朝からお仕事頑張ってます
「よし!っと。これで『絶対にくっつかないフライパン』の完成〜!」
国立魔道具協会・第三作業場。
早朝の静かな室内で、大きくあくびをしながら、出来上がった金属製のフライパンをカゴに入れた。
んふふふふ。
思ったよりサクサクできる。
早朝は人がいないから人目がなくてサクサクいつもよりハイペースでやれる。
人目がある時は少し力抑えてるからなあ⋯⋯
私は満足げにカゴいっぱいのフライパンを見つめ微笑む。
私の名前はユーリ。
この魔道具協会で『付与士』として働いている、どこにでもいるフツーの女の子だ。
ボサボサで艶のない薄紫色の髪をテキトーにひとつ結びにし、顔の半分を覆うような分厚い『瓶底眼鏡』を鼻の上にのせている。
オシャレとかあまりわからなくて⋯⋯
やっぱおじいちゃんと二人暮らしも長かったし⋯⋯
ここだけの話⋯⋯
おじいちゃんは何着ても可愛いって言ってくれたし⋯⋯⋯
眼鏡は、魔法が何かの拍子に目に当たると危ないから魔法使う時はレンズの厚い大きいのをつけなさい!って過保護なおじいちゃんに言われてつけてたんだ。
私の大きな目が傷ついたら駄目だから!とか言われて⋯⋯
おじいちゃんは本当過保護⋯⋯。でも。大好きだけどね。
で、この眼鏡にも私の付与が実は付いてて、
曇防止に割れ防止に、度が入っていないので見えにくくならないような付与でしょ〜
あと、重いから軽くなるようにとか〜
あとなんだったか⋯⋯
あ。紫外線防止も付いてるわ⋯⋯
色々試してつけてみたんだ。
そしたら思いの外使いやすくて〜、日常的につけてるわけ。
魔法はね誰にでも使えるんじゃないの。
生まれた時に魔法を持っていれば魔法使い。
持ってなければただの人。
そんな感じで特に遺伝とか関係なく生まれてくる。
だから、魔法がある者の方が優位な感じな国だよねここは。
そのため魔法使いの家庭はお金持ちが多いの。
でもね、うちみたいに大してお金がないような家にも魔法使いが出たりすると、やっぱ格差は感じちゃうけどさ。
でも、魔法使いはお給料いいから。
将来は約束されてるようなもんだからね。
私もほどほどお給料はもらってます!むふふふふ。
他の遠い国なんかは魔法使いはほとんどいない国とかあるみたいで。
わが国は、3割くらいは魔法使いかなぁ?という割合。
全くいない国もあるって話。
魔法を持っているものは、それで、国の管轄の魔法学校へ通わないといけないんだ。
魔法の魔力の強さでクラス分けして、魔法の使い方とかを、色々学ぶ。
魔法学校時代の私の魔力測定結果は『上の下』。
目立たず、かといって落ちこぼれすぎない、実にちょうどいい塩梅である。
でも⋯⋯
まあ、じ、つ、は、本当は母さんの言いつけを守って、常に自身の魔力を『半分』に抑え込んでいるだけなんだけどね〜!
強すぎる魔力は危険なんだって。
まぁ⋯⋯実は、私は特に強すぎるので⋯⋯そうするように母さんから言われたんだ。
小さい頃、戦争に巻き込まれて⋯⋯住んでいた村が突然襲われて⋯⋯
私の目の前で私を庇って死んだ母さん⋯⋯
5歳の時だからあまり覚えていないんだけど。
その後におじいちゃんに引き取られて暮らしている。
その辺りの記憶はちょっとあやふや。
でもおじいちゃんは優しいし。
大好きだけどね。
母さんのことは⋯⋯色々秘密がある。
それが能力を半分に保つように言われた秘密に繋がる⋯⋯
でも、能力隠しは完璧。今は半分しかないのが普通になってる。
でも、全部出すことも出来るんだよ〜。
でも、母さんとの約束だから、私はずっと守るつもり。
「んんんん〜。一仕事終わり〜」
私は背伸びをした。
今、私はここで、日用品に色々な効果を付ける仕事をしている。
今やってたのは、フライパンにものがくっつかないようにする付与。
付与と言うのは、魔法の力を込めること。
私はそれを日用品に込めるわけ。
よく、フライパンで油すくなめにすると、底にくっつかない?
