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「ベルウッド村は以前、酷い疾病が流行った事があるの。それも魔法による治癒に対して抵抗力を持つ細菌が発生したのだから、当時では非常に恐れられていたのよね。今ではその細菌に抵抗する薬剤が製造されているけれど、その疾病の中心地だったベルウッドは人口の半分以上をすぐに失った。当時、その原因不明の疾病は魔女による物だとささやかれ、そしてその犯人捜しが行われる。そしてその魔女と思われる人間はすぐに見つかったけれど、その魔女により彼女を疑った人間は使い魔によって惨殺される。」
典型的な魔女狩りではあるが、この場合は本当に魔女が魔法の力を持っている話だ。
魔女側にとってすれば、不当な理由で自分の力による虐殺を疑われるのは許しがたいことだろう。
「その魔女はゲルニカという魔法使いで、疾病が流行っていた時点では70を超えていた。ギルド協会は彼女を疑ってはいなかったけれど、いくら魔女狩りに遭ったとはいえ人間を惨殺した罪を見過ごすわけにはいかなかった。騎士が派遣されて彼女を捕まえようとするけれど、その姿は無かったの。その代わり、騎士もまた疾病に苦しむようになり、魔女を捕まえるよりも村の人たちを外に出さないようにする必要があった。」
国によってベルウッドは隔離されてしまったのも当然で、ある意味ペトロ以上の災難が起きていた。
ペトロの場合、魔物の襲来から全ての住人が逃げてしまったのが原因だ。死者数に関してはベルウッドの方が上である。
「村人たちは国によってなされた隔離政策により精神に異常をきたし集団ヒステリーを起こす。本来力の無い無能力者を魔女だと思い込み、焼き殺す等の行為を続けてから数か月。村人の数が300人以下に激減した時だった。村の様子が異常なほど静かになり、監視していた衛兵は不思議に思って他の魔法使いと一緒に村を調べようとした。もしかしたら、衛兵と魔法使いは村人が全滅してしまったのかもしれないと考えていたけれど。実際には異なって居た。
村人は確かに存在しており、全て確かに生きていた。その村人は比較的健康で、そして疾病にかかっている様子が無かったの。」
「それは、魔女に助けられたのか?」
「魔女によってコントロールされていた、と言った方がいいわね。いくら魔女でも、自分の力には限界があるから。ゲルニカという魔女は、その300人の村人を魔法でコントロールし、何とか彼らを疾病に感染しないようにさせていたの。つまり、この時点でゲルニカは疾病の感染ルートを理解していたみたい。でも、それ以前にゲルニカを疑った人間が多く彼女を激怒させてしまった。彼女に好意的だった、あるいは半信半疑だった人たちをコントロールし、自分を疑った人間たちを殺害していったみたい。無論、村周辺に存在する集落も含め、魔女によって殺害されていた人間の数は非常に多かった。疾病の対処法による、やむを得ない処置とはいえ明らかにオーバーキル。中には体の破損が酷く身元が確認できない人も含まれていた。」
その惨状によって、一応はベルウッドは大人しくなったと見るべきなのだろうか。
問題は、まだゲルニカが存命中だということは事実なのだが。
「彼女は地下室にこもって居たみたいで、騎士による捜索で彼女を発見するのは容易だった。彼女は以前から村人に対し恨みを持っていたらしい。彼女を拿捕する事を試みた騎士は、背後から突然村人によって殺害されることになる。村人を人質としたゲルニカはそのまま姿だけを消し、疾病だけが取り除かれたベルウッドは後に普通の生活に戻る事が出来るようになった。ただ、村人は本来恩人であるゲルニカに対し強い恐怖心を持っていて、どういうわけか誰も彼女の事を口にはしなかった。」
村人は正気ではあるものの、恐怖だけは取り除かれなかった。
人間が大量に死んだ事ではなく、ゲルニカという魔女に対する恐怖心がだ。
「この時点で実は、ゲルニカという魔女の素顔を誰も見た事が無かったのよ。その魔女は確かに村の屋敷に住んでいたはずなのだけれど、その魔女は殆ど外を出ていなかった。つまり、ゲルニカは最初から全ての村人を疾病が出る前から使い魔で監視していた事になる。そうでなければ、そもそも疾病の原因を外に出ずに探るなんて不可能だもの。その疾病を理解していたゲルニカは、自分に一定の好意を持つ人間のみ生かす方を選び、その村人たちを使って他の人間を殺害し続けた。協会から派遣された騎士は、魔法使いと一緒に彼女の行動を模索する事で、屋敷から一歩も出た事が無い事を確信していたみたいだけど。その騎士は魔法使いと一緒に村人に殺害されたみたい。本来無能力者であっても、魔女によって容易された武器を使えば遠距離からでも魔法を操作できるから。」
無能力者に魔法の武器を持たせて、魔女は遠距離からその魔法の武器を操作する。使い魔から無能力者たちを監視して、自分に敵対する人間たちを魔法の武器で殺害していけばいい。
「そんな行為をしていたら、普通はゲルニカに対して反感を抱く奴だっているだろ?」
「確かにそうだけれど、彼ははそれ以上に自分の死に対して恐怖を抱いていたから。無能力者であるし、ゲルニカは何らかの嘘を言って村人の思考をコントロールしていた可能性もあるでしょう?
