⒉ 開眼(5) 目覚めし力
「なっ――」
「嘘だろ……」
〈未予もどき〉と悠人の二人は、そのあまりに突然起こった事態に思考が完全に停止していた。一度は姿を消した筈の『藤咲芽目』という目魂主がこうもすぐにその姿を再び現すなり、そこで見せた行動は実に衝撃的であり、同時に残酷さを否応無く突き付けてきた。
「テ……テメェェッ!よくも………よくも、俺の目をォォ――ッ!」
未予の一瞬の不注意が招いた事故とはいえ、まさかこんな形で再び出会うことになろうとは思わなかっただけに、本来の自身の身体から片目が奪われるというこの事実に〈未予もどき〉の内で芽目に対する怒りが一気に込み上げた。未予が瀬良を『金髪』と呼んだ時のような戯れなどとはまるで異なる――理性を侵し、精神を蝕む程に純粋な怒りだった。
次の瞬間――、〈未予もどき〉は爆ぜるように地を蹴った。火を吹くような勢いで芽目へと駆け出す。その速度は、誰の目にも明らかだった。瀬良の怒りが未予の身体を通じて燃え上がり、アドレナリンが脈打つように全身を駆け巡る。身体の芯から湧き上がる熱が彼女を更に加速させていった。
身体を満たす熱と鼓動――しかし、それを生み出しているのは心臓では無い。
一度死んで完全に停止してしまった心臓が肉体に再び魂が戻ったことを認知して、勝手に動き出すようなシステム的な挙動をする訳が無く、目魂主となった存在は皆体内で血液がどのように巡っているかというと、代わりにその働きをする器官である存在:〈眼〉――即ち目魂のエネルギーが体内で活性し続け、視神経を通じて血液を供給しているのだ。
確かに生き返りたければ眼球を移植するよう勧められたものだが、まさか本当の意味で命を繋ぐ役割を果たしているとは普通は思わないことだろう。
眼球本来の視覚的働きも然ることながら、血液を送るポンプとしての役割を持ち合わせる謎めいた器官――〈目魂〉。
本来、心臓というのは胸の中央に位置していることから、肺や主要な血管、消化器官などそれらが短い距離で繋がっている為、血液の循環や調整は極めて効率的に行われる。
しかしこれが目の位置となれば、理屈の上ではその効率性は著しく低下する。血の流れは首を伝う血管を通って全て上側から体に向かって伸びていき、重力に強く逆らうように目の位置まで何度も巡回を繰り返す。そのような流れでは血液は不自然に曲がりくねり、力強く全身を巡ることが出来ないものである。
だがそんな常識を簡単に覆してしまうのが、〈目魂〉という存在なのだろう。
地球生物の観点では決して図ることの出来ない神域から生まれた独自器官とあれば、重力に束縛されない血流の原理にも一定の説明が付きそうなものである。
仮にも最もらしい原理を挙げるとするならば、視線の焦点移動に応じて目の奥で微弱な電磁振動が響き、血中の鉄イオンや電解質がその影響下で微細に配列を変える。血流は磁場に導かれ、重力の束縛を超えて流体は浮遊し全身を駆け巡る―――、見ることが即ち生きる働きと繋がっていると考えれば、眼球である理由にも説得力が強まるというもので、視線の僅かな揺らぎや瞳孔の開閉さえも全身の循環を調律する微細な指令として機能していると思えば、実に良く出来た器官であると感心せざるを得ない。
……さて、場面は稲妻が空を裂くように急転――、あのまま突っ込んだ〈未予もどき〉は胸に積もった怒気を爆ぜさせ、芽目の目魂を貫かんと右腕を鋭く突き出した。だがしかし………〈未予もどき〉のその行動は空しくも、風を切るだけに終わった。瀬良も知らなかった芽目の持つ目力:【視認瞬移】の力によって、彼女は寸前で何処かへと飛んだのだ。
「クソがぁああああああああああぁぁぁ――――ッ!」
怒りを晴らすことが出来なかった〈未予もどき〉は、伸ばした右腕を地面に叩き付ける。
悠人はそれを見て、密かに同情していた。
だがそれと同時に、芽目のことで一つ気掛かりにしていたことがあった悠人。
(さっきの彼女の力、瞬間移動のように思えたが――、もしかして昨夜体験したあの現象と同様の………何か関係して――?だが、今はそれよりも――………)
瀬良の身体の容態もそうだが、その中に潜む未予の精神を心配して悠人はすぐに〈瀬良もどき〉の元へと駆け寄った。
「死ぬな、未予!」
「何よ……そんな血相抱えちゃって。心配せずとも、この身の目魂はまだ一つある。片目取られたところで、くたばったりはしないわ」
ここで一つ、《ゲーム概要》に書いてあることについて説明をする。
【目魂を片目奪われた場合――、一方の目魂だけでも残っている限りはその目魂が生命維持の役割をしてくれる為、一度奪われたらそこで終わり………という訳では無い】、らしい。
だが、悠人だけは例外だ。目魂を片目しか所持していないこの男は、それこそ一度の略奪で死あるのみ。
