10.少女の戦い
隙あらば鶏頭を炸裂させる、元気少女と出会った俺たち。
魔法石脈の罠にこれ以上引っかからないよう、彼女をしっかりガードしながら進む。
「足場はだいぶ落ち着いてきたな」
切り立った岩場を跳び越えて進む道は終わり、足元が平坦になってきた。
ただ魔法石の鉱脈はまだちょくちょく残ってるから、注意は必要だな。
「宗一郎さん」
サクラの呼びかけは、魔物の到来を知らせるものだった。
見ればこちらに気づいた一体の魔物が、迫ってきている。
「ここは私にお任せをっ!」
そしてそんな敵の動向に気づいた少女は、一言残して駆け出した。
「いくよーっ!」
敵は二本の錆びた剣を持つ、二刀流スケルトン。
少女は速い足の運びで接敵すると、振り払い攻撃を越えていく形で前方に跳躍。
ひねりを入れることで空中で振り返りながら、敵の頭上を跳び越え後方へ。
「よっと!」
着地と同時に踏み込み、腰に提げた太めのショートソードを振り払う。
スケルトンはこれを左の剣で受け、すぐさま反撃へとつなぐ。
振り降ろされる右の剣を、少女がショートソードで受け止めた。
すると続けて、左の剣の払いが迫り来る。
「それっ」
少女はこれも、上手に弾いてみせた。
「気をつけて! 戦技がきます!」
「りょうかいっ!」
サクラの声に、快活な声で答える少女。
直後、スケルトンは強力な踏み込みから右手の剣を強く振り払う。
剣閃が残るほどの一撃は、速さも威力も段違いだ。
「やっ!」
これを少女がショートソードで受けると、大きく弾かれ後ずさる。
すると敵はさらに踏み込み、左手の剣を全力で振り下ろしてきた。
強烈な風切り音を残しながら放たれる一撃は、岩すら両断しそうな勢いだ。
「やあっ!」
対して少女は、弾かれた流れをそのまま利用して剣を頭上に。
刃の表面を左手で支える体勢を取り、この一撃を受け止めた。
足が大きく滑り、後方へ弾かれはしたが、スケルトンは振り下ろした自らの剣の勢いに体勢を崩している。
ここは、好機だ。
走り出す少女。
「それええええ――――っ!」
勢いのままに、手にした剣を振り下ろす。
するとショートソードの中心に据えられていた魔法石が反応して、爆発。
スケルトンを吹き飛ばして、粉々にした。
「おおーっ、やるなぁ」
「高い運動能力を感じさせる豪快なジャンプと、我慢強い防御が素晴らしい戦いでしたね」
見事にスケルトンを打倒した少女を、サクラと共に称賛する。
「やりましたーっ!」
すると少女は振り返って、少し得意げに剣を掲げてみせた。
そしてカッコよく、ショートソードに魔力を込めて見せ――。
「「ストップゥゥゥゥ――――ッ!」」
「……あっ」
制止の声も、間に合わない。
足もとにあった魔法石の鉱脈が、強く輝いた。
「わああああああああ――――っ!?」
「うおおっ!?」
巻き起こった爆発に吹き飛ばされた少女は、俺と激突。
そのまま二人、もつれ合うようにして地面を転がる。
「……痛たたたた」
パラパラと降ってくる石片の中、目を開く。
しかし視界に入ってきたのは、暗闇。
そして何やら、腹の辺りに重さを感じる。
もしかしてこれ、少女に押し倒されるような形になってんのか?
……待てよ。
という事は、この頬の辺りに当たってる弾力の感触って……まさか。
「びっくりしたぁ」
俺が動けずにいると、少女が顔を上げた。
するとさっきまで顔に当たっていた、柔らかい何かが目の前にくる。
や、やっぱりそうだった……!
「ごめんなさい、またやっちゃった」
目が合うと、「てへへ」と笑ってみせる少女。
その胸元に思いっきり目が行っていた俺は、慌てて視線をそらす。
すると少女は、俺の腹の上にまたがる形で身体を起こし、互いの無事を喜ぶように笑顔を見せた。そして。
「あっ……もしかして、重かった?」
そ、そこじゃない……っ!
なんていうかこの子、本人の無邪気さとか小柄な感じに合わないスタイルの良さというか。
そのせいでめちゃくちゃに当たってたんだけど、本人はその辺りを気にしていないみたいだ……。
「……何をしているんですか?」
「っ!?」
そこに聞こえてきた、冷静な声。
少女にまたがられたままソワソワしていた俺をのぞき込んできたのは、完全な呆れ顔をしたサクラだった。
「良かったですね。こんなに可愛い子と仲良くできて……」
「いやいや、そんなことないって! ああいや、可愛いのは同意なんだけど……!」
そこを否定するのは申し訳ない気がして、慌てて訂正。すると。
「ふーん、そうなんですね……やっぱり可愛いと思っていたんですね」
今度はお手本のようなジト目で、俺を見るサクラ。
すると少女が立ち上がり、手を差し伸べてくれた。
「あ、ありがとう」
俺は遠慮なくその手を借りて、立ち上がろうとしたところで――。
「「あっ」」
先ほど受け止めた敵の戦技が思ったよりも足に来ていたのか、少女が再び足を滑らせた。
「あぶない!」
俺は少女の腕を引く形で、抱き留める。
あぶなかった……。
二人して転倒したものの、今回もケガはなし。
「……そんなに離れたくないんですか?」
「ちっ、違う違う! これは体勢を崩しただけなんだよ! 狙ってやったわけじゃないんだって!」
「先に進みましょう」
サクラは変わらぬジト目のまま、そそくさと歩き出した。
俺は急いで立ち上がり、少女と共にサクラの後を追う。
すると現れたのは、岩の段差。
足元にはまた魔宝石の鉱脈があるから、ちょっと上がるのが面倒だ。
俺は腰くらいまである岩に先んじてよじ登り、振り返る。
そこには後に続いて段差を上がろうとしていた、サクラと少女。
「サクラ、つかまって」
俺は少し考えた後、まずサクラに手を伸ばして引き上げる。
「っと。大丈夫か?」
「は、はい……っ」
少し勢いづいてしまったサクラを抱き留めて、無事を確認。
続いて少女も、これ以上押し倒されないよう細心の注意を払いながら引っ張り上げた。すると。
「さあ、参りましょうっ」
なぜかサクラは、さっきまでの『呆れ顔』が一転、笑みを浮かべて歩き出した。
……な、なんで急に機嫌が良くなったんだ?
一体、この短い時間で何が?
先を行くサクラは、足取りも軽やか。
その姿に、俺は首を傾げるのだった。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。
【ブックマーク】・【★★★★★】等にて、応援よろしくお願いいたしますっ!