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22.作戦会議


本日(5/14)二話目の投稿です!

最新話からお越しの方は注意くださいね(*^_^*)


  





「――さて、話を続けようか」



 会話にジェシカとロデリックを加えたあたし達は、まず席を替えた。

 向かい合うように置かれた二人掛けソファーにあたしとマティアス、アレンとジェシカ。そして、一人掛けのソファーにロデリックが腰を掛ける。


 本来ならこの五人が同じテーブルを囲む事はありえない。

 そのあり得ない事が現実に起こっているのだと思うと気持ちが高鳴るのが分かった。自分が選んでいる、と、実感した瞬間だったからだ。



「再度確認するが。本当にファーブルへ行くつもりなんだな?」

「はい」

「俺達がついて行く事ができなくても?」

「はい」

「……行ったら帰って来られないかもしれないぞ」

「あたしにとって『行く』事と、『帰る』事はセットじゃないんです」



 あたしはエリオットに会いに行く。

 帰る事を考えるのは彼に会ったその後の事だ。



「ティアナ。君は『無謀』って言葉を知っているか?」

「……知っています」

「『帰る』事を考えず、『行く』というのは、その言葉が当てはまらないか?」



 ロデリックの言葉に、あたしは口を噤む。


 お菓子が欲しいから精一杯甘えて強請る。

 寂しいから人目をはばからず泣く。

 会いたいから、会いに行く。


 心に描いた通りを望む事は、大人の彼からしてみれば『無謀』なのだろう。


 叶わない願いは多くあるし、望まぬ事が起こるのも現実。

 どちらかと言えば、心に描いた通りになる事の方が少ないのかもしれない。


 でも、思い描く事を止めたら。選ぶ事を止めたら。



「――『無謀』だと最初から諦めて、選ぶつもりのない道を選ばされるのは嫌なんです」



 あたしの言葉にマティアスが微笑む。

 言葉は違うけれど、今告げた決意は彼に告げた事と同じ。

 どういう結果が待っていようとも、選び取ったのは自分なんだと言い切れる様に。流されるまま、選ばされない様に。あたしはこの手で未来を掴む。



「――もちろん。帰る事を最初から諦めているつもりもないですからね?」



 重ねて言葉を続ければ、ロデリックはフッと笑い「説得は終了だな」と言った。



「ここまで覚悟しているなら良いんじゃない?」

「ティアナってば、肝が据わってる!」



 ロデリック隊の三人は顔を見合わせ、表情を崩す。

 その意味が分からず三人を見比べていると、アレンが口を開いた。



「ここまで脅してもファーブルへ行こうなんて、君の決意に完敗って事」



 尚も状況が呑み込めないあたしに「つまり」と、彼は続ける。



「ティアナに、ロデリック隊が協力するって事!」



 頷くロデリックに、片目を瞑るジェシカ。


 差し出された手にあたしは微笑む。

 また一つ、未来を掴んだのだと嬉しくなった。



◇◆◇◆◇◆



 結果から言うとあの本に書いてあった事は半分だけが本当だった。



「国を越えられない――この部分については『迷い人』の存在がある為、すでに成立しない」


 故意か不慮か。

 それは別として、アコットへ迷い込んで来たファーブルの人間がいる時点で、国を渡る事は不可能ではないというロデリック。



「――学生証、会員証、入室許可証。特定の場所に入る場合、なにかしらの証明がいるだろう? アコットへ入国してきた彼らはその証明を持っていた」



 総括の様に状況を確認する彼は、一つずつ事柄を読み解いて行く。



「国から国へと移動する場合の証。それはマナだ」

「――マナ」

「ああ。ファーブルへ行く場合求められるのは『マナの量』。しかもその量は多くなければならない。基本、アコットに住む人間の内包する量では足りないのが現状だ」



 これが隣国であるにもかかわらず、アコットの人間がファーブルを知らない原因でもある。と、彼は続ける。


 ファーブルに入国する為には大量のマナが必要。

 だけど個人で内包する量では足りない。つまり、補う必要がある。



「補う方法はいくつかあるが、一番ティアナに向いているのはマナの多い場所へ行く事だろう」



 全ての素であるマナ。

 そのマナが沢山ある場所でファーブルに証明を行い、入国する。



「……でも、ロデリックさん。マナの多い場所って一体……?」

「基本マナは『生まれる場所』に多い。マナが多くないと、生み出す事自体が出来ないからな」



 生まれる場所。

 命が多く育まれ、生きている場所。


 助産所、だろうか?

 たしかに他よりは生まれる場所だろうけど、子供が一斉に生まれるわけではない。そう思うと決して多くはないだろう。


 他には……と、ここでふと、脳裏を掠めるモノがあった。


 穏やかな気持ちでその成長を見守り。

 咲き誇る姿はふかふかの絨毯のようで。

 柔らかな香りは心を癒してくれる。



「お花……植物……森……?」



 何も生まれるというのは人にこだわる必要がないのでは?