「……けど、さっき目魂を奪われたその損傷で、この身体が完治するのは先延ばしになってしまったわ。まだ歩けるまでに時間が掛かるようだし、この場は貴方一人に任せたわ」
「任せたって、まさか………」
「ええ、どうにかして私の精神を元の身体に戻し――それから金髪の……、『この目』を奪うのよ」
「正気か?俺にそんなことが出来ると思って言っているのか」
「そうね。貴方の覚悟とその目に宿る目力が目覚めれば可能性は………」
悠人は問う。
「一体、俺の持つ目魂にどんな能力が宿っているって言うんだ。未来を知っているなら、俺にそいつの発動方法を教えたらどうなんだ?」
「あの力はそう万能じゃないのよ。単純に未来を視ることは出来ても、音を知覚するまでには至らない。音の無い映像を見ているようなものね。
例えば、未来で誰かが何か話していたとして――、私に分かるのは口を開く動作からそれが会話をしている、ということが分かるだけのこと。悪いけど、私には口の開きからその人が何を話しているかなんて、そんな器用な真似は出来ないわ」
「あくまで俺自身の手でその力を目覚めさせないといけないって、訳かよ。けど、そうは言っても一体どうしたら良いのか…………」
そうこう言い合っている内に怒りの矛先を失った〈未予もどき〉は八つ当たりの如く、まさに飢えた猛獣のような勢いで悠人に襲い掛かった。
その動きはさっきまで彼女が悠人の目を奪いに掛かっていた時とは異なり、それはそれは猛然としていた。
「くそっ!」
彼にそのことを考えさせる暇も与えず、〈未予もどき〉は彼の目を奪おうと飛び掛かる。
彼女の腕の動きをよく観察し、一つ一つの攻撃を避けきるので精一杯といったところだ。
だが、それは始めの時だけに過ぎなかった。
(せめて、俺の持つ目力とやらが何かのきっかけでふと目覚めることが出来れば………何でも良い。足掛かりを早くこの手で掴むには一体、どうしたら………)
〈未予もどき〉は怒りで判断力が鈍っているのか、何処か動きが単一で、徐々に彼は少しそんなことを考えられるぐらいの余裕を持てるようになっていた。
とは言え、常に彼女の動きを見ていなければ、彼の目を奪おうとする手の振りの速さまでは余所見していては上手いこと対応出来ず、一瞬でも視線を外してしまえば危うく命取りになるだろう。
そしていつまでもそのことを考えていると、そのことだけに思考が回ってしまい、相手の動きの先読みにも影響しかねない。
(……さて、この状況をどう打開すれば良いのやら。現状、俺に持ち合わせた武器と言ったら、小さい頃にプロボクサーを夢見てかつて通っていたボクシングジムで身に付けた『動体視力』と『反射神経』を生かすことぐらいなものだ。とは言っても、お金の関係だったり色々なことがあったりしてその夢は諦めた訳だが………
おっと、そんな暗いことを思い出している場合じゃなかった。目の前の相手に集中しないと。ここは一度、相手の動きを止めないことには始まらないな。となると――)
正真正銘――、最後の考えを巡らせていると、ある手を思い付いたのか、彼は避け続けることを止めてすぐさま行動に出た。
怒りで周囲が見えていない彼女の足下を狙って、彼は足払いを試みる。
見事に引っ掛かった〈未予もどき〉はバランスを崩し、腹を打ち付けるようにして地面に倒れ掛かった。
俯伏せになった〈未予もどき〉の隙だらけな背中に跨がり、何とか身体を拘束しようとするが、当然彼女はそれに対して抵抗をする。
悠人の伸し掛かりから免れるようにして、その状態の身体をダイナミックに横へと転がすと、そこから彼の顔面を払うように手の甲で殴打。
「痛ってぇ!」
思いもよらぬ反撃を受け、流れるがままに怯む悠人。
叩かれた頬の赤みがその痛みを物語る。
悠人が赤くなった頬を痛そうに撫でているその隙に〈未予もどき〉は立ち上がり、一瞬で背後に回ると、彼の視角外から目を奪いに手を伸ばす。
無用心な後ろ姿を曝け出し、その距離およそ三十センチ。
もはや避けようにも避け切れる距離ではなく、彼は敢え無くGAME OVER。
『…』
と誰もが思えるこの瞬間――、目の奥が燃えるような奇妙な体験を味わうと共に、視神経から脳へと電気信号が勢いよく働き、鮮明に情報が流れ込む。
「これは………」
何かを知ったかのような――、意味ありげな口振りをする。
キリッと表情が変わると、風を切る音を頼りに迫りくる〈未予もどき〉の手を見もせず、いとも簡単に悠人は払いのけた。
「ちぃぃ――――ッ!」
〈未予もどき〉は絶好のチャンスを潰されたかのように、その怒りはますますヒートアップしていった。
だが、彼はそんなことを気にもせず、ズボンの右ポケットから何かを取り出し振り返ると、それを相手の顔の前に放り投げた。
「なっ、何だ!」
「ただのハンカチさ」
相手が怯んだその隙に彼は立ち上がるとハンカチの奥から手を伸ばし、彼女の首筋を掴んで再び、地に追いやった。
