第1話 婚約破棄と、一冊の設計書
悪役令嬢ですが、ダンジョン経営が天職でした
第1話 婚約破棄と、一冊の設計書
「エレノア・フォン・ローゼンベルク! 私は今日、この場でお前との婚約を破棄する!」
王城の大広間に、第一王子レオンハルトの声が響き渡る。
貴族たちの視線が一斉に私へ集まった。
(……始まった。)
私は静かに目を閉じる。
この光景を知っている。
いや、知っていた。
ここは前世で何百時間も遊んだ乙女ゲーム『フローラル・ロンド』の世界。そして私は、主人公に嫌がらせを繰り返し、最後には婚約破棄されて追放される悪役令嬢、エレノア・フォン・ローゼンベルクだった。
前世の私はゲーム会社でレベルデザイナーとして働いていた。ダンジョンやステージを設計するのが仕事で、毎日のように「どうすれば面白くなるか」を考えていた。
だが、過労の末に帰宅途中で事故に遭い、目が覚めたら悪役令嬢になっていたのだ。
そして今日は、ゲームの始まりであり、私の破滅の日。
「平民の少女セシリアをいじめ、数々の悪事を働いた罪は重い!」
王子がそう言うと、周囲の貴族たちは一斉に頷いた。
もちろん身に覚えはない。
ゲームの強制力なのか、この世界の運命なのか。何をしても私は悪役として裁かれる。
「エレノア、お前を王国から永久追放とする!」
兵士たちが近づいてくる。
私は小さく息を吐き、スカートの裾を整えた。
「……承知いたしました。」
抵抗しても未来は変わらない。
それなら、この国に未練などない。
むしろ――。
(ここからが、本当の人生ね。)
◇◇◇
数日後。
馬車から降ろされた私は、王国最北端の荒野に一人立っていた。
「ここより先は魔物の領域だ。」
兵士は冷たく告げる。
「二度と王都へ戻るな。」
そう言い残し、馬車は土煙を上げながら去っていった。
静寂だけが残る。
目の前には果てしない荒野。
人の姿はどこにもない。
「さて……まずは生き残らないと。」
食料も少ない。
家もない。
このままでは数日で野垂れ死にだ。
歩き始めてしばらくすると、岩山の麓にぽっかりと空いた洞窟を見つけた。
雨風をしのぐにはちょうどいい。
私は警戒しながら中へ足を踏み入れる。
すると、洞窟の最奥で不思議な光が揺らめいた。
「あれは……本?」
石の台座の上に、一冊の黒い本が浮かんでいる。
誰もいないはずなのに、本はまるで私を待っていたかのように静かにページをめくった。
その瞬間――。
『適格者を確認。』
頭の中へ直接、声が響く。
『創設者権限を継承しますか?』
「……え?」
次の瞬間、本がまばゆい光を放った。
無数の文字が宙に浮かび上がる。
⸻
【創世迷宮設計書】
所有者:エレノア・フォン・ローゼンベルク
ダンジョンレベル:1
階層:0
所持DP:100
建設可能施設:
・入口
・土の通路(10m)
・小部屋
・スライム×1
⸻
「ダンジョン……設計書?」
震える指で光る文字に触れる。
すると、洞窟全体がゆっくりと揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴ……。
岩壁が動き、地面が割れ、新しい一本道がまるで意思を持つかのように伸びていく。
私は思わず息を呑んだ。
「まさか……私が、一からダンジョンを作れるの?」
画面の隅には、新たな文字が浮かび上がる。
『ようこそ、ダンジョンマスター。世界初の迷宮を設計してください。』
その言葉を見た瞬間、前世で何百ものステージを設計してきた記憶が一気によみがえる。
攻略したくなる導線。
絶妙な難易度。
思わず探索したくなる仕掛け。
全部、私の得意分野だ。
私は自然と笑みを浮かべた。
「婚約者も地位も失ったけれど……。」
設計書を胸に抱きしめる。
「今度は、世界一のダンジョンを作ってみせる。」
その宣言と同時に、静かな洞窟に最初の一歩を刻んだ。
それは、一人の悪役令嬢が世界を変える迷宮を築く、伝説の始まりだった。




