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ダンジョン仕草  作者: 埴輪庭


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第61話:探索者たち⓵

 最後の突撃になるだろう、とレダは思った。


 そう思った途端、迷いは身心から消え失せる。残っている法力のすべてを右の拳へ流し込む。これまでのように脚に割いて駆けることはしない。一歩で跳び、あの顔の高さまで一息に届き、額に嵌まった第三の眼を打ち砕く。ただそれだけを考えた。考えることを一つに絞ると、心は不思議なほど静かになるものだ。


 床を踏み抜いた次の瞬間、レダの体は宙にあった。群がる蛇の壁も、砲弾のように虚空を突っ切るレダの身に触れた途端にパチンと弾け飛ぶ。


 緑褐色の巨体がみるみる迫る。


 三つの眼がレダを捉えると、六本指の両手が胸の前で交差された。レダが満身に充溢させる絶殺の気配を決して軽んじてはいない証左だ。万全の体勢で受け止める気なのだ。


 ──初撃で守りを崩し、次撃で奴の核を破砕する。


 レダの目論見は、中途までは完璧に履行された。


 極度に圧縮された法力を宿した聖拳は音を置き去りにし、轟音と共にジャーヒルの双腕を爆散させ、()()()から伝播する衝撃がこの恐るべき大魔の筋繊維と神経回路をズタズタに寸断した。


 堪らず膝を突いたジャーヒルにレダは──。


  ◆


 ぎりり、と。


 レダは膂力でも法力でもない何かを強く握り込んだ。


 それに名は無いが、ある者には決意、またある者には覚悟、はたまた別の者にとっては捨て身だの自棄だのと様々な呼ばれ方をする。


 その恐るべき暴威たるや。


 相対するジャーヒルには、あたかも空間が軋んで渦を巻き、眼前の女の拳へと収束していくかのように見えたことだろう。


 だが、その技巧の技の字も見当たらないただの渾身の一撃は、ついぞ放たれることはなかった。


 なぜなら──


  ・

  ・

  ・


「猊下ァ──ッ!」


 警告の怒号と同時、レダは自身の背にどろりと灼熱するものを感得した。その熱が命そのものであると理解したのは、一拍遅れてからだった。


 振り絞りかけていた力が霧散する。練り上げた法力は拳から零れ落ち、膝から力が抜けた。頽れかかる体を、背後の何かが串刺しのまま支えている。否、支えているのではない。獲物を逃さぬよう、縫い止めているのだ。


 振り向けた視界の端に映ったのは見慣れた白い鎧。首を失ったアーク・ロードの亡骸だ。


 思い当たる節はひとつしかない。突入の際に突き破ったあの蛇の壁だ。奴はあの中に亡骸を埋めて伏せておいたのである。レダが通り抜けた後の破孔から死体は這い出し、首の断面から生えた三本の蛇に傀儡のごとく操られ、初撃にすべてを注いで足を止めた法皇の背へ音もなく忍び寄っていた。双腕ごと初撃を受けて見せたのも、獲物の意識を正面へ縫い付けておくための餌に過ぎなかった。警告の怒号に反応して半身を捻ったのが、僅かに急所を逸らしたらしい。逸れてこれだ。


 生涯を懸けて主を護るはずだった臣下の腕に、護られるべき主が刺し貫かれている。誰の腕だったのか、と考えかけて、レダはやめた。名を思い出せば、拳が鈍る。金色の六つの眼が嘲弄うようにレダの横顔を覗き込んでいた。


 体を捩じるなり、レダは背後の亡骸へ拳を叩き込んだ。聖印の刻まれた鎧ごと胴が砕け、白い破片が飛散する。胸から突き出ていた腕も二撃目で付け根から粉砕した。が、抜けきらない。折れた断片が胸郭の内側に居座って、呼吸のたび、ぎしりと軋む。


 見上げれば、膝を突いていた巨体が緩慢に起き上がりつつあった。爆散したはずの双腕の断面からは夥しい蛇が溢れ出し、縒り合わさり、編み上がって、既に新たな腕の形を取り戻し始めている。神経の寸断も腕の喪失も、この化生にとっては数呼吸ぶんの不調でしかないらしい。


