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ダンジョン仕草  作者: 埴輪庭


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第1話:キャリエル

挿絵(By みてみん)

 君は人差し指を小鬼に向け、一言呟いた。


 ──『小炎』


 指先にポゥと灯った仄かな火は周囲の空気を取り込んで膨れ、握り拳ほどの弾となる。弾は君の意思のままに飛び、小鬼の左目へ吸い込まれた。バァン、と炸裂音。音が回廊の奥へ逃げていく頃には、小鬼の頭部はもはや元の形を留めていない。


 君にとっては見慣れた光景である。


 しばし首なし死体を眺めた後、君は周囲を見渡し、それから腰の短刀を抜いて死体へ近づいた。物陰には魔が潜む、探索者よ、留意せよ──探索者ギルドのギルドマスターの金言である。金言を守る者は長生きし、守らぬ者は物陰から出てきた何かに食われる。実に分かりやすい世界だ。


 君の目当ては魔石だ。迷宮の魔物の体内に在る、価値のある石。コボルドと呼ばれる小鬼の魔石を集めよという、探索者ギルドの依頼であった。


  ・

  ・

  ・


 迷宮。


 生と死を孕む魔窟。


 君は迷宮都市アヴァロンの第三級探索者だ。そしてライカード王国が誇る魔導散兵隊の一人でもある。


 いや、一人でもあった。


  ◆


 あれから何匹かの小鬼を狩り、君は相応の魔石を手に入れた。


 疲労はない。ただ少々、魔法のストックをつかってしまった。高位のものはまだ九回ずつ残っているが、そういうものを小鬼相手に撃つと魔石ごと木っ端微塵に砕けてしまうのだ。魔石を集めに来て魔石を消し飛ばしていては世話がない。君はため息をひとつ落として、帰路につくことに決めた。


  ・

  ・

  ・


 ギルドの受付に魔石を積むと、受付嬢は数をかぞえ、ひとつずつ質を検めていく。


 この受付嬢の仕事ぶりを君は高く評価していた。安くも見積もらないし、高くも見積もらない。物事にはあるべき形と踏むべき手順があると君は常々考えているので、正確な仕事は君を安らかにする。つまり君はこの受付嬢のことが好きだった。恋情の類ではない。手順を守る人間が好きなだけである。


 きっかりと銀貨四枚を受け取り、礼を述べてカウンターを離れた。


「子鬼の魔石なんて汚いモン持ってくるんじゃねえよ。お前何級だ?」


 背後から声が飛んでくる。随分とまぁ下品な言葉遣いをするものだ、などと思いながら君は振り返らずギルドを出ようとしたが、その肩を掴まれた。


「待てよ! 無視だと? 俺をなめてるのか?」


 君は男へ尋ねた。


 これは攻撃か、と。


 敵対するのか、と。


 君の戒律は『善(GOOD)』である。戒律とは生き方の指針であり、ライカードの者はみなこれを胸に秘めて生きる。ゆえに正道をよしとする君が、いわれなき攻撃を行うことはない。


 周囲がにわかに騒がしくなった。見かねた誰かが男へ忠告を与える。


「やめとけ。こいつは魔石をもってきただけだ。そして俺達探索者は魔石を持ってくるのが仕事だ。そうだろ?」


 男は顔を真っ赤にして吠えた。


「ならよ!! ちゃんと仕事をしろってことだ! こんな雑魚の魔石なんざじゃなくてもっとマシなモンもってこいよ!」


 その怒声を、酷く冷たい声が断ち切った。背筋がゾクゾクとするような声である。


「探索者の皆様が仕事をしているかどうかを判断するのは我々ギルドです。貴方ではありません」


 ──まるで『猛凍』のような女だな。


 最上級氷結魔法を連想しながら、君は受付嬢の仲裁をありがたく思い、その場を離れようとした。


 だがそうは問屋が卸さない。男は益々激昂し、あろうことか君の肩へ掴みかかったのである。


 乱暴な手つきだ。少々痛みすら感じる気がする。多分、きっと。もしこの身が脆弱であったなら感じたに違いない。


 痛いのならば、もはや攻撃だ。友好的な人間へ攻撃をしかける、なればそれは『悪(EVIL)』の所業。


 君の眼の色が変わった。むろん比喩である。


 明らかに殺す目つきになった君を見て、受付嬢と、周囲の何人かが沈痛な表情を浮かべた。彼らには前例の記憶があるのだ。以前、同じような場面で君に狼藉を働こうとした者が、こともあろうに剣を抜いたことがある。光物を抜く以上は殺し合い、つまり先手必勝である。相手は数瞬後に頭を吹き飛ばされた。首無し死体からピュウピュウと血が噴き出る様子を眺めながら、悪党の血も赤いのだな、と君は感想を抱いたものだ。当たり前の話であり、かつ相当に狂っている。


