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27.最奥に待つもの

「これで私には本当に、価値がなくなってしまいました」


 瀕死の探索者を助けるために、回復の奇跡を起こす花を与えてしまったサクラ。

 自虐交じりの笑みを浮かべて、そう言った。

 しかしダークロードには、まだやるべきことがあるのだろう。

 そんなサクラに、同行を依頼した。


「私が役に立てるとは思えませんけど……どこに向かっているんですか?」

「何、すぐそこだ」

「…………変なこと、考えていませんよね?」

「フフ、私はそんなに怪しいか?」

「怪しいです」


 苦笑いのダークロードは、手にした魔法石の鳴動を見ながら道を進む。

 入り込む、暗い洞窟。

 抜けると、その先にあったのは大きなホールのような岩壁の空間。


「ここは……」


 その光景に、目を奪われるサクラ。

 ホールに走る幾筋もの魔法石鉱脈が、緩やかに照度の上下を繰り返す。

 そのため青白い魔力の光が、とても神秘的な雰囲気を醸し出している。


「なんですか……あれは……」


 そしてその先にあるのは、地面から突き出した大きな結晶塊。

 煌々と、まばゆい青白の光を発している。

 その幻想的な光景に、サクラは感嘆してしまう。

 しかし、その直後。


「っ!」


 風を吹かすほどの激しい着地と共に、一つの大きな影が現れた。

 輝く結晶を守るかのように現れたのは、ワシの頭部と獅子の身体を持つ四足の猛獣、グリフォン。

 黒と灰色の大きな身体に、冷たい青色の目をした魔物は、明らかにこちらに敵対意識を持っている。

 これまでの魔物とは明確に違う大物の気配に、思わず足が止まる。


「一つ、頼みがある」

「はい」

「私があれと戦っている間に、光る結晶塊のもとに向かい、その手を伸ばせ」


 ダークロードがそう言うと、サクラは覚悟を決めるようにうなずいた。


「……そのくらいなら。これが私の最後のお手伝いですね」

「それと」

「はい」

「あの白い花、【癒しの花】は確かに希少なものだが……宝ではない」

「……え?」


 サクラが首を傾げた瞬間、グリフォンが動き出した。

 四足獣ならではの猛烈な勢いで、こちらに接近してくる。


「行け! 私がヤツを引きつけている間に、結晶に手を伸ばすのだ!」

「は、はいっ」

「【ファイアボルト】!」


 迫るグリフォンに、ダークロードは炎弾の四連射で先手を打つ。

 敵はこれを速い動きで上手にかわしつつ、さらに接近。

 その目はもう、ダークロードしか見ていない。

 走り出したサクラは、この隙を突いてグリフォンとすれ違う。


「【ウィンドストライク】!」


 ダークロードは、迫るグリフォンに風の砲弾を放つ。

 するとグリフォンは、大きな跳躍で空中へと舞い上がった。

 そこから羽ばたき一つで風砲弾を越えると、滑空するような形で接近してくる。

 閃く、大きな爪。

 狙いはそのまま体当たりしての、切り裂きだ。


「なかなかやるものだ」


 しかしダークロードは慌てることもなく、敵の攻撃軌道を目算で把握。

 しっかり引き付けた後、地を滑るような後方への足の運びで攻撃を回避してみせた。

 それでもグリフォンは止まらない。

 着地と同時に、即座の飛び掛かりを仕掛けにいく。


「【フレアストライク】」


 ダークロードは正面からの特攻に対し、跳んだ瞬間を狙う形で炎砲弾を発射。

 跳び出した瞬間のグリフォンにはもう、その軌道を変える術はない。

 直撃し、爆発を巻き起こした。


「強い魔力に引かれるのは魔物のサガ。そして魔力が集まる場を縄張りにできるのは、それだけの強さを持つ個体のみ。なるほど、悪くない耐久力だ」


 このグリフォンの羽毛は、魔法に強いのだろう。

 地面を派手に転がりながらも、燃え盛る炎に耐えてみせた。


「……これは、一体」


 サクラは、身の丈ほどもある結晶の前でつぶやいた。

 一階層の最奥にあったのは、ダンジョンを流れる魔力の結晶体。

 そっと手を伸ばし、その表面に触れてみる。


「っ!?」


 すると光の紋様がホログラムのようにパッと広がり、サクラの体内に魔力が勢いよく流れ込み始めた。


「なに……これ……っ!?」


 全身に灯っていく、強い魔力の輝き。

 留まることのない流入に、サクラは困惑する。


「それが、このダンジョン一階層の――――宝だ」

「これが……宝?」


 ダンジョン特区で、まことしやかに語られている『宝』の話。

 その正体は、大量の魔力が込められた結晶だった。


「……価値がない、お前はそう言ったな」


 グリフォンの飛び掛かり攻撃を避け、鋭いクチバシによる突撃をかわしながら、ダークロードが語る。


「だが、私はそうは思わない」

「…………!」

「手にした奇跡すら手放し、見知らぬ何者かの命を救ってみせた時点で、お前はその価値を証明したのだ。強く優しい心を持つお前には、それだけで十二分に価値がある! このダークロードが認めよう!!」


 ダークロードはハッキリと、強い言葉でそう告げた。さらに。


「さあ思い描け! お前が望む姿を!」

「望む、姿……」


 言われるまま、頭の中に思い描く。

 望むのは、どんな苦境にある者も助けることのできる、強い自分。

 あの日見た青年の様に、立ち塞がる強敵にもひるむことなく、全てを切り開いてみせる強い自分自身だ。

 サクラが望む姿を確かなものにした、その瞬間。


「っ!?」


 集まっていた魔力が突然止まり、生まれる一瞬の静寂。

 すると一転、今度はサクラから大量の魔力が噴き出し始めた。

 薄暗いホールの中を駆け抜けていく風と、灯る力強い輝き。

 それはまるで、青く白い炎をその身にまとっているかのようだ。


「……ケガが、治っていく」


 深く刻まれていた右腕の傷が、消えた。

 思わず刀の柄を握ってみると、以前のようにしっかりと力が入る。

 そこには、これまでのような弱々しさはない。

 それどころか……。


「力が、あふれてる……!」

「どうやらお前の思いを、世界も認めたようだ」


 今も止まらない魔力の噴出に困惑するサクラ見ながら、ダークロードが告げる。


「それが『宝』の持つ力だ……ところで」

「は、はい」

「このグリフォンはなかなかの強者のようだ。得意の魔法をぶつけてもダメージはそこそこ。このままでは、我がガラスのプライドが粉砕されてしまう。そこでだ。今度はそんな無力な私を助けてもらえるかな? 全てを賭けて鍛え続けてきた――――その剣で」

「……はいっ!」


 笑みを浮かべながら助けを求めるダークロードの声に、サクラは元気を取り戻した声で応えた。

お読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
なん…だと…。 ダークロード様がカッコイイだと…!? 『正しき者に与えよ』を見事に実践しておられる。 そして宝の効果は至ってシンプル。 獲得者の願いの具現化ですかね。まさに宝。 身体能力限定なのか、…
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