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ナイトメアフィルム ~屋上の惨劇~  作者: 結城智
第一章 暗室撤去、兄死亡のお知らせ
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第3話 ボッチ疑惑と無理ゲー条件

「えっ。暗室をなくすって?」


 夕食の時間。居間は八畳の和室。いつも家族三人でテーブルを囲んで食事をする。

 今日のメニューは麻婆豆腐と牛肉とピーマン炒め。基本的に料理は舞の担当だ。昔から手先が器用で、母さんの手伝いもよくしていた。味は母さんに引けを取らないくらい美味い。


 食事中――さっき舞と揉めていた話題が再開した。暗室を処分する件だ。奏太の意見も聞くことにした。


「俺は構わないけどさ。あそこなくなったら凪兄、死んじゃうじゃね?」

「いいよ。死んでも」


 奏太が不安げにする横で、舞は残酷極まりないことを言う。


「まあ、舞の言うことも一理あるな。凪兄、撮るの風景ばっかだし。人とか撮ってたらまだ安心するけど」

「そうだね。人物だったら私も許す」


 そう言って、二人はそろって僕の顔を見る。


「おいおい。勘弁してくれよ。僕にヌードを撮れっていうのか?」


 震え声で返すと、奏太と舞が互いに顔を見合わせた。


「やっぱり、あの部屋は処分しよう」

「そうだな。このままだと凪兄、盗撮に目覚めそうだし。犯罪の未然防止と思えば」


 ――酷い言われようだ。真面目な話のところ、ふざけた僕が悪いんだけどさ。


「人物は撮らないよ」


 一言、あらかじめ断っておく。


「なんでだよ。人物撮ろうぜ。そして、俺の腕ひしぎ十字固めしてる姿、撮ってくれよ」


 と、奏太は熱い眼差し。

 ……読者のみなさんが置いてけぼりだろうから、この機会に二人を紹介しておく。


 まず弟の夏目奏太なつめ そうた。十三歳、中学二年。僕と正反対で社交的、クラスの中心人物。家に友達をよく連れてくるので、正直迷惑。勉強は得意じゃないが、運動神経――いや戦闘能力が高い。


 幼い頃は内向的だったが、小二で柔道に出会って入部。小柄ゆえ序盤は負けが多かったものの、黙々と努力して大柄な相手を投げ飛ばすようになり、優勝もする。さらに小五の頃、総合格闘技ブームで寝技にハマり、ブラジリアン柔術も始めた。

 ただし喧嘩では絶対に使わない。「この力は誰かを守る時に使うもの」と言う、武道家のメンタルは持っている。


 次に妹の夏目舞なつめ まい。双子なので同じく十三歳の中二。家では生意気で口が悪いが、学校では優等生。成績は常に学年五位以内、委員長も務める。

 一言で言うと、キレると無茶苦茶怖い。僕も奏太もそれを理解しているので、極力怒らせないようにしている。正義感の塊で、曲がったことが嫌い。いじめは絶対に許さない。実績として一年前、吹奏楽部で三年が一年をいじめているのを見て、無言でビンタしたことがある。

 短気というより芯が強いタイプ。趣味は釣りと神社巡りで、静かな空間を好む。外面が良く容姿端麗のためかなりモテるが、付き合ったことはない……らしい。真相は知らないし、知りたくもない。


「なんで嫌なの? 友達いるなら、撮ればいいじゃん」


 舞は不思議そうに目を丸くする――演技だ。目の奥はあざ笑っている。「お兄ちゃんに友達なんていないでしょ?」と言いたげ。


 何度も言うが、友達が本物かどうかは別として、ボッチではない。僕がカメラ好きだと公言して「撮らせて」と言えば、クラスメイトはむしろ面白がって協力してくれるだろう。現像したら「写真ちょうだい」と、皆で口を揃えるはず。


 ――でも、ダメだ。人物を撮らない。いや、撮れない理由がある。


「とにかく、あの部屋は片付けないでくれ。お願いだ」


 情けないが、説得材料がない以上、頭を下げるしかない。

 妹相手に情けないって? ばか言え。プライドなんていうくだらない感情は、とっくに捨てている。


「却下」


 兄が頭を下げているのに、考える素振りもなく即答。舞よ、見ないうちに逞しくなったなぁ。


「いや、舞。さすがに凪兄も可哀相だしさ」


 ここで奏太がフォロー。おお、優しい弟——と思ったのも束の間。


「なんか条件つけたら? 今は凪兄がボッチなのが問題なんだろ。なら、一カ月以内に友達を誰か家に連れてきたら、あの部屋を残す、とか」


 ――優しくなんてなかった。勝手に交換条件を積むな。てか、僕、君たちの中でボッチキャラ確定なのね。涙が出ちゃうよ、男の子なのに。


「ダメ。お兄ちゃんずる賢いから、絶対に友達でもない子を連れてきて“友達です”って紹介するもん」


 さすが僕の妹。先読みが鋭すぎる。


「うーん。じゃ、ハードル上げる。二人以上連れてくること。一人は女の子。本当に友達かどうかは、俺と舞で品定め」


 おい、無理だろそれ。男子ならまだしも、女子のハードルは高すぎる。4メートルのバー跳べって話。むしろバーの下をくぐるわ。


「それは無理でしょ。お兄ちゃんが女の友達を連れてくるなんて、世界から戦争がなくなるくらい無謀。……むしろ女の子を連れてくるなら一人でもOKにしてあげるよ」


 わははは、と手を叩いて爆笑する舞。途端、僕の中で何かが切れた。


「はぁ? 余裕だし。むしろ、そんなことでいいのか」

「えっ?」

「いや、助かったよ。簡単な条件で。連れてきたら本当にあの部屋、残してくれるんだな?」


 僕も負けじと引き笑い。舞は面食らい、「あ、うん」と頷く。


「よーし。じゃあ今度、一郎君と花子ちゃんでも連れてくるよ」


 大きく伸びをして言い放つ。

 ――心の中で一郎君と花子ちゃんって誰やねんと自分にツッコミながら。


 ああ、やってしまった。すぐに後悔したのは、説明するまでもない。

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