そこから彼女の腹の上に跨ると、すぐに両腕を抑えてがっちりと拘束した悠人。
すると〈瀬良もどき〉の方を向いて、歓喜した様子で口を開いた。
「未予!ようやく俺の能力が何なのか、分かったぞ!さっき俺の脳内に直接、その情報が送られてきたんだ。それで肝心の発動条件なんだが――、奴の言っていた話から【精神廻替】だ何だの力が他人に扱えないことは理解しているつもりだ。
その上で一つ聞くが、目力は扱えずとも奴の“目魂”……って言うと、ややこしくて伝わりづらいか。何と言うか、そう……!奴に授けられた目の“本来の状態”に開眼することってのは可能か?」
「金髪に授けられた目の……本来の状態に開眼………。それが何を意味するのかよく分からないけれど、今この身体を動かしているのは未予の意志なのだから、そのくらいのことは実行出来る筈。試してみるわ」
「早めに頼む。彼女がこの様子だと、そう長く持ちそうにないからな」
怒り狂う〈未予もどき〉を彼は必至に取り押さえる中――、〈瀬良もどき〉は目を閉じ、意識を集中させてゆっくりと目を開く。
「この感覚は……成功ね」
〈瀬良もどき〉は極端に縦長の長方形型の瞳孔、灰色に発光した瞳を見開いた。
「それで、どうすれば良いのかしら?」
「なら、その開いた目魂を俺に良く見せてくれ」
「分かったわ」
言われた通り――、〈瀬良もどき〉は顕在化した目魂としての姿を彼に見せるように自然と目を合わせた。
彼もまた自身の目魂を開眼すると、その目で〈瀬良もどき〉が開眼した瞳を深く見つめた。
するとどうしたことか、〈未予もどき〉は苦しみ出すように頭を上下左右に振り回しながら、唸り声を上げ始めた。
「――ぁああぁぁ」
その様はまるで、自分の持つ力が制御出来ていないような――………
案の定――、二人の精神はどういう訳か元の身体へと戻っていった。
一体、何が起こったと言うのだろうか。
良く見ればさっきまで発光していた筈の瀬良の目魂に光が消え、代わりに青々と光放っていた彼の目魂が奴の眼球色に発光し出した。
「あれ?私は………」
「未予、戻ったんだな」
「そのようね。……にしても、いつまで私の両腕を掴んで跨っている気かしら?」
「……わ、悪い!」
彼は慌てて未予の両腕から手を離し即座にその場から引くと、大の字になって倒れていた彼女はゆっくりと上体を持ち上げた。
「おい貴様ァァ、何しやがったぁぁああああああぁぁぁ――――ッ!」
自分の意思とは関係無く、無理やりに自身の能力を解かれてしまった瀬良は訳が分からず当たり散らす。
彼女をそうさせた悠人の持つ目魂に宿る目力――それは逆境の中、彼が目覚めた力は《開眼された目魂を見ることによって発動される、目にした目魂に宿る目力を拝借・断捨離する異能》であった。
【拝借】――、それは目魂に宿る目力の〈奪取〉。
相手が開眼した状態に限り発動することが出来ないが、目が合った目魂の目力を奪う――さながら、見取る………いや、“見奪る力”で無力化することが出来る。
【断捨離】――、それは奪取した目力の〈開放〉。
見奪った力を行使することも出来る。
何だかそれだけを耳にした場合――、非常に強力な能力のように聞こえるが、実はこの目力には大きな弱点が三点存在する。
一つ――、【拝借】を行使する際、その性質上ゆえに危険覚悟で相手が目魂を開眼するところ―――、つまりは“力を見せてくる開眼状態時で相手と目を合わせる必要性がある”という点。
二つ――、一度【拝借】した目力は【断捨離】しない限り、“別の目力を無力化したくともそれが出来ない”という点。
三つ――、目力を【断捨離】すると、“一度は無力化した筈の力が本来その目力を有していた目魂の元に力が戻ってしまう”という点。要は折角奪った目力も一度使ってしまえば、手元……いや、目元から離れてしまう訳である。
だが、言い換えれば同じ目力を何度も【拝借】しては【断捨離】を繰り返し行えることを指している為、如何に目力を発動するタイミングが見極められるか、そこが非常に重要となる。
己に目醒めた目力の全容を踏まえ、咄嗟に相手の目力を見奪ったことでこの場の戦況は収束した。
未予はそんな彼の目力についての詳しい詳細を良くは知らないものの――、それが一体どんな能力なのか、大まかなに【未来視】の力から知り得ていた情報から彼女なりに掴んだ能力の特徴をもって、悠人の持つ能力をこのような言葉で表現する。
「君のその力………、敢えて名付けるなら【借離蔵視】――、略して【アアア】なんてのは、どう……はぁ……はぁ………かしら?」
「「はへぇ?」」
悠人と瀬良は変にハモって、同じ反応をとる。
