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はじまりの前

 草木生い茂る草原を、1人の少年が歩いていた。視線の先には小さな村があり、そこを目指してきたようだ。


「アレが目的地の村か。思ったより早く着いたな」


 そよ風を頬に感じながら歩みを進める。しかし、村の全容が見えてくるにつれ様子がおかしいことに気付きはじめる。


「……なんだ?あれは……燃えてるのか?」


 村からはある程度距離のある丘で一度立ち止まり、様子を見る。どうやら複数箇所で同時多発的に火事が起きているらしく、村人達は逃げ惑う者や消化活動をしようと奔走する者など様々だった。


「火事……にしては全体的に延焼し過ぎだな。だとしたら考えられるのは放火魔か……」

 

 少年の目つきが変わった。


「魔女の仕業だ」


 少年は村に向かって走り出す。途中で村から飛び出してきた男性がすれ違いざま話しかけてきた。


「おい、危ねぇぞ!今魔女が襲ってきててよ、村中に火つけられてんだ!」

「……やっぱり、魔女か!」

「お、おい!?村ん中には行くなって___」


 村人の制止も聞かずに少年は村に飛び込んでいく。まだ村人の避難も完了していないということは間違いなくこの騒動の元凶はここにいる。


「ま、待って、お願い、話を聞いて……!」


 途中奥の方から助けを求めているような女性の声が聞こえてきた。少年は迷いなくその方向へ向かう。村の奥側の方にあった広場にその声の主と思しき女性と、対面するような形で宙に浮かんでいる女性がいた。


「話を聞くもクソもあるもんか、お前はここで死ぬんだよ」

「そ、そんな……ちょっと、待ってってば」

「じゃあな、よわ〜いよわい…………さん」


 最後の言葉は良く聞き取れなかったが、状況的にへたり込んでいる女性が襲われていて宙に浮かんでいる方が魔女で間違い無いだろう。そう判断した少年は浮かんでいる方が今まさに手を下そうとした瞬間に2人の間に入って火球を止めた。


「……火球を出したってことは、やっぱりお前がこの騒動を起こした魔女で間違いないな」

「あ?なんだお前は……人間?」

「そうだよ、お前のような魔女が大っ嫌いな人間だ」

「……ああ、“魔女狩り”の連中か」

「……何?魔女狩り……?」


 魔女は合点がいったように口に出した言葉だが、少年は首を傾げた。


「……なんだ、違うのか?まどっちでもいいが。邪魔するなら殺すし、死にたくないなら今すぐ消えろ。私はそこの女に用があるだけだ」

「……この人に?ちょっと待て。じゃあなんで村が燃えてる?何の為に……?」

「そんなことどうでもいいだろう?ソイツがこの村にいるって聞いたから探しやすいように燃やしただけだ」


 なんでもない、当たり前のことのように魔女は答える。少年はただ、「そうか」と一言呟いて構えをとった。


「なら、尚更お前の邪魔をする。この人は殺させないし、もうお前が何処か他の村を燃やすことも無い。お前は僕が探している魔女じゃない。けどここで殺す」

「はん、そうかい。やってみろ……魔女狩り連中でもないただの人間が」


 魔女が応じると同時に、少年は左手に小さな氷の塊を出現させた。そして右手でその氷を掴み、まるで鞘から引き抜くようにスライドさせると少年の右手には氷でできた剣が握られていた。


「へぇ……ただの人間じゃないってかい。その程度の氷魔法、一瞬で溶かせるが」

「やってみたら?お前からは大した魔力も感じ取れない。どうせ名前もない、低級の魔女でしょ」

「言いやがったな、テメェ!」


 少年の挑発に乗った魔女が即座に火球を作りだし少年に向けて放つ。真っ直ぐに飛んでいった火球は少年に直撃し、煙を上げる。


「フン、言わんこっちゃない。所詮口だけのガキさね……さて、あの女は……チッ……隠れたか」


 終わったと確信した魔女が背を向けた時、突然背後から氷の刃が胸を貫いた。魔女は何が起こったのかわからないといった表情のまま刃を引き抜かれ、血を吹き出し地面に落ちた。どうやら体を浮かせておく為の魔力すら保っていられる余裕が無いらしい。


