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第4話 ロバート故郷に帰る

毎日午後7時に投稿します。お読みいただければ幸いです。

 さて、指揮官代理としての仕事も終わりました。再び冒険者として旅に出ようとしたら、ロバートに捕まりました。「まさか一人置いていこうと思ってないよね」


 どうみても僕の役目は終わりだと思うのですが。


 「まだ後始末が残っているんだよ。最後まで付き合ってくれよ」泣いて頼まれました。


 僕がいても役には立たないと思いますが、まあ袖触れ合うも他生の縁というし、急ぐ旅でもないので少し付き合いますか、そう思い、「わかりました。もう少し付き合いますよ」と言ったら、「君と僕とはもう友人だ。僕のことはロンと言ってくれ。バードと呼んでいいかい?」と言ってきました。まあいいかと思い、了承しました。


 この戦について、王宮からの使者が来て、今回の勝利に対する褒賞が出るとのこと。連絡があるまで故郷で待つよう指示されたそうです。


 田舎暮らしというのも初めての体験、少しウキウキしながらロバートに従いました。


 村に着くと、ロバートは浮かない顔をしながら、ある屋敷まで行きました。


 「ここ、嫌な思い出ばかりの場所で来たくないのだけれど、ここの主に挨拶しとかないとあとで何言われるかわからないからな」すごく気の重そうな顔でロバートは言った。


 ロバートは屋敷の玄関で、声をかけた。一人の老人が出てきた。すごく慇懃無礼な感じだった。


 「王宮からしばらくここで連絡を待つよう言われましたので、滞在いたします。その旨ご連絡させていただきました」


 老人は「わかりました。ご主人様に申し伝えます」といってドアを閉めてしまった。


 ロバートは僕の方を見て言った。「とりあえず、しばらく母の実家にお世話になろうと思う。一緒に行くぞ」すごく元気がなさそうだった。


 「わかった。でも…大丈夫か」僕は気遣うように言いました。


 「あはは、慣れているから大丈夫。それに直接会わずに済んだから助かったよ」と無理に朗らかに言った。相当ひどい目にあわされていることが感じられた。


 ロバートの母の実家はこの地域の土豪でした。正直、男爵邸より立派で、多くの人が行き来していました。


 「おじさん、お久しぶりです」そう言ってロバートは入っていった。


 「おお、ロバート元気だったか、久しぶりじゃないか」色黒の年上の男性が声をかけた。その直後、「ロバート久しぶり、なんで帰ってこなかったの」褐色の肌を持つ胸の大きな女の子がロバートに抱き着いてきた。


 「ええと、ジューン姉さん久しぶり」ロバートは少しうろたえながら答えていた。


 僕はにやにやしながら見ていました。この二人僕とキャサリン姉さんのような関係だな、と思いました。


 「きみは…」年上の男性が僕に声をかけてきました。「初めまして、前の戦闘でロバート様の部下だったバードと言います」そう自己紹介しました。


 「バードは元部下で、親友なんだ。おじさん申し訳ないんだけどもてなしてほしい」


 「わかったロバート、お前の親友ならば精いっぱいもてなそう。こちらにおいでください。バード殿」いつの間にか親友にグレードアップしていました。


 「自己紹介が遅れて申し訳ない。私の名はプルデンだ、それではバード殿、ロバートの部下だったというけれども、具体的にはどういう関係だったのかな」奥に連れられて行くと尋ねられました。


 「ロバート殿とは先の戦争で一緒に戦い、敵を追い返しました。彼は軍の総司令官を務めていました」そう答えところ、「ロバートが司令官だったなんて。戦争の知識なんかなかったはずだが」プルデン殿はびっくりしていました。


 「何分、男爵家の三男だったので無理やり戦場に連れ出されたということだそうです」

 「男爵か、あいつは私の可愛い妹を無理やり手籠めにし、子供を産ませた挙句、その子ロバートを放逐したくそ野郎だ。死んでからもロバートに迷惑かけるとは本当にどうしようもない奴だ」プルデン殿はかなり怒っている様子でした。