「何だその……、アイト・アボカド・アバウト………だっけ?少なからず、ニュアンスだけなら似ていた……よな?まぁ、とにかくその……、厨二病ネームにありがちそうな二単語以上の言葉が掛け合わさった、長いカタカナ読みする能力名か何かは?雑に略称されて絶妙にダサく聞こえるところもなんか、厨二病ネームっぽいっつーか。
もしかして未予って、意外と年の割にこういうの考えるのが好きだったり……なんて、意外と子供っぽい一面もあるん………いや、そこは童心に返ると言った方が正しいのか?」
「何を言うかと思えば………『ピヤー ドゥ ウイユ』から生き残る為の知識として、一個一個の目魂の特徴を私なりに整理して覚えられるよう、(名付け)してみたまでのことだったのだけれど………はぁ……はぁ……何か変なことかしら?」
「まさかそういう……何と言うか、人の名前はロクに覚えようとしないのに、ゲームに関わることだけはご丁寧に名前まで付けて脳に記憶を刻み付けるんだな、お前………。
……ったく、出会った時から思ったが、つくづく変な奴だよ」
ごもっともな言葉を悠人が返すも、さらっと無視して未予は話を続けた。
「……はぁ……はぁ………それより……、あの厄介な力を対処した今、早く……はぁ……はぁ………金髪の残った目を奪い取るのよ」
肉体を取り戻したにも関わらず自らの手でそれをしようとはせず、どういうわけか彼に頼み込む未予。
だがそれは、彼女の異変が関係していた。
「どうしたんだ、未予?顔色悪いぞ」
「……はぁ………はぁ……はぁ……本当だったら私をコケにした金髪の目魂は、自らの手で奪いたかったところだけど――、どうにも私の肉体を怒りに任せて金髪が酷使したせいで、動悸が……はぁ……はぁ………収まらないの。おかげで精神が戻っても目を抉られた時の痛みと、……はぁ……はぁ……はぁ………今抱えている動悸が精神に過度な負担を掛け、もはや君にそれを隠し通すことが出来なくなったわ。
だからお願い、死にたくなかったら覚悟を決めて……未来視を………私の言葉を信じて、目魂を奪いなさい」
「未予……」
悠人は苦しそうにし続ける彼女の名前を感情的に呟く。
(あんな状態だというのに、俺を説得しようとする相手の気持ちを一番に信じてやれなくてどうする。目を奪っても奪わなくとも、どちらを選択しても待っているのが地獄の一択だって言うなら、俺が選ぶ道はこうだ!)
「うおぉおおおおおおおおおぉぉぉ―――――ッ!」
「………ふざけるな、誰が……誰が………死ぬかぁあああああああぁぁぁ―――――ッ!」
声を上げ、自らを鼓舞し両の足を突き動かし腕を振るわせ、瀬良の残された右目を豪快に抜き取った悠人。
覚悟を決めたその手の平にはヌルヌルとした眼球の感触が伝わり、左手は紅く血に染まっていた。
利き手で触ることへの、抵抗感ゆえの選択。
中学校の頃、一度だけ理科の解剖授業でカエルの眼球を手に取って触れた、あの日以上に鬼気迫る嫌悪感。
これは別種では無く自分と同種のものだからこそ感じる思いなのか、それは酷く心に傷を負った。
唯一救いだったのは、何の道具も使わずに眼球を抉り取ったにも関わらず、眼球を指で掴んだ圧力で中から房水が流出し、よりヌルヌルした気持ち悪い感触を得ずに済んだことぐらいである。
どうやらこの目魂というのは生命器官という面だけで無く、一般的に私達の知る目玉とはつくりそのものも異なるようで、ゲーム性を考慮した素手による略奪にも差し支えない強度力があると言うのか……、弾力があると言うのか………。
あの時、突然姿を現した藤咲芽目の手によって、未予の精神が憑いた瀬良の肉体から左目を――、形も崩れずがっちり掴んで手にしていた所からも分かる通り、如何に目魂が一般的な眼球とは違い、丈夫なつくりをしているかが目に見えて分かる。
「……はぁ……はぁ………、終わった……のね」
未予が言ったその言葉を指し示すように、堤防の向こう側からそっと聞こえる波の音が闘いの終わりを――、日常の静けさを気付かせてくれる。
「ああ………」
彼は俯きながら、静かにそう言った。
覚悟を決めた筈なのに一度死んだ人間であれ人を殺めた罪悪感が、後から押し寄せてきたのだ。
「金髪の死体は《ゲーム概要》によると、例の神様の手によって後処理されるそうよ。
……はぁ……はぁ……はぁ………何でも目立ちやすい場所に放置された死体を優先に、この島の警察官の目に付くことがあっては――、……はぁ……はぁ………ゲームの妨げになるのは確実だからとまで記載されていたわ」
「………」
罪悪感ゆえの無言なのか、未予はそんな悠人を見かねて口を開く。
「やっぱり貴方には無理なお願いをしてしまったようね。今日はこうして……はぁ……はぁ………目魂を奪えたことだからルール上、私と君は今日というこの日を生きられるわ。でも今日に限らず、誰かの目魂を奪う覚悟が持てた上で……はぁ……はぁ……はぁ………このゲームに挑めなければ、この先はやっていけないわ。
