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誤解合戦

 広間のテーブルに所狭しと肉料理を並べ、ルルアナスタシア殿とマリーが来るのを待つ。


 我が屋敷には食事の際に必ず守るルールがある。それは主も使用人も皆集まって一緒に食事をするというものだ。


 これはまだ幼かった私が使用人たちに囲まれ見られながら食べるのが心苦しかったことから始めたもの。みな最初は「恐れ多いです……」と拒んだのだが、幼かった私が大人に囲まれ食べる様をじっと見つめられる気まずさに耐えられず、いつしか恐怖から涙を流して食べるようになってしまった。そうなると使用人たちも居心地が悪くなったのだろう渋々ながらも、ともに食べるようになってくれた。

 そんなことを何十年も続けているうち、今では使用人たちは歓談しながら一緒に食べてくれるようになり、食事の席だけではなく普段から気さくに話しかけてくれるようにもなっていった。

 ハンスなどは私を主だと思っていないかのような無礼極まる言葉遣いと態度で接してくるのだが、私にはそれが心地よく、つい甘やかしてしまい爺やに揃って小言を言われるのだった。


 私は屋敷で取る食事の時間が何よりも尊いと思っている。それこそ、夏場に腋汗でシャツが染みてしまったメイドの次に尊い。

 大声で話しながら食べるなど貴族としての作法がなっていないと言われるかもしれないが、自分の領地にいるときぐらいは好きに食べさせてほしい。


「……」


 いつもは軽快なトークで私を笑わせてくれるハンスが横に座ったきり目を瞑っている。

 こんな贅沢は久しぶりだ。もしかしたら貧民上がりのハンスは豪華な料理に臆しているのかもしれない。どれ、悪戯でもしてやるか。鼻の穴に抜いた髪の毛を挿して……いや待てよ。私の人体の一部だったものが男の体内に侵入するのは何かおぞましいな……。


 やめておこう。髪の毛を抜いたところから私をずっと睨んでいるパラウドも気になる。あいつは仕事熱心過ぎて融通が利かず冗談もわからない男だ。毛髪の成分がどうのと、また訳の分からない専門知識を披露されながら飢えた狼のような鋭い目で睨まれ続けるの御免だ。


「遅いな……まだこないのか」

「早く食べたいですね」


 ハンスがあっさり目を開く。こいつめ、さては私に悪戯を誘いカウンターを食らわせるつもりだったのだな? 危ない危ない、引っかかるところだった。


 一同席につき、見ているだけで涎が出そうな肉料理を前にしてお預けをくらっているのは、ルルアナスタシア殿とマリーが広間へやってこないので食事を始められないからだった。


「ルルアナスタシア殿には時間と場所は伝えたのだよな?」

「伝えてありますよ。屋敷が馬鹿みたいに広いから迷っているのかもしれないですね。見てきましょうか?」

「馬鹿とか言うな、また爺やに叱られるぞ。まぁいい、私が行ってこよう」

「伯がですか? それだと結局俺が怒られるんで、俺に行かせてくださいよ。最近は執事長だけじゃなく、伯に仕事をさせるなって執事衆やメイドたちもうるさいんですよ」

「ハハ、彼らは仕事熱心だからな。ハンスがサボっているようにみえるんだろうさ。今回もまた叱られてくれ」


 俺が熱心じゃないみたいじゃないかとハンスがぶちぶち文句を垂れているが、それを聞き流して広間の出入り口を目指す。途中何人かに止められたが同じ説明をして広間から出た。


 馬鹿みたいに広い屋敷のルルアナスタシア殿の私室の前に立って、一度深呼吸をしてからドアをノックする。


「ルルアナスタシア殿、部屋にいるのか? 食事の用意ができているのだがまだ来れそうにないか? 結構な物を奮発して用意したんだ、冷めてしまう前に食べてほしいのだが」


 金に卑しい男だと思われるかもしれないし、女性を急かす品位の欠けた男だとも言われるかもしれない。だがそれでいい。本当の自分をさらすというのは見栄や無用な意地も捨てるということ。最低限、ハイルズの格が保てれば私個人の評判などどうなっても構わない。


