天使は今日も大忙しっ!
さて、南の島での撮影も無事に終わり、恋菜たちはいつものルーチンワークに戻った。
だが、恋菜は慣れない雲の管理に忙殺されている。しかし役目を恋菜に引き渡したコロンディーナは暇になったのか、何かと言っては恋菜のところに遊びに来ていた。
「そう言えば恋菜ちゃん。10月4日って『天使の日』だって知ってた?」
「知りません。」
「そう?なら小説に『天使は今日も忙しい』とか『天使はいつも忙しい』っていうタイトルの作品があるのは知ってる?」
「知りません。」
「西洋絵画の天使ってなんでいつもフルチンなのかしらね?」
「知りません。」
「そう言えばオリンポスの神様たちって不老不死の霊薬との噂もある神酒『ネクター』を飲むって言われているけど、どんな味なのかしら?」
「ネクターは桃のピューレを使った不二家の果肉飲料です。だから桃の味です。おちゃけではありません。」
「むーっ、恋菜ちゃん、もしかして今機嫌が悪いの?」
「悪いわーっ!見て判らんのかぁっ!なんでここの天使たちは全員揃って社員旅行に行くんじゃ~っ!と言うか、行くなら私も連れて行けぇ~っ!」
「えーっ、だって恋菜ちゃんは旅行の積み立てしてないじゃん。天使ちゃんたちは今回の旅行の為に毎月1万ギールを積み立てたのよ?でも、恋菜ちゃんのお財布事情を考えると一辺には払えないでしょ?」
「年間で12万ギール・・、だからあんなに豪華な旅行プランだったのか・・。と言うか全員で行くなぁっ!残された私が全部の仕事をやらなきゃならなくなっただろうがぁっ!」
「あーっ、それは私も常々思っていたわ。でも社員の福利厚生は大事だから仕方ないのよね。」
「年中無休の仕事なのにそれでいいのか?なんか間違ってない?」
「まぁ、この時期は太平洋高気圧が張り出してきて晴天が続くから雲の管理としては結構閑散期なのよ。だから天使ちゃんたちはこの時期に社員旅行の日程を組むの。」
「そうなんだ・・、どうりで毎年この時期にダムの貯水量が減っていたのね。」
「恋菜ちゃんががんばれば、無理やり雨は降らせる事は出来るけど、無理やりだから加減が難しいわよ~。私も何回か失敗しちゃった。てへ!」
「てへ、じゃねぇっ!あの大洪水やゲリラ豪雨はあんたの仕業かっ!」
「全部じゃないわよ、半分くらいよ。後の半分は自然現象です。」
「半分も失敗していて開き直るなっ!」
「いや~ん、恋菜ちゃんが働き過ぎでコロンディーナに八つ当たりして来るぅ~。でも安心して。そうゆう時はおちゃけを飲めば全て解決っ!と言う事で、疲労回復効果抜群・・かも知れない神酒『ネクター』を密造しましょうっ!」
「密造って言うなっ!いや、神話上のネクターって作り方は失われてしまって提供できないって前に言ってなかったっけ?」
「そうなんだけど、中国の始皇帝の陵墓から、それらしい文献が発見されたのよ。なので試してみましょう。」
「何故にギリシャの神話に出てくるおちゃけの作り方が古代中国の墓から発見されるのよっ!」
「ん~っ、多分シルクロード経由で伝わったんじゃないの?もしくはアレクサンドロス大王の東方遠征の時かも。」
「大王の東方遠征ってペルシャ、今のイラン辺りに向かったんでしょ?中国とは方向が違うじゃん。」
「いや、だからもしかしたらって話よ。」
「眉唾モノかよっ!」
「大抵の神話なんてそんなものよ。そもそも人々がまだ地球が丸い事すら知らない時代に生まれた物語だもの。」
「なら、神酒『ネクター』も同じじゃんっ!ただの願望じゃんっ!」
「うん、だからこうゆうのは作った者勝ちなの。でも更にそこに文献が加わると権威と格付けになるのよ。」
「その文献どおりに作って出来上がったのが老酒 (ラオチュウ)だったら笑える。」
「もしくは単なるビンテージモノのワインかもね。」
「単なるビンテージなら別に神酒『ネクター』でなくても『山崎50年』や『ベンネヴィス38年』で十分じゃん。」
「もうっ、恋菜ちゃんたら夢がないんだからっ!」
「密造酒を作ろうとしているやつが夢を語るなっ!」
「ここは日本国の領空ではあるけど、私たちは日本の国籍を持っていないから問題なしっ!」
「こいつ、外国人犯罪者みたいな理論を持ち出してきたよ・・。でもまぁいいわ、で、その文献にはなんて書いてあったの?」
「えーと、まずは国産の桃をお湯で過熱し、柔らかくなったら皮を剥いて裏ごします。この裏ごししたものをピューレと言いますが、それに砂糖と酸味料と香料とビタミン剤を追加しミキサーにかけて冷蔵庫で冷やせば出来上がりっ!お好みによって水で割ってねっ!とあるわ。」
「何故に、始皇帝の時代の文献にミキサーや冷蔵庫という言葉が出てくるんじゃいっ!」
「現代語訳だからじゃないの?ほら、今と昔では同じモノを指していても言葉が違うじゃない。例えば昔は『プータロー』って言ってたけど、今は『ニート』って言うでしょ?」
「あーっ、『アベック』も死語で今は『カップル』って言うよね。後は『成人病』は『生活習慣病』って言うようになったらしいわ。」
