表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

第七章『義肢職人の終わり』



---


## 第七章『義肢職人の終わり』


龍瀬恭平は認めた。


早すぎた。


それだけだった。


義肢そのものは人を救う。


だが社会はまだ、それを受け入れる段階にない。


戦争で利益を得る者。


権力で利益を得る者。


制度で利益を得る者。


彼らの数は多すぎた。


---


ある日。


工房の看板が外された。


「欠けたもの、直します」


その文字も消える。


義肢工房は廃業した。


---


誰も恭平を責めなかった。


元兵士たちは泣いた。


職人たちは止めた。


オゼルウドも反対した。


だが恭平は首を振った。


「義肢は必要だ」


「でも今の世界は、それ以上に別の修理が必要だ」


---


その頃。


誰も知らない秘密があった。


恭平のスキルは公表されたものだけではない。


---


隠しスキル


【スリ】


---


本人も最初は使い道がないと思っていた。


財布を盗むための能力だと思っていた。


しかしある日、気付いた。


対象は金銭に限らない。


「所有権を持つもの」


ならば対象になる。


---


戦争債権。


軍需契約。


補給権。


徴発権。


利権。


---


恭平は剣も振らず、軍とも戦わない。


ただ静かに。


少しずつ。


奪う。


---


気付かれない。


証拠も残らない。


気付いた時には所有者が変わっている。


---


商会連合は混乱した。


「契約書は本物だ」


「署名も本物だ」


「印章も本物だ」


「だが所有者が違う」


---


誰も説明できない。


---


恭平は奪った戦争債権の一部を現金化する。


莫大な資金。


しかし贅沢はしない。


必要なのは金ではない。


立場だった。


---


そしてある日。


封印していた道具を取り出す。


---


【一回限りの変身札】


---


本来は潜入用。


高位魔道具。


一度だけ別人になる。


二度と戻せない。


---


恭平は迷った。


数日。


数週間。


考えた。


---


義肢職人として生きるか。


国家を修理するか。


---


そして選んだ。


---


光が走る。


---


気付いた時。


鏡の中にいたのは別人だった。


---


空覚王国


第三王子


アレス・フォン・クウカク


---


王族の顔。


王族の声。


王族の身体。


---


そこから恭平は消えた。


---


誰も知らない。


第三王子の中に別人がいることを。


---


## 第八章『王子の仕事』


恭平は革命をしない。


それが失敗することを知っている。


---


代わりにやることは単純だった。


少しずつ。


毎年。


少しだけ。


国家が得をする方向へ動かす。


---


軍予算を5%削る。


その金で街道を直す。


---


新兵募集を少し減らす。


その代わり退役兵雇用を増やす。


---


戦争補償を増やす。


孤児院予算を増やす。


---


誰も反対できない程度に。


---


1年。


5年。


10年。


---


気付く者は少なかった。


---


「なぜか最近戦争が減った」


「なぜか商売がしやすい」


「なぜか退役兵が働ける」


---


誰も理由を知らない。


---


ただ一人。


オゼルウドだけは気付いていた。


---


王宮の廊下。


第三王子とすれ違う。


---


「……お前だろう」


小さな声。


---


王子は微笑む。


「何のことですか」


---


その笑い方。


その目。


その空気。


---


かつて工房で工具を握っていた男と同じだった。


---


オゼルウドはそれ以上聞かない。


聞けば国家が揺れる。


---


ただ一言だけ言った。


「今度は何を修理している」


---


第三王子は窓の外を見る。


王都が見える。


街が見える。


人々が見える。


---


そして静かに答えた。


「義肢と同じですよ」


「壊れた部分を見つけて、少しずつ繋ぎ直しているだけです」


---


こうして龍瀬恭平は歴史に名を残さなかった。


名君としても。


英雄としても。


革命家としても。


残らなかった。


---


だが後の時代。


空覚王国はこう呼ばれる。


**「なぜか戦争が減り、なぜか豊かになった国」**


そして歴史家たちは首をひねり続ける。


その始まりが、一人の廃業した義肢職人だったことを知らないまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