マリーの闇
そろそろ話を動かしたいです
「間一髪だった……。愚息が机を突き破り、引っかかって抜けなくなった時はどうなるかと……」
ルルアナスタシア殿が机に飛び乗った瞬間、このままではズボンを脱いでいるのがバレ、さらには愚息を見られると焦った私は、机の奥深くまで体を隠した拍子に引き出しを引っ張り視線を躱そうとした。
滑り込むのと引き出しを引くのはほぼ同時だった。見上げながら完全に私が隠れる瞬間、彼女の柔らかいスカートがふわりと浮き上がり、そこには天国へと続く聖なる性なる秘密で泌蜜の扉があった――。
性なる扉は子供には不似合いな黒い下着で隠されていたのだが、私の圧倒的想像力は黒い薄布からインスピレーションを感じ脳内でプ二穴を描かせた。生でヘブンズドアを見たものと錯覚した愚息は過去最大級、最大出力、最高速度で巨木化し、執務机を貫き、そしてルルアナスタシア殿の足裏を叩き吹き飛ばしてしまったのだった。
子供とは言え、人間一人を浮き上がらせるとは我が愚息ながらとんでもないチンポテンシャルを秘めているな。
「さすがに少し痛む……」
既に愚息はいつもの大きさに戻っている。想像の透視ではあるが、子供の扉を見てしまったという罪悪感からみるみるうちに縮んでいった。私の理性が感情に勝ったのである。
自身を歩く生殖器だと思っていたが、どうやらまだ人間らしい心が残っていたようだ。いくらなんでも子供相手に欲情して襲い掛かるような鬼畜にはなりたくない。少女を見て鬼勃起するのはセーフだが、手を出すのはアウトだ。
次はないぞ、愚息。次にルルアナスタシア殿で膨らんだらしばらくお預けだからな。
「失礼いたします」
「爺やか」
爺やが執務室へ入ってきた。
基本我が屋敷の執事はノックをしない。それは有事の際に備えてのこと。常に礼儀正しく規律を重んじていると柔軟な対応ができなくなり対応が遅れることがある――ということにしているが、実際は私がメイドの私室にこっそり忍び込めるように前例を作っただけだ。まだパンツを被ったときの一度しか入っていないが。
「いかがでしたか、ルルアナスタシア嬢は」
如何と言われても、あんなロリっ子相手に抜けるわけがあるまい。
しかし爺やはうっすらと笑っている。さてはルルアナスタシア殿がロリビッチだと知っていて私を試したな?
「ああ、中々元気のある……と言ったら失礼になるのかな。まぁ悪い子ではなかったよ」
いきなり戦い――性交渉を求めてくるような子だ。悪い子なわけがない。
「悪くない――ですか? 襲われたとの話でしたが」
「耳が早いな。ハンスからか?」
「はい、知らせにきました」
「ハンスの横着者め、正しい報告をしていないようだな。正確には襲われたが相手にもせず未遂で終わらせた。爺やは私が子供を相手にすると思っていたのか?」
「いえ、もちろん旦那様の相手にはならないと思っておりましたよ」
やはりな。爺やは最初から知っていたのだ。それでも私が子供に欲情するかどうかを見極めようとしていたのだ。そして爺やの不敵な笑み。どうやら私は合格したようである。なんかちょっと嬉しい。
あんな小柄な子供に私の愚息を突き込んだら腹ボコだ。それでは性交渉ではなく最早傷害になってしまう。
「ですがルルアナスタシア嬢は魔族です。油断はなりませんぞ」
「ん? 無知ですまない、魔族というのはそこまで好戦的なのか? 相手は子供だ、流石に私の相手は務まるまい」
ルルアナスタシア殿も言っていたが、今まででそんな色情魔みたいな種族だとは聞いたこともないし、シャラザードの友人ゴゴムストリアスもそこまでいやらしい男ではなかった。
「はい、旦那様と一戦交えるとなれば戦いにはならず一方的に終わる事でしょう。ご存知かとは思いますが、魔族は高位の者ほど戦いを神聖化し、ある種の儀式と捉える傾向が強いようです」
いや知らなかった。
「特に強い者との戦いを好み、一度や二度の敗北では決して屈せず何度も戦いを挑んでくるそうです。ですので今後もルルアナスタシア嬢の動向には注意が必要かと」
性行為を神聖化し儀式と見るか……貞操観念が緩いのか固いのかはっきりしないな。