 ──しくじった。


 体勢の崩れたレダを見下ろすジャーヒルが、両の手を組んだ。上から叩き潰すつもりだ。今のレダには受けきれない。霧散した法力を再び巡らせるには、少々時間が要る。


 だが、ジャーヒルは鉄槌を振り下ろす前に吹き飛んだ。


「ぶふふ……儂はこれでも人のつもりだったのですがね」


 豚鬼の英雄、サー・イェリコ・グロッケン。巨躯を吹き飛ばした張本人である。


 しかし、その姿は常のものではなかった。


 筋骨隆々というよりは肥満体に近い印象を与える体躯が、なんと普段より一回りも膨れ上がっている。無論、脂肪の仕業ではない。灼けた鉄のような皮膚が全身を覆い、両の目は血走り、さながら炎の魔神めいた様相を呈している。


 だがこれこそが、豚鬼族の真の姿といえよう。


 彼らの肉体は、根幹を成す筋肉層と、いざという時のために力を蓄える脂肪層とに分かたれている。理由は単純、恐るべき燃費の悪さゆえだ。


 長所たる膨大な筋肉は、駆動させるだけで途方もない糧を食う。日常はまだよい。しかし外敵に襲われたとなれば、戦うにせよ逃げるにせよ全身の筋肉を一斉に目覚めさせねばならない。その刹那、脂肪層に蓄えられた糧のことごとくが筋肉へと注ぎ込まれる。出力は極めて短時間ながら、小型の竜種にも比肩するとされる。


 後先を考えぬ全力稼働ともなれば、城壁すら破りかねぬ膂力を発揮するという。もっとも、そんな真似をすれば幾許も保たずに身動きを失い、彼らは餓死する。焚けば死ぬ火を、豚鬼は腹に抱えて生きているのだ。


「グ、グロッケン殿……」


「法皇猊下、お下がりください。息を整え、法力を巡らせ直すことですな。時は──多少なら稼ぎます」


 振り向きもせずにグロッケンは言った。灼けた皮膚から陽炎のような熱気が立ち昇り、空洞の腐臭を焦がしている。


「その火はあなたの命を──」


「ブフゥ。ご案じ召さるな。まだ半分も焚いてはおりませんわい。……とはいえ」


 血走った小さな眼が、空洞の端で身を起こす巨体を睨んだ。


「長話の暇もなさそうですな。まあ丁度良い」


  ・

  ・

  ・


 この時グロッケンの胸中にあったのは、どれだけの命をどれだけ費やせば目的を達成できるかという、冷徹極まる打算であった。探索者とは畢竟このようなものなのだ。戦闘でも探索でも、彼らは彼らなりの目標を持つ。そしてその達成に対して極めてプラグマティックな判断を下す。


「ブフゥ……まずは溜める。時を稼ぐぞ、三人死ね」


 グロッケンがそう言うと、まるで影のようにぬらりと三つの影が現れた。猟犬である。(※第52話 The most powerful saint in Canaan③ 参照)


 三人のうちの一人が一歩前へ出た。


 ゆらり、ゆらりとした歩様はまるで酔っ払っているかのようだ。


 ジャーヒルの三つの眼がその酔歩を追う。


 しかし──。


 眼が捉えていたはずの位置から男が掻き消える。次の刹那には巨体の懐、その次には肩口、更には編みかけの右腕の断面。都度、短刀の閃きが走り、編まれかけの蛇の束がぼとぼとと削ぎ落とされていく。


 幻術ではない。ましてや魔法でもない。


 酔歩は眼の追随を狂わせるための歩法、消失は全身の関節を同時に撓めて放つ瞬発、分身と見えたのは外套の裏に縫い込まれた鏡片の悪戯である。種を明かせばそれだけの、がしかしそのひとつひとつに数十年の研鑽が漬け込まれた純然たる技であった。


 二人目が動く。


 こちらは走りもしない。蛇の死骸を被って床を転がり、汚泥に紛れる襤褸切れのように死角から死角へと流れていく。額の眼がようやくそれを見出した刹那、男は口中の革袋を噛み破り火口へ息を吹いた。


