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32.再会の少女

 少女の救出に入った俺たちの前には、二体の魔物。

 手負いのトカゲ型は、猛然と襲い掛かってきた。

 これをジグザグのバックステップで華麗にかわして、反撃の機会をうかがうサクラ。

 大きな攻撃を回避したところで、一転前へ。


「はっ!」


 強く踏み出した足と共に放つ強い振り上げが、敵の胸元を斬り裂く。

 すると大きく跳び下がったトカゲはその口を開き、激しく燃える火炎弾を吐き出した。

 そのまばゆさに、思わず目を細めてしまうほどの一撃だ。


「【旋風】!」


 対してサクラは、刀を豪快に払う。

 生まれる強烈な風は、攻防一帯の剣技。

 迫り来る火炎弾を霧散させ、さらにトカゲの魔物に空刃を喰らわせた。

 舞い散る火の粉に思わず見とれてしまった俺は、慌ててヒョウ型の四足獣に視線を戻す。


「下がってくれ!」


 駆け出した四足獣の驚異的な走力を見て、少女に退避を促す。

 敵は速い移動から跳躍し、俺の胸元目がけて飛び込んでくる。

 こうして目の間に来られると、やっぱ怖えな!

 しかし俺の目は、しっかり敵の全体像を捉えていた。

 これは相手を押し倒し、そのまま自慢の牙で討つという流れの攻撃だ。

 魔物が飛び掛かりの体勢に入った瞬間、身体が自然に足を引き、ターンするような形で敵の特攻を回避。

 すれ違っていった敵の背を狙う形で振り返り、左手を伸ばす。


「【ファイアボルト】!」


 放つ三連続の炎弾から、魔物は慌てて疾走。

 炎弾をかすめさせながら反転すると、その速い足取りで再び俺を狙いに来る。


「……四足獣は、足元の変化に大きく影響を受ける」


 迫る魔物を見て俺は、そうつぶやいていた。

 そしてわずかに上げたカカトで地面を叩き、軽く音を鳴らす。


「【フロストファング】!」


 次の瞬間、足元から一斉に広がる凍結の道に、一斉に突き立つ氷の牙。

 氷牙に脚を斬られ、大きく体勢を崩した魔物は、それでも足を止めずに接近。

 再び飛び掛かっての押し倒しを狙うが、足元が悪いため踏ん張りが利かず、軌道が山なりになってしまう。

 俺はそんな魔物に向けて、右手を突き出した。


「【フレアストライク】!」


 今度は手加減の必要もなし。

 放った炎砲弾が炸裂して、吹き飛んだ四足獣は倒れ伏した。


「すごい……」


 呆然とする少女。

 ちなみになぜこんなに強いのかは、分かりません。

 そんな自分に引きながら、サクラの戦いを確認する。


「おおっ!?」


 なんとサクラは、正面からから飛んで来た敵の火炎弾を前方へのジャンプで回避。

 空中で身体をひねる形の回転を入れ、そのまま刀をトカゲに叩き込んだ。

 強烈な斬り下ろしに、倒れ伏す魔物。

 サクラは息を切らすこともなく、軽く剣を払い、余裕を感じさせる表情でこちらに駆け寄ってくる。


「ありがとう……ございます」


 戦いが一段落して、ここでようやく少女が息をついた。


「少し、戦い方が強引になってしましたね」

「っ」


 サクラの言葉に、ハッとする少女。


「捨て身になっているような感じがありました。昨日一緒した時は、もっと堅実な戦いをしていましたが……」

「……時間がないんです」


 少女は、つぶやくようにそう言った。


「時間? もしかして何かあったのか?」


 どこか元気がないように見える少女に聞くと、静かに語り出す。


「仕事ができなくなっちゃったお父さんに変わって、働いてたお母さんが……昨日倒れちゃったみたいで。一日も早く手術をしないといけないんだけど、それにはお金が必要がだから……それで、少し焦っちゃったのかも」


 明らかな作り笑いを見せる少女。


「うちには借金もあるし、妹たちには我慢したり諦めたりして欲しくないから……」


 そのためには『宝』が必要、ということだろう。


「……靴ひもが、ほどけてますよ」

「あっ、本当だ」


 穴の開いたランニングシューズ。

 見ればそのひもは、千切れたものを結んで無理やり使い続けているようだ。


「そ、そろそろ、新しい靴も必要ですねっ」


 そのボロボロ具合を見られて、少し恥ずかしそうにする少女。

 あらためて見ると、服も爪のようなもので裂かれて破けてるし、本人も軽くだけどケガを負っている。


「お待たせしましたっ」


 それでも少女は、ひもを結び終えると笑顔で立ちあがった。

 パンと頬を張って、気合を入れ直す。


「せっかくですし、途中まででも一緒に行きましょう」

「それが良さそうだな」


 そんな提案をしたサクラに、俺もすぐに乗っかる。


「よろしくおねがいしますっ! がんばりますっ!」


 こうして今度は三人で、続く道を進むことになった。

 歩き出すとすぐに、サクラが歩く速度を下げた。

 そのまま少女をわずかに先行させるような形にして、俺の横に並ぶ。


「……宗一郎さん」

「ん?」

「この階の『宝』も絶対に、絶対に手に入れましょう」


 そう言って、かすかに潤んだ目で真っ直ぐに俺を見る。


「彼女はずっと、不安などにも耐えながら戦ってきたのではないでしょうか。それに、したいことだってあったはずです」


 ダンジョンに『賭ける』形で来ることになった少女。

 その格好には、明かな困窮が見られる。


「助けたいです。ここで二年ぶりの『正しき者に与えよ』を成しましょう……!」


 それはダークロードが残した、三つのダンジョン規則。

『進め』『殺すな』そして……『正しき者に与えよ』


「次は、私が助ける番です……っ!」


 宝に成せること。

 その範囲に、『宝で力を得た者』だからこそ気づいているんだろう。

 鼻を鳴らしながら真剣な目で訴えてくるサクラに、俺は自然とうなずいていた。

お読みいただき、ありがとうございました!

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