それにただのロリビッチかと思ったが、どうやら認識を改めなければいけないらしい。爺やの話から察するに、ルルアナスタシア殿は性欲の強い私だからこそ戦いを挑んでくれたようだ。そうなると私は一匹の雄として女性から選ばれたというわけだ。相手がロリっ子であっても選んでもらえるというのは存外嬉しいものだな。
「心配はいらない。私とて鬼じゃない、子供を相手に何かをしようとは思わんさ」
「ですが、追い詰められ、戦わねばならぬ状況を作られてしまったら?」
寝ている間にこっそり上に乗られ、バックリ愚息を咥え込まれていた……なんてことになったらもうそれはしかたないだろうな。壊さぬよう抱いて……もらうさ。
「それはその時考えればいい。それよりもハンスには伝えておいたが、今日の晩餐は肉料理を多めに頼む。ルルアナスタシア殿は肉が好きらしくてな」
「歯牙にもかけぬとはこのことでしょう、相変わらずの豪胆さでございますね。肉料理の件、承りました。料理長には最高級の新鮮な獣肉を今から用意するように伝えておきます」
「ハッハッハ、それはいいな。ついでに王族を持て成すかの如く気合を入れろと伝えておいてくれ。たまには贅沢するのも悪くはあるまい」
「王族を――ですか……ほっほ」
爺やはニヤリと笑って執務室を出て行った。
最近爺やはよく笑うな。これも私が本当の自分をさらすようになったからだろうな。心の重圧が少しずつ軽くなっていく――そんな気がするよ。
そういえば休みを取って羽を休めろと言っておいてまた仕事を頼んでしまった。
私は無意識に爺やに甘える癖があるようだ。こういうところが爺やを疲れさせるのだろうな。反省しよう。
☆
「ルルアナスタシア様は考え方が古臭いので、これからも迷惑をかけるかと思うんですよねー。はぁー困った方ですよー」
「考えが古臭いって何です?」
タチバナさんとパラウドから逃げ出した俺は、執事長に報告を行ってからマリーを部屋へと案内していた。栗茶色の髪を肩まで伸ばした黒縁メガネの少女。歳は俺と同じ十六歳らしいが、落ち着きがありどことなく大人びているように見えた。
手のかかる動物の世話をしていると精神の成熟が早いのかもしれない。
「強きを尊きとし云々ってやつですよー。勘違いしないでくださいねー、今時シャラザードの貴族でもあそこまで力に拘る者はいませんから。そりゃあいるにはいますが、それは一部の古い人たちだけです。ルル様は箱入り娘で他者との関りが少なく古い人とばかり接していたせいで考え方が周りと少しずれて古風なんですよ」
おばあちゃん子、おじいちゃん子ってやつかな?
「そういうものですか。でもマリーさんも戦えば強いんですよね? 人族よりもずっと」
迎えに出たときの、あの鋭い視線は忘れてないぞ。尻の奥が冷えるような恐怖すら感じる視線だった。俺は決して臆病ではない。伯の為に死ねと言われれば、嫌だけどサクっと死ねるぐらいの覚悟はある。そんな俺を震わせられるほどの視線を投げれる人が弱いわけがないんだ。
「あたしなんて全然ですよー? そもそも戦うことが得意じゃないって言うか、あんまり好きじゃないですから。でも――」
「でも?」
「男同士の熱い絡み――戦いを見るのは好きですね」
背筋がゾクリとする。これだ、この視線だ。
自分を取りあわせるために男同士を戦わせて悦に浸る悪女――というわけではなさそうだな。おっとりとした性格からは想像もできなかったが、意外にもマリーは血を好むのかもしれない。
「あたしばかり聞かれるのはつまらないです。もっとハンス君の話も聞かせてくださいよ」
少しドキっとする。
メイドはみんな伯に惚れてしまっているので、俺なんて見向きもされない。女性との接点がほとんどない俺は興味を持たれただけで軽くときめいてしまったのである。
だがハンス君呼びはいただけないな。イチモツにハンスくんと名付けている自分が悪いのだが、陰茎と呼ばれているみたいで嫌悪感が先行する。
「べつにかまいませんけど、俺の何が聞きたいんですか?」
まさかハンスくんの事が知りたいとかではないよな?
