面目に練習を続けたが、どうしてもエ○サのような魔法は使えないと断念せざるを得なかった。魔法学の先生にも「こういう氷の城を作れますか」と絵を描いて相談したのだが、即答で「無理」と返されてしまった。
仕方がない。
自分は一介の公爵令嬢。雪の女王には、やはり敵わない。
なので、アレクサンドラは夢その2の実現に気持ちを切り替えることにした。
夢その2は、某アニメの悪の組織と戦う少女戦士である。これも病室で毎週楽しみに見ていた大好きなアニメだ。
―――が、ここでも実現には難題が待っていた。
魔法で変身が出来ないのだ。
まず、魔法で何もない空間から服が作り出せない。
ならば、別の場所に置いてある服と交換してみようとしたが……これも高難度の術である。そもそも、氷魔法が主のアレクサンドラには不可能に近い。
(はああ……せっかく魔法がつかえるとおもったのに……ぜんぜん、やりたいことができない……)
いつもは明るく前向きなアレクサンドラも、さすがにしょんぼりへにょんとしてしまった。
そんなある日。
街道で盗賊が出るという噂を聞いた。
「サーシャ。しばらく街の方へ行くのは止めなさい。学院への行き帰りは護衛の数を増やそう」
セルゲイが心配して指示を出す。
だが、アレクサンドラの心は躍った。
(今こそ、プ○キュアの出番だわ!)
この際、変身は諦める。でも、悪いヤツはやっつけるのだ!
とはいえ、盗賊退治に行くと言えばセルゲイは勿論、多くから反対にあうことは分かっていた。だから、誰にも内緒にして夜中にこっそり屋敷を抜け出した。
これには、練習した魔法が役に立った。二階の自室の窓から、氷の滑り台で降りたのだ。
「うう、寒ーい」
厚手のマントを羽織っているが、その下は自作のコスチューム。膝上のスカートに素足は冷える。魔法少女は、意外と過酷な労働環境のようだ。
それでも、アレクサンドラは熱い希望を持ってガッツポーズをした。
―――さて、無鉄砲なアレクサンドラとはいえ、無計画で外に出た訳ではない。氷の魔法が得意だからか、雪の精とはとても相性がいい。今のような寒い時期は、雪の精が元気にそこらじゅうを飛び回っているので、盗賊の情報を教えてもらうことが出来るのだ。
ただ、雪の精との会話は3才の子供を相手にするような感じで、難しい話は出来ない。今日はどうやら東の山の方に“わるいヤツがいる”らしい。
愛馬のスヴェートに乗ってさっそく東へ向かう。
アレクサンドラは子供の頃から乗馬が得意だった。“奈々”の記憶が甦ってしばらくは上手く乗れなかったが、ヴィクトールやミハイルが教えてくれたおかげで今はとても上手に乗れる。動物が大好きだった奈々にとって、生まれ変わって“馬に乗れる”ようになっているなんて、夢のようだ。
「さむいのにゴメンね、スヴェート。あとでいっぱい ごちそうをあげるね」
ヒヒーン!
スヴェートは「気にしてないよ!」と言うように元気いっぱいに返事をしてくれた。頼りになる相棒だ。
やがて、目的地の山の麓に着いた。
雪の精が「あっち、あっち」と騒ぐ。その声に導かれて山道を行くと―――
ワァワァと何か怒鳴り合う人の声が聞こえる。
アレクサンドラは急いでスヴェートから降りて、現場へ向かった。
「か、金をだせ!」
「そ、その荷車の荷物を置いていってもいいぞ!」
農機具を持った男達が、商人の馬車を取り囲んでいる。
アレクサンドラは急いで仮面をかぶって、男達の前に飛び出した。
「やめなさーい!悪いことをする人は、おしおきよ!」
「はわっ?!」
突然飛び出してきた少女に、その場の全員が目を剥いた。
膝上のミニスカートをはいた、仮面の少女。白銀の長い髪はツインテールに結ばれ、可愛く揺れている。
「え……あの……ど、どちら様で……?」
「冬に咲く夢の花、キュア・スノーよ!」
「はぁ?!」
「盗賊なんて、しちゃダメ。ちゃんと、まじめに はたらきなさい!」
少女は腰に手を当て、男達を説教する。
真剣に怒っているようだが、なんだか可愛い。
だが。
