○5
本来なら奴隷を受け入れるべきじゃないが、目の前にいる人間がアリシアしかいない。
ある意味悲劇でもあるが、もしかしたらいい方向に向かうかもしれない。
「それで、これからどうする?」
「湖の水質は調べたから、任務はあと二つになったわね。」
「あと二つ?」
「ギルド協会から任務を三つ受け取っていたの。最近人手不足だから、私も帰れる日が少なくてね。リッド山に居る魔物を退治することと、アニーウッドにある屋敷の調査はまだ未完了。だから、そう休められないわね。お互い近い場所だけれど、それを一人に任せるんだから。」
「他に仲間は居ないのか。」
「えぇ。傭兵の方が稼げるし、ギルド協会の監視は厳しいから仕事をしたがる人はそうは居ないわね。簡単な討伐なら、軍隊を動員した方が早いし。」
この場所に一人で任務を遂行しなければならないのは、割と大変だろうけど。
しかし人手不足だからって単独で居るのは、ある意味アリシアを信頼しすぎている気がする。
寒中水泳をして全裸を見らてしまったんだから、もしかしたら何かのミスで大きな事態になる可能性もある。
「大丈夫なのか?」
「心配してくれるのはありがたいけど、私としては貴方が心配ね。」
「何で?」
「無能力者だからよ。」
そういえば、彼女はそう言っていたような。
てっきり、ただの馬鹿という意味だと思っていた。
「魔法とか、そういうのが使えないって意味か?」
「その通り、だからむしろ貴方が同行をするというのが私にとってハンデにもなっている。だから奴隷にはしておくけど、勝手な行動はなるべく避けることね。」
「それは分かったけど。」
さっきまで全裸だった人に言われたくない、という気持ちはあった。
「で、先にどっちに行くんだ?」
「山の方に行くわ。屋敷はかなり時間がかかりそうだし。先に村に戻ってから第二の任務を開始するわ。」
そういうことになった、ナガトにとっては正直早く帰りたい気持ちにはなったが。
「しかし、これだとな。」
焦げて使い物にならなくなったスマホを拾う。
何が原因かは分からないけど、これはもう利用することはできない。
だから、とりあえずポケットにしまっておいた。
お守りみたいには働くだろう。
この世界で、壊れたスマホがどこまでお守りとして生きてくれるかは謎だけど。
「それ、結局なんだったの?」
「なんていうか、理不尽だよね。現実って。」
「異世界から来たみたいに言ったけど、それが本当だとして貴方は何者なの?」
「普通の学生だよ。」
「異世界の学生って、無能力者だけど世界は渡れるの?」
「ナチュラルに聞くな。」
もしかしたら、この後にある程度僕にとっては有意義なことが起きるかもしれない。
そんな不確かな願いを持つことしかできなかった。