だから、貴方との協力関係も今日限りでお終い。……はぁ……はぁ………それならこんなゲームに無理して関わることはないでしょう………なんて」
何となく、こうなることは予感していたのかもしれない。
確かに、『高い身体能力』と『能力を見奪る力』を持ち合わせた目崎悠人という目魂主を手放すのは、実に惜しいことだとは思う。
これからも続くこのゲームを乗り越えようとなると、それは尚更――………
だが当の本人がこんな状態では、とてもこれからのゲームで協力し合っていける感じがしない。
彼女はふらつきながらも立ち上がり、背を向けゆっくりと立ち去ろうとする。
もう二度と会うことは無いだろうと別れを告げるように――
………………………
「あー、くそっ!なんで俺の日常はこうなってしまったんだよ!こんなゲームなんぞに関わらずに済んだなら、どれだけ良かったことか。……だけど、お前が視た未来だとそいつは無理な相談なんだろう。ましてや両親がいない今、たった一人の家族を――、妹の紫乃を残して死ねるかよっ!
全ては未予……ッ!お前の生きたいという強い意志が俺を突き動かしたんだ。だから俺にあんなことさせといて今更、協力関係はお終いだとかふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
「はっ、ははっ………」
何を思ったのか、未予は突然苦しそうに笑い始めた。
「な……何がそんなに可笑しいんだよっ」
「いいえ。さっきまで顰めっ面していた貴方が、何だか急にそんなことを言い出すものだから………、
思わず驚きを通り越して、……はぁ……はぁ………笑ってしまったの。機嫌を損ねてしまったようなら謝るわ」
「ああ、そうかよ。……で、どうなんだ?本当に俺と、もう手を組まないのか?」
「………撤回、するわ」
「つまりそれって………」
「私が始めに持ち掛けたことよ。……はぁ……はぁ……はぁ………貴方にそこまで言われたら、断る道理も無いわ。そういうことだから改めて宜しく、ゆなんとか」
「悠人だ。……ったく、いい加減それぐらい覚えてくれよ」
「やっぱり私の中では、『君』か『貴方』の方がしっくりくるわ」
(一体、いつになったら俺の名前を言ってくれるんだか…………)
こうして、彼らの闘争はひとまず幕を閉じた。
未予はふと、腕に装着されたEPOCHを起動する。投影された画面に表示された現在の時刻は、十八時四十分を指していた。
彼女が言っていた一日のゲーム終了時間には間に合ったが、そもそも何故このゲームはタイム制なのか――?その理由はゲーム時間外になると、その間のあいだは目力が使用が出来なくなるから。
詳しい概要は不明だが、この目魂とやらも普通の目と同じように休息が必要ということなのだろうか?
そういや……例の神様もあの日、目魂主を集めては話の中で休息がどうの言っていたような気がする。そのことを言っていたのかは分からないが………
ある意味、能力が使えないとなると、『眼球の略奪』などという特殊なルール上――、個人の力量差によって、ゲームの優位性がかなり分かれてしまうことが少なからず、関係しているのでは無かろうか?俗に言う、《ゲームバランス》と言われるやつだ。
そして肝心の二十二時を過ぎると、例の神様ー『目神へアム』が芽目の使う【視認瞬移】ような力で瞬く間に、生き残った目魂主が略奪をした目魂の回収作業をしていくと――、《ゲーム概要》には書かれていたが、それまでヌルヌルした気色悪い眼球を持っているのは誰もが嫌がることだろう。
その点はあの神様も考えているのか、一日ごとのゲーム終了を待つ前に、既に目魂の略奪が済んでいる目魂主はへアムに〈報告〉という形で回収に出す目魂を持っていることをメールするだけで、早急に回収に回ってくれるサービスが存在する。
そのやり方はとっても簡単で《お知らせ》を開いて下欄から【報告】をタップ。
そこに回収に出す目魂の写真と、回収して欲しい数を一緒に残して送信―――。回収要請をするだけである。
分からなかったら【報告】から一緒に説明事項を見ることが出来る為、このシステムを利用しない目魂主はそういないだろう。
未予がEPOCHの電源を入れたのも、一重にその機能を起動させる為であり――、目魂の回収要請を済ませると、彼らの胸糞悪いゲーム一日目はこうして幕を閉じるのだった。
〈おまけ〉没になったセリフシーン
(※没にした理由については、何となくお察し下さい)
未予が悠人の放った目力に名付けをしたシーンでのセリフ
「はぁ……はぁ……あの時、子供を助けて敢え無く命を落とすなんて、とんだ死に急ぎと思ったけれど、………はぁ……はぁ………どうやら、運命は貴方を離さなかったようね。
その瞳に秘められた能力――、まるですべてを飲み込む淵のよう………はぁ……はぁ………そうね。敢えてその力を名付けるとするなら、【吸視】なんてのはどうかしら?
