○3
その獣の体は黒く分厚そうな体格になっている。あんな物に襲われてしまえば、僕はすぐに死んでしまうのは確実だった。
巨体が動き出そうとする前に、湖に居た少女の元に突然大きな魔法陣が発生する。
その魔法陣が少女の体を光に包むと、瞬時に彼女の体に軽装の装備が出現した。
そして、その彼女の一歩はとても速い。
その初速は人間と思えない速さで、その獣の方へと飛び上がった。
少女の右手にはレイピアが握られており、その刃が青白く輝くのが見えていた。
「はぁ!!」
その光を纏ったレイピアを、獣の頭部に対し突き刺す事に成功する。
そして、光が強まり雷撃が加わる。
その大きな力により獣の体は爆砕され、そのまますぐに灰となって消え去ってしまった。
どうなるかとは思っていたけれど、彼女の迅速な対応により何とか死ぬ事は避けられたようだ。
「一体・・何なんだ。」
明らかに分かって居るとはいえ、裸だった女の子が一瞬で装備を整えて現れた敵を倒す光景を見せられても戸惑ってしまう。
寒さなんてもは気にしていないくらいだが、だからといって安心していられる状況ではない。
何事も無く少女はレイピアをしまうと、ナガトの方に近づいていく。
「さて。そこの痴漢、貴方は一体なんなの?」
「その。僕は明らかに被害者なんだけど。」
「はぁ?何でそうなるのよ。」
「普通は公然わいせつにならないか?」
「だ、誰が公然わいせつよ!不敬罪に価するわ。」
と、せっかくしまったレイピアを彼女は抜いて僕に向ける。
「まさかこんな男に裸を見られるだなんて。」
「じゃぁ服着ろよ。」
「それだと泳ぎにくいでしょう?」
「・・・・・。」
神様、僕はこの少女に一体どのような対応を取ったらいいのでしょうか。
あまりにも難題過ぎる状況に頭痛がしてくる。
「こんな辺鄙な所に人間が来るだなんて思わなかったもの。魔物は普通にうろついているのに貴方は武器さえも持っていないじゃない。明らかに痴漢だって思うでしょう?」
「君は僕をからかってるのか?普通こんな季節に湖に入る馬鹿が居るか。」
「見た目、別にそれほど強い力を持っているようには見えないけど。それに、恰好でいうなら貴方だって寒そうじゃない。」
「これは事故みたいなもので・・。僕は迷ってここまで来たんだ。」
「何処から来たのかしらね。そんな恰好でくるぐらいだから、余程訳ありなんだろうけれど。」
「分からない。本当にこの場所が何処か分からないんだけど。」
「私目当てにしか見えないのだけれど。」
自意識過剰過ぎる変態に馬鹿にされている僕は一体何なんだろうか。」
「そっちは何してたんだよ。普通は風邪をひくんじゃないか?」
「湖の中に入って居たのは水質を確かめるためよ。水属性の応用魔法ならなんとかなるわ。」
「そうか・・。」
あの時の恰好を思い出してしまうと、少女に睨まれてしまった。
「なぁ。もし全く正反対の立場だったらお前はどう思うんだ?」
「とりあえずさっきの魔物みたいに殺すわね。」
「・・・・。」
「まぁ、冗談は置いておいて。貴方、本当にどうして迷子になったのかしら。」
「迷子って。他に言い方があるだろ。僕はただ、よく分からない事に巻き込まれただけだよ。とにかく、僕は無一文なので助けてくれ。」
「はぁ・・?」
物凄く嫌そうな顔をされた。
「全く、何で私がそんな事をしなきゃいけないのかしら。貴方、無礼というものを考えた事あるの?」
「ほう・・?」
むしろ目の前の人間の高慢さは大丈夫なのだろうか。
「別に、君の事を見に来たわけじゃないんだ。むしろ、人が入って居ますって看板ぐらい建てて置いたらどうだ?」
「お風呂じゃあるまいし、そんな事できるわけないでしょう?本当なら私の裸を見た時点で処刑物なのだけれど。」
もし夏場だったら僕はどうなっていたか分からないけど、とりあえず水着ぐらい着てほしい。