31. ゴブリン探検隊(3)
アリクマがあらわれた!
アリクマはヤマダをいかくした。
ヤマダはおののいている!
「なんかつまない。弱そうな魔物しか倒してないじゃない。やっぱりあんた大して強くないんじゃないの?」
強い魔物が出たら死ぬかもしれないと言う危機感は無いのだろうか。
「えっと、もう少し深くまで行けば、もっと強い魔物もいますよ。だけど危ないんで、そろそろ帰りましょう。」
俺が強い強くないは、どうでもいいが、死人が出るのはまずい。まだまだ森の浅い場所だが、危険な奴が居ないではない。婆さんすら避ける魔物もいる。
「その強いのを倒して見せてよ。面白そうじゃない。」
なんなんだ。危ないって言ってるのに何で聞いてくれないんだ。死にたいのかな?
「いやぁ、危ないですから、そろそろ帰った方が良いですよ。最悪、死にかねませんよ。」
死ぬと言うパワーワードで脅しをかけていく。こんなクソみたいな場所で死ぬくらいなら帰った方がマシだと思うはずだろう。
「怖いんだ。意気地なし。」
怖いとか怖くないとかじゃなくて、死ぬって言ってんのに何で聞いてくれないんだ。
これはヤバい流れだ。この流れに身を任せると死人が出る。同じ過ちを繰り返してはならない。俺はロアンを絶対に連れ帰る。口答えは許さない。力づくでも連れ帰る。
「帰りますよ! 危ないから帰ります! もし強い魔物が出てきたら、守れません。帰りましょう。」
よし言ってやったぞ! 俺はやればできるんだ! 草食動物も時には牙を剥くように、俺も時には強気に出られるのだ。
「もうわかったから。帰れば良いんでしょ。意気地なし。」
案外、聞き分けが良いな。ちょっと拍子抜けだけど、まぁ危険だって分かったならそれでいい。もうこの村への期待は捨てるがいい。村内にも森にも何も楽しい事なんてありゃしない。魔物を狩るくらいしか娯楽が無い。俺は娯楽で狩っているわけでは無いが、魔物と戦っているとアドレナリンが出ている気がする。だが、決して娯楽で狩っているわけでは無い。俺はそんなサイコ野郎じゃない。ノーマルな人間だ。中庸バンザイだ。
そんなどうでも良いことを考えているとヤバい気配を感じた。これは間違いなく蟻熊だ。顔が蟻で、前脚が左右に2本ずつある熊だ。全くもって進化の過程がわからない。そもそも進化論が適用されているとは限らないので考えるだけ無駄かもしれない。蟻並みに素早く、熊並みの力を持っているらしい。俺はいつも気配を感じた瞬間に、回れ右しているので、遭遇したことは無い。せいぜい、遠目に見たことがある程度だ。見てるだけで怖気を催す奇妙な容姿だった。
幸いまだ遠くにいるようなので、気づかれる前に余裕で村に帰れるだろう。俺の探知能力も捨てたもんじゃない。伊達にレベルは上がっていない。
「あの、危ない魔物が出てきたみたいなんで急いで帰りましょう。」
「面白そうじゃん。倒して見せてよ。」
面白そうってなんだよ。倒したいならお前がやれよ。なんでお前のために命かけて戦わなきゃいけないんだよ。クソガキの面倒見るのは疲れるな。
「いや、ちょっと無理かもしれないんで、とにかく帰りましょう。」
「おーい! 魔物こっちこーい!」
ロアンの手を引いて帰ろうとしていたら、急にロアンが大声を張り上げて魔物を呼び始めた。その声で、蟻熊に気づかれたようで、高速で迫ってきているのが何となくわかった。
ふざけてんじゃねえよ。なにをとち狂ったことしてくれてるんだ。勝てねぇっつってんだろうが。俺が死ぬところがみたいのかこいつは? もう頭がどうにかなりそうだ。
「や、やめろよ! さっきので気づかれたじゃないか! 死にたいのか!? とにかく村に逃げろ! ちょっとだけでも時間を稼ぐから!」
俺の剣幕にようやく事態を理解したのか、ロアンの顔はみるみる真っ青になっていった。何も言えなくなって、ただうなずくしかできないようだった。俺は村の方に向けてロアンの背を押すと、蟻熊の方に向きなおして手裏剣を生成しはじめた。
時間を稼ぐって言っても、稼げるのかどうかもわからない。案外勝てたりするのかもしれないと言う気がしないでもないが、婆さんも村の猟師も恐れるぐらいだから、まぁ無理だろう。
「絶対に、足を止めないでくださいね。私が死ぬところが見たいなら話は別ですが。」
ロアンはヨタヨタとしか走れていないようだ。これは死人が出る流れだな、と物騒な考えが頭をよぎる。まぁとにかく俺は俺で、最善を尽くそう。もし、ロアンが死んでも、俺は精いっぱいやったんだと言えるようになるのが大事だ。そもそも、先生が悪いから俺は悪くないのではないだろうか。うん、とにかく全部、先生が悪いな。よし! なんか集中できてきたぞ!
ヤマダが男らしいところを見せた。
流石は未来の英雄だぜ。