 そう思っての言葉だった。


 ロデリックは少し表情を崩すと、「正解」と口角を上げた。



「植物が多く在るところ。――つまり森は、多くの命が生まれ、そして土に還るところ。街中より命のサイクルが早く、マナに満たされている場合が多い」



 ジェシカがスッとテーブルに地図を出して来た。

 あたし達の住む地域を中心に描かれたその地図は、住宅から主要施設、はたまた小さな公園までが正確に記載されている。

 太枠で囲まれた地域ごとの色付けは人口量を示し、別途付いている丸印はマナの分布だという。


 地図上に指がトンっと置かれる。



「――国立森林公園。この周辺で一番マナが多いのはここだ」

「でも、ここって立ち入り禁止区画じゃ……?」

「そうだ。マナが多いから立ち入り禁止なんだ」

「……?」



 不思議そうにしたあたしに、「制御できずマナを大量消費すると、大事故になりかねないからな~」と、アレンが答える。


 なるほど。と、理解が追いついた。


 一度しか使えない力――魔法。

 それらがささやかな事象である場合が多かったのは、ここに理由があったのだ。



「……なんだか、知らない事だらけ」

「世の中の全ての情報を政府が開示している訳ではないからな」



 そう締めくくった彼は席を立ち、あたしに帰宅を(うなが)す。

 時刻はニ十時を過ぎていた。



「旅立つなら早い方がいい。覚悟が出来ているなら明日の早朝だ」



 ……どうする? と、問うロデリックにあたしは頷く。



「わかった。サポートにアレンとジェシカをつける。――頼んだぞ、二人共」


「了解です! 隊長!」

「へーい、わかりました」



 元気よく手を上げるジェシカと、ひらひら手を振るアレン。

 うん。二人が来てくれるなら心強い。


 こうしてあたしは明日の旅立ちを約束し、ザリッツ家を後にした。



◇◆◇◆◇◆◇



 星の瞬く帰り道――。

 歩いた事のない区画から、自身の生活圏内へ。


 いつも買い物をするお店。

 以前は良く遊んだ公園。

 学園までの通学路。


 普段何気なく見ている景色で帰って来たのだと実感する。


 そんな中、あたしはロデリックさんと一緒に歩いていた。



「……今日は明るいですね」

「ダブルムーンだからな」



 空を見上げれば大小二つの月。

 いつもは大月に隠れている小月も姿を現していた。



「道理で明るいわけだ……」

「小月は夜の太陽だからな。今夜はこのまま闇が深まる事はないだろう」



 響く音がまた靴音だけになる。

 コツコツコツと。規則正しく、程良い速さで。


 一緒に歩いて気付いたけれど、ロデリックさんは無口だ。

 あたしから話しかければ答えてくれるが、基本、彼から会話を振ってくれる事はない。


 別段気の利いた会話が出来るわけではないあたし。

 しかも今は明日の事で頭が一杯で、話題など思いつきもしなかった。


 自宅まではもう少しある。

 このまま無言なのはちょっとつらい。


 そう思った時、あたしは大事な事を思い出した。



「ロデリックさん……あの、ありがとうございます」

「? 何に対しての礼だ?」

「ずっと、あたし達姉弟を守ってくれていたって」

「……ああ、その事か」



 若干バツ悪そうに返事をしたロデリックは、詳細を自分から語ってはくれない。


 再び、無言になる。

 その様子から、ずっと内緒にしておくつもりだったのだと思い至ると、やっぱり余計な事を考えてしまう。


 あたしはそれが嫌で言葉を続けた。



「お母さんに頼まれたって……」

「そうだ。……俺とエリーとは昔馴染みで、万一の時はと、頼まれていた」

「あたし、全然知らなくって」

「ああ。俺が知らせる必要はないと言ったからな」

「……どうして?」



 あたしの質問にロデリックは苦笑した。



「その辺りは、アレンから聞いたのではないかな?」

「あ」

「子供の想像力は侮れない。俺の存在など、知る必要がないと思った」

「そんな! 今までずっと守ってくれていたのに、知る必要がないなんて!」



 例え、一瞬誤解をするような事があっても。

 自分を守ってくれていた人を知る必要がないなんて、そんな事は思わない。



「ティアナの考え方は……エリーに似ている」

「お母さんに?」

「そう。見た目はエリーの母親似なんだがな」



 続いた言葉に目を瞬く。


 あたしが、お婆様似?


 初めて聞いた事だった。



「……ロデリックさんはお婆様を知っているの?」



 自分で言っておきながら、答えの見える質問。

 予想通りロデリックは「いや、直接お会いした事はない」と首を振った。



「以前、肖像画で見た事があるぐらいだ。あれは……エリーの父親とも一緒に描かれていたな」



 懐かしそうに目を細める様は、少し寂しさも含んでいるように見え。

 その気持ちに気付いてはいけないと思ったあたしは空を見上げ、思いを馳せる。



「お爺様とお婆様の肖像。あたしも見てみたいな」



 すると隣から、ポツリと呟きが聞こえる。

 その意味が分からず、聞き返そうとしたら「さあ、着いたぞ」と、ロデリックが足を止めた。

 気付けば自宅前だった。



「あ、あの。ロデリックさん……」

「明日、俺はついて行く事が出来ない。十分に気をつけて行くんだぞ」



 それだけを言い残し、ロデリックは身を翻す。

 慌てて後を追おうにも、すでに彼の姿は見えない。



「どういう意味だったの……?」



 呟くあたしの言葉に返答はなく。


『……上手く行けば、見られると思うぞ』


 その真意は、謎のままになってしまった。







お読みいただきましてありがとうございました!(*^_^*)

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