第538射:理解できること
理解できること
Side:タダノリ・タナカ
「あれがウエストスターズの首都か」
「ええ。あれが現在西側をまとめている中心である、ウエストスターズの首都である、アダムズです」
「「……」」
デシア将軍の説明に俺とジョシーは沈黙してしまう。
首都の威容にというわけではなく、その名前にだ。
なぜなら……。
「なあ、アダムスって……」
「そりゃ、間違いないだろ。2代目の名前からとっているんだろうさ。ここまでくると気のせいとかじゃないだろ」
「やっぱりか」
俺とジョシーの考えは共通しているようだ。
ウエストスターズの首都「アダムズ」まちがいなく地球のあの国を意識している。
ということは、別の意味で厄介でもある。
「我が国至上主義じゃないといいけどな」
「あそこはな~……」
珍しくジョシーが苦笑いをしながら虚空を見つめる。
俺もそれには同意しかない。
……自国に自信を持つというのは間違いではない。
それだけ自国を愛しているともいえる。
だが、その分我も強く、譲歩を引き出すのが難しい。
いや、強国なら当然というべきなんだが、その度が過ぎるというかなんというか。
全員が全員というつもりはないが、それでもというやつだ。
「とりあえず、まだあってもいないんだ。まともな性格であることを祈ろう」
「だな。デシア将軍たちの話を聞く限り、話を聞かないような感じはしないんだけどな」
ジョシーの言う通り、俺たちはウエストスターズの皇帝の話は聞いている。
何せ、俺たちが交渉をする相手だ。
何も知らないとかはありえない。
出来る限り事前に情報は集める。
とはいえ、現代でもないから、人となりはもちろん、写真もないので顔もわからない。
なんて不便な世界だよ。
まあ、そういう意味では防諜としては良いよな。
現代だと要人警護とか真面目に難しいからな。
なりふり構わない暗殺となると、ほぼ守ることは無理だからな。
なにせ武器がなんでもありになるからな。
最悪建物ごと、護衛ごと爆破っていうのもあるからな。
と、そこはいいとして、一応そのわからない中でも、皇帝と面識があるデシア将軍に話を聞いてみたってわけだ。
デシア将軍たちからしても、このまま無体に俺たちと戦い続けても無駄に戦死するしかないからな。
そういうこともあって、しっかり話してくれた。
「皇帝はジョンズねぇ」
「どこまでも似せているのか、案外本人?」
「そうだとなお面倒だ。別人だと信じたい。いや、それを名乗っているのなら、面倒だというのは間違いないが……」
「同郷、同じ星の出身ってことで、多少有利になるといいんだけどなぁ。逆もあるからな」
「だな」
これで「友よ!」って迎えてくれるならともかく、この世界において、同郷の人ほどライバルになりえるっていうのがな。
別に現地の人たちが敵になりえないってわけじゃないんだが、思考を読むとなるなら同じ地球人だろうしな。
なにより……。
「私たちは傭兵だからな。向こうが嫌うタイプだろうさ」
「金で動く兵士だからな」
必要ではある。
だが、信頼は出来ない。
それが傭兵という認識だ。
国を運営している側だと、顔をしかめるのは当然だよな。
「本日は此方でお待ちいただきますがよろしいか?」
と、そんなことを話していると、デシア将軍が振り返りそう聞いてくる。
建物を見れば立派な宿だとわかる場所だ。
「ええ、問題ありません」
「ゆっくりさせてもらいます」
「では、こちらに」
そう言ってデシア将軍について宿へと入る。
中は有名な老舗の高級宿といった感じだ。
現代のこの手の宿に泊まるとなると一体いくらかかることやら。
いや、この世界でも十分に高いだろう。
そんなことを考えているとデシア将軍がロビーのカウンターで受付を済ませ、こちらにやってくる。
一人のホテルマンを連れている。
「私はこれから王城に出向き、謁見の申請と報告をいたします。タナカ殿たちはこちらでお待ちください。こちらの進捗については毎日こちらのエシャロたちをやりますので。ホテルでの生活については此方のロイア支配人に聞いてください」
