第二章『名を持つ者たちの影』
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## 第二章『名を持つ者たちの影』
恭平は、少し変わったやり方で人脈を作っていた。
普通の職人は商会や貴族の紹介状を頼る。
だが彼は逆だった。
「有名人ほど、普段は普通に歩いている」
そう考えていた。
だから工房の外に出るとき、彼は人を“観察”する。
鎧を着ていない騎士。
護衛を連れていない商人。
装飾のない貴族。
そういう「肩書きを脱いだ人間」にだけ、声をかけた。
そして実際に、何度も当たった。
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その中の一人が、騎士団中隊長オゼルウドだった。
40歳の男。
戦場では鬼と呼ばれ、平時ではやけに静かな目をしている。
ある日、恭平は市場の裏通りで彼に声をかけた。
「あなた、騎士団の人間ですよね」
オゼルウドは振り返りもせずに言った。
「……だったら何だ」
「義肢のことを知ってほしい」
「営業か?」
「違います。戦争の後の話です」
その言葉で、オゼルウドは足を止めた。
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それがきっかけだった。
数日後、彼は工房に現れる。
鎧も外し、ただの布服で。
「名前を出すな。外では俺は“ただの客”だ」
それが最初の条件だった。
そしてもう一つ。
「俺の名前は使っていい。ただし、“勝手に正義の看板にするな”」
恭平は頷いた。
「十分です」
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そこから、奇妙な関係が始まった。
オゼルウドは時々工房に来て、壊れた義肢の兵士を黙って見て帰る。
何も言わない日もある。
ただ立っているだけの日もある。
だがその存在は大きかった。
騎士団中隊長が“そこにいる”という事実だけで、工房は守られていた。
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しかし、変化は必ず起きる。
ある日、王都・西川の商会会議で議題が上がった。
「義肢の価格破壊について」
「無許可工房の存在について」
「戦後再生市場の秩序崩壊について」
そして、最後に一つの言葉が出る。
――「あの男を止めるべきでは?」
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その夜。
オゼルウドが工房に来た。
いつもより表情が硬い。
「お前、目をつけられた」
「商会ですか」
「いや」
少し間を置いてから、彼は言った。
「“戦争を作っている側”だ」
恭平の手が止まる。
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戦争を作る側。
それは単純な軍ではない。
武器商会、魔法鉱石の採掘ギルド、傭兵派遣連合、そして王国の一部上層。
彼らは戦争そのものを商品として扱っている。
勝敗ではなく、“継続”が利益になる構造。
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オゼルウドは続ける。
「お前のやってることは、戦争の後処理じゃない」
「違いますか?」
「違わない。だが――“戦争の回転率”を下げている」
恭平は初めて気づく。
義肢は人を救うだけではない。
戦場の“補充サイクル”を壊す。
兵士は戻れる。
戦力は回復する。
消耗品ではなくなる。
つまり――
戦争の利益が減る。
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オゼルウドは低く言った。
「近いうちに圧が来る。直接ではない。制度で潰しにくる」
「許可制、資格制、税制、衛生基準……全部使う」
「“正しい理由”でお前を潰す」
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恭平は少しだけ笑った。
「つまり、戦争ですね」
オゼルウドは否定しない。
「そうだ」
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雨が強くなる。
工房の屋根を叩く音が、まるで遠い砲声のように響く。
恭平は工具を握る。
そして静かに言う。
「なら、やることは変わらないですね」
「義肢を作るだけです」
オゼルウドは少しだけ目を細めた。
「……お前は、本当に危ない職人だな」
「壊れたものを直してるだけですよ」
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その瞬間、二人とも理解していた。
これはもう「職人と騎士の話」ではない。
戦争を“続けたい側”と
戦争の“終わりを作る側”の衝突だ。
そしてその最前線にいるのは、剣でも軍でもなく――
一人の義肢職人だった。




