第七章『義肢職人の終わり』
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## 第七章『義肢職人の終わり』
龍瀬恭平は認めた。
早すぎた。
それだけだった。
義肢そのものは人を救う。
だが社会はまだ、それを受け入れる段階にない。
戦争で利益を得る者。
権力で利益を得る者。
制度で利益を得る者。
彼らの数は多すぎた。
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ある日。
工房の看板が外された。
「欠けたもの、直します」
その文字も消える。
義肢工房は廃業した。
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誰も恭平を責めなかった。
元兵士たちは泣いた。
職人たちは止めた。
オゼルウドも反対した。
だが恭平は首を振った。
「義肢は必要だ」
「でも今の世界は、それ以上に別の修理が必要だ」
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その頃。
誰も知らない秘密があった。
恭平のスキルは公表されたものだけではない。
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隠しスキル
【スリ】
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本人も最初は使い道がないと思っていた。
財布を盗むための能力だと思っていた。
しかしある日、気付いた。
対象は金銭に限らない。
「所有権を持つもの」
ならば対象になる。
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戦争債権。
軍需契約。
補給権。
徴発権。
利権。
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恭平は剣も振らず、軍とも戦わない。
ただ静かに。
少しずつ。
奪う。
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気付かれない。
証拠も残らない。
気付いた時には所有者が変わっている。
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商会連合は混乱した。
「契約書は本物だ」
「署名も本物だ」
「印章も本物だ」
「だが所有者が違う」
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誰も説明できない。
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恭平は奪った戦争債権の一部を現金化する。
莫大な資金。
しかし贅沢はしない。
必要なのは金ではない。
立場だった。
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そしてある日。
封印していた道具を取り出す。
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【一回限りの変身札】
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本来は潜入用。
高位魔道具。
一度だけ別人になる。
二度と戻せない。
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恭平は迷った。
数日。
数週間。
考えた。
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義肢職人として生きるか。
国家を修理するか。
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そして選んだ。
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光が走る。
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気付いた時。
鏡の中にいたのは別人だった。
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空覚王国
第三王子
アレス・フォン・クウカク
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王族の顔。
王族の声。
王族の身体。
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そこから恭平は消えた。
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誰も知らない。
第三王子の中に別人がいることを。
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## 第八章『王子の仕事』
恭平は革命をしない。
それが失敗することを知っている。
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代わりにやることは単純だった。
少しずつ。
毎年。
少しだけ。
国家が得をする方向へ動かす。
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軍予算を5%削る。
その金で街道を直す。
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新兵募集を少し減らす。
その代わり退役兵雇用を増やす。
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戦争補償を増やす。
孤児院予算を増やす。
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誰も反対できない程度に。
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1年。
5年。
10年。
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気付く者は少なかった。
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「なぜか最近戦争が減った」
「なぜか商売がしやすい」
「なぜか退役兵が働ける」
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誰も理由を知らない。
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ただ一人。
オゼルウドだけは気付いていた。
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王宮の廊下。
第三王子とすれ違う。
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「……お前だろう」
小さな声。
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王子は微笑む。
「何のことですか」
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その笑い方。
その目。
その空気。
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かつて工房で工具を握っていた男と同じだった。
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オゼルウドはそれ以上聞かない。
聞けば国家が揺れる。
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ただ一言だけ言った。
「今度は何を修理している」
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第三王子は窓の外を見る。
王都が見える。
街が見える。
人々が見える。
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そして静かに答えた。
「義肢と同じですよ」
「壊れた部分を見つけて、少しずつ繋ぎ直しているだけです」
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こうして龍瀬恭平は歴史に名を残さなかった。
名君としても。
英雄としても。
革命家としても。
残らなかった。
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だが後の時代。
空覚王国はこう呼ばれる。
**「なぜか戦争が減り、なぜか豊かになった国」**
そして歴史家たちは首をひねり続ける。
その始まりが、一人の廃業した義肢職人だったことを知らないまま。




