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⒉ 開眼(4) 決心

「―実力行使が一番手っ取り早いようだな」


 瀬良と未予、二人の少女の闘いが始まった頃――、片割れの茶髪少女ー『藤咲芽目(ふじさきめめ)』は、しばしその様子を見つめていた。


 髪はワンサイドに(まと)められたシニヨンヘアー。格好は上はハイネックタイプ、下はキュロットスカートタイプのNEMTD(ネムテッド)PC(ピーシー)


 悠人たちと(なん)ら変わらない十代半(じゅうだいなか)ばの可愛らしい容姿をしていた。


 しばし見つめること数分――、彼女は隙を見て濃褐色(のうかっしょく)の瞳から( )内に黒丸を入れたような形をした瞳孔に緑色の瞳―【翠眼(すいがん)】をした目魂(めだま)を開眼すると、右腕に付けた腕時計型コンパクトミラーを目にした瞬間―――、芽目の姿は一瞬で消え去った。


 このカラクリは悠人が二度体感したあの現象と同じ力――、それすなわち彼女の目魂(めだま)に宿る目力(めぢから)―【視認瞬移(テレポーテーション)】にあった。


 この目で一度見たことがある場所なら何処(どこ)へでも、目にした人や物を記憶した場所に一瞬で飛ばすことが出来るその力は、鏡越しに映る人や物にも有効。彼女がコンパクトミラーを目にしたことで、自身を瞬間移動(テレポート)してみせたカラクリの正体がまさにそれである。


 そんな目力(のうりょく)特徴(クセ)を利用して彼女が飛んだ場所は、遠くから三人の動きが監視出来るだけの距離にある喫茶店――そこの裏口周辺、言うなれば《路地裏》だった。


 芽目はそこから監視をし、あの三人の中から隙を見てその内の誰かの目を奪ってしまえる機会を(うかが)っていた。彼女は瀬良を捨て駒にすることを前提に手を組んでいたのだ。


「再び(さず)かったこの命、こんなゲームで失うのはゴメンだ」


 彼女らの様子を遠くで見つめながら、芽目は自らの意思を強く口にした。


 ここまでしているくらいだ。当然の如く『藤咲芽目』という一人の少女もまた、未予や瀬良と同様――、将又(はたまた)それ以上に死にたくないという強い思いがあった。


 たとえこれからやろうとしている行為が、あそこにいる者から目を奪いに掛かるということが、人として同族としてどんなにやってはいけないことだと分かっていたとしても―――。


 だが、人として備わった彼女の判断力がその思いを(にぶ)らせる。


 何故ここに来て、躊躇(ためら)う自分が存在するのか?


 これは判断力だけの問題か?……いや、違う。


 自分がどんなにやろうとしても、身体がそれを拒絶するのだ。


 それもその筈。誰かの目を奪い取ろうとする行為そのものは、普通なら人生において経験する筈のない、誰もやろうとはしない可笑しな(おこな)いであるから―――。


 ただしそれが可笑しいことだと、肉体そのものが抵抗を感じなくなってしまったら?


 例を挙げるなら、社会的にも取り返しの付かない過ちを自らの手で犯した時――――。


 人は頭のネジが吹っ飛ぶと、予想も付かない手に出ることがある。


 殺人に――、責任転嫁―――。いつの世も人はキッカケ次第で犯罪を犯し、年々と科学が発展しようとも、悲しいことだが人の性根を完全に取り除くことは未だ叶わずにいる。


 キッカケは人それぞれだが、何かの拍子に人は理性を失うと(ネジが吹き飛ぶと)迷いが無くなり(歯止めが効かなくなり)、どんどんと内に秘めていた筈の罪悪感は薄れていき……、終いには自分自身の制御(コントロール)が出来ずに止められなくなる始末にある。


 芽目の場合、自身の身体を拘束するその拒絶は思わぬ方向性から崩されることとなる――。


「たかが()()()だ、何も躊躇(ためら)うことは無い。ゲームはゲームらしく、ただ楽しいと思ってやれば良いだけ」


 それは――、昨日の惨状を目の当たりにしてしまった故に出てきた勢いなのか。


 まるで自らに『気にしなくて良い』のだと、捻じ曲がった暗示を掛けるように、己の自制心を麻痺(まひ)させようと繰り返し、言葉にする自分の姿があった。


 芽目は一頻り、『これはゲームなんだ……』とブツブツと念仏を唱えるように連呼し続けていると、それは……何回、何十回と言い続けていた時のことだったか。


 それまで唱えていた言葉がぷつりと消えた一瞬のこと――、気付けば芽目の姿はその場から消えてしまっていた。


 彼女がその後どうしたのか、最早(もはや)言うまでも無いことである。

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