 受付嬢が短く息を吐いた。せめて今回は穏便に済みますように、とでも祈っているらしい。


 男のほうは、激昂のあまり、自分がまさに死地に立っていることに気付いていなかった。


「ああ!? なんだその眼はよ! 気に入らねえな!」


 開口するなり、男は拳を振り回して君の右頬を殴り飛ばそうとした。


 しかし。


 突如として男は全身から血を噴き、その場に昏倒する。見れば細かい傷が全身についているではないか。まるでガラス片で全身を刻まれたかのような有様に、周囲の者たちは戦慄を禁じ得ない。


 『傷害』の魔法である。敵対者へ小さな傷を与える、僧侶系でも最下等のもの。といっても程度の低い魔物なら即死することもあるので侮ってはならない。


 君はギルドを後にした。


 止めを刺さなかったのは、君の善性がこの上なく発露した結果と言える。それに、仮にも探索者ならばあの程度で死ぬはずがない、という考えが君にはあった。戦を生業とする者が『傷害』ごとき木っ端スペルで死ぬのは、もはや犯罪行為に等しい。君は本気でそう考えている。


 素手で殴りかかってくる相手を殺すまでもない。あの程度の傷ならすぐ治るだろう。敵対者を殺すことなく場を収めた自分を、君は善の鑑のようだなと自画自賛した。


 なお君の世界における善とは、困っている者を無償で助けることを良しとするものであって、悪意ある者の暴力を甘んじて受けよなどとは一言も言っていない。むしろ敵対者は皆殺しにするのが当然のことである。敵ではない誰かが困っていたなら、見返りなく助ける。それが君にとっての善だ。


 敵が困っていたら?


 むろん殺す。


  ◆


 ギルドを出て、君は空を見上げた。


 夕焼けに染まっている。今日の迷宮探索は終わりだと判断し、酒場へ向かうことにした。


 ギルドに併設された酒場は探索者達でごったがえしていた。酒の匂いと料理の香りが混ざり合い、笑い声やら罵声やらが天井の梁にぶつかって落ちてくる。奥のカウンター席へ腰を下ろし、マスターが注文を取りに来るのを待ちながら、君は店内を眺めた。


 カウンターの奥では探索者同士が探索の愚痴を言い合っている。その手前ではテーブルに突っ伏して眠る者と、それを囃し立てる者。更に横では、帰りに一杯ひっかけて切り上げようとしている者。


 君はカウンターへ向き直り、酒を頼んだ。置かれたジョッキに口をつける。


 常温のエールは余りうまくはない。


 ライカードのエールが恋しかった。


 なぜこんなことになってしまったのか。あのポータルの正体は分からずじまいだ。テレポーターの罠にしては手が込みすぎているし、そもそも罠であったなら君はとうに死んでいる。君が忽然と消えたことを、隊の仲間達はどう思っただろうか。悲しんだだろうか。探し回っただろうか。


 いずれにせよ、君はもうライカードには居ないのだ。


 残りを一気に飲み干し、お代わりを頼んだところで、不意に声をかけられた。


「やっほー。おいしそうに吞んでるね、お兄さん」


 振り返れば、使い込んだ革鎧に短いショートソードを佩いた若い女が立っていた。赤いショートヘアが活発そうな顔立ちによく映えている。


「キャリエルっていうの。お兄さんは?」


 君は短く名前を答えた。


 女は隣の椅子に腰掛けると、身を乗り出してくる。


「ねぇ、私も一杯飲んでいいかな? さっき探索が終わったばかりで疲れちゃって。独りで飲むのもなんだし、よかったら一緒にどう?」


 そう言って返事を待たずに酒を注文してしまうと、君の分と自分の分を注ぎ分ける。君が何かを言おうとする間もなくグラスを握らされ、乾杯を催促するように彼女のグラスが軽く当てられた。仕方なしに応じてやると、彼女は満足そうな笑みを浮かべる。