「べ、ベルヴェールが来たの!?」

「ああ、遅いので何かあったのかと思ってな」


 一度驚いたような声がしたが、それきり返事がなくなってしまう。


「何か部屋に不備や不満でもあったかな?」

「大丈夫よ! ただちょっと……」


 ちょっとなんだ? まさかムラムラして一人ヨガリーをしているのではないだろうな!?

 先ほどルルアナスタシア殿に誘われたが私は子供だからと華麗にいなしてしまった。そのせいで昂った身体が静まらず――。


「あーベルヴェール様、一つ相談があるのですが良いでしょうか」


 この声は従者のマリー……ふ、二人でしているのか?

 それに相談とは……三人で慰め合いっこしようとかそういう素敵な提案かな!? 四十年分の鬱積を慰められたら私は瞬時に落ちる自信があるぞ!


「どどどどどどどうしたかな?」

「ちょっと部屋に入ってもらってきてもいいですかー?」

「いいの!?」


 入ってきてもらうとは下腹部の赤ちゃん部屋にか!? 食前の一発をキメてほしいと言うのか!

 ……落ち着け、状況から考えてそんなわけがないじゃないか。いくら魔族の魔は色情魔の魔だと言っても食前酒代わりに領主液を求めるような変態なわけがない。


「し、失礼するッ」


 緊張して震える手でノブを回してドアを押すと、広い室内の中心にルルアナスタシア殿とマリーが立っていた。

 女の子の部屋に入ってしまった……。つい先ほどまで誰の部屋でもない、ただの空き部屋だったというのに、そこに女性がいるというだけで特別感がキラキラと輝いている気がする。


「それで相談というのは……ぬほぉ!?」


 思わず尻穴に棒きれでも突っ込まれたような声を出してしまう。


「ほらぁベルヴェール様も驚いてますよー。実はルル様が言うことを聞いてくれなくて―」

「我儘を言う子供みたいに扱わないで!」

「そのものなんですよー」


 返事を返すことができなかった。私はただルルアナスタシア殿の姿に見とれてしまっていた。


 ルルアナスタシア殿は先ほどとは違う衣服を身に着けていた。長かったスカートはミニスカートに変わっており、上着は紺色のブレザーに……と、そこまでは良かった。問題はブレザーの下に黒い下着しか身に着けていない点である。さっきは魔族は変態ではないと思ったが訂正しよう。がっつり変態であると。


「ベルヴェール様もドン引きしちゃってるじゃないですかー。やっぱりちゃんと服を着てくださいよー」

「いやよ。下着と上着だけでも譲歩したの。これ以上何かに縛られるのは絶対にいや」

「もう……ベルヴェール様ぁ助けてくださいよー」


 マリーが困ったような視線を送ってくるが、私にどうにかしろと言われても無理だ。これ以上見ていると愚息が本領を発揮してしまうかもしれない。


「服を着こみ過ぎては動きが鈍るの。有事の際に即応できないじゃない」


 む? その気持ちは痛いほどわかるぞ。

 なるほどそういうことか。ならば愚息が云々と言っている場合ではないな。


「そういうことなら理解できる」

「え?」

「へ?」

「なに、私も常々服など邪魔だと思っていたのだ」


 ルルアナスタシア殿はただの色情魔ではなく同好の士だったか。


「動きを阻害し、本来あるべき自由を奪われる。それではいざというときに一手間取られてしまい、その一手間が致命傷となる場合もある――」


 幼き頃、膀胱の許容量が限界に達しトイレに走ったことがある。


 力めば漏れる、だが力んで走らなければ間に合わない――最悪のジレンマと尿を抱えトイレへ向かった。股間は熱くなり、最早漏れているのかいないのかわからなかったが、希望に縋り最後まで諦めずに極力膀胱に振動を与えぬよう小走りに、足を上げず滑るように駆けた。