「あ、がっ……な……ぜ」

「何故も何も……あの程度の炎魔法普通に土魔法でガードしたけど……何でこっちに背向けてんの?こっちが何故って聞きたいよ」

「な……に?複数の……元素を……?馬鹿……な……」

「……?」


 少年が首を傾げている間に魔女は完全に力尽きたようだ。見届けて安心したのか隠れていた女性が物陰からひょっこり顔を出した。


「お……終わったの……?キミ、強いんだね……」

「あ、無事だったんだね。よかった」

「うん……すぐに隠れたから。助けてくれてありがとう」

「別に……僕は探してる魔女がいるんだ。そいつかどうか確かめに来ただけ」

「……その……探してる魔女って?」

「さぁ……何の魔女なのかは知らない。姿形はハッキリ覚えてるから、魔女が居るって噂を手当たり次第当たっていこうと思って」


 少年は氷の刃を消し、次は小さな水玉をいくつか作り出して出火している家屋の火消し作業を始めた。その光景を女性は不思議そうにまじまじと見つめている。


「あの……何か?」

「さっきの戦いの時もそうだったけど……キミ、どうやって複数の元素を操ってるの?」

「それ……さっきの魔女も言ってたけど、どういうこと?最初に一通り基礎を習うものじゃないの?」

「えっと……習いはするけれど、基本的に皆得意な魔法の元素を見つけて一つの元素を究めるものなの。でもキミは……見たところどの元素も満遍なく使いこなしている。これは異常なこと……」


(……なのだけれど)


 少年はキョトンとした顔をしている。本当にそんなことは知らないようだ。


「まぁよく分からないけど……それを聞いたおかげでさっきの魔女が僕にあっさり背中を向けた理由も何となく分かったよ」

「……そうね。炎を操る以上、相手が氷魔法を見せてきたなら普通は有利だと判断するでしょう。実際有利よ」

「そうなんだね。僕に魔法を教えてくれた人も当たり前のように色んな魔法を使っていたし……これが特別なことだなんて思ったことも無いし」


 火を消し終えた少年は村人達が避難していた村の外に向かおうとした。


「あ……ちょっと待って!」

「まだ何か?」

「キミ……名前は?」

「ああ、そういえば名乗ってもいなかった。僕はケイだよ」

「ケイ……改めて、さっきはありがとう。私はヒース」

「そう……じゃ僕は村人さん達に魔女はもういないよって伝えてくるから」

「ええ」


 ケイが外で様子を見ていた村人達に声をかけに行くと人々は皆感謝を述べ、せめてものもてなしをさせてくれとケイに提案した。ケイは今後の予定があるわけでもなかったので提案を受け入れた。


「それじゃあ村を守ってくれた英雄に!」

「「「かんぱーーーい!」」」


 その夜は村人総出で感謝を込めた会を開いてくれた。乾杯の号令をしてくれたのはケイが村に飛び込む前にすれ違った男性で、この村の村長の息子とのことだった。


「あの……『英雄』っていうの、やめてくれないかな。僕は僕の目的の為にここにたまたま来ただけで……」

「おうおう、んで……“たまたま来ただけの“村の人間の為に魔女と戦ってくれたんだろ?」

「…………」

「ははっわりぃわりぃ……意地悪な言い方しちまったな、兄ちゃん。でもよ、たまたまだったとしても俺達は本当に感謝してるんだぜ……先生から聞いた話じゃアンタにとっては楽勝!って感じだったらしいが」

「……先生?」

「兄ちゃんが助けてくれた人さ。ヒース先生だよ。あの人はこの村の出身じゃないがここで子供たちに魔法の授業をしてくれてるんだ」

「魔法の授業……」


 ケイは先程のヒースとの会話を思い出す。言われてみれば魔法に詳しいような口ぶりだった。


「そういえば魔法に関して何か色々言ってたな……後で話を聞いてみようか……」

「うんうん、何を聞きたいのかな?」


 気付けばヒースが隣に座っていた。


「……驚いた。さっきも気付けば物陰に隠れてたけど……気配を消すのが得意なのか?」

「んん〜……どうでしょう?言われてみれば子供の頃からかくれんぼは得意だったかもね。で、キミほど魔法に長けている人もなかなか見ないけど……そんなキミが片田舎の魔法の先生程度と何の話がしたいのかな?」