 ごう、と炎が膨れた。


 油と発火粉。理屈だけなら大道芸の火吹きと同じである。芸人と違うのはその火線が寸分違わずジャーヒルの左の眼を舐めたことだ。眼球の表面で脂が爆ぜ、巨体が仰け反り、歌に初めて悲鳴じみた音が混じった。


 化生は困惑していた。


 無理からぬことだ。奴の知る人間とは、斬れば死に掴めば潰れ火など吹かぬ柔い獲物のはずなのだ。それがどうだ。眼前の三匹ときたら捉えられず見出せずあまつさえこちらの眼を焼いてくる。


 だが、種の割れた手品は二度目から色褪せる。


 三度目の消失その出際を、編み上がったばかりの右腕が薙いだ。酔歩の男が胴から二つになって落ちる。断末魔はなかった。落ちながら男は懐の陶瓶を握り潰しており、骸を呑もうと殺到した蛇どもは触れた端から泡を噴いて痙攣した。己の骸ひとつ罠として使い切ったのである。


 二人目は火を吹いた姿勢のまま横合いから奔った大蛇に胸を貫かれた。革袋の油に引火して男は松明と化したが、燃えながらなお膝を折らず、その身を巨体の足元の蛇溜まりへ自ら投げ込んだ。寄生できる骸を残さず、あわよくば延焼させる。そういう死に方まで恐らくは平時から仕込んであったのだ。


 そして三人目が、死んだばかりの男と寸分違わぬ酔歩で揺れ始めた。


 同じ歩様。同じ消失。同じ鏡片の残像。屠ったはずの獲物が再び眼前で舞い出したのだから化生の混乱は極まった。三つの眼が忙しなく明滅し、蛇の群れは既に事切れた骸へ無駄な牙を突き立てる。個の貌を捨て互いの技をそっくり写し合う。それが猟犬の流儀であった。誰が死んでも誰かが同じ犬として続きを舞えるように。


 その三人目がふいにぴたりと止まった。


 止まるなり伸び上がった大蛇が男を頭から呑む。勝ち誇るように牙が鳴り、直後蛇の胴が内側から膨れ破裂した。呑まれる寸前に男が両腕へ抱え込んでいたのは仲間の形見の陶瓶と残る発火粉のすべてであった。


 都合三つの命が費えた。


 ジャーヒルの左の眼は白濁して塞がり、編み直したばかりの右腕は千々に削がれた。そして何より、化生の意識はこの数十呼吸のあいだ空洞の隅に蹲る豚鬼から完全に引き剥がされていた。無論眼とていずれは編み直されよう。だがそこまでの時こそが三人の欲したものだった。