 「申し遅れたが、私はこの村の村長をしている。君のことは歓迎するよ」

 プルデン殿は微笑みながら僕に向かって言いました。


 久しぶりの風呂に入れてもらい、おいしい食事を食べさせてもらいました。そこでプルデン殿の家族を紹介されました。


 ブルデン殿、奥方のミル殿、長女のジェーン殿、次女のミリア殿の4人家族だそうです。


 ジェーン殿はロバートの元を一時も離れず、ずっとくっついていました。


 「失礼ですが、ジェーン殿はロバート様の婚約者ですか?」

 「小さい時から結婚することになっている者同士です。バード殿、3日後に村全体の結婚式を行うので、出席いただけないでしょうか」ブルデン殿はそう言いました。

 「村全体の結婚式ですか?」

 「この村の風習で、結婚式は年に一回集団で行います。ちょうどロバートも帰ってきたことだし、ロバートとジェーンの結婚式を済ませようと思いまして」ブルデン殿はにこやかに言いました。


 「バード殿も気に入った女子がいましたら、声を掛けますよ。ここの女は情が深く、献身的で、肉体的にも健康で丈夫な女性が多いですからね」


 「せっかくのお申し出ですが結構です。大丈夫なので、お気を遣わずにお願いします」僕はあっさり答えた。


 「それは残念、まあその気になったら申し出てください」とにこやかに言った。


 ロバートはジェーン殿に張り付かれ、身動きが取れない状態だった。僕の方を見て、助けて、と目配せしてきたので、「ロン、ちょっと話があるのだけど」と話しかけてみました。


 ロバートは嬉しそうに「バード、どうした」と言ってジェーンさんに「ちょっとバードが話があるみたいなので、行ってくるよ」といって、離れようとしたのですが、ジェーンさんは「久しぶりに会って、離れたくない。私も付いて行くわ」と言って、一緒に来ようとしました。ロバートを見ると、一緒はだめだと身振りで示してきたので、「男同士の話があるので遠慮していただけますか」といったら、「その話、明日じゃダメなんですか?」と返してきました。ジェーンさんの顔を見ると、僕をにらみつけていてかなりお怒りの様子。

 ロバートにごめんと返して、「それでは明日にします」と言って、その場から逃げ出しました。


 その場から逃げ出した僕は、与えられた部屋に戻る気もせず、家に中をぶらぶらしていると、乏しい明かりの中ミリアが一生懸命に本を読んでいました。ミリアは見た目12歳ぐらいで、小柄で小さい子だった。


 「何を読んでいるの?」思わず聞いてしまいました。


 ミリアは僕の方を見て、少し戸惑いながら「アント侯爵の冒険譚上巻」と言ってきた。


 その本を見て僕はびっくりしました。僕の愛読書であり、今回旅のお供に持ってきたおじい様の物語だ。とても誇張されているが、おじい様達がした冒険をもとに、いろいろ修正を加えて書かれた話で、最後はおばあ様達と結婚して終わる話だった。


 「下巻は読んだ?」僕は聞いた。下巻は王子様を助けて、国を興した、どちらかと言えば男の子向けの話だ。


 「ううん、持ってないの」ミリアは残念そうに答えた。


 「じゃこれ上げるよ」僕は持っていた下巻をミリアに差し出した。


 「えっ、こんな高価なものもらえないよ」ミリアは言った。本は安くない。でも僕の財産からすれば足したことないし、僕自身下巻が好きで暗唱できるぐらい繰り返し読んでいる。それに祖父の家に行けは何冊もあるので別に上げても惜しくない。


 「大丈夫、読んでもらえたらうれしいよ。でも、下巻は戦争の話であまり面白くないかもよ」

 「バードほんとにいいの。ありがとう。戦争の話でも問題ないわ。ずっと読みたかったの」ミリアは微笑んだ。その可愛さにどっきりしました。おいおい、婚約者がいるのに何を考えているんだ、しっかりしろと自分に活を入れました。