 しかしこの馬鹿みたいに広い屋敷のトイレは子供の足ではあまりにも遠すぎた。現実とは非情なものだ。結局トイレには辿りつけたものの脱ぎ切る寸前に私は漏らしてしまい、こんなことなら最初から脱いでおけばよかったと嘆いたのだった。


 思えばあれが脱衣に対する熱い想いを抱える切っ掛けとなったのかもしれないな――。


「ふぅん……人族なのに強者としての心構えを理解できているのね」

「ああ、自慢ではないが私はとびきり強いからな」

「自分でそこまで言い切るなんて大した自信ね」


 性欲ならば自信がある。

 つい先日も一日何回抜けるか挑戦したのだが、記録は最高記録の六十九回。七十回の大台に乗るぞというところで惜しくも日付が変わってしまい、愚息とともに悔し涙を飲んだが、前回の四十七回を大幅に超えての記録更新だったので概ね満足している。

 翌日は足腰が立たず、爺ややメイドたちに多大な迷惑と心配をかけてしまったが、まさか抜きすぎて疲れたとも言えず無理して働いた。


「しかし、さすがにその格好では皆が驚いてしまう」

「ふんっ、少し見直したけど結局ベルヴェールも同じなのね」

「そう言ってくれるなルルアナスタシア殿。服の束縛は確かに鬱陶しいが、こうは考えられないか? 服を着ていても脱いでいる時と変わらぬ動作ができるようにすればいいのだ――と」

「服を着ていても脱いでいる時と変わらない動作……」

「そうだ。常在戦場の心構え、実に素晴らしい。だがそれは心構えだけが先行しすぎていて、内容が伴っていない」

「どういう意味よ」

「戦いに備えつつ、なお通常と変わらぬ性活を送る――それができるのが真の強者だと私は思うのだ」


 突如発情した私がメイドに襲い掛かり、「まだ外も明るいうちに、そんなご主人様!」とパンティだけをずらして挿入するという鉄板のネタは、そういった心構え無くしては成立しない。

 一人の女性がコスチューム一つで様々な顔を見せる着衣()ックスは控えめに言って最高だと思う。服を着るというのは、ある意味服を脱ぐよりも興奮するものなのだ。


「真の強者……」

「私もルルアナスタシア殿の気持ちを尊重してやりたい。だが人族の国は強さに厳しいのだ。下手にその格好で外に出れば、強者だからと牢に入れられてしまうのだよ」

「そ、そんな横暴な……! 強さを示して何が悪いと言うの!」

「行き過ぎればシャラザードでも捕まりますよ――」


 私の領地なのだから好きに法を変えればいいのだが、そこまでしたらただの悪徳領主になってしまうので、できるわけがない。


「そう、この国の法はあまりにもうるさすぎるのだ! しかし雑音を気にせず生きることなど獣でもなければできぬ。私も領主という立場があるため、好き勝手に生きるわけにはいかなくてな」


 猥褻物がどうのこうのと法はうるさいのだ!

 生まれたままの姿で外に出て何が悪い! 皆生まれたときは裸だろうに!

 偉そうなことを言うやつらだって昼夜問わずにいやらしいことをしているだろ! 知っているんだぞ王国法務官のガンゼル……。貴様は普段、法を守るは国家を守ると同義――とかなんとか難しいことを言っているが、極度の熟女好きで王宮で働く歳のいった熟女人妻メイドとこっそり逢い引きしているのを! お前全然守ってないじゃないか! 攻めてるじゃないか!