 猟犬とはそういう連中だ。


 吠えず誇らず、囮となれば骨も残さない。


いい加減完結せな……w

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S E T T I N G G R I M O I R E
ダンジョン仕草
設 定 資 料 集
入った者。堕ちた者。
そして、帰らなかった者たちの記録。
登場人物
迷宮に足を踏み入れた者の数だけ物語がある。だがその大半は、帰らなかった者の物語だ。ここに記すのは帰ってきた者たち──あるいは、帰るつもりのない者たちの記録。
▼ 主要パーティ
君
「君」
ライカード王国 魔導散兵 / 全能者《エルシャダイ》
黒いローブの青年。その実態はライカードという異国より来訪したキチガイである。あらゆる魔術、神聖術を行使するが“この世界の”術ではない。
戒律は善。困っている者は無償で助ける。ただし助け方が常識と噛み合わない。鉄錆びた死生観と人懐こい笑顔を同居させたクレイジーな冒険者だ。
キャリエル
キャリエル
幸運の女神 / ソロ探索者
赤い髪の少女。ソロで探索を続けている。妹の流行り病の薬代を稼ぐけなげな弱者。勘はいいがそれだけだ。
──その勘の精度を考えれば、それだけで十分ともいえるが。
ルクレツィア
ルクレツィア・フォン・エッセンバウム
降る雪の聖女 / 戦闘聖女《バトル・プリーステス》
カナンが迷宮に送り込んだ聖女。白銀の髪。大悪の調査に赴いた彼女を四人の聖騎士が護衛した。
──が、無様にも失敗。肉体を浸食され君に襲い掛かり、上半身をミンチにされて惨敗。おかげで死よりも悍ましい結末からは逃れられた。
固有術式「聖雪」。雪片の一つ一つが問う──あなたは善なる存在ですか、と。悪と判じられた者は自らの罪の重さで圧殺される。恐るべきはその判定が彼女の価値観で行われる事だ。
モーブ
モーブ
風渡りの聖騎士
ルクレツィアを護衛した四人の聖騎士のうちの一人。黒い髪のイケメン。異名は戦い方に由来する。神聖術で強化した肉体に、指向性を絞った風魔法を重ねた高機動戦闘。良く言えば寡黙。悪くいえばコミュ障。
▼ 探索者ギルド
サー・イェリコ・グロッケン
探索者ギルドマスター / 豚鬼種の英雄 / 利き鼻
探索者ギルドの親玉。巨大な体躯を執務机に収めた豚鬼種の英雄。その鼻で相手の帯びる毒、呪詛、悪意を嗅ぎ分ける。現役時代に悪竜を討ち、愛剣『大猪牙』を壁に飾る。脂肪の下には竜種に匹敵する膂力を秘めるが、全力稼働は数分──超えれば餓死するほど燃費が悪い。
ハノン
探索者ギルド受付嬢
金髪碧眼。冷静沈着で愛想がない。グロッケンの愛人という噂を流した者は、割りの悪い依頼しか回されずすぐ謝罪する羽目になったという。
ザンクード
荷持ちの老探索者 / 酔いどれ
いつも酒場で飲んでいる爺さん。喉の矢傷のせいで声が掠れる。半世紀を迷宮で費やした古強者で、流派の名を持たない我流の槍を振るう。型が無いぶん軌道が読めない。
ソニア
「ブルーソニアの隠し牙」リーダー
軽装の女戦士。まともに死ねなかった哀れな女。
ケイセルカット
斥候 / 「隠し牙」メンバー
運が良い若者。仲間がジャーヒルの歌に呑まれていく中、唯一正気を保ち、逃げ切った。
▼ カナン神聖国/オルセイン王国
法皇レダ
カナン神聖国 法皇
年齢抑制の恩寵で三十代半ばの外見を保つが、実年齢は六十を超える。彼女を「お飾り」と呼ぶ者がいる。傀儡の玉座で微笑むだけの女だと信じている者がいる。確かにそうかもしれない。レダは神聖術が絶望的に下手糞だし、政治を知らない。それでも彼女以外に法皇は考えられない。彼女がカナンで最も強いからである。
大主教ヒュレイア・フォン・ハーデン
六大主教 / ルクレツィアの上司
齢三十半ばで六大主教に昇り詰めた才媛。人間を道具として値踏みする。法皇を「お飾り」と見なし、いずれは自身がと考えている。彼女はレダよりよほど政治ができる。ただ、政治では魔を討てない。
宰相ジャハム
オルセイン王国宰相 / 大魔導師《アーク・ウィザード》
