ゆう。
「ゆう。おはようー」
「あっ、ママだ~」
倉科ゆう、は
体温計を巡回の看護士に手渡しながら
挨拶をした。
「今日は調子良いみたいね」
「そりゃ~そうよね~♪
最近、彼氏ができたんだもんね~」
若い看護士の、加瀬弘美はニヤニヤしてる。
「だめーーー!内緒なのにーーー!」
いきなり図星を突かれて
ゆう。は顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。
「あら~、いいわね~、どんな彼氏?」
母の問いかけにゆう。は
「まったく、も~~~
看護士には守秘義務はないのかしら?」
「あのねぇ、、、」
「SNSの人なんだけど、、、」
「すごく優しいの♪」
「顔も何も知らないんだけど…
昨日も、文字デートしたんだ~」
ゆう。は22歳だが、
会社で初めて受けた人間ドックで膵臓に癌が見つかり
2ヶ月前からこの病院で入退院を繰り返してるが、
それを感じさせない明るさだ。
「最近は、もう、スマホを離さないくらいなんですよ~」
看護士の加瀬が
顔を赤くしてるゆう。に追い討ちをかけた。
私を悲しませたくないのか、
いつも明るく振る舞ってるけど、
本当は、
笑顔さえ作れないほど体は蝕まれてるはずなのだ。
「ママはちょっと先生の所に行ってくるわね」
ゆう。の様子に安心したかのように
母は病室をあとにした。
癌治療の辛さを、一時でも忘れられるなら…
たとえ騙されてもいいから、夢を与え続けてほしい、、、
あの子にとって
最後の恋になるかもしれないのだから・・・
主治医の説明では特に希望的なものはなく
いつもの気休めの言葉ぐらいにしか
思えなかった。
できるなら、自分の身体をそっくり
ゆう。と交換してほしい────
ゆう。が治るなら、悪魔にさえ心を売れる。と
さえ思った。
残されたあと僅かな時間を
女の子として悔いのないようにしてあげよう・・・
これが今の母にできる、精一杯のことだった。
「もう消灯の時間ですよ~」
看護士の加瀬が夜の巡回に来て言った。
「私、、、寝るのが怖い、、、」
「目を閉じるともう明日が来ないみたいで…」
「大丈夫よ…明日はちゃんと来るから」
病室の電気が消されると、とたんに世界は一変する。
これからの時間は自分と向き合うだけの世界・・・
体の痛みに耐え、いつ死ぬか分からない恐怖と
朝まで一人で戦わなければいけない
「朝は来るのかな・・・」