「で、でも立場に縛られるのだって、それは弱さじゃないのかしら。だから私は――」

「違う!」

「ッ!?」


 おっと、つい大きな声を出してしまった。


「と、断言はできればよかったんだがな。私には守るものがあり、守るべき者たちがいる。守るもののために我を抑え、弱きを演じることも時には必要なのだ」

「守るための弱さ……。他者から弱者だと思われるのは我慢ならないわ」

「人間とはそもそも弱いものだ。その弱さに多少の差異があるにすぎないのだから、気にするほどのことじゃない」


 と言えればいいのだがなぁ。本来の自分を抑圧して生きるのは中々に辛いものだというのが本音だ。


「え、これなんの話ですかー?」


 半裸になりたがり従者をこまらせるほど性欲が強いのに、ルルアナスタシア殿はまだ上を目指すか。そうなればあとはもう自然な姿、全裸になるしかない。さすがにそれは止めねばなるまい。私の愚息が鬼勃起して、子供ボディに欲情する変態だと使用人に思われるのは好ましくないからな。


「自然体であろうとするのは素晴らしい、私もつい先日まではそうあろうとしていた。しかし気づいたのだ、自然体で生きようとすれば私が守ろうとしている者たちにいらぬ負担を与えてしまうのだと」

「そ、それは……」


 ルルアナスタシア殿にも思い当たる節があるのだろうな。


「考えてみてほしい。ルルアナスタシア殿が好きな肉があるだろう。牛でもいい、豚でもいい、鳥でもいい、腹ペコのルルアナスタシア殿の前に彼らが食卓にそのまま、それこそ自然体で生きたまま乗せられていたらどう思う?」

「……食べられないし、困るわ」

「そうだろう。肉だって生まれたときから調理されているわけではないのだ。皮を剥ぎ、内臓を出し、血を抜き、一連の加工がすんでから調理台に乗って、煮る焼く炙るなどの調理の工程に入りさらには調味料で味付けをされ、皿に盛られてテーブルに運ばれて我々に御披露目される。牛や豚などの獣ですらそういった過程を経て人前に出るのに、我々人間だけが努力もせずにありのままに生きようというのはあまりにも傲慢だとは思わないか?」


 獣以下の野蛮な心を解き放ち、全裸で自由に野原を駆け回りたい。メイドたちを追い掛け回し、追い掛けられたい。だがそれはできないのだよ。


「努力をせずにいれば獣以下になってしまう……確かにそうね。私は結局自分を隠して生きているもの……。それなのに強さを求めて――」

「だからルルアナスタシア殿、貴女は美しいのだ」

「ッ――!?」

「……?」

「自然体でいることを拒みつつ、自然体を求める……それは超自然。その域に達しようともがく貴女はどこまでも美しい」


 全裸でありたいのに半裸でとどまり、世間の目を気にして本当の自分をさらせずに苦しんでいる。そんな彼女の葛藤する姿がいじらしく、本心から美しいと思えた。


「なんの話をしてるんですか? 自然でいるのかいないのかとか、牛肉がどうのってさっぱりなんですけど……」

「これは強さに興味のないマリーにはわからない深い話よ」

「えー……」


 全裸で生きるというのは性欲が強くなければ難しく、普通ならば思いつくものではない。マリーのような性欲のなさそうな薄い顔立ちではついてこれないだろう。


「ルルアナスタシア殿」

「な、なに?」

「貴女は強く、そして美しい」

「また……美しいって言った……」

「だが今はまだ原石なのだ」

「原石?」


 ルルアナスタシア殿は磨けば光る美の原石だ。いずれは磨けばシコい()の宝石へと変わるだろう。


「私とともに内なる強さを磨かないか? 真の強者は衣服の有無になど左右されん。むしろ服を着ている状態だからこそ強さと美しさを感じされるものだ。いや、強さこそ美しさなのだ」