 これをきっかけにミリアと話をするようになりました。本の話、旅の話、故郷の話です。

 さすがに侯爵家嫡男のことは話せなかったので、そのあたりのことはぼかして話をしました。

僕とミリアはかなり仲良くなりました。


 ミリアは本が好きで、本の話をするととっても喜んだ。こんど町に言ったら、ミリアに何か物語でも買ってきてあげよう。


 翌日、部屋から出て顔を洗いに井戸へ行くと、ロバートが顔を洗っていました。


 「おはよう、ロン」僕が声をかけると、「ああ、おはようバード」と顔をこちらに向けてきた。ひどい顔色をしていました。


 「どうしたんだ、ひどい顔色だぞ」びっくりして僕はロバートに聞きました。


 「バード、実は相談があるのだけど」深刻な顔でロバートは僕に言ってきました。


 「解決できるかどうかわからないけど、話なら聞くよ」僕は答えました。


 井戸から離れて、人のこなそうな庭のはずれにある木の下に2人で座りました。


 「バード、実は俺、都で下級文官を務めていた時、下宿先の娘と良い仲になっていて、結婚の約束をしていたんだ。すでに男女の関係にもなっている」ロバートはぽつぽつ語り始めた。


 「婚約者がいたのにどうしてほかの女に手を出したんだい」僕は聞いてみた。


 「ここに帰ってくる気はなかったんだ。僕の母はブルデンおじさんの妹で、おじさんはとてもかわいがっていたらしい。母は結婚前の拍付の意味で、男爵家にメイドとして働きに出たのだけど、男爵様の目に留まり、愛人になって、僕を生んだんだ。ところがそれに気に食わなかった男爵夫人からひどくいじめられ、男爵様も元伯爵令嬢である男爵夫人に逆らうことができず、僕らを放置していた」ロバートは思い出すように言い始めました。


 「僕と母は男爵家ではゴミ以下に扱われたよ。家には住めず、穴だらけで吹きさらしの小屋に追放された。僕は夫人の子供たちからはひどくいじめられ、母も使用人のようにこき使われた。母はついには病気になって亡くなったんだ。母が亡くなった途端、僕は家を追い出された。引き取ってくれたのは、ブルデンおじさんだった。男爵様も多少は悪いと思ったのだろう、俺とブルデンおじさんの娘であるジェーン姉さんと婚約するよう命令したんだ。あと、勉強するための本や道具も与えてくれた」ロバートは独白を続けました。


 「男爵様としては、いずれジェーン姉さんと結婚させて、この村の村長にするつもりだったのだろう。そもそもここは伯爵様の領土であり、男爵様は国から派遣された武官で、ただここに屋敷があるだけなんだ。この国では、国境や重要な場所を治める領主のもとに武官を派遣する制度があって、男爵様のこの土地での地位は、ひどい言い方すれば、単なる間借り人みたいなものなんだ。そこに自分の息子が村長となれば、この場所での影響力も高くなるという思惑もあったのだと思う」ロバートは他人事のように分析していました。


 そこから突然感情がほとばしるように叫んだ。「俺は、すべてが嫌なんだ。母をいじめ殺した男爵家の連中、見殺しにした挙句、俺を利用しようとする男爵、この村にいればいやでもこの連中と顔を合わせなくちゃならない。どんなに憎んでいても、へこへこしなくちゃならない。俺は必死に勉強したよ。そして、文官養成学校の入学試験に合格し、都に出たんだ。もう二度とここに戻ってくるつもりはなかったんだ」それから申し訳なさそうに言った。


 「ブルデンおじさんはとっても優しかった。この家に来てからだよ。きちんとご飯が食べられ、ベッドで寝れるようになったのは。将来役に立つからと言って勉強にも協力してくれた。夜でも勉強できるようにと光石のランプを買ってくれたりした。ジェーン姉さんはいろいろ俺の面倒を見てくれた。病気の時は寝ずに看病してくれたりした。12歳で都に出た時は、泣いて見送りしてくれた」ロバートは続けました。