この男の全ての行動は、一つの名前で説明がつく。ザビーネ。亡き王妃の名だ。醜悪という言葉が人の形を取ったような男が、全存在を賭けて死者を蘇らせようとしている。クーデターでオーム王を追放し、ベルンハルトを裏切りの駒として迷宮へ送り込む。ただそれだけのために一つの国を大悪に捧げる。
ベルンハルト
近衛騎士団長 → 魔騎士
近衛騎士団長だった。過去形で語るしかない。ジャハムの策略で大迷宮に送り込まれ、大悪の力で魔騎士に堕ちた。
敵対者
囁く者とは人間が名付けた。名前をつけなければ、恐怖を語ることすらできなかったからだ。
囁く者
囁く者
歴史を紐解いてみれば、災厄と呼んでよい厄の陰には必ずこれらの存在があった。
ジャーヒル
ジャーヒル
暗黒の大母 / 二邪の一
肉を堕とす者
シェディム
シェディム
深淵の聖母 / 二邪の一
魂を堕とす者
▼ その他の脅威
エリゴス・ハスラー
カル・ローンの悪魔 / 首狩りハスラー
傭兵国家カル・ローンの筆頭傭兵団長。愛剣ローン・モウアで数え切れぬ英雄首を狩り獲った。最下層の宝剣を求め、第5層でルクレツィア一行と邂逅。情報を交換して一度は引き返したが──
魔将《デーモン・コマンダー》
大迷宮を狩り場とする上位悪魔族
悪魔は悪魔であって魔物ではない。囁く者たちとも無関係だ。彼らには故郷があり、大迷宮はその魔界との境界が薄い。だからこそ顕れる。中位、下位を従える様が将軍のようだから、人間が魔将と名付けた。
グレーターデーモン
上位悪魔
レッサーデーモンと並べて語られる事があるが論外である。レッサーより強大だからグレーターと呼ばれるのではない。その強さ、その恐ろしさゆえにグレーターデーモンと呼ばれるのだ。
その他の人々
主役だけが物語を動かすわけではない。名もなき者たちの選択が、時に世界の天秤を傾ける。
聖騎士サンドロス 異端審問官上がりの偉丈夫。法皇への不敬に義憤を感じ君に掴みかかり、べっこりへこまされた。残念ながら生存。
国王オーム クーデターで追放された元国王。その血は第10層への扉を開く鍵となる。──王の血とはつまり、そういうものだ。
ザビーネ 死者。亡き王妃。ジャハムの愛の歪みは、何人がそのために死んだかで測ればいい。
ゼナ 新米探索者。賊の襲撃で真っ先に立ち向かい真っ先に殺された。まあ、どこぞの冒険者に蘇生されたようだが。
ケージ 上位冒険者として稼ぎは十分あるはずなのに、全て賭博でトバすほどのカス。
ラーナラーナ レダの娘。くりくりとした眼にふわふわの栗毛。歳の頃は十かそこら。
国家と勢力
三つの国がアヴァロンの地下を巡って交わる。一つは戦いを神と崇め、一つは神に戦いを捧げ、一つは戦いの上に街を建てた。
ライカード王国
ライカード王国
超好戦的魔導国家 ── 死は風邪のようなもの
ライカードから来た男に、死をどう思うかと訊いた。少し重い風邪のようなものだ、と笑った。翌日、コボルトに殺された仲間を蘇生教会へ担ぎ込み、三十分後には酒場で一緒に飲んでいた。この男たちの国では、死は本当に風邪なのだ。
魔法体系は七段階の位階制で、各位階の呪文を一日九回まで使える。「絶対的な神などいない。いたとしてもそれは殺せる存在であり、神みたいなかんじの魔物である」と教育する国。
余談だが、ライカードにはNINJAとよばれる者たちがいる。忍者ではなくNINJAだ。全裸で戦い、手刀で首をはねる。諜報活動は行わない。
迷宮都市アヴァロン
迷宮都市アヴァロン
大迷宮の上に築かれた街
不味いエールで知られる安酒場がある。壁際に座ると怒号と笑い声が頭上を飛び交う。生きて帰った者が飲み、帰らなかった者の席には新しい誰かが座る。それがアヴァロンだ。
オルセイン王国に属するが実質は探索者ギルドの自治領。酒場と武具店と命知らずがひしめく。迷宮からは希少な資源、武具、魔法の道具が出土し、それを求めて各国から傭兵が集まる。
カナン神聖国
カナン神聖国
信仰の国 ── 白壁の都ユーガリット
白亜の城壁には退魔の力が込められている。ただし材質は白鳥石で脆い。
