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31.始まる最後の競争

「進め進めぇぇぇぇ――――っ!!」

「宝は目の前だぞォォォォ――――ッ!!」

「ダークロードに出番はねえ! 今度こそなあっ!」


 怒涛の勢いで、五階層最後の空間へと駆け込んで行く探索者たち。


「みんなを案内してくる」


 そこに先日出会った少女が続くのを見送ったところで、リコリスが踵を返した。

 いよいよ最後の勝負所という事で、リリィやマーガレットたちを連れてくるようだ。


「よろしくお願いしますね」


 見送るサクラ。

 リコリスは少し悩むようにした後、俺の方に視線を向けた。


「……いってくる」

「ああ、よろしく頼むよ」


 俺の反応を、うかがうようにしながら言うリコリス。

 俺がそう返すと、小さくうなずいてから駆け出した。


「では、私たちも行きましょう」


 サクラの手に握られた魔宝石は、鳴動を強めている。

 いよいよ宝は目前、ここからが最後の競争だ。

 崩れた岩壁から生まれた土砂の山を乗り越えて、進む道は天井の低い洞窟。

 現れた何本かの別れ道は、向かう方向が同じ。

 そしてすでに、各所で激しい戦いが行われているようだ。

 剣や魔法のぶつかる音が、各所から響き渡ってくる。

 俺はサクラと共に、広い道を選んで進む。

 するとそこにいたのは、ギルド勢のパーティ。


「今だ!」


 一人の男が放った火炎弾を魔物が受けた瞬間、一斉に走り出す仲間たち。

 数人が同時に攻撃を叩き込むことで、一気に戦いの優位をつかむ。

 そんなパーティの横を抜け、現れた魔物に立ち向かうのは一人の男。

 先んじて魔法を放ち、敵がひるんだ隙に距離を詰め、一突きで重傷を負わせてみせた。

 動けなくなった魔物を、魔法剣士の男は置き去りにして進む。

 俺たちがその後に続くと、魔法剣士は隠れるように存在していた小さな道を発見。

 さっそく新ルートへ進もうとするが――。


「ずいぶんと調子がいいみたいだが、お前はここまでだ」


 そんな魔法剣士の前に立ち塞がったのは、五人組のパーティ。


「このルートは俺たちが進む。お前は向こうだ」


 横柄な態度に、走り出す緊張感。

 だが戦いは当然、数がものを言う。

 全員で武器をチラつかせれば、大きな『圧力』になることは間違いない。


「チッ」


 魔法剣士はルートを変更して、先を急ぐことを選んだ。


「ハッハッハ! 余裕じゃねえか!」

「一攫千金は俺たちの物だ、誰にも邪魔させねえ!」


 ギルド勢パーティは新ルートの前に酒のような液体をまくと、火を放って先へ進む。


「そこまでするか……」

「宝を目前にして、一気に殺伐としてきましたね」


 早い者勝ちが、前提の状況。

 欲望のぶつかり合いは、もはや殺気を感じさせるほどだ。

 俺たちもそのルートは諦めて、残った道を駆ける。

 そして新たな分岐点まで来たところで、今度は人気の少ないルートを選択。

 そのまま突き進んでいくと――。


「あれは……!」


 サクラの足が止まる。

 選んだ道の先は、やや広いホール。

 そこでは先行していた借り物の剣の少女が、大きなトカゲの魔物と戦っていた。

 さらに同じホールの一角で、ギルド勢も激しい戦闘を行っている。


「はっ!」


 少女の振るう剣が、トカゲにダメージを与える。

 ここの魔物はこれまでよりも強固なのか、反撃に入るのが早い。


「っ!」


 鉄剣による敵の攻撃は肩口をかすめたが、ギリギリの回避で難を逃れた。

 小さく安堵の息をつく少女。しかし。


「【エクスプロード】!」


 ギルド勢の放った魔法で吹き飛ばされたヒョウ型の四足獣が、少女の前に転がってきた。

 驚きに、思わず硬直する少女。

 ここからは、共闘になるのかと思いきや――。


「後は頼むわ」

「えっ?」


 なんとギルド勢はこれ幸いとばかりに、少女に四足獣を押し付け走り出した。

 まさかの事態だが、もちろんトカゲは止まらない。

 始まる連続攻撃を、少女は下がることでどうにかかわす。


「わあっ!」


 しかしそこに飛び込んで来た、四足獣の体当たりに弾き飛ばされた。

 転がり、それでもどうにか顔を上げる少女。


「よし今だ! 進むぞ!」


 そこに駆け込んで来た探索者たちも、危機にある少女を見て「今が好機」とばかりに追い越していく。

 追い込まれた少女。

 そこにトカゲの魔物が迫り、鉄剣を振り下ろす。

 少女はこれをバックステップでかわし、強引な形で反撃を叩き込みに行く。


「やああああーっ!」


 肉を切らせて骨を断つ。

 そんな決死の特攻で、どうにか活路を生み出しに行く。

 剣は見事、トカゲに直撃した。

 しかし、打倒には至らない。


「っ!」


 そこに迫るヒョウの飛び掛かりを回避しきれずに弾かれると、そのまま尻もちをつく形になった。

 二対一という状況は、あまりに厳しい。

 追い込まれた酷い状況に、その顔がゆがんだ。


「宗一郎さん、行きましょう!」

「ああ!」


 俺が応えたのと同時に駆け出したサクラは、トカゲに向けて一直線。

 速く柔軟な足の運びで、その懐に飛び込んだ。


「【稲妻】!」


 放つ斬り抜けで深いダメージを与え、同時にトカゲの注意を自分に向けさせる。

 その隙に俺は、少女のもとに駆け込んでいく。

 ヒョウ型の四足獣は勢いよく跳躍し、そのまま少女に喰らいつきを仕掛ける。

 その間に入り込んだ俺の手が、自然に伸びた。

 すると、ちょうど飛び掛かりに来た四足獣の胸元に突き出す形となった。


「【フレアストライク】!」


 少女に火の粉が飛ばないよう手加減して放った炎砲弾が直撃し、爆発が炎を巻き起こす。

 吹き飛ばされた四足獣は、地面を跳ね転がっていく。


「大丈夫か?」


 安堵の息をつきながら問いかけると、少女は驚きの表情で俺を見上げた。そして。


「あれ、昨日会った……」


 唖然とした顔で、そう言った。


「無事でよかった。とにもかくにも、まずはこいつらの打倒からだな!」


 起き上がり、体勢を立て直した四足獣。

 その恐ろしさにちょっとビビりながらも、俺は戦闘態勢に入った。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。


【ブックマーク】・【★★★★★】等にて、応援よろしくお願いいたしますっ!

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