 うちのメイド服とか滅茶苦茶強そうだからな、性欲。


「強さが美しさ……考えたこともなかったわ」


 身に着けている黒い下着は細かな刺繍があり芸術性の高いもので、ルルアナスタシア殿の白い肌が良く映えている。改めて見ると……子供でなければ危なかったな。


「……マリー、ブラウスをちょうだい」

「あっ、はい。今ので納得するんですね」


 良かった。ルルアナスタシア殿は服を着る気になってくれたようだ。


「努力はするわ。でも窮屈なのは苦手なの」


 そう言ってブラウスの第三ボタンまで開け放ち、黒い下着は見えたままになる。これがロリアナスタシア殿だから良かったが、うちのメイドたちがやっていたら七十回の大台など容易く超えられただろう。私がロリコンではなくてよかったと思う反面、ロリコンだったなら何回イケただろうかと考えて苦笑する。


 私がロリコンだったらなどと考えるのは詮なきことだな。


「ゆっくりでいい。ルルアナスタシア殿にはルルアナスタシア殿のペースがある。一度にすべてを得ようなど、それこそ人の傲慢だ。着実に一歩一歩高みを目指そう」

「そうね。技を一つ覚えるのだって一日では無理だものね」


 技を覚えるか。その幼い体でどんな性技を持っているのやら――ってこらこらこら愚息反応するな! 相手は子供だぞ! たくっ、お前はどこまでも素直なやつだな。


「ベルヴェール、私は貴方を誤解していたわ」

「どういう誤解をされていたのかは知らないが、誤解が解けたならなによりだ」


 本当の私を知ってくれたと、そういう意味だろうか。だとしたら嬉しいものだ。普通なら嫌悪されてもおかしくない話をしたのに、引かずに本当の私を認めてくれているように見えるからな。


「ねぇベルヴェール、その……これからはルルと呼んで頂戴」

「べつに構わんが」


ルルアナスタシア殿は長いから呼びづらかったんだ。いつかロリスタシアだとかアナルルスタシアだとか言ってしまうのではないかとひやひやしていた。


「ルル様、いいんですかー?」

「か、勘違いしないでよ! 貴方が強いのは認めるわ、でも私より強いと認めたわけじゃないんだからね!! 必ず手合わせはしてもらうわ!」

「ハハ、確かにどちらが強いかは手合わせしなければわからないな。だが私にその気はない」

「むぅ……今の私じゃ本気になれないと言いたいのよね……」


 ロリアナスタシア殿と手合わせするとしたら、それはあと十年はたってからだろう。プ二穴を攻めるには私の愚息は(おお)きすぎるのだよ。


「ではルルアナスタシア殿――」

「ルルよ」

「あ、あぁ、ルル殿」

「違うわ、ルルよ」


 唇を尖らせ私を見上げるルルアナスタシア殿はどこか拗ねているように見えた。この構図が妹あやしている兄のように思えて自然と笑みが浮かぶ。こんな可愛い義妹なら将来が楽しみすぎて最高に滾るんだけどなぁ。毎日一緒のベッドて寝て、一緒にお風呂に入り、ことあるごとに身体測定をしてやりたかった。


「ルル、皆が待っている。一緒に食事をしよう」

「――ふふ、いいわよベルヴェール。貴方がどうしてもというなら一緒してあげる」

「ク……フハハッ」

「にゃふふ」

「アーッハハハー!」

「ニハァッハッハーッ!」


 よくわからないが、二人で笑った。

 マリーは何故か気まずそうに爪をいじっていた。



 ☆



 肉がどうとか強さがどうのとか服を着る着ないだとかは、あたしにはさっぱりだったが、よくわからないままルル様と辺境伯が仲良くなった。あたしは頭がおかしくなりそうだった――あるいはおかしくなったのかと思った。


 ルル様は対等以上だと認めた者にしか許さない「ルル呼び」を辺境伯に求めた。ルル呼びが許されている者は少ない。それを人族の男に許すなんて信じられないことだった。

 恐らく執務室で突っかかり見事にあしらわれたことで辺境伯の強さに興味を持ち、自室で行われた頭がおかしくなりそうな強さ哲学談義でがっつり気に入ってしまったのだろう。それか褒められなれていないルル様のことだ、美しいだなんだと言われてその気になってしまったのかもしれない。男慣れしていないので異性として意識しているようには見えないが、これは今後どうなるかわからない。