「お仕事、ご苦労様」


 グラスを傾け、彼女は一口飲んだ。


 君はその横顔をじっと見つめる。どうにも掴めない性格のようだ。


「なぁに? そんなに見つめられるとお姉さん困っちゃうな~」


 苦笑いして視線を外すと、その様子がおかしかったのか、彼女が笑った。


「あははは! 照れなくていいのに。可愛いなぁ。ところで、さっきギルドであなたの事を見たよ」


 さっき、といえば、あの無礼な男に仕置きをくれてやったときだろうか。君が問えば、キャリエルは首肯した。


「あれは……魔法? みたことがなかったな。お兄さんはスペルキャスターってことでいいんだよね?」


 君は柔らかに否定した。必要とあれば剣も使うし、場合によっては拳だって使う。


 ライカード王国において魔導散兵とはエリート兵科であり、それこそ勝利のためならなんだって使うのだ。ちなみに君の好きな戦法は、会敵の瞬間に『核炎』を放ち、ビビった敵の腹をブロードソードでぶち抜いてやるというものである。


「なんでも出来るわけか……凄いね。それならソロでもやっていけるってわけか。私も実はソロでさ、だからお兄さんに少し親近感わいちゃったんだよね」


 君が答えるより先に、彼女が続ける。


「私のスタイルはファイターだよ。剣と盾でガンガン攻撃してく感じで」


 君は驚嘆した。


 戦士でソロとは、なんと命知らずなのだろうか。ライカードでは迷宮は六人で挑むものであり、この六という数が減れば減るほど生存率は下がるという常識がある。それゆえ前衛職のソロというのは、自殺志願者としか思えなかった。


 君がそう伝えると、彼女は肩をすくめてみせる。


「ま、そう思うよね。でもね、探索者の世界じゃパーティを組むより一人のほうが稼ぎがいいんだってこと、わかってほしいな」


 確かにその通りだ。深く納得して、君は再びエールを飲み始めた。


 しばらく、君は彼女の話を聞きながら酒を楽しんだ。探索者についての知識を深めつつ酒を飲むというのも乙なものだろう。


「それよりさ、お兄さんは何でも出来るからソロなの? それとも何か理由があってソロなの?」


 君は後者だと告げた。


 この世界の探索者というものは、どうにも名前負けしていると君は感じている。迷宮とはすみからすみまで踏破すべきものではないのか。過去に他者が踏破済みの場所であっても、自分が足を踏み入れたことがないのなら足を運ぶべきだ。ライカードの探索者はみなそうしていたし、君も先人からそのような薫陶を受けてオールマッピングの思想に染まっている。以前、名ばかりの雑な探索に同行したときはストレスがたまって仕方がなかった。


 戦闘もそうだ。なぜ様子を見る必要があるのか、君には理解できない。もちうる最大火力で先制し、倒し損ねた敵を前衛があらためて始末すればよいではないか。後に強敵を控えていると分かっているのなら多少の節約もやむを得ないが、あからさまな様子見などは愚行である。一々見にまわっていたら、敵の広域殲滅魔法でこちらが先に消し飛ばされて終わりだ。