男達にはあまり聞こえていなかった。何故なら、少女のスラリと長い脚があまりにも衝撃だったからだ。馬車に乗る商人も、馬車の横で剣を構えている護衛らしき男も、完全に動きが止まっている。
この世界で、こんなに惜しみなく素足をさらす女性は―――いない。
数瞬の沈黙の後……その場の男達全員が鼻血を噴いてぶっ倒れた。
なんとか全員介抱して、アレクサンドラはほうっと息をついた。
まさか、説教だけで全員が倒れるとは思わなかった。人を傷つけずに捕まえる方法をいろいろ考えていたのに、それを実行するヒマもない。
というか、助けるべき商人まで倒れるとは予想外だ。
「す、すまねえ、お嬢ちゃん……」
「お嬢ちゃんじゃないわ。キュア・スノーです!」
「そ、そうか。きゅあすのーちゃん。あー、えーと……わしらも、盗賊は悪いことだと分かっているんだよ。でもねぇ……」
介抱した盗賊の一人がアレクサンドラから目を逸らしながら、言い訳する。
「今年は不作だったんだ。村には、あんまり蓄えがない。だから、ちょっとだけ、ここを通る商人から食べ物とか、お金とか、分けて欲しかったんだよ」
「まあ。食べるものが あまりないのですか?」
「冬を越すのは、ちょっと厳しいかな……」
他の盗賊達もうんうんと頷いている。
よくよく周りを見渡してみると、どの盗賊達も純朴そうな農民風な出で立ちだ。というより、この辺りの農民なのだろう。
アレクサンドラは唇を噛み締めた。
悪いヤツは退治すればいい、と単純に考えていたが、これはそんな簡単な問題ではないらしい。
(おとうさまに相談したほうが いいのかしら)
しかし黙って家を抜け出し、仮面の少女戦士キュア・スノーに扮している以上、相談しにくい。
しばらく考え込み……アレクサンドラは素晴らしいアイディアを捻りだした。
―――ヴォルコフ領東端に、新しい観光名所が誕生した。
その名も“キュア・スノー・パラダイス”。
冬季限定の氷の遊園地だ。
大きなスケート場を中心に、氷の滑り台、氷の迷路、氷の動物像が並ぶ動物園などがある。
良心的な設定の入場料を払えば、一日、そこで遊べるとあって大人気らしい。
なおパラダイスの職員は、周辺の農民達。制服はないが、不思議な仮面をつけて勤務している。その仮面を彼らは非常に大事に取り扱っているそうだ。
噂を聞き、視察に来たセルゲイは首を捻った。
「こんなすごい施設を作り上げるとは……一体、どこの誰だ?」
氷の魔法が使われていることは分かる。時間は掛かっただろうが、この規模、精緻さを見ればかなりの腕の持ち主だろうと思われる。
「は。……氷の女神様がこの地に降臨されました」
「氷の女神?」
「はい。キュア・スノー様です。わしらの窮状を知って、お慈悲を賜りました」
「そうか……。私も会ってみたかったな」
村長はブルル!と全身を震わせた。
寒かったのではない。
もし、キュア・スノー様に領主のセルゲイ様が会ったら……村人全員が確実に罰せられると思ったからである。ご領主がどれほど愛娘を大事にしているか知らぬ領民は一人もいない。
(キュア・スノー様……貴方の秘密は我々が死しても守りますからね!)
でも私は、某雪の女王もプリ○ュアも観たことなかったり……。
※ キュア・スノー・パラダイスにキュア・スノー様の氷像を飾るというアイディアも出たのですが、美しいおみ足を野次馬な観光客に見せてはならない!と反対意見が多く、断念しました。
(あ、セルゲイはちゃんと貧しい地域に備蓄小麦を回すなど、対策は取っていますよ~。ただ、もうちょっと贅沢したいと短慮な若者がバカなことをしてしまったのです。彼らは、きっちり村長から怒られて、パラダイスで一生懸命働いています。そして、それまでに襲った商人達へ、パラダイスで稼いだお金でお詫びするのでした)
こちらの話が面白い!と思ってくださった方、最新作『キミナカ ~わたしが君になったら~』も読んでいただけると嬉しいです。
https://ncode.syosetu.com/n3470ik/
全2万字ほどのドタバタコメディー。能天気な一人の少女が同級生の男子に憑依(?)して、いろいろとやっちゃうお話です。




