○9
「ここまで来たのはいいけれど。結局何があったんだ?」
「えっと。その、できれば聞かないでください。」
「君にも事情はあるかもしれないけど。何も言わないのは流石に困るぞ。」
「私にだって事情はあるんです。もし言ってしまえば貴方にも多大な危害を加えるかもしれないし、そもそもあんな所でぶつかって恋に落ちるだなんて嫌ですから。」
「明確に今酷い事言ったな・・。それで、これから先何処に行くんだ?」
「考えてません。」
「えっと。他に住める場所はあるのか?」
「ギルド協会の本部に行けば、それなりのことはしてくれると思います。」
「そこに行けばいいんだな。」
「一週間ぐらいかかりますけど。ナガトさんも行きますか?」
「いや、こっちには連れが居るから。」
「つれ?」
「この先は一人でも大丈夫なのか?」
「うーん。もしナガトさんが来てくれたら、多少は何とかなりそうですけど。」
「何でだ。僕は別に何も頼りにならないと思うけど。」
「旅人とかじゃないんですか?」
「どちらかというと、行先が分からなくなったところに助けられたって感じかな。」
「そういえば、その首輪・・。貴方、誰かの奴隷なんですね。」
「あぁ。だから、自由に行動はできないんだ。」
「うーん。このままナガトさんを連れて行った方が正解かもしれないけど。」
「別に酷い事は今の所されていないよ。」
「今の所は、ですよね。奴隷である以上、騎士に絶対服従を誓っているのは当然なんだから。下手をすればナガトさんが凌辱される可能性だってあるの。」
「凌辱・・?いや、流石に考えすぎだろ。」
「いっその事、私が貴方を救った方がいいのかもしれません。」
「ん?いや、本当に大丈夫だから。エクレールが心配しているような事は何もないよ。」
「なら、その首輪をここで外させてもらいます。」
「な、何でそうなるんだ!?」
「そんな卑しい物を身に着けていたら、貴方は騎士にいいようにされるからです。それを外して私と一緒に行けば、それなりに貴方は自由になれると思いますけど。」
「僕はまだ大丈夫だって。別にそんな嫌な人じゃないだろうし。だからこの先は一人で頑張ってくれ。」
「自分から奴隷になる事を望むだなんて、もしかして変態さんなんですか!?」
「何でそうなる・・!?」
「そうじゃないなら、でも・・。分かりました、私が責任を持って貴方を捕まえます!」
「何の責任を感じたんだよ!?待て、早まるな!」
「早まってるのは貴方です!大体、私だって一人で心細いのに、こんな私を助けようとしない人が悪いんですから!」
「大丈夫だって。お前なら魔王ぐらい頑張れば倒せるだろ。」
「いきなり意味不明な事言わないでください!さぁ、私と一緒に行きましょう!」
「だからそれはそれで困るって。大体、僕が後で待っている奴と再会したら殺されるだろ!?」
「そんな凶悪な人なんですね。そんな人と一緒に居たら可哀そう。」
多分アリシアが居たら確実に怒りそうだけれど、エクレールは僕の腕を掴んで離さなかった。
「私は村に戻れない、貴方は不自由な奴隷。私と一緒に行く理由は殆どあるじゃないですか?」
「不自由だけど別に危害は無いって言ってるだろ・・?」
「そもそも私が誰かに襲われたらどうするんですか?」
「大丈夫だって、その剣で相手を殺せばいいだろ?」
「私がそんな酷い事するわけないじゃないですか。この剣を使う時はいつも牛肉をスライスする時だけなんです!」
「普通に包丁を使えないのか?!」
「貴方は私の事嫌いなんですか!?奴隷で居続ける方が幸せだなんて、そんなのただの変態です!」
確かにエクレールの言っている通りだけれど、もしそれで自由になったとしてもあまり意味は無い。
「分かりました。この私が貴方を自由にします。さぁ、大人しくしてください。」
突然剣を抜いたエクレール、というか明らかに僕はただの被害者に成り果てている気がする。
「その首輪を外すには少し時間がかかりますので、貴方は抵抗しないようにしてください。」
「それ殆ど脅迫じゃないか?そんな事をしてお前になんのメリットがあるんだ?」
「貴方がやっている事だってメリット皆無じゃないですか。首輪を外さない限り、貴方はずっと奴隷のままなんですよ?」
確かにその通りではあるけれど、自由になればアリシアとは縁が切れる可能性はあった。
別にアリシアが好きというわけじゃないけれど、だからって突然会った奴の方を信じれるわけがない。
そもそもエクレールは誰かから追われているんじゃなかったか。僕なんかを気にしている時点で少し怪しい気はしていた。