「魔法は基本ひとりひと元素しか使えないって話」

「ああ〜その話のことだったのね。それはねぇ……正確にいうと別に使おうと思えば使えるのよ、いくらでも。ただ……そうねぇ、一生を費やしたところで全元素の習得状態が今のキミにすら追いつけるかどうか……」

「……そうなのか。……僕は先生に恵まれたんだな」

「いいえ、それはまた違うわ。例えいくら先生の指導が良くて近道を歩めたとしても、キミのようには決していかない。キミの先生がどれだけ凄い人だったのかは分からないけれど、同じ指導を受けたとしても誰もができるようになるわけではないの」


 ケイは自分の両手を見ながらぐっぱっと何回か握って開いてと繰り返す。


「どうしたの?」

「……いや、別に」

「そういえば……キミ、この後行くあてはあるの?探してる魔女がいるんでしょう?」

「行くあては特にないよ、とにかく魔女がいるって噂があればそこに行くだけ。今回もそうだったし」

「……もしかして今回初めて魔女に会った?」

「うん、師匠以外だと初めて」


 ヒースはそれを聞いて一つ納得したことがあった。ケイの先程の魔女に対しての発言……「大した魔力も感じ取れない」というもの。魔法を教えている以上、ヒースだって魔法自体は扱える。それでもあの魔女に立ち向かわなかった理由は単純で、明らかに自らの方が劣っていたからだ。


「キミにとってはなんてことない相手だったのかもしれないけど……少なくとも一般的な範疇で考えた時にあの魔女の実力は決して低くはないの。そもそも魔女と呼ばれるまでにかなりの鍛錬を積む必要があるからね」

「そうだったんだ……失礼なことを言ってしまってたかな」

「そ、そこは素直なのね……というか反省するところそこなのね……もうキミが殺してしまったわけだけど……」

「そうだった」


 子供たちに魔法を教えている関係上ヒースは色んな子供を見てきたが、ケイのような子を見たのは初めてだった。浮世離れしているような、達観しているような……しかし節々に子供らしさも感じる。


「そういえばキミ……いくつなの?見た感じまだ若そうだけど……」

「11」


(やっぱりまだ子供……大人びて見えるのは師匠さんの影響なのかな)


「まぁとりあえずは魔女がいる場所の情報を集めつつ、訪ねて回るつもりかな」

「え?ああ……そうなのね」


 ケイが少々強引に次に向かう場所に関しての話題に話を戻す。


「ねぇ……もし、よかったらなんだけどさ」

「……何?」

「私の今教えてる子どもたちと一緒に、少しだけでいいからお勉強していかない?」

「勉強?魔法の?」

「魔法のことは正直キミに私が教えられるようなことはないと思うけど……キミはどうやら少々、この世界の常識や基準……そういうものに疎いように見えるからさ。基礎的なことは知ってから色んなとこを回った方がいいんじゃないかって、先生としては思うんだ」


 ヒースは笑顔のまま続ける。


「私は魔法の先生でもあるけど……普通の学校の先生のように色々なことを教えているから、その辺は力になれるよ。どうかな」


 ケイは少し考えて、頷いた。


「言われてみれば、僕は物心ついた時からずっと師匠と一緒で……あまり外のことを知らなかった。僕に教えて、ヒース先生。この世界のこと」

「……うん、それじゃあ明日からよろしくね!」


 ずっと師匠と共に時を過ごし、幼少期を過ごした土地の外のことはあまり知らないというケイの世界はこの時少しだけ広がった。これからヒースのもとで少しずつ、この世界のことを知っていくだろう。まだ世界を知らない少年の魔女を訪ねる物語は、始まったばかりだ。

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