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28.覚醒のサクラ

「グリフォンはなかなかの強敵のようだ。その力で今度は私を――――助けてくれるかな?」

「はいっ!」


 黒翼に青い目を持った四足獣、グリフォンを前にサクラがゆっくりと刀を抜く。

 もう以前のように、取り落としてしまうこともない。

 握る手に、しっかりと力が入る。

 そのまま刀を構えたサクラは目を閉じ、小さく息をつく。

 そして、駆け出した。


「っ!?」


 その加速に、自分自身で驚いてしまう。

 強い踏み出し一つで、大きく伸びるように前へ進む。

 それでいて柔らかな、足の運び。

 それまさに、理想としていた動きだ。

 サクラはさらに強い足の踏み出しで、一瞬で敵の懐に入り込んだ。


「はっ!」


 大きな振り上げが、グリフォンの胸部を斬る。

 続く振り降ろしもしっかりとその肩口を捉え、敵は大きく斬り飛ばされた。

 硬質な身体にも、しっかりとダメージが入る。

 確かな手ごたえを感じながら、サクラは追撃へと向かう。

 するとグリフォンが地面を踏み抜かんとする勢いで、右前足を深く踏み込んだ。


「っ!!」


 目の前に、石の刃が三本同時に立ち上がる。

 生まれた石壁は、身を守ると同時に体勢を立て直す時間を作るのにもってこいだ。しかし。


「はあっ!」


 そんなもので、サクラの前進を止めることはできない。

 吐き出す気合と共に払われた刀が、石の壁をまとめて斬り飛ばした。


「いきますっ!」


 サクラはそのまま、残った石を蹴り上がって跳躍。

 掲げた刀を、力強く振り下ろす。

 今度は深手となる一撃をその身に受け、大きく下がるグリフォン。

 まるで違う。

 身体の軽さが、踏み出す足の力強さが、振る剣の威力が。

【黄金のリンゴ】を食べた際に、体内に生まれた魔力によって、探索者は皆その能力を上げている。

 だが、そんなものではない。

 今はそれを大きく上回る凄まじい力が、身に宿っているのを確かに感じる。

 その圧倒的な覚醒を前にグリフォンは防戦一方となり、サクラは高揚を感じながら刀を振るう。


「グルルァァァァ――ッ!!」


 放たれる、猛烈な喰らいつき。

 しかしサクラはこれを、短い後方跳躍でかわして同時に剣を振り上げる。

 するとグリフォンの下あごに、鋭い一撃が見事に決まった。

 もはやこの戦いは、一方的だ。


「長きに渡って研鑽して来た美しい剣技に、爆発的な向上をみせた魔力が合わさることで生まれた、比類なき烈剣。だが……少し踏み込み過ぎだな」


 もはや敵の攻撃が『見えてしまう』状態のサクラは、恐れることなく剣撃を繰り出していく。

 そして高く掲げた剣を、大きな踏み出しと共に振り下ろそうとしたその瞬間。


「グォォォォォォォォ――――ッ!!」

「っ!?」


 突然の【咆哮】が生み出す衝撃波に、サクラは体勢を崩した。

 もちろんこの隙を、グリフォンは逃さない。

 その鋭い牙で、猛然と喰らいつきに行く。


「【降り注げ、紅蓮の彗星】!」


 しかしダークロードは、この瞬間を予想していたかのように、右手を掲げてみせた。

 するとグリフォンの頭上に生まれる、無数の輝き。

 直後、降り注ぐ豪雨のような閃熱がグリフォンに炸裂。

 やはりその羽毛が強力なのか、ダメージ自体は深くない。

 しかし燃え上がる炎は、今まさにサクラに喰いつこうとしていたグリフォンの動きを見事に止めた。

 見たこともない魔法を駆使するダークロードの底知れなさに、思わず息を飲むサクラ。


「トドメを任せてもいいか?」

「はいっ!」


 ダークロードの言葉に、手にした刀を一度鞘に収める。


「「今だ!」」


 それから腰を落とし、脚にためた力を一気に解放。

 弾丸のように飛び出したサクラは、そのまま全力で刀を抜いて振り払う。

 そしてグリフォンの後方へ。

 駆け抜けた後、刀を一度振り降ろすと、静かに鞘に納める。

 すると止まっていた時間が動き出したかのように、魔物が倒れ伏した。


「勝った……」