 「ジェーン姉さんは18歳だ。もうとっくに別の誰かと結婚していると思っていた。まさか俺のことを待っていてくれたなんて思いもしなかった。ブルデンおじさんも大喜びしてくれたし、もう都に恋人がいますと言えなかった。昨夜はジェーン姉さん、戻ってきてうれしい、もう離れないと言いながら、夜が明けるまで何回も俺を求めてきたよ」ロバートは半泣きで言いました。


 「俺は最低の男だ。なあ、バードどうすればいい?」ロバートは今にも泣きそうになりながら訴えてきました。


 他人事だと、結構冷静に考えられるな、と思いながら僕はロバートに言いました

 「ロン、ジェーンさんのことは好きか」ロバートはすぐに「好きだ」と答えた。

 「都にいる彼女は好きか」再びロバートはすぐに「好きだ」と答えた。

 「じゃ二人とも妻にしたらどうだ」僕は言いました。


 ロバートはびっくりして「貴族なら複数の奥さんを認められているが、俺は平民だぞ」

と言いました。

 「大丈夫だ。今回の戦功で、間違いなく男爵にはなれる。そうしたら、法律上は大丈夫だ。ただ、一つ問題がある。ジェーンさんの気持ちだ。ずっと待っていた許嫁が彼女を作っていたなんて知ったら、かなりのショックだ。一緒に謝ってやるから、ジェーンさんに話に行こう。ジェーンさんが納得したら、ブルデン殿のところに行って話をしよう」僕はロバートに言いました。


 「すまない、バード」ロバートは手を取って半泣きでお礼を言ってきました。


 僕とロバートは二人でジェーンさんのところに行き、土下座をしました。と同時にこの話をしました。


 ジェーンさんは黙って話を聞いていた。「ロバート」ジェーンさんはものすごい圧迫感を伴いながら言った。


 ロバートはただただ土下座していた。


 「ジェーンさんのお怒りはもっともです。ロンはどういう罰も受けるつもりでいます。でもロンなりに悩んで、ジェーンさんに真実をお話ししました。どうか、ロンを許してあげてください。さらに言えば本当に図々しいお願いですが、できれば、ロンの妻の一人になってください。ロンはあなたのことも好きなのです」僕はつたないながら、一生懸命に説得しました。


 ジェーンさんは何か言いたそうに、でもふぅとため息をつくと、「私もロバートのことが好きよ。王都に出て帰ってこないから、父からあきらめて、別の男と一緒になったらどうだと勧められたわ。でも私にとってあなた以外考えられなかった。あなたが帰ってこなかったら、ずっと独身でいるつもりだったわ」そう言ってジェーンさんは土下座するロバートのところにかがんで、両手でロバートの顔を挟んであげさせた。


 「正直に言ったことに免じて許してあげる。でもその都にいる恋人さんに会わせて。いい人なら一緒に妻になってもいいけど、とんでもない女なら無理にでも別れさせるから」と言いました。


 「わかりました!」ロバートは答えました。


 それから二人でブルテン殿のところに説明に行きました。ロバートが必死に説明したところ、ブルテン殿は仕方がないなと許してくれました。一夫多妻の件もジェーンが良いなら構わないと、言ってくれました。ちょっと拍子抜けしました。


 集団結婚式の日、その日は村中が浮足立っていました。


 村の外から行商人が来て、露店を開いていました。

 「結婚を申し込むなら、この髪飾りはどうだい。ちょっと値は張るがいいものだよ」行商人の一人が声を上げていました。婚約の申し込みって今日は結婚式だろ?結婚指輪みたいなものかな、そう思いながら結婚会場に向かいました。


 会場のひな壇にロバートとジェーンはほかの何組かの夫婦と一緒に演壇に並んでいました。この地域の民族衣装なのだろう、男は服の前を合わせてひもで結ぶ服を着ており、女性は更に帽子のような物をかぶっていました。


 ロバートはやや疲れている様子でした。まあ、他の新郎もかなり疲労困憊しているようです。代わりに奥様方はみな元気で、肌つやがてかてかしていました。昨夜はみなさん結婚前最後の恋人同士の交流をされていたみたいです。おそらくこれがこの地域の流儀なのでしょう。