 なんにせよ気難しいルル様をたった一日で手なずけるとはベルヴェール辺境伯侮りがたし……。

 タチバナさんに続き辺境伯にまでルル様が心を開くなんて、それは素晴らしいことだと思う。強いと見れば誰彼構わず戦いを挑むルル様が人族との友好を求めたのだから、ちょっとしたパーティーを開きたくなるぐらい嬉しいことだ。




 晩餐の席順は、辺境伯とハンス君が隣同士の席に座り、辺境伯の左からルル様と私が並ぶ。その他は執事やメイドたちが座っていて、みなとてもリラックスしており主を前にした使用人というよりは、友人の集まりのような賑やかさだった。


「ブハァッ――!」

「アハハハッ!」

「ハンス、貴様また旦那様になんという――!」


 特に辺境伯とハンス君は二人で楽しそうにお喋りをしながら食べている。辺境伯を笑わせて牛乳を鼻と口から吹き出させて、それを別のイケメン執事――パラウドさんが怒鳴り、辺境伯が手を伸ばして制する。


 辺境伯ほどの人物ともなれば自分の手を汚さずに使用人の一人や二人は容易く消すことができるだろう。だと言うのにハンス君は吹き出した辺境伯を見て指をさして大笑いしている。辺境伯もそれに怒った様子もなく咽ながら笑って顔を拭いていた。


 強権を持つも寛大な領主と、その領主を兄の様に慕いイチャつくハンス君の姿はどこまでも尊く貴い。


 ハンス君がソーセージにかじりつくと、辺境伯が何かを囁きハンス君が吹き出す。

 あぁ、太い肉棒を頬張りながらイチャつくなんて見ているこちらの顔がニチャついてしまって困る。


 ダメ、心の闇が騒めいている。


 こっそり人参を辺境伯の皿に移すハンス君と、それに気づいて反撃とばかりに大量の人参をハンス君の口に詰め込もうとする辺境伯。もうさ……そんなイチャイチャとかいいから本番に行けや! お前のぶっとい動物性の人参でハンス君の口にたんぱく質を補給してやりゃいいじゃねぇかおい! と叫んでしまいそうになるのを必死にこらえた。


「ねぇマリー、これが人族の貴族の食事風景なの? こんなにも賑やかで楽しそうだなんて……」

「いえー、これは人族でも珍しいですねー。魔族よりもよっぽど堅い種族で、見栄を重んじると聞きますし。辺境伯が特別なんでしょうね」


いつも広い食堂であたしと二人、音もなく静かに食べていたルル様には信じられない光景でしょうね。


「そう……じゃあこれがベルヴェールの守りたいもので、守りたい者たちというわけね……」


 ルル様が珍しくセンチな顔になって賢しらな事を言っています。難しいことを考えると熱が出るのでやめた方がいいですよ。

 

「どうかなルル、ハイルズの肉は口に合うかい」

「ええ、シャラザードの魔物肉に引けを取らないわ――」


 静かに食事を続けていたルル様に辺境伯が話しかける。誰も一人にならないよう気を使っているのだろう。細やかな配慮だ。あの優しそうな笑顔を夜はハンス君が独り占めするのだろうか……おいおいおい、たまんねぇなぁ!