「『スッチー』も、今は『キャビンアテンダント』だしね。」
「『日射病』を『熱中症』と言うようになったのは結構前よねぇ。」
「『ジーンズ』も今は『デニム』って言うみたい。」
「マジか。そう言えば『ステーキ』の事を昔は『ビフテキ』って言ってたらしい。」
「ねっ、判る人には判るんだけど、それを知らない人には古語ってのはちんぷんかんぷんなのよ。」
「なる程、ならばミキサーや冷蔵庫という言葉も、始皇帝の時代には別の言葉ではあるが存在して・・いたのか?」
「あったんじゃない?まぁ、形や原理は違ったのかも知れないけど。ほら、昔話でおばあさんが川に洗濯に行ってゴシゴシする洗濯板は、強弁すれば手動の洗濯機と言えなくもないじゃない。」
「なる程、つまりミキサーとは包丁と泡立て棒のことなのね。そして冷蔵庫は水の入った桶か、もしくは氷室。」
「と、いう事で、私たちがお喋りしている間にポチに作らせたネクターがこちらですっ!」
「あいつ、裏で何かごそごそやっていると思ったらネクターを作っていたのか・・。宮仕えは大変だなぁ。」
「何か言った?」
「いえ、なにも。どれ、それでは早速死因しましょうっ!」
「恋菜、漢字が違うわ。この場合は試飲よ。」
「うん、判ってる。ただ修正するのが面倒だっただけ。おっ、結構いけるじゃんっ!でもこれ、おちゃけじゃないよ、ジュースだよ・・。」
「そうねぇ、確かにアルコール分『0』の飲み物をおちゃけと呼ぶのは躊躇われるわね。ならばジンで割ってみましょうか。」
「そうね、これだけ甘いとウイスキーとかでは合わないし。でも甘いカクテルとしてならお酒が苦手な女性でもいけるかな。」
「ならばウオッカとラムとテキーラも試しましょう。」
カラカラ、カラン。
「はい、どうぞ。」
こきゅこきゅ、ぐいっ!
「うんうん、ベースを変えると味も雰囲気も変わるね。よ~し、さっきはちょっとボロクソに言っちゃったからお詫びに天使ちゃんたちの分も作っておいて上げよう。えーと、確か複製コマンドは・・、あっこれか、xcopy ネクター+ジン,ウオッカ,ラム,テキーラ 比率1:3 倍率:1千っ!リターンっ!」
「ちょっ、恋菜っ!1千倍ってなによっ!多過ぎるわよっ!」
「えっ、でも天使ちゃんたちってそれくらいいるでしょ?」
「確かにそれくらいいるけど、私が言っているのは複製元の量よっ!元々ネクターは贈答用も含めて1万リットルくらい作ってあるのよ?そのコマンドだと総量では1億6千万リットルになっちゃうっ!」
「へっ?1億6千万リットルってどれくらい?」
「500mlペットボトルで3億2千万本分よっ!因みに2025年の日本で飲酒が許される20歳以上の人口は凡そ1億人だからひとり当たり1.6リットル分よっ!」
「なんだ、そんなもんか。私だったら10日で飲みきっちゃうわ。」
「お前と一緒にすんなっ!」
「と言うか今の日本って19歳以下が1千958万人しかいないのか。確かに子供を見かけなくなったもんなぁ。」
「話をはぐらかさないのっ!どうするのよこのカクテルにしちゃったおちゃけっ!」
「えーと、日頃一生懸命に働いている20歳以上の勤労者の方々に神からの祝福として天から降らせたいと思います。」
「甘露かよっ!でもまぁ、甘いカクテルだから合ってはいるのか。うん、ならいいかな。」
どうやらコロンディーナも面倒くさくなったらしい。なので手っ取り早く証拠を隠滅しようと降雨装置をフル回転させて日本中に神酒ネクターのカクテルを降り注いだのだった。
で、さすがは神酒と言われるだけあってネクターのカクテルは、それを口にした者たちを皆陽気にさせた。なのでそれまでギスギスしていた世間の雰囲気もたちまちお気楽ハッピーモードとなり、人々は陽気に踊りだして人生を満喫し始めた。
あっそれ!踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損そんっ!by阿波踊り囃子言葉
これ以外にも各地で笛や太鼓のお囃子が鳴り響き、子供から老人までもが踊りだす。
ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないかっ!
いや、『ええじゃないか』は天から神札が降ってきたという前提の怪異を良いことが起きる前兆と捉えて人々が男女入り乱れて踊り狂った現象だからお祭りではないのだが・・、まぁいいか。
どのみち酔いが醒めればみんな正気に戻るだろう。
えっ、ネクターはまだ1割も消費していない?むーっ、よし!ならば全世界に降らせてしまえっ!そしてみんなで踊ろろうっ!
おらっ!サンバのリズムでウラウラだぁ~っ!
因みにおちゃけは20歳になってからっ!でも20歳になったからと言って無理に飲まなくていいんだからねっ!
特に一気飲みは危険ですからやめましょうっ!
雑文ラノベ「転生したら天空が仕事場でした~だからと言っても別に雲になった訳ではありません~」
-完-




