9.新たな出会い
それにしても、ダンジョンは本当に広い。
別れ道が続いてるせいもあるだろうけど、あれだけいた探索者たちもあまり見なくなってきた。
「ここはまた、魔法石の鉱脈が続いていますね」
続く岩壁の道の途中で、サクラが足を止めた。
四足獣の爪痕のような鉱脈が、足元から天井まで大量に走っているこの空間。
下手な戦技や魔法の使用は、魔力が反応して爆発を起こす可能性があるんだっけか。
「気を付けて進みましょう」
そう言ってサクラは、視線を付近に走らせながら慎重に歩を進めていく。
先ほどまでの平坦な道とは違い、ここは大小むき出しの岩が足場を作ってる。
時には岩から岩へ、跳んで進むことが求められるような酷道だ。
「ん?」
後方から誰かがやってきた気配。
振り返るとそこには、一人の少女がいた。
背丈は、サクラより低いくらい。
栗色のショートカットに、黄色いリボン。
太ももが出るほど短いスポーツレギンスに、足元はランニングシューズだろうか。
上にジャージを着た姿は、完全に運動部だ。
しかし革のガントレットと大きなベルト、そこに提げた剣が彼女を現代の冒険者といった感じに見せている。
少女は続く岩場を、広く見渡す。
「よーし!」
それから大きく息を吸って気合を入れると、颯爽と駆け出した。
助走で勢いをつけ、大きな岩のフチから飛び立とうとしたその瞬間。
「あっ」
足元に走る閃光と共に、聞こえた声。
「わああああああ――――っ!」
魔法石の鉱脈が反応して、爆発が巻き起こった。
吹き荒れる爆風に、少女は転がっていく。
「大丈夫ですか?」
「……はーい!」
サクラが問いかけると、頭を下にするような形で岩にもたれかかっていた少女は、元気に手を振った。
「ここはそこら中に魔法石の鉱脈が張り巡らされているので、魔力の発動には気を付けてくださいね」
「ありがとうございますっ!」
少女は大きくうなずいて応えると、一呼吸。
それから「よし」と気合を入れ直して走り出し……また速度をグンと上げた。
「あっ! 待って! 待ってください!」
「わああああああああ――――っ!!」
サクラの制止もむなしく、少女は魔力を発動。
さっきとまったく同じ勢いで巻き起こった爆発に、吹き飛ばされた。
「いや、鶏頭にもほどがあるだろ……!」
思わず声をあげてしまう。
二、三歩歩いたら、考えていたことを忘れてしまうという鶏頭。
俺たちは走って、大きな岩の表面に張り付く形になっていた少女のもとへ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫か?」
問いかけると、張り付いていた岩からずり落ちた少女が顔をあげた。そして。
「てへへ、やっちゃいました」
爆発でめちゃくちゃになった髪を直しもせず、笑った。
「足場の悪い道だから、ついつい魔力に頼りたくなりますけど、気を付けてくださいね」
ボサボサになったままの少女の髪を直しながら、サクラがもう一度注意を促す。
「はいっ」
「ていうか、ここへは一人で来たのか?」
「はいっ、一人で来ました」
少女はすごく明快で、元気な返事をする。
でも……大丈夫か、この子。
魔物もいるし罠もある。
五階層は結構危険だと思うんだけど、ソロで……しかも鶏頭って。
「宗一郎さん」
「そうだな。俺もそれがいいと思う」
サクラの視線に気づいた俺は、すぐにうなずき応える。
「魔宝石脈の区間が終わるまで、私たちと一緒に行きませんか?」
「それがいいと思う」
この感じは、さすがに放っておけない。
だから俺たちは、そんな提案を持ちかけた。
「はいっ、よろしくお願いしますっ」
すると少女も、二つ返事で了承。
俺たちは、少女を左右から挟むような形にして歩き出す。
こうやって足並みをそろえて進めば、魔力を発動するのもこらえられるだろう。
大きな岩の上から、切り立った岩の上へ。
テンポよく足を進めていくと、離れた隣接フロアに、大きな影が通り過ぎていくのが見えた。
「魔物が見えましたね。この場所での戦いは面倒になりそうですし、早く索敵範囲を抜けてしまいましょう」
「はいっ」
そんなサクラの言葉に、元気に答えたのは少女。
なるほど、魔力の発動に反応してしまう魔法石脈を足場にした戦いは、面倒なことになりそうだ。
できることなら、さっさとこの場を離れてしまいたい。
こうしてサクラがその歩みを、小走りに変えたところで……ん?
「よし!」と大きく息をついた少女が、勢いよく走り出した。
「「だからぁぁぁぁぁぁ!」」
「わああああああああ――――っ!!」
少女を引き留めようと伸ばした手も、残念ながら間一髪届かない。
またも魔力を発動した少女は、爆発に巻き込まれて吹き飛び、転がって行く。
「すごい鶏頭」
「……あはは」
これにはサクラも、困惑しながら笑う。
幸い、先ほど通りかかった魔物はこちらの動向には気づかなかったようだ。
俺たちは小走りで、岩の隙間に挟まっている少女のもとへ。
「ほら」
「ありがとうございますっ」
手を引いて起き上がらせると、少女は俺を見て首を傾げた。そして。
「トリアタマって、なんですか?」
俺たちの話が聞こえていたのか、楽しそうにたずねてきた。
「もしかして……食べておいしいやつですか?」
「あははははっ! お前のことだよっ!」
これにはさすがに、俺も笑ってしまう。
また髪を直してあげながら笑うサクラと、さらに首を傾げる少女。
「さあ、進みましょう」
「はいっ」
今度こそ。
早足で岩場を進もうと歩き出した、その直後。
大きくうなずいた少女は、元気よく駆け出そうとして――。
「「はいストップ!!」」
また鶏頭を発動しようとしたに違いない彼女を、サクラと二人がかり。
羽交い絞めにして止めたのだった。
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