神を国として奉じる宗教国家。指導者は法皇レダだが、実質国を動かすのは六名の大主教。神聖魔法は信仰の深さで出力が変わる。応用は利くが不安定で、術者の心が揺れれば威力も揺れる。なお、カナンはヒト種のみで構成される。異種族の姿は見られない。それが何を意味するかは、各自の判断に委ねる。
囁く者とは何か
あなたの中に、それは既にいるかもしれない。
それ
「それ」の正体
見た目は生白くぬらっとした卑小なヒル。踏めば潰れる。焼けば死ぬ。──だが見た目通りの存在ではない。次元間の行き来を可能にする一種の生体ゲートである。一匹では意味を為さない。門を開くには膨大な数が要る。だから「それ」の目的は増えることだ。多く、多く、限りなく多く。それ以外の目的を持たない。
「それ」は増える
増殖手段は寄生。宿主に取り憑きエネルギーを搾取する。宿主が生きようとする限り、その行為は「それ」を守ることにもなる。──エネルギーとは栄養に限らない。感情だ。激しいほど上等の餌となる。信仰、愛、憎しみ、誇り。人間が最も尊いと思うものが、最も美味いらしい。
「改善」
効率よく餌を得るため「それ」は宿主を「改善」する。最初に恐怖を消す。次に哀しみを消す。すると宿主は囁きを天啓と受け止め始める。声に従えば辛いことが消え、喜びに満たされていく。──その喜びが「それ」を太らせているとも知らずに。
門が開く時
限度を超えると宿主の体内で際限なく増殖し、最後には宿主ごと破裂する。──ぱぁん、と。
破裂の直前、宿主は正気に戻る。自分を「こんなふう」にした存在への怒り。戻れない哀しみ。そして恐怖。その爆発が「それ」を爆発的に増やし、膨大なエネルギーが生体ゲートを起動させる。──つまり、絶望が門を開く。
なお「それ」は善でも悪でもない。だから破邪の力は痛痒を与えない。ルクレツィアほどの聖女の信仰すら、むしろ良質な餌だった。
門の向こう
歴史が一定の周期で大災厄を繰り返すのは、門が何度も開きかけているからだ。
アヴァロン大迷宮
潜った者だけが知っている。あの暗闇には温度がある。匂いがある。──息をしている。
第1層
F1 ── 薄暗回廊
松明の光が届く範囲だけが世界だった。石造りの回廊が続き、小鬼の爪が壁を掻く音が響く。新米はここで魔物の血の匂いを嗅ぎ、命の値段を覚える。
第2層
F2 ── 屍涼荒野
地下なのに空が見えた。説明はつかない。魔力の歪みが外界を投影しているとされるが、あれがどこの空なのかは誰も知らない。スケルトンの徘徊する荒野。
第3層
F3 ── 坑道層
至る所の松明は不思議と消えない。が──その影に悪魔が潜む。光が多いほど影も増える。安心と危険が同じ源泉から生まれる、嫌な構造。この辺から新米は遺書を書き始めたほうがいい。
第4層
F4 ── 迷宮層
側壁に装飾の施された「迷宮らしい迷宮」。人の手が入っているが建造者は不明。やけに寒く、湿った空気が流れる。墓場に似ている、と誰かが言った。
第5層
F5 ── 血渇円堂
通路はない。すり鉢状の広間が一つ。観客席に囲まれた円形の舞台。──かつて何者かがここで戦いを見物していた。そう思わせる構造だ。敵は出ない。ただしセーフエリアとは、あくまで人間の線引きである事を思い返すべきだ。
第6層
F6 ── 沼地層 / 下層回廊
上層は沼地。足元は緑と茶の泥に覆われ悪臭が漂う。触手の集合体と保護色のトカゲが襲う。長居すれば体が蝕まれる。下層は石の通路型回廊に変わる。
第7層
F7 ── 黒死聖堂
光が死ぬ。松明を掲げても闇に飲まれる。魔法の光も同じだ。ギルドの記録にすら情報のない未踏の領域。囁き声だけが耳元で鳴り続ける。
奥に至った者は見るだろう。墓石が円形に並び、中央に巨大な石棺が浮いているのを。暗黒の中で、それだけが明瞭に見える。
第8層
F8 ── 肉の回廊
生物的な質感の壁面が呼吸するように収縮を繰り返す。もはや迷宮ではない。上位の悪魔族が跋扈する魔界。
最深部
F9-10 ── 最深部
全ての道はここに至り、ここから先はない。
ダンジョン仕草
この魔導書はギルドの記録、生還者の証言、
そして迷宮から回収された断片から編まれた。
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