 中には、奥さんが色っぽく何か新郎に言って、それに対して新郎が真っ青な顔をしてぶるぶる震えている状況もありました。きっと、今夜の話をしているのだと思います。死ななない程度に頑張ってね、とひそかにエールを送った。


 狩りで取った肉の焼いたものや煮たものが出され、果物もふんだんにありました。ちなみに狩りは僕も手伝いました。名前は知らないが大きい獣を何匹か取り、村人からとてもびっくりされました。中には、娘や妹を紹介したいと言ってくる人もおりましたが、丁寧にお断りしました。


 そういうわけで食べきれないほどの肉があるので、僕はまず肉の塊をソースで煮てから、そこに何か調味料を塗ってある料理からいただこうと、手を付けようとしました。


 その時、野外の宴会場に何人かの男を引き連れたおばさんが乗り込んできました。


 そのおばさん、小太りの派手な格好をしていました。そして周りを見回すと、「直ちにこの宴会を中止しなさい」と言い放ちました。


 「これは男爵夫人、何の御用ですかな」ブルデン殿がうっすらと笑顔を浮かべ、しかし目は全く笑っていない顔で、声をかけました。


 「宴会を中止しなさいと言ったのです」男爵夫人は金切り声を挙げて命令してきました。


 「意味が分かりませんな、これはこの村の伝統行事である年に一回の結婚式ですぞ。中止する必要が分かりません。理由を説明いただけまいか」ブルデン殿が訪ねました。


 その間に若い男たちが屋敷から布でくるまれた何か長いものを持ち出してきました。


 剣か槍だと思われます。このままだと戦いになるよね、と思いながら僕も魔法の準備を始めました。


 「男爵様と息子が亡くなったというのに、浮かれ騒ぐなど許されるはずはないでしょう。それに存在自体許されないメギツネの息子が図々しくも座っているなどとても看過できるものではありません」鼻息も荒く、キーキーと喚きました。


 「最初に申しあげますが、ここの領主様は伯爵様で、あなたはたまたまここに住んでいるだけで我々の領主ではありません。なのであなたに何か命じられるいわれはありません。それにロバートとジェーンの婚姻は男爵様が依頼し、伯爵様が認めたものです。あなたがどう思おうが関係ありません。さあ、帰ってください。あなたのおかげでお祝いの空気がぶち壊しだ」ブルデン殿は冷たく言いました。


 「キー、もう許しません。お前たち、この場にいる連中を皆殺しにしなさい」後ろに控えていた男たちに命じました。男たちも顔を見合わせ、戸惑っていたがやむなく剣に手をかけました。


 村の若い男たちも布でくるまれた刀や槍を取り出そうとしていました。


 このままでは殺し合いが始まると思い、敵側の男たちに対して泥の塊を顎に打ち込みました。男たちは全員ひっくり返り、気絶しました。さらに僕は男爵夫人に近づくと治癒魔法を使って男爵夫人の声を出なくしたうえに下半身が動かないようにして、乗ってきた馬車に放り込んで御者にいいました。


 「男爵夫人はお疲れのようだ。送ってくれ」男爵夫人は上半身をバタバタさせていたが、声も出ず、歩くこともできないので、どうしようもない様子でした。


 御者は驚いた様子だったが、男爵夫人が結婚式会場に乗り込んできて、中止させようとしたこと、男爵夫人の護衛と村人が結婚式場で戦いになりそうだったので、男爵夫人を魔法で黙らせたこと、魔法の効果は2・3日で切れるので、しばらくしたら元通りになるから大丈夫だということを、御者にコッソリ伝えた。


 御者はやれやれとした顔をした後、うなずくと屋敷に戻っていきました。


 護衛の男たちを起こすと、男爵夫人が帰ったことを伝え、お前たちはどうするか尋ねました。


 護衛達はほっとした表情で、男爵夫人が帰ったなら俺たちも帰ると言って、宴会場から出て行きました。


 皆は歓声を上げて、僕を称えた。ロバートは抱き着いてきて、「すごいじゃないか、男爵夫人には本当に嫌な思いをさせらていたんだ。すごくすっきりしたよ」といいました。


 さて、宴会は再開されました。僕はお預けを食っていた肉のソース煮にかぶりつきました。うまい、やわらかくジューシーな味わいに肉にしみたソースが口いっぱいに広がって、更に塗られた調味料がすごくいいアクセントを残している。僕は料理を貪り食いました。