 殺られる前に殺れ。それがライカードの常識だった。


 とはいえ、そのへんのことはこの世界の者には分かるまい。君は理由を話さなかった。


 それに、と君は思う。


 もうここはライカードではないのだな、と。


「どうしたの? お兄さん」


 表情の変化に気づいたのか、キャリエルが覗き込んでくる。


 君はなんでもないと返し、グラスに残った酒を一気に飲み干した。


「大丈夫? なんか顔色悪いよ」


 平気だと答えて安心させてやる。


「そっか。じゃあ飲みましょう! 私の奢りよ!」


 彼女は君の背中をバンと叩くと、お代わりを注文した。


 そして君は促されるまま、夜遅くまで彼女と飲んだ。


 夜が更けていく。


 ライカード、ああ我が故郷。愛する我が国に賞賛あれ。





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S E T T I N G G R I M O I R E
ダンジョン仕草
設 定 資 料 集
入った者。堕ちた者。
そして、帰らなかった者たちの記録。
登場人物
迷宮に足を踏み入れた者の数だけ物語がある。だがその大半は、帰らなかった者の物語だ。ここに記すのは帰ってきた者たち──あるいは、帰るつもりのない者たちの記録。
▼ 主要パーティ
君
「君」
ライカード王国 魔導散兵 / 全能者《エルシャダイ》
黒いローブの青年。その実態はライカードという異国より来訪したキチガイである。あらゆる魔術、神聖術を行使するが“この世界の”術ではない。
戒律は善。困っている者は無償で助ける。ただし助け方が常識と噛み合わない。鉄錆びた死生観と人懐こい笑顔を同居させたクレイジーな冒険者だ。
キャリエル
キャリエル
幸運の女神 / ソロ探索者
赤い髪の少女。ソロで探索を続けている。妹の流行り病の薬代を稼ぐけなげな弱者。勘はいいがそれだけだ。
──その勘の精度を考えれば、それだけで十分ともいえるが。
ルクレツィア
ルクレツィア・フォン・エッセンバウム
降る雪の聖女 / 戦闘聖女《バトル・プリーステス》
カナンが迷宮に送り込んだ聖女。白銀の髪。大悪の調査に赴いた彼女を四人の聖騎士が護衛した。
──が、無様にも失敗。肉体を浸食され君に襲い掛かり、上半身をミンチにされて惨敗。おかげで死よりも悍ましい結末からは逃れられた。
固有術式「聖雪」。雪片の一つ一つが問う──あなたは善なる存在ですか、と。悪と判じられた者は自らの罪の重さで圧殺される。恐るべきはその判定が彼女の価値観で行われる事だ。
モーブ
モーブ
風渡りの聖騎士
ルクレツィアを護衛した四人の聖騎士のうちの一人。黒い髪のイケメン。異名は戦い方に由来する。神聖術で強化した肉体に、指向性を絞った風魔法を重ねた高機動戦闘。良く言えば寡黙。悪くいえばコミュ障。
▼ 探索者ギルド
サー・イェリコ・グロッケン
探索者ギルドマスター / 豚鬼種の英雄 / 利き鼻
探索者ギルドの親玉。巨大な体躯を執務机に収めた豚鬼種の英雄。その鼻で相手の帯びる毒、呪詛、悪意を嗅ぎ分ける。現役時代に悪竜を討ち、愛剣『大猪牙』を壁に飾る。脂肪の下には竜種に匹敵する膂力を秘めるが、全力稼働は数分──超えれば餓死するほど燃費が悪い。
ハノン
探索者ギルド受付嬢
金髪碧眼。冷静沈着で愛想がない。グロッケンの愛人という噂を流した者は、割りの悪い依頼しか回されずすぐ謝罪する羽目になったという。
ザンクード
荷持ちの老探索者 / 酔いどれ
いつも酒場で飲んでいる爺さん。喉の矢傷のせいで声が掠れる。半世紀を迷宮で費やした古強者で、流派の名を持たない我流の槍を振るう。型が無いぶん軌道が読めない。
ソニア
「ブルーソニアの隠し牙」リーダー
軽装の女戦士。まともに死ねなかった哀れな女。
ケイセルカット
斥候 / 「隠し牙」メンバー
運が良い若者。仲間がジャーヒルの歌に呑まれていく中、唯一正気を保ち、逃げ切った。
▼ カナン神聖国/オルセイン王国
法皇レダ
カナン神聖国 法皇
年齢抑制の恩寵で三十代半ばの外見を保つが、実年齢は六十を超える。彼女を「お飾り」と呼ぶ者がいる。傀儡の玉座で微笑むだけの女だと信じている者がいる。確かにそうかもしれない。レダは神聖術が絶望的に下手糞だし、政治を知らない。それでも彼女以外に法皇は考えられない。彼女がカナンで最も強いからである。
