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私は楽しく生きたくて  作者: めのおび
3章 北の国ガレオン
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5話 私は今気分最悪です

 小夜世 黒(さよせ くろ)は地面に手をつき胃の中の物を外へ吐き出す。



 なんだ、()()は。



 息を吸えば、肺が死の臭いに満ち視界を赤く染める。


 共感覚から伝わる気配はこの世の物とは思えない黒く沈んだ感覚。


 地獄とはまさにこの光景、この惨状、この現実を言うのだろう。入る前に抱いていた、最悪のケースが目の前に広がっている。



 「っ...」


 黒は口を拭いつつ、何とか立ち上がる。


 落ち着け、まずは状況整理だ。


 黒が城壁の上に足を踏み入れた瞬間、この光景が飛び込んできた。


 足を踏み入れるまで腐臭や負の感覚を感じなかったことから、おそらくこの国は魔法の類によって閉じられていたのだろうと推測できる。


 しかし、中に簡単には入れたことから、侵入を妨げるものではないと考えられる。


 だったら...


 黒は城壁の縁から外へ足を出そうと一歩踏み出す。


 「やっぱり...」


 踏み出した足は見えない壁にぶつかり、外に出すことは出来なかった。

 つまり、これは来るもの拒まず、去るもの許さずな結界というわけだ。


 「...」


 普通であれば、増援を避けるために入れず出れない結界を作るべきである。だからと言って、失敗したとは考えにくい。


 だとしたらこれは、増援なんて苦でもないという余裕の表れか、それとも、そもそも増援が来ることがないと考えていたのか。であれば、対応できたAランク以上のパーティーが異常に少なかったことにも嫌な意味が見えてくる。


 「ふぅ....」


 深呼吸はしたくない空気だが、息を整えるために仕方なく行う。


 もうすでにここに来たことを後悔しているが、そんなことは言っていられない。今すぐ下に降りて、生きている人を探さなくては。


 そう思い、飛行魔法を使おうとした瞬間、




 「こんにちは」




 「っ!?」


 横から聞こえた声に驚き、黒は声とは反対方向に跳躍する。


 (人!?そんなはず...)


 生物探知や魔物探知に反応はない。しかし、これが幻覚や幻聴でないとすれば、確かに()()は存在するはずだ。


 「「.......」」


 数秒の間、2人は見つめ合う。


 「っ!!」


 相手の動く気配を感じ、黒は身構える。


 「こんにちは」


 彼女は最初聞いた声と変わらず、嬉しそうな、楽しそうな。そんなトーンで黒に再び挨拶をしてくる。


 「っ....」


 普段の黒ならされたら喜びそうな、幼さを残した可愛い少女からの挨拶である。そんな彼女の髪はオトナシを連想させるほど長く、地面についてしまっているはずだが、魔法を使っているのだろう、その手前で浮遊している。


 しかし、黒はその挨拶に言葉を返せない。


 見た目も黒好み、声も黒好み。髪は艶やかで美しく、光を飲み込む程に深い黒。


 しかし、黒の顔にいつもの気持ちの悪い笑みはない。


 「もしかして...言葉話せない?でも、さっき喋ってたよね...?」


 反応のない黒に口を尖らせ、少女は黒に話しかける。


 「あなたは...」


 黒は震える唇からどうにか言葉を絞り出す。


 「あっ!やっと喋ってくれた!やっぱりおねぇさんの声、私好き!」


 余程、黒が反応したのが嬉しいのか少女は城壁の上でぴょんぴょんと跳ねる。


 そんな少女の様子を見て、さらに戸惑いながら黒は続ける。


 「あなたは......()()?」

 

 そう黒が問いかけると、ピタリと少女は動きを止める。


 そして、ゆっくりと黒のほうに向けられた少女の瞳には、先ほどまでにはなかった闇が宿り、口には狂気の籠った笑みが添えられていた。



 「やっぱりおねぇさん、()()()んだ?」



 黒に新たなトラウマが植え付けられた瞬間である。

 

いつも読んで下さり有難うございます。

感想、ブックマークとても励みになっております。


次回もよろしくお願い致します。

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