「デシア将軍のお客様ですね。このホテルの支配人であるロイアと申します。ホテルでの宿泊のお世話をさせていただきます。何かあればお呼びください。では、まずはお部屋のご案内をいたします」
「では、失礼いたします」
ということで、デシア将軍はそのままジョンズ皇帝へ帰還の報告と、俺たちとの話をするということで別れる。
ちなみに、ジョシーがいることから、ルアーサではなく、エシャロをこちらに残した。
まあ、護衛というより、案内役が主だな。
俺たちの方が強いし。
とはいえ、絶対じゃない。
俺たちの存在を疎んでいる連中もいるだろうしな。
「こちらがタナカ様、ジョシー様のお部屋となります」
案内された部屋スイートルームというやつだ。
使ったことは数えるほどしかない。
まあ、それだけデシア将軍の懐具合と顔の広さがあるんだろう。
それだけ簡単に借りられるものではないってことだ。
将軍を担っているだけはあるってことだな。
「では、隣の部屋で待機しておりますので、何かあればまずは私にご連絡ください」
そう言ってエシャロも部屋を出る。
どうやら隣に使用人というか、護衛用の部屋もあるそうだ。
まあ、それぐらいないと貴族とかの迎え入れは難しいか。
「ま、変な安宿よりはましだろ。布団に虫でもいるととんでもないからな」
「確かにな」
ジョシーの言葉に素直に同意する。
日本ではまずありえないが、外国では宿のベッドなどは衛生面から使えないということもある。
だが、ここはそういうことはなさそうだ。
ベッドのシーツをめくってみても虫などはおらず、清潔そのものだ。
「窓からの眺めもいい」
そう言ってジョシーが窓から外を見る。
本来はこういう見晴らしの良い窓っていうのは、狙撃を警戒しなければいけないのだが、この世界には銃が存在しない。
だから安心っていいたいんだが。
「あんまり油断するなよ。敵は銃のことを知っていた。相手の出身を考えると、十分狙撃もあるぞ?」
「だからだよ。狙撃するなら場所を選ぶ。というか、魔術とか言う手品もあるだろう? 狙撃できる位置を見ておかないとな」
確かにそうか。
狙撃するには場所がいる。
この場所を覗ける位置を見つけるには、この窓から探すのが一番に決まっている。
とはいえ……。
「確実に狙うなら、城からと教会ぐらいだな」
「まあ、視界に入るのはそれぐらいだな。あとは、グレネードの類を投げ込むぐらいか」
残念ながら、狙撃を成立させられるような建物は二つほどしかない。
まあ、こちらを狙撃できる位置はその二つの建物から色々ありそうだが、方向がわかっていればどうにでもなる。
「直線距離でどちらも約1キロ以上か。普通は当たらないね。それか余程ぼーっとしていなければ無理だね」
「狙撃銃ならな。とはいえ、そこまでまっすく飛ぶ狙撃銃が開発できるかって問題もあるがな」
簡単に狙撃というか、狙って撃つだけではない。
その時の気象状況、雨や風も影響してくる。
そして、自分の呼吸、手の震えなども安定させる必要がある。
余程でない限り、狙撃が当たることは無いし、元々それだけの距離の狙撃を成功させるための銃が必要になる。
全ての条件を整えて、当たる可能性が出てくるというレベルのモノだ。
「あとは、車に細工をされないかだが」
ジョシはそういって、乗ってきた車に視線を向ける。
車については、馬車駐車場に停めている。
町中はちゃんと馬車が通るための車道……いや、どう見ても自動車のための車線が確保されていて、自動車の代わりに馬車がそこを通っているし、横断歩道などもある。
つまりだ。
どこからどうみて、向こう側の人がいるというのは疑いようがないというわけだ。
「まったく、飽きないねぇ。いや、現代戦ができるか?」
「町中でのドンパチは避けたいから我慢しろよ」
好き好んで民間人を巻き込むことはしたくないからな。