 他の料理もとても珍しい調理方法で調理されていて、とてもおいしく、腹がいっぱいになるまで食べました。


 皆が一通り食べると、今度は踊りが始まりました。みんな楽しそうに踊っていました。


 夫婦で踊るものもいたが、若い男が若い女を踊りに誘う光景が多くみられました。逆のケースも散見されました。踊り始めるものもいれば、断られてすごすご席に戻るものもいました。


 その時、ミリアが近づいてきて、真っ赤な顔でもじもじしていました。


 「ミリアも踊りたいの?」僕は聞きました。ミリアはうんとうなずきました。


 「じゃ、踊ろうか」そう言って僕はミリアの手を取りました。踊りなんて久しぶりです。

 踊り自体は単純な振り付けですぐに覚えました。ミリアも楽しそうでした。


 その時、踊りで動きまわったためでしょうか、ミリアがつけている髪留めが外れて落ちて壊れてしまいました。

 ミリアは慌てているようでした。困っている様子のミリアを見て、そういえば髪留め持っていたな、と僕は思い出しました。

 空間魔法で収納していた盗賊からの戦利品の一つで、きれいな石がいくつもついた金の髪留めを取り出し、ミリアにつけてあげました。

 ミリアはびっくりした様子だったが、すぐにうれしそうに「ありがとう」と言ってきました。なぜかそれを見たみんなは僕をはやし立ててきました。


 少し居心地が悪くなったので、踊りをやめて、席に戻りました。ミリアがジュースを持ってきてくれました。そのジュースを僕はごくごく飲みました。おいしかったけれど、ちょっと変わった味のするジュースでした。


 ジュースを飲んだら急に眠くなったので、僕は部屋に戻ることをミリアに伝えました。ミリアは手をつないで部屋まで連れて行ってくれました。

 僕は「おやすみなさい」といってベッドに倒れこみました。ミリアは足元でごそごそしていました。靴を履いたままだったかな、ミリアが脱がしてくれているんだ、と思いながら睡魔には勝てず、そのまま寝てしまいました。


 翌朝、朝のひかりで僕は目を覚ました。いつの間にか僕は裸になっていました。あれっと思うと、隣から「ううん」と声がしました。恐る恐る隣を見ると裸のミリアが横に寝ていました。


 文字どおり、顔から血が引きました。


 しばらく凍っていると、ミリアが目を覚まし、「おはよう」と恥ずかしそうに言いました。


 おそるおそる僕は昨日のことを尋ねました。色々聞いたところ、ダンスを申し込むのは、付き合ってほしいとの申し出で、ダンスに応じるのは了解の意味だそうです。


 更に装身具を男性から女性に贈るのはプロポーズらしくそれを女性が受け取ったら結婚了承したという意味だそうです。


 そういえば、行商人が結婚の申し込みがなんだかんだと言っていたな、と今更ながら思い出しました。


 その際、部屋に一緒に行けばそういう関係になるという意味で、記憶はなかったが、僕とミリアはそういう関係になったらしい。そうなるとこの村では事実婚が認められた形となり、来年の結婚式で村として正式な夫婦になるとのことです。


 ミリアは僕とそういう関係になれてとても喜んでいました。


 手を出してしまった以上、責任は取らなくちゃ、でもキャサリン姉さんになんと話せばいいんだろう。僕はミリアに顔を洗ってくるね、と言って部屋から出ました。


 部屋から出て顔を洗いに井戸へ行くと、ロバートがやはり顔を洗っていました。


 「おはよう、ロン」僕が声をかけると、「ああ、おはようバード」と顔をこちらに向けてきました。


 「おまえ、ミリアに結婚の申し込みをして了承されていたよな。ということは俺たち義兄弟だな。兄貴と呼んでいいぞ」ロバートは嬉しそうに言いました。


 ところが、僕の顔を見て、「どうした。ずいぶん顔色が悪いな。なんかあったのか」と聞いてきました。


 僕は国に婚約者がいること、ここでの習慣を知らずにミリアと一緒に踊って、プレゼントをしたこと、何かジュースを飲まされたら眠くなって、朝になったら、ミリアと寝ていたことを話しました。