 思わず、つぶやくサクラ。


「礼を言おう。華麗な剣技に助けられた」


 気が付けば、圧勝だった戦い。

 息の一つも切らしていないダークロードはそう言って、ゆっくりサクラに向き直る。


「だが、忘れるな」

「……?」

「剣だけではない。剣とお前自身。その両方に何物にも代えられない――――素晴らしい価値があるのだということを」

「っ!!」

「見事だった」


 ダークロードの言葉に、思わず息がつまるサクラ。


「……なんだ?」


 そこに聞こえてきたのは、騒がしい声。

 ダークロードは少し考えるようにした後、ホールの奥にある道を指差した。


「お前は、そこの道に出ていろ」

「は、はいっ」


 言われるまま、サクラは入ってきた道とは違うルートへ駆け足で向かう。

 すると、入れ替わるようにしてたくさんの探索者たちが入り込んできた。


「魔法石の鳴動が止まったぞ……?」

「これは一体なんだ!?」


 消えていく結晶塊の輝きを見て、困惑の声を上げる探索者たち。そして。


「な、なんだお前はっ!?」


 黒の衣装に身をまとった謎の中二病男に、全員が驚愕した。


「遅かったな。一階層の宝は、このダークロードが頂いた」

「なんだって!?」

「今まさに光を失った結晶こそ、この階層の宝だったものだ。そして二階層の宝も、我が手中に落ちるだろう。せいぜい嘆き悲しむがいい! フハハハハハハハ――――ッ!!」

「なんだよ……っ!」

「なんなんだよ、アイツはぁぁぁぁぁぁ――っ!?」


 騒ぎ出す探索者たちを挑発した後、サクラの後を追いかけるダークロード。

 進んだ先で合流した二人は、そのまま洞窟の道を駆けていく。


「……あの」


 その途中、サクラが声をあげた。

 驚異的な力を持ち、なぜか宝を譲ってくれたダークロード。

 聞かずにはいられなかった。


「これから、どうするつもりなんですか?」

「私はただ進むのみ。そしてお前のような者に与えるつもりだ。このダンジョンに隠された奇跡たちを」

「それは、何のために?」

「壮大なる、悲願のために」

「……それなら」


 サクラは、再び力を込められるようになった手を強く握る。


「それなら私も、一緒に連れて行ってくださいっ! ……きゃあっ!?」


 そして続いた極度の緊張状態からか、足を滑らせ転ぶ。

 とっさにその腕を引いた、ダークロード。

 そのままサクラを引き上げてから、応える。


「いいだろう。ならば、我が元に来い」

「はいっ!」



   ◆



「そしてダークロード様は言いました。私を強く抱きしめ、真っ直ぐに目を見つめて……「俺だけのものになれ」と」

「か、過去の俺、そんな恥ずかしい真似をしたの!? しかも真っ黒なローブに身を包んだ中二病スタイルで!?」


 サクラと、ダークロードの出会い。

 その最後は若干の『願望』と『妄想』が混ざる形で語られた。


「は、話を聞く分には一見まともに見える部分もあるけど、これって流れ的には『不思議な力をチラつかせて、弱っていたサクラを信者にした』とも言えるよな……」


 それは力を手に入れた危うい中二病か……それとも危険なカルト野郎か。

 はたまた、その両方か。


「どっちも嫌だぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」


 宗一郎は悲鳴を上げながら、幻覚の五階層を進んでいく。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

そうなんです! カッコいいところもあります! 続きはご感想欄にてっ!


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― 新着の感想 ―
ダークロード様、素敵…! ってサクラは思ってそうですが、正直言って宗一郎の言葉が全てですねw 故意の犯行じゃないってだけで。 そして壮大な悲願。 これは、まあ…うん。ハーレムだよね?? 中二病に染ま…
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