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この世界でも十分、ある程度楽しめるものは存在している。
だから、別に暇というわけではないけれど。僕はこのままずっとその場所に居ていいのか。
そんな意味の無い自問自答をしていると、突然モニカが別の方に向いた。
「え・・?」
建物の上に複数の人間たちが居る。その黒いフードを被った人たちは、手に銃器が握られていた。
一体何をするつもりなのだろうか。
モニカが狙いならまだ良かったが、その人間たちは明らかにモニカの方を狙っていない。
「あいつ・・!!」
モニカはそのまま走り出す。
同時に建物の屋上に居た黒いフードの男たちは銃器を発射する。既に装填されている時点で最初から踊り子の方を狙っていたのか。
理由を考えるよりも先に右手が動き、地面に投射される。その浸食の力が発動して、更に無数の泥のような手が発生して急速展開する。
その力によって彼女に向けられた砲弾を全て防ぐ事に成功したが、男たちの方はすぐに消えていた。
周囲もまた騒然となっており、せっかくのステージが台無しとなっていた。
「大丈夫?」
モニカは踊り子を介抱しているが、とりあえず怪我はないようだ。
「は、はい。その、ありがとうございます。」
「まさかこんな形で終わることになっちゃったけど。また次もあるだろうし。」
「さっきの、人たちは・・やっぱり、私を狙っていたんでしょうか。」
「あるいは、獣人であれば誰でもよかったんじゃないかしらね。」
「・・・・。」
「それじゃぁ、私はこれで失礼するけど。貴方もすぐに避難するといいわね。」
「え?あの、お礼は・・。」
「そんなのはいいわ。」
そう言って、モニカはナガトの所まで行く。
「どうだった?私のステージ。」
「さっきの、どういうことなんだ?」
「簡単な事よ。無能力者の中に、自分よりも力のある存在が気に食わない人がいるだけよ。その人たちがテロ活動を今起こした、昨日のような自爆は稀ではあるけれど。獣人が突然襲撃されることは多いわね。」
「テロリスト・・。」
そんな物騒な行為をする人間がこの世界にも居るとは思わなかった。
「僕はもう少し、この世界が平和だと思っていたけど。」
「残念だったわね。物騒で。」
「えぇと。さっきの子は大丈夫なんだな?」
「そうね。」
「でも、あの子が獣人だからって、別にそこまで強かったりはしないだろ。皆、もしかして狂暴な狼になったりするのか?」
「それは人によるわね。」
衛兵たちが集まってきて状況を整理しているが、あの建物の上に居たテロリストは捕まるんだろうか。
「襲ってきた奴らを追うべきだと思うけど。」
「そんな面倒な事するの?少しは休みなさい。それは衛兵の仕事で、貴方の仕事じゃないわね。」
「その無能力者がどうして襲ってくるのか、詳しくは分かるか?」
「別に、頭の悪い人たちを雇って悪さをする人も居るけど。でも、その辺りは私が調べることじゃないし。」
そういうことになるようだが、これから先本当に大丈夫なのか。
「放っておいたところで、別に問題はないと思うけど。ああいうタイプは、たいがい別の術者にすぐに一掃されるから。魔法使い同士の戦いにでもならない限り警戒しすぎることはないわね。」
そこで、この場所はしばらくはお別れになることになった。




