『義肢職人は憎しみを縫い直す』
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## 『義肢職人は憎しみを縫い直す』
空覚王国は、魔法が存在する世界だった。
ただし、それは奇跡ではない。
燃えるような才能でもない。
魔法とは「高価な技術」だ。
才能ではなく、資金と環境が支配する工業体系。
王都・西川では、貴族と商会だけが魔法工房を持ち、戦争は常に“資本の規模”で決まった。
その結果として生まれたものがある。
――戦争の後に残る、欠損した身体だ。
腕のない兵士。
脚を失った傭兵。
顔の半分を焼かれた元騎士。
彼らは勝者にも敗者にもなれず、ただ「残り物」として街の外縁に積み上がっていった。
そこに現れた男がいる。
龍瀬恭平。
スキルは三つ。
部品生成。
道具生成。
そして剣術と護身術。
本来なら戦場に立つべき能力構成だ。
だが彼は剣を売らず、鎧も作らない。
代わりに作るのは――義肢だった。
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西川の外れ、雨が絶えない地区。
錆びた屋根の下に、小さな工房がある。
看板にはただ一言。
「欠けたもの、直します」
恭平はそこで、木と金属と魔法鉱石の端材を組み合わせて、義肢を作っていた。
魔法義肢は確かに存在する。
だがそれは貴族の嗜好品だ。戦場帰りの兵士が買えるものではない。
だから彼は、あえて“安い義肢”を作る。
部品生成スキルで最低限の機構を生み、
道具生成で精密な関節を補い、
剣術で「人体がどう動くか」を設計する。
彼の義肢は、完璧ではない。
だが――動く。
そして、使い手の人生を再起動させる程度には、十分だった。
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ある日、工房に一人の男が来る。
左腕を失った元兵士。
顔にはまだ戦争の焦げ跡が残っている。
「……これを付けても、俺は戻れるのか?」
恭平は少しだけ間を置いて答えた。
「戦場には戻れないかもしれない。だが、“お前の人生”には戻れる」
男は笑わなかった。
だが、帰らなかった。
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義肢が完成するまでの三日間、男は工房に通った。
その間、恭平は一切“戦争の話”を聞かなかった。
代わりに聞いたのは、手の使い方だった。
何を握っていたか。
どの角度で剣を振ったか。
どの瞬間に失ったか。
それだけで十分だった。
恭平にとって義肢とは、戦争の続きではない。
「日常をもう一度つなぐ作業」だった。
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完成した義肢は、黒鉄と木材の混合構造だった。
魔法刻印は最低限。
それでも指は動き、握力はある。
男はゆっくりと義手を握る。
「……痛くない」
その言葉は、少しだけ震えていた。
恭平は言う。
「痛みは消えない。だが、使う場所を変えることはできる」
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その夜、工房の外で小さな騒ぎが起きる。
戦争帰りの傭兵たちだ。
「義肢を安く配っている男がいるらしいな」
「それは秩序を乱す行為だ」
彼らの背後には、義肢市場を支配する商会の影があった。
恭平は工房の扉を閉めない。
代わりに、工具を置き、剣を手に取る。
彼のスキルには剣術がある。
だがそれは人を殺すためではない。
“距離を測るための技術”だ。
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「俺は誰も殺さない」
そう言って、恭平は一歩だけ前に出た。
「その代わり――壊れたまま放置することも、許さない」
雨が降り始める。
それはまるで、この街そのものが、少しだけ息を整えたようだった。