突然の死を乗り越えて手にした力が力だけに、中々に皮肉が利いていて……はぁ………はぁ…………これ以上無くお誂え向きな呼称だと思うのだけれど」
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もう一つ、おまけ
IFルート
『KAKŪ GO KiWAMi -カクー ゴ
キワミ(見)- 〜High-Land GAME〜 ハイランド・ゲーム』
もしも目崎悠人がデスゲームに乗り気な無情な男だったら……
(※このルートの目崎悠人は、目力の覚醒イベントを逃した状態になります。それではどうぞ、お楽しみ下さいませ)
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「きゃはははは、楽しぃ~♡」
血まみれの左目を手にした茶髪の少女――『藤咲芽目』の狂気じみた高笑いが、夕暮れの堤防に響き渡る。
左目の眼窩から噴き出す鮮血を必死に手で押さえ、苦悶に顔を歪めながら猛烈な激痛に堪え打つ〈瀬良もどき〉。
認識すら与えない一瞬の奇襲。
奴の……、芽目の右手には肉線を引きちぎって引っ張り出された、生々しい球体が握られていた。
数瞬の間に自身の本来の肉体に一体何が起こったのか、その凄惨な事実を理解するまで少しのラグを生じた瀬良が、遅れて押し寄せた絶望と激怒に顔を歪め、怒号を上げようとした――その直前、突如として別の人物の声がそこに割り込んだ。
「おい、そこのシニヨンヘアー」
意外にもこの惨状を目の当たりにしながら、一切の動揺を見せない低く落ち着いた声。目崎悠人である。
「……もしかして、私のこと言ってる?」
目力を起動させかけ、両目の光を躍動させていた芽目がぴたりと動きを止める。
奪い取った目魂を握りしめたまま不快感を隠そうともせず、胡散臭そうな視線を悠人へと向けた。
「一つ手に入れた程度で満足して逃げるつもりか。折角、もう一つ目魂を簡単に手に出来るチャンスが目の前に転がっていると言うのに………勿体無い話だ」
「あははッ、何言ってんのお前?一つあれば今日のゲームクリア確定なんだから、それで十分だっての。わざわざ深追いする必要ある?」
「一つ奪ってはすぐに引き足を踏む、その浅はかな生存戦略で察したよ。甘いな。……お前、最近死んで力に目覚めたばかりの口だろ」
悠人の静かで容赦の無い指摘に、芽目の顔から軽薄な笑みが消えた。
「深恨を買った相手に片目残して野放しに逃げるなど、将来の自殺行為でしかない。……もしや、タッチして逃げれば終わるような、そんな生ぬるい鬼ごっこでもしているつもりじゃあねぇよな?」
「生意気なこと言ってくれるじゃん。……なに、私が無駄なリスクを避けて賢く立ち回ってるのを、安易な妥協だって言いたいの?」
芽目は目を細め、悠人を鋭く見据える。
悠人は顔色一つ変えず、芽目の間合いへと一歩足を踏み入れた。瀬良の視線から遮るようにすれ違いざま身を寄せ、その耳元で作戦を囁く。
「言葉通りの意味さ。あいつは今、片目を奪われた激昂とパニックでお前にばかり注意が向いている」
「そう?……どちらかと言うと、あの黒髪の女がこちらを凄い形相で睨みつけてきているように見えるのだけど」
そう言って、芽目は未予もどきに視線を向ける。何故か自身の目魂を奪われた訳でも無い筈のその女が、まるで己の身に起きた悲劇であるかのように顔を酷く歪め、芽目に対して凄まじい殺意を向けている。
(なんなのあいつ……自分の目でも無いのに、何であんなに私へ感情を向けてくる訳?)