それだったらいくらでも体で教えてやるが。
「えーっと、ベルヴェール様とハンス君はどういう関係なんですか?」
「どういう関係って、主と執事の関係ですよ。正確には専属執事は執事長のバロールがしているから、俺はマリーさんと同じ従者みたいなもんですかね」
「ハンス君とあたしが一緒ですか。じゃあこれから仲良くしてくださいね。いきなり知らない土地の、しかも魔族とはあまり接点のない人族の中に放り込まれて正直不安だったんですよー」
首を傾げて笑うマリー。ふわりといい匂いがして、思わず深呼吸してしまう。
俺は何をやっているんだ。これじゃパラウドとやっていることが変わらないぞ。
「で……あたしと同じとのことですが、ルル様の御背中を流したりするようにハンス君もベルヴェール様の背中を流したりするんですか?」
「あーしましたよ。けっこう昔ですけど」
「ほほう……? 昔とはいつぐらいの話ですか? その時のハンス君の年齢と、辺境伯との身長差なんかも聞きたいですねぇ」
なんだ、めっちゃ食いついてきたぞ。シャラザードはピューアの風呂事情にそこまで興味があるのか?
「いつぐらいまでって言うか、最初の一回だけですよ。あとは背中を流すなんてことはなく、ただみんなで入るだけになりましたから」
男同士は裸の付き合いで絆が深まるとかなんとか言って、伯と俺たち執事衆は定期的に一緒に風呂に入る。
「それは何歳ぐらいで、どのように……?」
「俺が六歳だったかな? だから十年前で……当時の伯は三十中盤とかかな」
「え!? あの人そんなに歳いってるんですか? 十八とか、いっても二十ぐらいにしか見えませんよ。ということはルル様と同じで魔力量が……いえ、そんなことより背中を流す時はまずどこから舐め……じゃない、洗ったんですか」
なんかマリーの印象が最初の時と比べて大きく変わってきたな。こんな鼻息の荒い人だったか?
「そら背中でしょ。背中を流すために呼ばれたんですから」
「そうかもしれないですけど、そうではないでしょ? 三十代のおっさんが六歳のショタティンポムを裸場に呼びつけたんですよ?」
ショタティンポムとか裸場とか聞きなれない言葉が出たな。魔族の言葉かな?
中央大陸の共用語や周辺国の言語は使えるが、魔族の言語はまだちゃんと覚えていない。今後ルルアナスタシアと魔族の言語でされたら厄介だ、こりゃあ今日の夜から徹夜で勉強だな……。ほかの執事衆のやつらも巻き込んでやろ。
「薄ぼやけた湯煙のなか、揺れ動く大小二つの影。しっとりと濡れた優男と汚れを知らないショタティンポム……。非生産的な行為が行われないはずもなく……」
「マリーさん?」
「あっ、いけない、つい闇に飲まれそうになってしまいました」
「闇に?」
これも魔族特有の言い回しなのだろうか。
「ここがマリーさんの部屋です。夕食までにはまだ時間があると思います、改めて呼びに伺いますので屋敷の中をうろつかず部屋でまっていてください。あれでしたらルルアナスタシア様の部屋に一緒にいてくれても構いませんから」
「あっ、待ってください。できればもっとお話しを……その恥ずかしいんだけど、ハンス君の話がもっと聞きたいなって」
ん? マリーの様子がおかしいぞ。
頬を赤らめて上目遣いで俺を見ているが……もしや俺に惚れたか!?
