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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 隔絶の少女
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第7話  まごころを君へ

「レンガさん! だいじょぶっすか?!」


「こっちは大丈夫だ!」


ユノの放つ炎を辛うじて飛び避けてから、シーデに声を上げる。

こちらが狙われた時にシーデが上手くユノの注意を引いてくれるから何とか直撃は避けられてはいる。


ユノは放射している炎をそのまま凪ぎ払う事もしてく為、ただ直線的に範囲外に逃げればいいものと言うものではなかった。

おまけに、古式銃は樹の術に阻まれてしまい、実質ただのお荷物状態であった。

自分の不甲斐なさに顔を歪めつつ、ユノを見る。


キツく噛み締める口と、かっ、っ見開かれ濡れる瞳。

それは、苦しさに堪える様な、苦渋の表情。


・・・ユノ。




私は動き回るシーデに向かって何度も火の術を放射する。


「くっ・・・ううぅ・・・・」


止まらない涙で視界が悪い。でも、それは止めることが出来ない。


私をユノっち呼んでくれたシーデ。

私にご飯をくれたシーデ。


「うううぅぅっ・・・・」


こんな事になるなら会わなければ良かった。あの時、歩き回らなければ良かった。

ほんとはこんな事したくない。


でも、こうしなければ私に未来はない。

私の苦しかった日々は何も得られず終わってしまう。


そんなの嫌だ・・・。

私はもっと生きて楽しい事を見つけたい・・・。

だから、今は考えるな・・・。考えたらいけない。


そんな思いとは裏腹に、私の頭の中を駆け巡る。

レンガ達とも先程の光景が。


一緒にやった釣り・・・。

みんなで囲んだ、楽しかったご飯・・・。

私を、友達だと言ってくれたみんな・・・。


突然、猛烈な吐き気に襲われて、両手で必死にそれを押さえる。


なんで・・・なんで、こんな事になるの・・・。

なにが、いけなかったの。

私は、ただ普通に幸せに生きたいだけ・・・。

それすら、私には許されないの?


その隙に一気に近づいて来ようとするシーデが見える。


私は彼等を殺して、この先生きて行く。

彼等の死に様を目に焼きつけて・・・。


この場に座り込んでしまいたい、という欲求が膨らんでいく。

でも、それが意味することは・・・。


更にキツく奥歯を噛み締める。

それと同時に口内に、鉄の味が広がった。


「くうぅ!!」


樹の術を発動して自分の身の回りに大量の低木の壁を作る。

シーデがそれから逃れる様に退いていく。


ダン!!!


その破裂音を聞いて再び樹の術を発動する。


怖い・・・怖い・・・。

もう嫌だ。何で私はレンガ達と殺し合わなければならないの?


自分の中にすぐにでも、攻撃を中断したいという感情がドンドン膨らんで行く。


でも、私が攻撃をやめたら・・・。


怖い・・・。嫌だ、死にたくない。

誰か助けて・・・私は、どうしたいいかわからない。


激しく混乱する感情に引き裂かれ、更に涙が溢れ出した。



今、自分の目の前には半狂乱になりながら必死に応戦している少女の姿があった。

もうやることは決まっていた。


先程、一度ユノが体勢を崩した時にそれは確信に変わった。


足元の拳程の石を拾い上げる。


今、ユノはシーデに向かって火炎を放射しようと手を翳している。


すまない・・・。ユノ。


心で呟くと同時に振りかぶって、ユノの身体目掛けて思いっきり石を投げ飛ばした。


ガツッ!!


「うぅぅ!」


それはユノの脇腹に当たり、ユノは小さな呻きと共にその場に膝をついた。


その瞬間、シーデが猛スピードでユノに迫る。

しかし、次の瞬間。


ガサッ!!