芽目の背筋に、生理的な不気味さがじわりと滲む。
「違和感を覚えるのも無理は無い。あの女……未予の『中身』は今、お前が片目を奪ったあの身体の本来の持ち主――《瀬良》本人だ」
「……は? 中身?」
「奴の目力は、視線を合わせた相手との精神交換だ。瀬良は既に未予の身体へと逃げ込んでいる。迂闊に近付けば、次はお前の身体に逃げ込む危険がある」
「っ……!」
芽目の顔から余裕が消え、思わず足が半歩退く。
「ふざけてんのかッ!何が、もう一つ目魂を簡単に手に出来るチャンスだよ。お前……、騙したな」
悠人は眉一つ動かさず、感情を削ぎ落とした静かな声で芽目の激昂を受け流した。
「リスクを回避する為の『情報』を提供したまでだ。本当に騙す気があるなら、敢えて何も教えずに向かわせ、瀬良に身体を乗っ取られたところを狙って、お前の身体から目魂を回収してたろうよ」
「……っ、屁理屈言ってんじゃねぇぞ!」
「悪いが、今は感情論を吐いている時間は無い」
「なっ……」
悠人は芽目の激昂を意にも介さず、淡々と本題へと切り込んだ。
「……まぁ、話は最後まで聞けって。未予の身体に入った瀬良――ややこしいから《未予もどき》とするが、要は未予もどきが向ける『視線』と『意識』を俺一人に意識させる………、妨害工作の囮役を買って出てやる、と言った方が分かりいいか?」
「囮役……ねぇ………」
「そうだ。奴の攻撃手段である『視線』を俺が誘導してやる。お前に向く余地なんて一瞬も与えないさ」
「一体何処から来るのさ、その自信………」
「なに、こう見えても目を切らす技術には少々覚えがあってね。パンチを避ける原理とそう変わらねぇよ」
「パンチ?普段から、喧嘩でもしている感じ?」
「う~ん、ちょっと違うかな。ま、大船に乗ったつもりで任せておけって。それよりも瀬良の奴だが、本来の身体は既に片目を失って深く負傷していることを考えれば、俺達から目魂を奪いさえすれば、 そのまま未予の身体で逃げてやろうと高を括るかもしれない。別に本来の肉体で無いと力を発動出来ないって訳でもなさそうだからな」
悠人は淡々と、冷徹に事態を分析してみせる。
「つまり逆に追い詰められれば、 次に奴は無傷な肉体を新たな宿主として狙ってくる可能性がある。 ……だがそこで俺が奴の視線を遮って邪魔をしてやれば、奴は誰も捉えられない。 自身の魂の移動先を元の肉体以外に移す手が無くなるって寸法さ。その上で立てる作戦だが――」
悠人は更に一歩、芽目の耳元へと距離を詰めた。
「未予もどきを気絶させる。奴が意識を失えば、自我を保つ為には自然と元の傷付いた肉体へ戻るしか選択肢は残されていない。お前の瞬間移動能力なら、音も無く近付くことなんて容易いことだろ?
それこそ俺が奴の前で注意を引いたところへ、お前が瞬間移動で奴の真後ろへと跳び――、延髄を打ち抜くか首骨を折るなどすればいい。一瞬でも隙を見せた無防備な的に対してなら、安全に仕留められるってもんだろう?」
芽目は耳元に吹き掛けられた冷ややかな息遣いに僅かに口元を歪めながら、手に持った目魂を弄び、探るような視線を悠人に送る。
「……ああ、そう。話は分かったけど、それって結果的には私ばかりが得しているけど、君にはそれで何の得がある訳? タダ働きしてくれるような善人には見えないんだけど」
「俺の最優先事項は、そこに倒れている連れ……未予を救い出し、無事に連れ帰ることだ」
悠人は意識を失っている未予へと一瞬だけ視線を向け、すぐに淡々とした調子で言葉を継いだ。
「確かに目魂の回収自体は必要だが、その対象が必ずしもあいつである理由は無いしな。この場で余計なリスクを負って瀬良と不確定な争いを続けるより、お前にあいつを仕留めさせ、俺は彼女を……未予を助け出す。どうだ?取引に応じるには十分な信頼材料だとは思わないか?」
一切の揺らぎがない、筋の通った回答。
芽目の頭の中で、高速で損得勘定の計算が駆け巡る。 確かにこのまま逃げてしまえば、生き残った瀬良から狙われ続けるリスクが残る。
だが、この男の作戦に乗れば、後顧の憂いを絶った上で二つ目の目魂という圧倒的なアドバンテージまで手に入るのだ。
利益の競合が起きないからこそ、提示された取引には嘘が無く、信頼するに値する合理性があると納得がいった。
(……悪くない。私に一切の不利益がないどころか、美味しいところだけ全部持って行ける)
「あはッ……いいねぇ。乗ったよ、その話」
芽目の口角が、勝ち誇ったような狡猾な笑みに歪む。