まいったな、今貰っている給金で妻を娶って養うことは十分可能だが、執事衆として働いている以上屋敷を出て暮らすわけにもいかない。我儘を言って二人用の部屋を用意してもらって……いや、子供部屋も欲しいからやっぱり外に出るか? 子供は何人作るかは二人で相談するとして――。
「さ、タチ話は好きですが立ち話ではなんなので部屋に入りましょうよ」
「あ、ちょっと」
腕を掴まれ強引に部屋に引き込まれてしまった。抵抗しようとすればいくらでも抵抗して振りほどけるような力だった。しかし俺はそうしなかった。これがハニートラップの可能性があるとは重々承知していた。その上で、もしかしたらハニトラではなく本当に俺に惚れているんじゃないかな? という淡い期待を捨てられなかったのだ。
さらに言えばハニトラでもいいから卒業させてもらおうかなという、全力全開の下心もあった。
「ささ、何もありませんがまずは座ってください」
マリーは赤く上気した顔のまま椅子に座り、反対の席に座るよう促してくる。何もないとか失礼なことを言われたが気にしない。
マリーの表情が男を誘うための演技だとは思えないし、何よりもあざとさというのが微塵も感じられない自然な動作だった。もしこれが演技ならば、しばらく女性不信になってしまうだろう。
白いカーテンは開かれており、中庭では庭師のケインがハサミを使って庭の手入れをしているのが窓から見えた。
ルルアナスタシアの部屋よりは一段ランクの下がる部屋だが、貧民街生まれの俺から言わせれば十分豪華な一室と言える。ここが俺の初めてを捧げる場所か……。すまんなケイン、お前とは童貞同士だったからか妙に気の合う仲だったが、それも今日までのようだ。これからは無意識にお前のことを心の中で「童貞野郎」と見下してしまい上手く付き合えなくなるだろう。あばよケイン、俺は先に男になってくるぜ。
「それで、ベルヴェール様とは他にどんなことをされるのですか?」
まずはジャブから――というところか。いきなり好きな体位やプレイを聞かれてはムードもへったくれもないから、当たり障りのない話をして言葉の前戯で気分を高めようってことだろう。
「一緒にすることかー、何かあったかな。あ、屋敷から離れた町に一緒に行くことはありますね」
「町で一緒にイク……じゃあトイレとかも一緒に行ったりイったりしますよね?」
「いやいや、それはしないですよ。えっ、もしかしてマリーさんはルルアナスタシア様と一緒にトイレ行くんですか?」
魔族と人族では文化が違うからな。主と従者が一緒にと家へ行くのは当たり前なのかもしれない。
「え? 行くわけないじゃないですか?」
え?
「ま、まぁ、そうですよね」
女子は必ずセットでトイレに行くと思い込んでいる童貞野郎みたいになってしまった。俺は思いこんでいない童貞野郎だ。
「それで……ハンス君はベルヴェール様のどういったところがお好きなんですか?」
また伯の話題か。段々怪しくなってきたな――と言うか最初からぶっちぎりで怪しいんだけどさ。
「好きなところなんて考えたこともないなぁ」
「特定の部位や仕草を限定できないほど好きだから!?」
「尊敬はしていますけども好きとかそういうのとは違いますし」
「お風呂だけの体の関係……。(つまり自分は体を洗うための海綿であり、辺境伯を後ろから突くための海綿体だから余計な感情は持たないと? 人形の振りをして自分の心を殺しているパターンか……。ありですね……)」
マリーは口の中でもごもごと小声で喋る。なんて言ったんだろ。
「お風呂だけの関係ってわけでもないですよ。つかさっきから何の話をしてるんです?」
話の雲行きが怪しい。
「もちろんハンス君とベルヴェール伯の馴れ初め……ではなく仲の良さを確かめるための聞き取り調査です」
聞き取り調査とかモロに言いやがった。それでは自分が間諜ですと白状したようなものだ。
これまでにも怪しい点はいくつもあった。
最初に怪しいと思ったのは馬車を迎えにいったとき、マリーは道中も言葉を何度も聞き間違えていた。相手は魔族だから共用語に慣れていないだけだろうと流していたが、ここまで流暢に共用語をはなせるのだから、あれは演技だったとわかる。それにあの時の殺気に似た気配の説明がつかない。
次に怪しいと思ったのは俺が伯の執務室に入るときだ。マリーは「ノックもしないで開けるんですねぇ……」と暗い笑みを浮かべていたこと。しまった――と思った。普通の屋敷ならばノックをするのは当たり前だ。この屋敷特有のルールを屋敷外の者に見せてしまったことに焦り、俺は声だけはかけて扉を開けたんだ。
そして今、俺に惚れた振りをして伯との関係を聞きたがるのは諜報活動の一環なのは明らかだ。部屋に連れ込んだのはどう考えてもハニートラップだろうさ。
