表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の家の壺の中から、時折『転生者』が出てきます。  作者: 溝端翔
リョクが出てきた!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

私の名前はラズベリーだよ?

 王都から離れた場所にある小さな村『ケラソス』。


 そこは村と村とを行き交う行商人たちが息をつくにはちょうど良い場所にあった。


 いま、現在時刻は朝の八時を過ぎた頃。この村の中心にあり、この村で一番大きな建物の宿屋『ケーブ』の玄関先を竹箒のようなもので掃き掃除をしているのは、この宿屋の看板娘ラズベリー・ライムストーンだ。


 今年十八歳になったばかりの彼女は、くりっとした大きな目に艶のあるぷるっとした唇。白い肌にほんのりと赤らんだ頬。胸は非常に大きく、腰にはくびれがきゅっとある。その細いくびれとは裏腹に、足にはむっちりと肉がついていて太ももに埋もれたくなる。髪はミディアムで赤紫色、頭には白いカチューシャをいつもつけている。身長は高くもなければ低くもない。着ている服はいつも胸元が開いていて肩が大きく出ている、下はミニスカート。ここが王都であれば引く手数多であろう可愛い看板娘である。


 ラズベリーは全身を通して男性の心を惹く。


 しかし、しかし。


 彼女は自分のかわいさも魅力も何一つ分かってはいない。


 村に同年代の男の子がいなかったせいか、同年代の女の子がいなかったせいか、それはわからないが、ラズベリーは己がなんたるかを理解していない。

 そして、性への関心も疎いのだ。いまでも平気で父親とお風呂に入れるくらいには。


 そんな少し変わった女の子のラズベリー。通称ラズも、もう十八歳、この世界ではりっぱな成人である。

 もちろん、成人ともなれば、働かなくては生活ができない。こともなく。親の脛を齧りながら、のほほんと過ごしていたある日。そのだらけ切った姿を見かねた父ブラウンは「宿屋を手伝うかよそで働くかしろ。そうじゃないとお前をこの家から追い出してやる」と言い放った。


 あの何度足を踏んでも怒らなかった優しい父親が突然怒ったのだ。もちろんラズは面を食らった。しかし、父親の顔は大真面目で、ラズは選ぶしかなかった。ここで働くか、よそで働くか。


 よそで働くってことは、外に出ないとだめなんだよね……。じゃあうちで働いてる方がぜったいいいや。


「わかった。うちで働く」


 その日から、ラズは看板娘になったのだが、彼女にはどうしても嫌なことがあった。


 それは。


 働くと言うこと。


「はあ。仕事したくないなあ」


 ラズは本当に仕事がしたくなかった。面を食らったあの日から数ヶ月。働いてはいるが、働きたくない。決して。いや、絶対に。

 ずっとだらだら過ごしていたい。仕事なんてしたくない。


 そうだ。結婚すればだらだらできる。


 そう思いついたその日から。ラズは結婚相手を募集している。できれば同い年。せめて同年代。それでいて自分の分まで働いてくれる人。ご飯作りくらいは私がやるから。あと掃除も。たまに。だから結婚したい。

 しかし、この村にはいないのだ。同い年は愚か同年代も。通りすがりの行商人は妻子持ちだったり年上だったりでつまらない。王都に行けばそれなりに見つかるかもしれないけれど、王都に行くには危険すぎる。村の外には多くの魔物が生息している。


「はあぁ。結婚したいなあ」


 箒の柄に顎を乗せて、ぷっくりと頬を膨らませる。まあなんというか、可愛い。


「ラズー? ちゃんと掃除してるー?」

「してるよー!」


 ラズの母ネーロはいつもラズに仕事をちゃんとしてるか聞いてくる。それはラズにとってとても嫌なことだった。


「もう、毎日毎日、ちゃんとやってるってば!」


 こん。と玄関先に置かれた大きなツボを蹴っ飛ばした。当然壺は硬くてつま先が痛くなる。


「いてて。そういえば最近出てこないなあ、人」


 この大きなツボ。ラズが一人すっぽり入って余裕のある大きさのツボなのだが。曰く付きである。


「こないだ出てきたのはもう三ヶ月くらい前かなあ」


 ラズはつま先立ちでツボの中を覗き込んだ。中は真っ暗で、ちょっと埃っぽかった。


 そう。このツボの中からは、時折人が出てくる。なぜだかわからないが、人が、出てくる。


 一定に決まった日に出てくるわけではなく、時折出てくるのだ。


 その現象は、ラズが物心ついた頃にはすでにあり、父親に聞くとなにやらこの宿屋ができた当初から起こっているらしい。宿屋ケーブは三百年以上の歴史を持つ。そのこともあり、誰が出てきても、ラズの両親は当たり前のように平然としている。というかあまり興味がなさそうである。


「次はなんか面白い人出てきてくれないかなあ」


 ラズは覗き込んで箒の柄を突っ込んでかき回してみる。何も入っていないツボの中で箒は空を切った。


 面白い人。とラズはいったが、ここから出てくる人間は全てにおいて普通の人ではない。いわゆる転生者。こちらの世界の住人ではない、別の世界の住人がその世界で死んだ時、女神様と出会い、このツボの中に転生する。らしい。

 らしいと言うのはラズが両親に聞いた限りの情報である。だが、その情報は大方当たっている。女神が魔王討伐のために、三百年以上、このツボの中に、転生者を召喚しているのだ。が。未だ魔王が倒されたと言う情報は誰も聞かない。


「んー、なんにもおこらないかー。――おかあさーん! 掃き掃除終わったー!」

「はいはい。じゃあ買い出し行ってきてくれる? 干し肉がもうなくなっちゃうから」


 ラズが宿屋に入ると、肩まである癖のある黒髪を、左右にお団子を作り、そのお団子に大きめの鈴をつけ、菱形が横に連なったカチューシャをしているネーロがいくつもあるテーブルを拭いていた。


 このテーブルたちは夜になると使われるものだ。ラズの実家の宿屋ケーブは夜になると酒場になる。ラズはもちろん酒場でも看板娘として働いている。むしろラズの仕事はこっちがメインだ。


 酒場にくるのはほとんどが男性客で、ラズはお酌をしたり料理を運んだりお酒を飲まされたりしている。そんな時間が朝の三時まで続く。夜眠れるのは大抵五時ごろ。朝起きるのは七時半だから夜の睡眠は二時間半ぐらいしか取れない。朝の仕事が終われば夜の仕事まで自由時間だが寝てしまっては一日が簡単に溶けてしまう。これも仕事をやりたくない理由の一つだった。

 しかし、ラズにも仕事の休みはある。週末の二連休、この日は母親のネーロがウエイトレスをするため、休みが与えられていた。


「はい、これお金ね」

「はーい、じゃあ行ってきまーす」

「よろしくねー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