大主教ヒュレイア・フォン・ハーデン
六大主教 / ルクレツィアの上司
齢三十半ばで六大主教に昇り詰めた才媛。人間を道具として値踏みする。法皇を「お飾り」と見なし、いずれは自身がと考えている。彼女はレダよりよほど政治ができる。ただ、政治では魔を討てない。
宰相ジャハム
オルセイン王国宰相 / 大魔導師《アーク・ウィザード》
この男の全ての行動は、一つの名前で説明がつく。ザビーネ。亡き王妃の名だ。醜悪という言葉が人の形を取ったような男が、全存在を賭けて死者を蘇らせようとしている。クーデターでオーム王を追放し、ベルンハルトを裏切りの駒として迷宮へ送り込む。ただそれだけのために一つの国を大悪に捧げる。
ベルンハルト
近衛騎士団長 → 魔騎士
近衛騎士団長だった。過去形で語るしかない。ジャハムの策略で大迷宮に送り込まれ、大悪の力で魔騎士に堕ちた。
敵対者
囁く者とは人間が名付けた。名前をつけなければ、恐怖を語ることすらできなかったからだ。
囁く者
囁く者
歴史を紐解いてみれば、災厄と呼んでよい厄の陰には必ずこれらの存在があった。
ジャーヒル
ジャーヒル
暗黒の大母 / 二邪の一
肉を堕とす者
シェディム
シェディム
深淵の聖母 / 二邪の一
魂を堕とす者
▼ その他の脅威
エリゴス・ハスラー
カル・ローンの悪魔 / 首狩りハスラー
傭兵国家カル・ローンの筆頭傭兵団長。愛剣ローン・モウアで数え切れぬ英雄首を狩り獲った。最下層の宝剣を求め、第5層でルクレツィア一行と邂逅。情報を交換して一度は引き返したが──
魔将《デーモン・コマンダー》
大迷宮を狩り場とする上位悪魔族
悪魔は悪魔であって魔物ではない。囁く者たちとも無関係だ。彼らには故郷があり、大迷宮はその魔界との境界が薄い。だからこそ顕れる。中位、下位を従える様が将軍のようだから、人間が魔将と名付けた。
グレーターデーモン
上位悪魔
レッサーデーモンと並べて語られる事があるが論外である。レッサーより強大だからグレーターと呼ばれるのではない。その強さ、その恐ろしさゆえにグレーターデーモンと呼ばれるのだ。
その他の人々
主役だけが物語を動かすわけではない。名もなき者たちの選択が、時に世界の天秤を傾ける。
聖騎士サンドロス 異端審問官上がりの偉丈夫。法皇への不敬に義憤を感じ君に掴みかかり、べっこりへこまされた。残念ながら生存。
国王オーム クーデターで追放された元国王。その血は第10層への扉を開く鍵となる。──王の血とはつまり、そういうものだ。
ザビーネ 死者。亡き王妃。ジャハムの愛の歪みは、何人がそのために死んだかで測ればいい。
ゼナ 新米探索者。賊の襲撃で真っ先に立ち向かい真っ先に殺された。まあ、どこぞの冒険者に蘇生されたようだが。
ケージ 上位冒険者として稼ぎは十分あるはずなのに、全て賭博でトバすほどのカス。
ラーナラーナ レダの娘。くりくりとした眼にふわふわの栗毛。歳の頃は十かそこら。
国家と勢力
三つの国がアヴァロンの地下を巡って交わる。一つは戦いを神と崇め、一つは神に戦いを捧げ、一つは戦いの上に街を建てた。
ライカード王国
ライカード王国
超好戦的魔導国家 ── 死は風邪のようなもの
ライカードから来た男に、死をどう思うかと訊いた。少し重い風邪のようなものだ、と笑った。翌日、コボルトに殺された仲間を蘇生教会へ担ぎ込み、三十分後には酒場で一緒に飲んでいた。この男たちの国では、死は本当に風邪なのだ。
魔法体系は七段階の位階制で、各位階の呪文を一日九回まで使える。「絶対的な神などいない。いたとしてもそれは殺せる存在であり、神みたいなかんじの魔物である」と教育する国。
余談だが、ライカードにはNINJAとよばれる者たちがいる。忍者ではなくNINJAだ。全裸で戦い、手刀で首をはねる。諜報活動は行わない。
迷宮都市アヴァロン
迷宮都市アヴァロン
大迷宮の上に築かれた街
不味いエールで知られる安酒場がある。壁際に座ると怒号と笑い声が頭上を飛び交う。生きて帰った者が飲み、帰らなかった者の席には新しい誰かが座る。それがアヴァロンだ。
オルセイン王国に属するが実質は探索者ギルドの自治領。酒場と武具店と命知らずがひしめく。迷宮からは希少な資源、武具、魔法の道具が出土し、それを求めて各国から傭兵が集まる。
カナン神聖国
カナン神聖国
信仰の国 ── 白壁の都ユーガリット
白亜の城壁には退魔の力が込められている。ただし材質は白鳥石で脆い。