ケイン、やっぱり俺は童貞のままらしい。また二人でオススメの色本を貸し出し合って批評し合おうな。まだお前に貸していなかったとっておき、執事長から譲り受けた「人妻メイドはお口でするお掃除が好き」を貸してやる。やたらと折り目が入って読み込まれた跡があるが、それは前所有者である執事長のお気に入りのページだ。使おうにも男と性的にシンクロするのは不愉快なので、良いシーンなのに使えない。
「俺と伯の仲は良好で、それ以上でもそれ以下でもないですよ。では俺はまだ仕事が残っているので行きますね」
「あっ、どこでイクんですか――」
俺は返事をせず、振り向きもせずに部屋を出ようとした。
少し可愛いと思っていただけに残念だけど、本気になる前でよかった。
今夜は執事長とメイドの新しい衣装について談義しつつ、今後の対応を話し合って気を紛らわせよう。
「待ってください!」
後ろから抱きつかれて動きを封じられ、ささやかだが確かに膨む胸が背中に当たり、ハンスくんがハンスさんになっていく。
「あの、離してください。俺仕事があるんで」
「そんな、生殺しです……ここまであたしを興奮させておいて……」
ハニトラだと理解していても女性にそんなことを言われながら抱き着かれるとくるものがある。心と裏腹にハンスさんはハンス様になろうとしていた。
「ハンス君と辺境伯に興味が有るんです」
「俺たちではなく、ハイルズ領の情報ではなくですか。あまり嗅ぎまわらない方が身のためですよ」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
伯本人に確認したわけではないが、執事長の中で伯は国を興すことになっている。そのため執事長は世界各地に飛ばしていた執事衆達と連携を取り、各国の情報をまとめてあれこれ企てている最中だ。そんなタイミングで自領に入った間諜が派手な工作を始めれば、執事長は容赦なく消すだろう。俺はそれが嫌だった。
魔族は脳味噌も筋肉でできている短絡的な種族だと聞いたが、間諜もこのレベルとなると――。
「ハイルズ領の情報なら最初からある程度調べてから来ていますよ?」
「ん?」
「確かワインとハチミツが名産品で、各国王侯貴族にも大変な評価をもらっているとか。ディオール家印のワインとハチミツはシャラザードの貴族の間でも流行していまして、滅多に手に入りませんが、ルル様もディオール印のハチミツが大好物なんですよ」
ん? ん? んん?
「あれ? あの、私、へんなこと言いましたか?」
「……一つ、思い切ったことを聞いてもいいですか?」
もしかしたら惚けているのかもしれない。魔族相手に回りくどいのはなしだ、ストレートに確認しておこう。
「あ、はい……なんでしょう」
僅かに緊張したような素振りを見せるマリー。パラウドなら匂いを嗅いで「貴様緊張しているな? そういう時は腹式呼吸を繰り返すと落ち着くぞ」などと、ちょっと役立つ豆知識を披露していたところだろう。どんなに役に立ち真っ当な知識を授けられようとも、最初に体臭を嗅がれた時点で嫌悪感で一杯になりパラウドの評価は「変態」という絶対的な地位から変動しないのだが。
「マリーさん、間諜ですか?」
「浣腸……? いえ、さしたことはありませんが……。我儘を言って迷惑ばかりかけるルル様には寝ている時にこっそりぶち込んで地獄を見せてやろうかと思うときは何度もありますが――まさかハンス君は辺境伯に浣腸を突き刺しているんですか!?」
「あっ――」
わかったわ。
「詳しく聴かせてください。ああっと、メモ取りますのでまだ待ってください! 辺境伯を焦らすときのように辛抱強く待っていてくださいね!」
どうして気づかなかったのだろう。
マリーが一見垢抜けない田舎の少女で少し俺のタイプだったから、真実から目を逸らし、自分に都合の良いように解釈していたのかもしれない。
時折感じさせる冷たい視線には覚えがあったんだ。あれは俺にきっついネタを振るときのタチバナさんと同じ冷たさだった。俺を性的に見つつも、そこに一切の色恋を含ませない純然たる性的嫌がらせをしている時の視線だ。
「マリーさん」
「はい!?」
マリーは間諜なんかじゃない。
この人は――
「貴女、腐ってるでしょ」
「…………私の闇に気づく人がいるとは、人族は侮りがたいですねぇ」
粘ついた笑みを浮かべるマリー。
彼女はタチバナさんと同じタイプで、別カテゴリーの、違うベクトルの変態だった。
ベルヴェール・ディオール
ステータス:ピューア王国ハイルズ領領主 四十六歳童貞 甲殻類
状態:爺や心配
バロール見た姿:以前にも増して威厳に満ちていらっしゃる
ハンス
ステータス:執事衆
状態:こいつもか
マリー
ステータス:ルルアナスタシアの従者 闇の探究者
状態:腐




