野村恵美
「野村さんてさぁ~?」
「メル友いる?」
朝の品出し中、唐突に聞いてみた。
相手は同じスーパーの先輩の野村恵美。
先輩といっても僕より一つ年下の27歳独身だ。
休憩中にいつもスマホいじってる彼女なら
メル友の1人や2人、いると思ったからだ。
「え~~~!」
「いきなり何~?」
「メル友なんていないよ~」
「だって、それってさぁ~」
「エッチするための、セフレみたいなもんでしょ?」
「結婚してるオジサンやオバサンの、浮気の温床…」
「川井さん、やってるの?」
野村さんが、ゴキブリを見るような目で
僕を見てる……
「メル友じゃないけど、
SNSで気になる人がいるんだよね」
僕は、毎日のようにペコリンとサイトで話してること、
僕としか話してないこと、
もしかしたら僕に気があるんじゃないか?
ってことを、思いきって話してみた。
「ああ~・・・」
「ここにも勘違い男子がいたか~」
えっ?
野村さんが、困った顔になった?
「それは、レジの女の子にニコッとされて
自分に気がある…と勘違いしちゃうのと一緒よ!」
「だってSNSでしょ?」
「顔も素性も分からない、たとえ年齢とか
顔写真とかあっても、本物とは限らないし…」
「会ったら幻滅するのがオチよ。」
「サイトって、そういうもんだよ。」
野村さんの言葉って、妙に説得力がある・・・
「それに、ネカマって輩もいるし」
「ネカマ?」
「女になりすましたオッサン!」
「もしその子が、本当は禿げたオッサンだったら?」
そんな─────────!
僕は禿げたオッサンと文字デートをしてたのか?
想像すると鳥肌どころか、鳥になっちゃった気分だ。
いやいや、ペコリンは違う……そう信じたい・・・
「そんなことよりさ、仕事終わったらドライブしない?」
「たまには生身の人間と付き合うことも大事よ」
「家の近くまで送るからさ」
僕達は初秋の風を受けて
奥多摩湖までドライブすることになった──────
途中、約1時間の車内で僕達はいろんな話をした。
野村さんの元彼がメル友と浮気して別れたこと、
もう1年くらい彼氏がいないこと、
スマホゲームのこと、、、
スマホゲームはやらないから
何を言ってるのか、チンプンカンプンだったけど・・・
「あ~♪風が気持ちいいね~」
湖面を渡る風が、ひんやりと野村さんの頬を伝い
薄茶色したセミロングの髪を持ち上げて言った。
職場で見るのと違い、見慣れたはずの横顔が
妙に輝いて見えた。
これが生身の女性の魅力なんだろうか?
瞬き一つ、笑顔一つ、にキュンキュンと来るものがあるし
何よりも、良い香りがする。
──────えっ?…今、僕、キュン、とした?
いきなり緊張して、僕は自販機で缶コーヒーを2本買い
二人で飲みながら、
夕日で赤く染まる湖面を眺めてた。