グシュゥ・・・

殆ど反射的に放ったであろう樹の術で生やされた低木にシーデは引き裂かれて宙を舞った。


だめか・・・。


そう思った時、ユノの動きが止まった。

打ち上げられたシーデを見ながら、立ち尽くしている様にも見えた。


俺は迷う事もなく真っ直ぐに目の前にある低木の隙間に突っ込んだ。

低木に備わっている無数の枝が身体に次々と傷を作っていく。

しかし、そんな事は気にせず、無心でその先にいるであろうユノの元を目指す。


そして、到達した。


今、目の前には少女の小さな背中がある。

肩で激しく息をする少女は、まだこちらの存在に気が付いていない。


ユノは中距離、遠距離に関しては滅法強いが、ゼロ距離まで来てしまえば途端に攻撃手段を失ってしまう。

そして、こちらの攻撃は音を頼りに防御している。

それさえわかってしまえば。


「ユノ・・・」


その背中に小さく囁く。

少女の肩がビクッと跳ね上がり、ゆっくりこちらに振り返ってくる。


振り向いた少女顔は泣き腫らし瞳は真っ赤になっており、今もまだ薄く流れ続けていた。

その足は小刻みに震えて、今にも倒れてしまいそうな様子だ。


「あ・・・あぁぁ・・・」


ユノは恐怖に染まった瞳を固く閉じて、唇までもが震え出していた。


ユノ・・・。


古式銃を持つ手に、力を込める。

そして。



古式銃を取り落とし、少女の小さな頭を抱き寄せた。

何故、自分がこんな事をしたのかわからない・・・。


もし、少しでもユノが反旗を翻せば、一瞬で殺されてしまうだろう。

これはそんな迂闊で甘い行動だった。


でも、考えるより先に身体が動いてしまった。

シーデを引き裂いて、唖然とする少女の光景が蘇った。


「・・・レンガ」


ユノの震える声が聞こえた。

俺はその腕に更に力を込めて、絞り出す様に声を出す。


「・・・ユノ、なんで俺達が殺し合わなきゃならないんだろうな」


「・・・わからない。わからないの・・・。」


ユノは呪文の様に、何度も呟いた。


ユノも俺達と同じなんだ・・・。

なんでこんな事になってしまっているのか、わからない。

震えるユノはそんな風に見えた。


「ユノ、俺達と一緒に行こう・・・。」


別れ側に発した言葉を、もう一度口にした。

祈る様な気持ちで、静かに。


「でも・・・。」


しかし、ユノは低いトーンで呟いた。


「俺達に、ユノを救う手立てはわからない。でも、こんな事おかしいとおもうんだ・・・。」


ユノは何も言わない。

腕の中で固まったまま、身動ぎ一つしない。


「ユノ、一緒に行こう・・・。俺に君を救い出すチャンスをくれないか?」


ユノの身体がに力が入るのがわかった。


「・・・私、一緒に行ってもいいの?」


「勿論だよ。お互い、こんな事じゃなく、違う事に命をかけていこう・・・。」


「でも、私・・・。化け物かもしれない・・・。」


ユノは服の裾を掴みながら、震える声を上げた。

そんな少女に、優しく声を掛けた。


「そんな事、気にするもんか。ユノはユノだろ?」


少女の震えは徐々に止まり、今度は激しい嗚咽で身体を震わせ始める。


「うっ・・・・うううぅ・・・」


腕の中で、小さく涙を流し続ける少女を安堵の眼差しで見つめた。


すると、ユノの後方の森で何が動いた気がした。

その暗闇に、目を凝らす。


森の闇の中に、先程の男が槍を構える姿が見えた。


「あぶない! ユノ!」


声を上げると同時にユノを抱えて横に倒れかかった。


ジュッ!!


男の槍から放たれた熱線の様なものは俺のコートの端を掠めていく。


「大丈夫か? ユノ?!」


一緒に倒れているユノに声を上げる。


「だいじょぶ。レンガ、私に任せて」


ユノはそう言うと、涙を拭いながら立ち上がり、鋭い眼光を男に向けた。


再び男の槍から熱線が放たれた。

それが高速でこちらに迫って来る。


ガサッ!!!


しかし、それは瞬時に周囲に現れた低木にあっさりと相殺された。


さっきまで驚異だった攻撃も、味方になるとすごく頼もしいな・・・。

そうな事を考えていると、あることに思い当たる。


あいつはユノとの付き合いが長い筈だ、ならその術の弱点も勿論・・・。

そして、周囲の低木が地面へ下がって行く。


「ダメだ! ユノ! すぐに伏せろ!!」

「えっ?」


ユノが小さく呟いたの時。


ジュッ!!!!


熱線がユノの腹部を突き破り、その衝撃と共に後向きに激しく倒れた。


「ユノ!!」


直ぐ様、男に向けて引き金を引く。


シュッダン!!!


爆発音と共に男の左肩から少量の血が吹き上がる。


浅い・・・しまった、もう弾が・・・。

弾を撃ち尽くし、白煙を上げる古式銃を、苦渋の表情で睨んだ。


すると、男の少し後方でグレースが弓を持ってゆっくりと起き上がるのが見えた。


男もそれにすぐに気が付き、こちらとグレースを見渡すと、肩を抑えて森の中へ飛び込んで姿を消した。


去った男を確認してから、声を上げた。


「グレース!! こっちに来てくれ! ユノが!!」


グレースはそれ聞くとすぐにこちらに駆け寄って来て何も言わずに治療を開始する。


「レンガ様、あの男をお願いします!」


グレースの射抜く様な眼差しで、こちらを見た。


「そうっすよ・・・ここはあたしと姉さんに任せるっす」


続けて、シーデが血にまみれた身体を押さえながらゆっくりとこちらに歩いて来ていた。


「わかった。ここは任せたぞ」


そして、苦しそうに目を閉じているユノの頬を手を当てて呟く。


「ユノ、がんばれよ」


そして、すぐさま男の消えた森に飛び込んだ。



猛スピードで森を走り抜ける。

男は怪我を負っている。

そう遠くには行ってはいないはずだ。


しかし、どっちに行ったかはわからない。

あいつはかなり慎重な男だった。

勿論、こちらが追って来ることも考慮している筈だ。


・・・ならば、こっちだ!

そう考えて、木々の少なくなっている山岳地帯の方へ進む。

でも、もし読み違えたら・・・。


しかし、そんな不安は徒労に終わり、遥か前方に男の背中が見えてくる。

男の進路を確認するとすぐさま横の木に身を隠して装填を始める。


そして、装填を終わらせると、男の進路を迂回するように木々の中を進んでいく。


あいつは絶対に許さない・・・。

男の放った最初の熱線攻撃、あれはおそらく自分とユノの両方を殺す気だったのだろう。


あれだけユノをけしかけておいて要済みになったらまとめて殺すか・・・。

そんな考えに静かに怒りが高まって行った。



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