疾病の患者数が殆ど居なくなって、惨劇が静まり返った後の村は比較的平穏だった。むしろ以前よりも平和過ぎるレベルで、村人たちは使い魔によって監視され続ける事になる。彼らの人生の殆どは、恐らく数十年ゲルニカに監視されていたから。村人が以前にしでかしてしまった悪い事も分かって居たんでしょうね。
殆どの人権とプライベートを、自分が死ぬ事と引き換えにゲルニカに奪われた彼らは彼女に従わなければいけなかった。
後に最終的にゲルニカに対し反旗を翻した男性が居たけれど、彼はゲルニカを発見できず他の村人によって惨殺される事になる。
私と貴方が泊まったあの宿屋があるでしょう?あの現在使われていない一室で、その村人は鉈を持った4人の女の子に鉈で殺害されたのよ。」
ただでさえ恐ろし状況だというのに、まさか自分が泊った宿屋でそんな事件が起きたとは。
「ゲルニカはその男が、四人の少女に対してのぞき見を常習していたと言っていた事が後で分かったけれど。特にその少女たちは魔女に対してかなり強い信仰心を持っていたから、殺害の実行は容易かった。
協会はその陰惨な事件を起こす魔女を放置するわけにはいかないので、魔法使いを派遣して何とか止めようとしたのだけれど。彼女を捕まえる事は結局できていなかった。以前の騎士は確かに魔女を発見したはずなのに、どういうわけか魔法使いたちは見つけられなかった。」
姿が見えないのだろうか、それとも決定的な見落としがそこに存在したのか。
疾病が既に無くなったにも関わらず村人たちの中でも更に事件が繰り返される。
「村人を全員集めて、そして村の中を捜索する。もう魔法使いは老女なのだから、別にそう見つけるのは難しくないと思われていた。いくら使い魔を使っていても、その年齢に達して居ればコントロールが難しくなるのは理解できていたのに。」
「結局、そのゲルニカは何処に居るんだ?」
魔法にも限界があったとしても、彼女と同じ力を持つ人間が居る以上はすぐに見つかってしまう。
「村人全員の身元を記録して、他の魔法使いも彼らを監視する事にした。そこで魔法使いはゲルニカの身元はすぐに割り当てられたわ。むしろ、最初からそうすればよかったと後悔する程、彼女は簡単な所に居た。そのゲルニカは肉体的には既に死んでおり、その魂をある少女に移していたの。その少女は疾病とは関係のない理由で死に至る直前だった。魔女は彼女を使い魔にした後、力の全てを彼女に与えた。そのついでに疾病を回復させる方法や原因も彼女に伝えていたのだけれど、その少女はゲルニカに対して反感を持っている人間たちに対しては強い感情を抱いていた。
自分を救った魔女をけなす存在を許せなかった少女は、自分をゲルニカと偽り使い魔を使役して村人たちをコントロールしようとした。」
「魔女がそんな簡単に他人に力を分け与えるのか?」
「その少女だけが、ゲルニカの事をよく知って居たもの。つまり、ゲルニカを敬拝していた彼女だからこそあの事件を起こせたともいえる。最終的に他の魔法使いにより少女は捕まってしまったけれど、その少女は自分の罪を認めた後二度とベルウッドへ来ることは無かった。」
それがベルウッドで起きた過去の話というわけだが、しかしその少女は後にどうなったのだろうか。
「その女の子はどうなったんだ?」
「あぁ、一つ言い忘れていたけど。宿屋で男を殺害した四人の少女の中の一人が、そのゲルニカを崇拝していた少女だから。」
つまり、何だろうか。村人を使い魔で監視し、自分もその大量虐殺に参加していたとなるとかなり駄目な気がするのだが。
「少女は他の女の子に対してもゲルニカの力を信じさせることに尽力していた。近くに居る同世代の女の子なら、使い魔を持たずともゲルニカの魔法を演出するには容易かっただろうし。協会の見方では、彼女は疾病の拡大を未然に防いだ聖女として記録しているわね。」
とはいえ、仲間と一緒に男性を鉈で殺害しているためどちらかというと殺人鬼のような気がする。
「もう少し、何というか。普通の女の子がゆるい生活しているファンタジーは無いのか?」
「何童貞みたいな事言ってるのよ。」
アリシアから童貞とか言われたけれど、そのアリシアも未経験のはずなので置いておこう。
そもそも、そんな女の子を聖女扱いする協会はかなり信頼しちゃいけない人たちなんじゃないか。