「そういえばシャラザードでは魔物を食べるのだったな」

「シャラザードは食べる物が少ないから魔物肉も貴重な食糧なのよ。気持ち悪いと思った?」

「いや、私も食べたことがあるし、実は牛や豚よりも好きなのだ」


 悪戯っぽく言って少年のように笑う辺境伯。


 魔物を食べるというのは人族にとっては野蛮な行いに映るだろう。だというのに辺境伯は周囲を気にせず魔物肉が好きだと言って笑ってみせた。

 なんだ、この人。ルル様を落とすつもりなのかな? 男慣れしていないルル様は顔を寄せられて耳まで真っ赤だ。何その私には見せたことのないルル様の表情。くっそ可愛いから絵画にして残したいんですけど。


「あー、しかし魔物の肉は美味かったがスライムコアだけは駄目だったな。中が(から)の石を噛んでるみたいで食べた気がしなかった」

「苦手なものはないと言ったけど、あれは私も無理よ。味がしない上にお腹も満たされないんだから最早食べ物ですらないわ」

「スライム自体を煮て飲む者もいたが、あれは鼻水を飲んでいるみたいでどうもなぁ……おっと食事中に失礼した」

「汚いわね」


 一瞬嫌そうな顔をするがルル様は笑っていた。


 辺境伯は話の引き出しの多い方だ、さぞモテるだろう。特にあの執事衆とかいう色とりどりのイケメン集団に引っ張りだこにされて、服を破られ壁に押し付けられながら無理矢理バックで……っと、闇よ失せなさい。今は出てきては駄目よ。


「魔力を帯びた魔物の肉を食べる、通りで魔王の魔力が凄まじいわけだと納得がいったものだ」

「父う……ゴゴムストリアス陛下を知っているの?」


 今、父上と言いそうになりましたね? 何うっかり国家機密を漏らしそうになってるんですか。そういう萌えポイントはいらないからやめてください。


「ああ、あいつとは長い付き合いでな、始めて会ったのは三十年前か? 御師様の紹介で出会ったんだ」

「あいつって……えっ、三十年前? ベルヴェールは今何歳なの?」

「私は今年で四十六だが?」

「へぁッっ!?」


 驚き方も可愛いですねルル様。もしロリコンが近くにいたら飴ちゃんあげてトイレに連れ込んで悪戯していたでしょう。辺境伯は妹を見るような優しい目で見ているのでその心配はありませんね。

 ですが私は今すぐ連れ去りたいぐらい興奮してますよ。


「よく驚かれるんだ。私は魔力が多くてね、この通り成長が遅行化してあまり老けないんだよ」

「ふ、老けなさすぎよ!」


 ハンス君に聞いた時、私もそう思った。

 四十代の年季の入ったテクニックと、十代二十代の溢れんばかりの性欲を併せ持つ辺境伯が、ハンス君を力と技で虜に……っといけない、また闇に飲まれるところだった。ここは誘惑が多すぎて毒だ。


「私も今年で十六になるけど、これでも順調に成長している方だと思うの」

「ナッハッハッハッハ」

「な、なんで笑うの!?」


 それは姫様がロリロリ過ぎるからだと思いますよ。そんなロリペッタンな姿で順調に成長しているなどと言われても、子供が背伸びしているようにしか聞こえません。だって辺境伯様は、本当のルルアナスタシア様を知らないんですから――。


「私だって本当は――」

「ルル様なりません」

「うっ……」

「どうかしたか?」

「……なんでもないわ」


 またうっかり隠し事を言いそうになりましたね。でもそれは言ってはいけません。それが姫様の、いいえ、シャラザードのためなのですから。


今はお肉を食べて、ハチミツでも舐めながら楽しいひと時を楽しみましょう。

ベルヴェール・ディオール


ステータス:ピューア王国ハイルズ領領主 四十六歳童貞 甲殻類 

状態:ハイテンション

ルルアナスタシアから見た姿:強き者


ハンス

ステータス:執事衆

状態:伯のパラウドネタがツボに入って笑いが止まらない


ルルアナスタシア・シャール(仮)

ステータス:魔王の娘 ロリビッチ(仮)

状態:九歳 ハチミツ美味しい!!


マリー

ステータス:ルルアナスタシアの従者 闇の探究者 光の提唱者

状態:腐寄りの百合

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