○2
正直な話、あの場所でグロテクスな展開を最初から起こらないとは思っていたわけではない。
誰も居ない町に来た時点で明らかに死臭が漂っていたり、あるいは白骨化した遺体が散らばっていた。
多少理不尽な展開は予想はしていたけれど、実際にあのような現場に入ってしまった時点で僕はもう思考が麻痺していた。
明らかに酷い惨状であるにも関わらず僕はあの少女に同行してしまっているのは猛省しているが、そもそも僕はこの世界の住人ではないので反省したからといって何かできるわけでもない。
明らかにおかしいのは自分ではないと自信を持って言えるけれど、その自信を上回る行為をしてくる少女が居るのは諦めを感じていた。
ナガトは基本的には普通の人間であり、別に特別な力があるわけではない。
平凡かどうかは置いておいて、そもそも現実の世界から他の世界へ飛ばされるという経験はそもそもしない筈だった。
原因はよく分からない。突然生じた霧の中に迷い込んで、そして暗闇の中に落ちた。
たったそれだけの異常で僕は本来の居場所からよく知らない場所へと転移してきている。
その僕が転移してきてしまった最初の地点である森の中で、僕は数分ほど気絶していたみたいだ。
周囲はほぼ森の中であり、明かりのような物は見当たらない。
一体何が起きたのか理解しようとして、とりあえずスマホの電源を入れてみたがそれは圏外になっていた。
スマホがすぐに使えなくなるような場所には住んでいないため、僕はそんな状況を半分諦めを感じながら承知して前に進んだ。
気温は物凄く低く、制服では明らかに寒い状態になっていた。
こんな状況になるだなんて思っていなかったけれど、そもそも僕を転移させた原因がよく分からない。
普通なら神様や女神さまぐらい出てもよさそうなんだけれど、僕の場合は何も力を与えられずに転移させられてしまったタイプらしい。
もし死んでしまったら僕はどうなるんだろうか、そんな事は試せるわけでもない。
そのまま歩いて行ってかなり時間がたった気がするけれど、正直この状態を我慢できそうになかった。
道をそのまま進んだことで、幸運にも湖のある場所に到達できた。
しかし、だからといって人工物があるわけではなかった。天然の湖と木々しか存在しない広い空間、もしここが夏場だったらいいのだけれど。
そんな場所に来てしまった僕はどうしたらいいのか、荷物の内明らかに使えない本は木々の所に捨ててしまった。別に、学校の教科書なんて遭難には役に立たないだろうから。
「くそ、神様でも出てくればいいんだけど・・。」
自分はそのまま、この場所でどうするべきなのか考える余裕などなかった。
もしこのまま夜になってしまえば、明らかに危険な状況になってしまう。
中身の無い脳みそを使って考えている内に、そのまま時間が経ちそうだ。
「え?」
ふと、水の音がした。
湖の方へ振り替えると、何かが湖の中から上がってくるのが見えていた。
明らかにそれは人で、その人間は明らかに何も身に着けていなかった。
長い髪でぎりぎり胸が隠れているとはいえ、それは何も意味は無い。
この寒さの中で、湖の中から突然女の子が現れるのは一体何の冗談なのだろうか。
「なっ・・!?」
少女の方も僕に気づくと流石に驚いていたようだ。
「貴方・・痴漢?」
いや、どちらかというと貴方の方が痴女と言いたいのだけれど。そんな事を言う余裕など殆ど無いため僕は深呼吸した。
「こんな所で何で泳いでるんだ!?」
「そんなの貴方には関係ないでしょう?ちょっと、何でこっち見てるの変態!」
「変態なのはお前だ!」
「だ、誰が変態よ!大体こんな所に人なんて来ると思わなかったもの。」
明らかにおかしいのは事実なんだけれど、人がいて良かったとここは落ち着くべきなんだろうか。
落ち着こうとしたところで、特に目の前の全裸で湖に入って居る少女が寒すぎるのでできるわけがなかった。
がさりと、突然物音が僕が来た方向で起きた。
そちらに振り向くと、人間よりも遥かに大きい猛獣がそこに居た。