神を国として奉じる宗教国家。指導者は法皇レダだが、実質国を動かすのは六名の大主教。神聖魔法は信仰の深さで出力が変わる。応用は利くが不安定で、術者の心が揺れれば威力も揺れる。なお、カナンはヒト種のみで構成される。異種族の姿は見られない。それが何を意味するかは、各自の判断に委ねる。
囁く者とは何か
あなたの中に、それは既にいるかもしれない。
それ
「それ」の正体
見た目は生白くぬらっとした卑小なヒル。踏めば潰れる。焼けば死ぬ。──だが見た目通りの存在ではない。次元間の行き来を可能にする一種の生体ゲートである。一匹では意味を為さない。門を開くには膨大な数が要る。だから「それ」の目的は増えることだ。多く、多く、限りなく多く。それ以外の目的を持たない。
「それ」は増える
増殖手段は寄生。宿主に取り憑きエネルギーを搾取する。宿主が生きようとする限り、その行為は「それ」を守ることにもなる。──エネルギーとは栄養に限らない。感情だ。激しいほど上等の餌となる。信仰、愛、憎しみ、誇り。人間が最も尊いと思うものが、最も美味いらしい。
「改善」
効率よく餌を得るため「それ」は宿主を「改善」する。最初に恐怖を消す。次に哀しみを消す。すると宿主は囁きを天啓と受け止め始める。声に従えば辛いことが消え、喜びに満たされていく。──その喜びが「それ」を太らせているとも知らずに。
門が開く時
限度を超えると宿主の体内で際限なく増殖し、最後には宿主ごと破裂する。──ぱぁん、と。
破裂の直前、宿主は正気に戻る。自分を「こんなふう」にした存在への怒り。戻れない哀しみ。そして恐怖。その爆発が「それ」を爆発的に増やし、膨大なエネルギーが生体ゲートを起動させる。──つまり、絶望が門を開く。
なお「それ」は善でも悪でもない。だから破邪の力は痛痒を与えない。ルクレツィアほどの聖女の信仰すら、むしろ良質な餌だった。
門の向こう
歴史が一定の周期で大災厄を繰り返すのは、門が何度も開きかけているからだ。
アヴァロン大迷宮
潜った者だけが知っている。あの暗闇には温度がある。匂いがある。──息をしている。
第1層
F1 ── 薄暗回廊
松明の光が届く範囲だけが世界だった。石造りの回廊が続き、小鬼の爪が壁を掻く音が響く。新米はここで魔物の血の匂いを嗅ぎ、命の値段を覚える。
第2層
F2 ── 屍涼荒野
地下なのに空が見えた。説明はつかない。魔力の歪みが外界を投影しているとされるが、あれがどこの空なのかは誰も知らない。スケルトンの徘徊する荒野。
第3層
F3 ── 坑道層
至る所の松明は不思議と消えない。が──その影に悪魔が潜む。光が多いほど影も増える。安心と危険が同じ源泉から生まれる、嫌な構造。この辺から新米は遺書を書き始めたほうがいい。
第4層
F4 ── 迷宮層
側壁に装飾の施された「迷宮らしい迷宮」。人の手が入っているが建造者は不明。やけに寒く、湿った空気が流れる。墓場に似ている、と誰かが言った。
第5層
F5 ── 血渇円堂
通路はない。すり鉢状の広間が一つ。観客席に囲まれた円形の舞台。──かつて何者かがここで戦いを見物していた。そう思わせる構造だ。敵は出ない。ただしセーフエリアとは、あくまで人間の線引きである事を思い返すべきだ。
第6層
F6 ── 沼地層 / 下層回廊
上層は沼地。足元は緑と茶の泥に覆われ悪臭が漂う。触手の集合体と保護色のトカゲが襲う。長居すれば体が蝕まれる。下層は石の通路型回廊に変わる。
第7層
F7 ── 黒死聖堂
光が死ぬ。松明を掲げても闇に飲まれる。魔法の光も同じだ。ギルドの記録にすら情報のない未踏の領域。囁き声だけが耳元で鳴り続ける。
奥に至った者は見るだろう。墓石が円形に並び、中央に巨大な石棺が浮いているのを。暗黒の中で、それだけが明瞭に見える。
第8層
F8 ── 肉の回廊
生物的な質感の壁面が呼吸するように収縮を繰り返す。もはや迷宮ではない。上位の悪魔族が跋扈する魔界。
最深部
F9-10 ── 最深部
全ての道はここに至り、ここから先はない。
ダンジョン仕草
この魔導書はギルドの記録、生還者の証言、
そして迷宮から回収された断片から編まれた。
― 新着の感想 ―
君は、という説明がゲームブックっぽく感じる
TRPGぽい
感想一覧
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