ポン太に会いたい
目が覚めた時、
いつもの病室の天井が見えると
ああ~、、、まだ生きてるんだ。と実感できる。
サイトを開いてみても、ポン太のつぶやきは無い・・・
「ポン太…さん?」
ゆう。は体に痛みが走るたび、
ポン太の言葉を思い出して耐えていたが
ここ最近ポン太のつぶやきが無いことに
動揺していた。
ポン太に病気のことを打ち明けるべきか…
でも、余計な心配はかけさせたくない、、、
それに、打ち明けたとしても、
どうにかなるわけでもなく
私には未来も無いし、
悲しいけどこのままでいいんだ・・・
ゆう。はそう思った。
朝の検温に来た、看護士の加瀬が
いつになく暗い表情をしてるゆう。を見て
声をかけた
「今日はどうしたの?…暗いよ」
「私、どうしよう…」
「ただのサイトの人なのに、あの人がサイトに来ないと
凄く不安になるの…」
いつの間にか、ゆう。の中でも、
ポン太の存在が大きなものになっていたが
それと同時に、
サイトの中だけの関係って、こんなものなのかな?…
と思ったら涙が止まらなくなった。
「やっぱり、一目ポン太さんに会いたい!」
いてもたってもいられなくなったゆう。は
病院を脱け出す決心をする。
ポン太さんに会いに行く!
一目だけでいい・・・一目見れたら、それでいい。
ゆう。の心は、ポン太への想いでいっぱいだった─────
看護士の加瀬が出て行ったのを見届けると
急いで支度をし、顔が分からないように
マスクしてパーカーのフードを深く被った。
これでよし!
これなら絶対ばれない・・・
病室からそーっと顔出して、辺りをうかがう
何気ない素振りで病室を出て、廊下を歩き
ナースセンターの前で中の様子を伺うと
2人の看護士が忙しそうに動いてた。
チャンス!
ササっと急ぎ足でエレベーター横の階段を降りる。
本当はエレベーターを使いたかったが
待ってる間に見つかりそうだから
あえて階段にした。
3階~1階まで、健康なら難なく降りられるが
今のゆう。には意外とキツい。
手摺に掴まり、老人のように1階まで降りてきた。
外来フロア…ここまで来ればもう大丈夫。
あとは外来患者に紛れて、外に出るだけだった。
「倉科さん!」
ヤバい…見つかった!
そーっと振り返ると主治医の丸山が立っていた。
「ごめんなさい!今日だけ行かせて!」
「お願い!今日だけだから!お願いします!」
自分でもこんなに真剣になるなんて
思ってもいなかった。
大粒の涙が、あとからあとから出て来る・・・
丸山は1回、目を閉じ、少し考えてから
優しい口調で言った。
「分かりました。
よほど大切な用事があるんですね?
看護士の加瀬には、私から言っておきますから
夕方までには帰って下さい。」
「あっ!具合悪くなったら、すぐに救急車を呼ぶんですよ」
「ありがとうございます!」
「約束します!」
ゆう。は深々とお辞儀をし、踵を返し、出口へ向かった。
ポン太の職場はサイト内のやりとりで
大体の見当はついていた。
ネットで検索しても、その地域の大型スーパーは
一つしかない。
電車を乗り継いで2時間といったとこか…
ゆう。にとっては長旅で、体がもつか不安だが
行くしかない!
特急に乗り、東京駅で降りる。
凄い人で、人酔いしそうなのを堪えて
中央線のホームを探すのだが、、、
どっちへ行けばいいのか…
「あ~ん、迷子になりそう───」
キョロキョロしてたら気分が悪くなってきた。
少し休もう・・・
通路で座ってると、駅員が声を掛けてきた。
「どうされました?」
「あの~、中央線のホームを探してるんですが…」
「ああ、中央線なら、この先、オレンジの案内板、
1、2番線ですよ」
駅員の指した方向を見ると、
確かに1、2番線の案内板が見えた。
「ありがとうございます」
「車椅子お使いになりますか?」
「いえ、大丈夫です、歩いて行けます」
─────こんなところで挫けていられないよ!
気力を振り絞って歩き出したゆう。
長いエスカレーターを上がると
オレンジ色の電車が見えてきた
「あれだ~」
「あれに乗ればもう大丈夫だ…」
幸いに座ることもできて、安心と疲れからか
急に眠気が襲ってきた。
窓から射し込む初冬の日差しの柔らかさが
さらに眠気を加速させた。
ふと気がつくと、電車は都会のビル群を離れ
郊外の住宅街を走ってた。
もうすぐだ・・・
ゆう。の眼はポン太の職場の方向に
真っ直ぐ向いていた。
T駅で電車を降りると、目指すスーパーは
目の前に見える。
モールタイプの大型スーパーだ。
ポン太の手がかりは、花火大会の半顔の写メだけだけど
会えば必ず判ると、
根拠の無い確信がゆう。にはあった。
入り口まで来ると、急に緊張して足が震えてきて
動きがぎこちなくなってきた。
「あ~、こんなんじゃ、怪しい人に思われちゃうよ~」
ヤバいよ、ヤバいよ~!と思いながらも
食品コーナーを探してみる、、、
店内はすっかりクリスマスモードに
レイアウトされていて
BGMがさらにムードを高めている。
少し探したら、ドリンクコーナーで商品チェックしている
ポン太を見つけた。
いたーーー!
写メとおんなじ顔だ…
当たり前だけど思わずそう思った。
仕事しているポン太の、その横顔を見てたら、
ネモフィラの丘や羊の公園、夏の花火大会を、
文字と写メだけだったけど
一緒に見たんだ。と
無くしていたパズルのピースが見つかったかのように
鮮明に、
その時、自分もそこに、
一緒にいたかのような映像が、頭の中で再生されて
涙が溢れてきた。
「ポン太・・・」
手を伸ばせば触れられるような距離なのに
その手が出せない・・・
もう一度、声にならない声で
「ポン太・・・」と呟いてみた・・・
聞こえたのか?って思うタイミングで
ポン太が振り向き、「ん?」と言うような表情で
ゆう。と目が合ってしまった。
ゆう。はあまりの緊張で固まり、
動けなくなったその時、
バックヤードから出て来た野村恵美が
「煌太!」と声を掛けた。
煌太って名前なんだ・・・
ゆう。は初めてポン太の本名を知ったが
何故?あの女の人は名前で呼んだの?
「ポン太さん、行かないで!」
野村恵美と楽しそうに
二言三言話したポン太は
一緒にバックヤードの奥に消えて行った。
きっと彼女なんだ…
仲、良さそうだもんね…
サイトなんて、ただの遊びだもんね…
見たくなかった…
来るんじゃなかった・・・