「おい……ッ! テメェら、俺を無視してコソコソ話してんじゃねぇぞ……ッ!!」
血煙を撒き散らし、片目を押さえた瀬良が殺気を剥き出しにして踏み込んでくる。
だが、その殺意に満ちた視線が芽目を捉える直前―― 、悠人がぬるりとその射線上に割り込むと同時に、ポケットから何かを取り出した。
取り出したのは、小さく折り畳まれた一枚のハンカチ。
悠人はそれを指先で手際よく解き、端の一点だけを摘み持つと、サイドステップで横へと大きく踏み出しながら一気に腕を振り払った。空中で広がった布地が激しくはためき、未予もどきの視界を覆うように大きく広がる。
血走った奴の眼球は、反射的にその激しい動きと手元へ視線を奪われてしまう。
その僅かな隙を悠人は逃さなかった。 片足を軸にコマのように身体を旋回させる技――《ピボット》。ボクサー特有の足さばきで瀬良の正面から一瞬で姿を消し、その背後へと滑り込む。
「なっ――」
未予もどき が焦燥に眉を跳ね上げた瞬間には、既に全てが終わっていた。悠人は広げたハンカチを上から顔面へと被せ、目元へ正確に押し当てる。奴の視界は瞬時に漆黒の闇へと閉ざされた。
視界を奪われ、完璧な死角を作り出された瀬良。その背後へ、音も無く『空間の歪み』が訪れる。
直後――、空間を跳躍した芽目の蹴りが、視界を塞がれた未予もどきの無防備な延髄へと深々と叩き込まれた。
ゴッ、と鈍い打撃音が響く。
「カ、ッ………………」
白目を剥いた瀬良の意識が、一瞬で途絶える。
精神を繋ぎ止めていたタガが外れ、未予の身体は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
それと同時に、まるで引き潮のように、未予の身体から異物である瀬良の魂が強制的に吐き出されていく。
「ぐ……あ………ッ、………ガ……ハッ…………!!」
数メートル先。片目を抉られ弱々しく倒れていた瀬良の『本来の肉体』へと魂が戻り、酷い痙攣と共に大きく跳ね起きた。
意識を失ったことで、瀬良の魂は自我を保つ唯一の器――、ボロボロの己の身へと強制送還されたのだ。
悠人は落ちたハンカチを拾い上げると、惨めに横たわる芽目や倒れ伏す瀬良には目もくれず、すぐに未予の元へと駆け付けた。
膝を付き、未予の頸動脈に指先を沿わせて脈拍を確認する。規則正しく打つ鼓動と、元に戻った確かな精神の気配を感じ取り、悠人は静かに息を吐いた。
「さーて……取り決め通り、もう一つの目魂も頂きま――」
勝ち誇った笑みを浮かべ、無防備に横たわる瀬良の身体へ手を伸ばそうとする芽目。
――その直後、芽目の背後に立つ悠人の瞳から、完全に温度が消え失せていた。
無事を確認出来た未予の身体をそっと下ろすと同時、右手で握っていたハンカチを、芽目の視界の斜め上へと軽く放り投げる。
ふっと空間に舞った一枚の布きれ。視界の端でひらひらと動く物体へ、芽目は反射的に思わず目を奪われてしまう。
それが悠人の罠であると芽目が気付くよりも前に、彼はそのコンマ一秒の隙に何一つ無駄の無いフットワークで芽目の無防備な側腹部へと踏み込んでいた。
――ゴッ!!
鈍い打撃音が響く。悠人の左拳が芽目の肋骨の隙間を縫い、肝臓を正確無比に撃ち抜く。
「が……ぁ……ッ!?」
瞬間移動の予備動作すら許さない、完璧な視線誘導。
脳を揺さぶる激痛と腹部への凄絶な衝撃が同時に襲い、悲鳴すら上げられないまま芽目は力無く倒れた。
彼女の手から零れ落ちた目魂を拾い上げる悠人。芽目は腹を抱えて海老のように丸まり、震えることしか出来なかった。
悠人は落ちたハンカチを拾い上げると指先の汚れを静かに拭い、惨めに横たわる芽目を冷徹な視線で見下ろし、静かに口を開いた。
「まんまと人を信じるなんて、とんだ甘ちゃんだよ。こいつはデスゲームだぜ?」
氷のように冷たい声が、芽目の頭上に降ってくる。
「ハナッから『目魂の回収』を捨てるような妥協案なんか立てる、間抜けな立案者がいるかよ。普通、自分の勝利が転がり込むように場を掻き回してこそ、“作戦”ってもんだぜ」
「そん……な………」
「その為にもお前の目力が好都合だった。ただそれだけのことだ。……だがまぁ、俺も鬼じゃないからな。協力してくれた礼として、お前が最初に奴から抜き取った分までは奪わずにいてやるよ」
そう言うと、惨めに横たわる芽目や片目を失い虫の息で倒れ伏す瀬良を尻目に、悠人は意識を失った未予の元へと歩み寄り彼女の華奢な身体を抱え上げると、最後に「じゃあな」と一言だけ言い残し、そのまま静かに去っていくのだった………。




