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悪役令嬢は夢を見ない  作者: あまの宵
第1章
2/2

01

連続投稿です。暗い…(^_^;)

「この者を捕らえろ!父上の敵だ!」

王子の声を皮切りに、パーティーを楽しんでいたはずの騎士まで走り出てくる。



抵抗する手段がない私には大人しく捕まるほかなかった。

束ねていなかった髪の毛は惨めに地につき、きっと見栄えも悪くなっていることだろう。

突然の荒事にそこかしこから甲高い悲鳴が響き、誰もが巻き込まれては堪らぬと壁際へ後退した。


「っ…!」

髪の毛を数本巻き添えにして首に何かを嵌められる。

脱力するような感覚に、これが一体なんなのかが思い当たった。

恐らく最上級の封魔具をはめられたのだ。



「君に本気を出されてはこちらの被害が深刻になるからね。無駄な抵抗をしないのは賢明だ」


会場の床とキスをしている私には王子の表情は伺えない。声色から感情は読み取れなかった。


「本日はこれで開きとします。このような終わりで申し訳ないが各家に王宮の御者がつく。指示に従って帰宅してください」


そうは言われても、拘束され剣を突き付けられる私が気になって動けないのだろう。

会場が再び静まり返った中、乱暴に髪を捕まれ引き起こされる。


「…いたい」


「塔へ」


主張はいとも簡単に受け流された。

未だに状況が整理できず、痛みに表情を歪めるしかない。

引きずられるようにして王子たちの傍を通り過ぎる。


幼なじみは何も声をかけなかった。

歯を食いしばって顔を上げるが、彼は私を見てすらいなかった。


会場から出、暫く狭く暗い道を引きずり回されるように進むと、輝きを失った鉄格子が見えた。


案の定そこに放り込まれる。

私を引きずってきた騎士たちは、ガチャガチャと忙しく鍵を閉めると、一言も発さず出ていった。



春の夜は肌寒く、ぶるりと身震いをする。

放心状態から開放され、やっと思考が回ってきたがこれはこれで酷いものだった。

冷静に現状を把握しようとするもののまるで思考が纏まらない。



私が邪魔だった?


宮廷魔術師の座を狙っての陰謀?


それともただ単に利用された?


いずれにせよ濡れ衣である。


こんなことが実際に起こってたまるか!!

だって私は……



…私は?


「…私はノエル・ローズマリー」


肖像画でしか見たことのない母譲りだという、深い海のような瞳。

波打つ薄紅色の髪に、研究のため引きこもっていたためか比較的白めの肌。

華やかすぎる髪色は、地味な私には似合わない。


公爵家の一人娘にして、宮廷魔術師である父の一番弟子。そして次代宮廷魔術師。

まだまだ足りない所はあるが、私は父に憧れ、父の手により育ってきた。


最近では研究ばかりしていたが、多いだけでは意味の無い魔力を、使いこなせるよう血のにじむ努力をした。


…いや、それはこの前に読んだ本の話?


私は平凡な黒髪に、焦げ茶色の瞳の貧相な人間。


両親が早くに亡くなったせいで、国の保護に入り、授業参観は憂鬱で、運動会も憂鬱で、学芸会も憂鬱で。


無愛想な自分にわざわざ声をかけてくれるような優しい人間なんて現実にはいない。


三者面談なんて1番惨めだった。

進路を相談する親もいなければ夢もない。



違う、何を言っているの。

私の夢は、大好きなお父様と同じ宮廷魔術師。

魔法の技術は私の自慢。


魔法なんて存在しない。

そんなもの夢物語でしかない。


宮廷魔術師は名ばかりの名誉職ではない。

こんな濡れ衣を着せられて、大人しくしているものか。


漫画やドラマのようにはいかない。

誰も救ってはくれない。


誰もいないのでは話にならない。

せめて人を呼ばなければ!人をーー



人を呼んでどうするの?

そもそも、自分が叫んだところで誰が見向きをする?

最低限の夜会にしか出席せずにいた私をわざわざ救ってくれるような人物がいるか?

折られた鉛筆を見て、自分のものを差し出してくれる人はいなかった。

国の庇護下にある以上、折れたエンピツを惨めに使うしかなかった。


エンピツ?羽ペンのようなものかしら。

エンピツは…



「っうぅ…っ!!」


脳に鋭い痛みが走る。

何故だか分からないが、心拍数も上がっている。

まるで何キロも走った後のような激しい疲労感に、目の前がくらくらしてくる。


「はぁ…はぁっ……」


体が床に崩れ落ちる。

ああ、また髪の毛が汚れてしまう。

ただでさえ似合わない髪の毛なのに、さらに汚れているなんてなんと後ろ指さされるか。。


床は清潔とは言えないが、熱くなった体に対しひんやりとして気持ちがいい。

視界の隅に薄汚れた薄紅をとらえながら、私は意識を手放した。


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