でもだからって油あまりつかいたくないよねぇ?
もったいないし。油高いし。
まぁ、カロリーとか?気にする人もいるかも⋯⋯?
そんなときにこのこびりつき防止の付与付フライパンよ!
くっつかないような魔法をフライパンに付与してるの。
なので、油なしでもくっつきません!
あとは今回こっそり、汚れがつきにくい付与も追加しちゃった!
そんな感じのものを他にも色々。
破れない靴下とか⋯⋯
焦げない鍋とか⋯⋯
曇らない眼鏡とか⋯⋯
日用品は色々。付与も色々あって簡単なものから難しいものまで。
あとは、自分でオリジナルの付与とかあるんだ。
私は結構レパートリー豊富。
でも、あまりたくさん色々出来すぎるのも⋯⋯出る釘は打たれちゃうから。
少しだけしか披露していないけどね。
「お〜い、ユーリ! 相変わらず朝が早いな!」
ガチャリとドアが開き、爽やかな笑顔で入ってきたのは同僚のカズだ。
背が高くて、サラサラの黒髪。目鼻立ちが整っているイケメンと呼ばれる男。
魔法学校からの付き合いで、顔も良くてモテるのに、なぜかいつも私みたいな地味女の面倒を見てくれる優しいやつである。
でもねー女にだらしがない。
「おはようカズ。今日も朝からイケメンだねぇ。あ!もしかして、彼女(複数)の家から朝帰りだったり?」
「からかうなよ。まぁな。それよりユーリ、また髪ボサボサだぞ? ほら、寝癖ついてる」
「あいたっ、引っ張らないでよ〜」
カズが苦笑いしながら私の頭をガシガシと撫で回す。
そんな私たちのやり取りを見て、次に部屋へ入ってきた人物が扇子をパタパタさせながら
「あらあら〜ちょっとカズ、朝からユーリをいじめて満足かしら? あんたのその軽〜いスキンシップ、うぶなユーリちゃんには刺激が強すぎるんじゃないの〜?」
「リキさん! いじめてないですよ! 朝の挨拶ですって!」
腰に手を当ててクスッと笑うのは、オネエ系の先輩・リキさんだ。
見た目は背が高くてバキバキのマッチョなのに、心はとっても乙女。
何かと私のことを妹みたいに可愛がってくれる、頼れる相談役⋯⋯お姉様である。
「あたしはねぇ、ユーリちゃんのその素朴な可愛さが大好きなのよ。ねぇユーリ、今度あたしがバッチリメイクとヘアアレンジしてあげましょうか? 瓶底眼鏡を取ったら、絶対に化けると思うのよね〜」
私にそう言ってウィンクするリキさん。
「えっ! い、いいですいいです! 私はこのメガネが落ち着くので!」
私は丁重にお断りする。
「あはは、リキさんやめてやってよ、ユーリ本気で嫌がってるし。眼鏡とっても変わんねーすよ」
カズが手を振りながらそう言った。
ん?ちょっと今小馬鹿にしてなかった?
失礼ね!
こう見えても⋯⋯母さんはとっても綺麗だった。
小さい頃の記憶だけどね⋯⋯
「さぁさぁ、仕事の時間の始まりよ。今日はなんだか仕事が多そうねぇ〜」
リキさんがそう言って仕事に取りかかる。
私は洗ってもシワくちゃにならない魔法の付与をハンカチに掛ける仕事にとりかかることにした。
「お?ユーリ、そのハンカチ、お高いブランドのだぞ!そういうのにも依頼が来るんだなぁ〜高けーんだよそれ。」
カズは包丁を持ちながら私を見る。
「ちょっとぉ〜包丁こわいよ。こっち向けないで!錆びない付与かな?それ、ちょっとゆるいよ?」
私がチラッと見てカズに伝えると
「お?おぉ。やり直すわー」
カズは丁寧に包丁を見つめた。
ハンカチの付与は最近多くなった。
やっぱり洗ってシワがつかないって楽だもんねぇ
さ!今日もお仕事頑張らなきゃ!