 僕の話を聞いて、少しあきれている様子でした。「バード、お前俺と同じことをしているな」「どうしたらいいと思う?」僕はロバートに聞きました。


 「バートはミリアのことをどう思っている?」ロバートは僕に聞き返してきました。


 僕はミリアのこと、そして僕は何がしたいのか考えた。


 僕の人生はすべて周りから決められていて、自分で選択する余地は全然なかった。ミリアとのことは成り行きによるところもあるが、僕自身ミリアに好意を持っていた。


 ミリアとは話は合うし、とても利発で頭もいい。とてもかわいいし、浅黒い肌と細身だけど引き締まった体は健康的だ。そしてよく働く。嫁としては理想的と言える。


 侯爵家の嫡男として、決まった人生を生きるより、ミリアと一緒にこの村で暮らすのもいいかもしれない。


 ただ、キャサリン姉さんも一緒に過ごしてきて、姉のように慕っていた人だし、好意も持っている。侯爵家嫡男としての色々しがらみもあるし、恋人ができたらキャサリン姉さんと合わせる約束もしている。


 キャサリン姉さんに合わせてみて、側室として認めてもらえるなら、ロマーン王国に連れて行こう。


 でも、キャサリン姉さんにミリアと別れろと言われたら、ミリアを連れて、この国に戻ってこよう。冒険者をして、稼いだお金で未開地の開発をしてもいいかもしれない。


 ロバートが男爵になってこのあたりの領土をもらい、僕がこの村の村長になる、そういう人生もありだろう。僕は火魔法と土魔法、回復魔法が得意だし、これを使えば、この村をもっと豊かにできると思う。


 ロバートに「国の婚約者のことも好きだけど、ミリアのことも好きだ。婚約者が認めてくれるなら、2人とも妻にしたい。でもどちらか選べと言われたら、ミリアを選ぼうと思う。そうなったらロンも協力してくれるか」といった。


 ロバートはにかっと笑って、「任しとけ、親友の頼みだ。俺ができることなら何でもするぞ」と言って「じゃあ、ミリアのところに行って話をするか。俺も一緒に行ってやるよ」と言ってくれました。


 僕は水汲み中のミリアに声をかけました。「ミリア、話があるんだ」僕は国に婚約者がいること、国に帰るとき、一緒に国に行って婚約者に会ってほしいこと、もし、婚約者に受け入れられなかったら、祖国を出てミリアとともに生きることを伝えました。


ミリアはきょとんしていたが、「バードは私と本当に結婚してくれるの?」と聞いてきました。


ミリアは僕が外国人だと分かっていて、身をささげたらしい。冒険者であるし、いずれどこかに行ってしまうのだろうと。ミリア自身あまり異性と親しくできるタイプではなく、またこの地域の美人である条件である胸が大きいことやお尻が大きい条件から外れており、初めて気が合った僕とこういう関係になれただけで結構満足だったらしい。まあ、できれば、子供が欲しいなとは考えていたとのこと。


 思わず僕はミリアを抱きしめた。「結婚しよう、ミリア」そういうと、「うん」とミリアは言いました。


 それから二人でブルテン殿のところに説明に行きました。一発ぐらい殴られるのを覚悟していたが、笑って許してくれました。


 ロバートの件もあっさりと許してくれたので、どうしてなのか聞いたところ、もともとブルテン殿達は南方の民族らしく、そこでは1夫多妻制もありだそうです。

 ただ、ここの民族の女は性欲が強く、一人でも満足させるのが大変なのに、複数を妻にするものはすごい奴だと尊敬の対象になっていたらしい。

 ロバートはうなずいていたが、ひょっととしてミリアもそうなのと思いました。


お読みいただきありがとうございました。もし少しでも気になりましたら星かブックマークをいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

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