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悪役令嬢は誘拐される


私とレオが控えの間に戻ると、ちょうど国王から取次ぎの使者が来たところだった。


国王陛下はあと30分後に面会できるという。


いよいよだね。


私とレオは顔を見合わせて微笑み合った。


さっきの気まずい雰囲気も消えて、私たちは手を繋いだまま落ち着いてその時間を待つことが出来た。


しかし、予定の時間になり案内役の使者がやって来ると、まずレオだけが国王陛下と面会するという指示を伝えられる。


「え?俺とソフィアは一緒に陛下に拝謁する予定だと聞いているが・・」


と言うレオに、使者は


「いいえ。まずは王太子殿下のみの謁見になります。その後ソフィア嬢をお呼び致しますので、どうかこの場でお待ち下さい」


と表情一つ変えずに告げた。


ここまで来て揉めたくはない。私はレオに『大丈夫だから』と目で合図を送った。


「えっと・・・ロニーはいるな?」


ロニーが扉の外で警護しているのを確認した後、レオは何度も私を振り返りながら部屋を出て行った。


レオが出て行ったのと行き違いになるように、王宮付きの侍女がお茶を運んできてくれた。


あまり喉が渇いていなかったし、過去のレオの盛毒エピソードが強烈だったために、私は王宮で何かを口にするのは遠慮している。


「あら・・・お茶をお飲みにならないのですか?」


と侍女に聞かれて


「あまり喉が渇いていないので・・」


と返事をした。


「そうですか」


と言った侍女が突然私の背後に回り、え!?と思った瞬間にチクリと首に痛みを感じた。


毒針・・・?


体が痺れて、自由に動かなくなる。


なんて時代錯誤な・・・と思いながら、私は意識を手放した。



*****


「お前は誰だ?」


妙に色気のある男性の声が聞こえる。


頭がフワフワして、考えがまとまらない。


でも、嘘をついちゃいけないような不思議な気持ちだ。


だから、私は正直に答える。


「ソフィア・ブロンテです」


「・・・本当のお前は誰だ?」


本当の自分?


本当の自分って何だろう?


「えっと・・前世の自分のことですか?」


前世。


そう。


私は養護教諭で


相沢さんとお茶をして


ラブキューの世界を教えてもらって


ラブキューの世界に生まれ変わり


レオと恋に落ちた。


それを自覚した瞬間、ハッと目が覚めた。


目の前には、私を覗き込む恐ろしいほどの美貌がある。


真っ赤な髪に真っ赤な瞳の・・多分男性。


目元は涼しく、鼻筋も通っている。完璧な形状の顔立ち。真っ白な肌は陶器のようでシミ一つない。


形の良い唇からチッという音が漏れた。


もしかして今のは・・・舌打ち?


彼の目と眉が不機嫌そうに歪んだ。


「もう目を覚ましたのか・・・?」


目は覚めたけれど、体は痺れて全く動かない。辛うじて動く眼球を使って、周囲を観察した。


多分王宮内のどこかの部屋・・・かな。豪奢な造りで天井の模様も煌びやかだ


「お前は何処から来た?」


赤毛の男性が再び質問する。


「えっと・・・家から来ました」


何とか声は出るようだ。


内心動揺しているのだが、彼の緋色の瞳を見ていると何故か正直に話したくなってしまう。


「お前の中にはソフィア以外に誰かいるか?」


ソフィア以外?何のこと?


私が戸惑っていると、彼は苛立った様子で質問を続けた。


「お前は何処から来た?・・家以外でだ!」


「お母さんのお腹から?」


「・・・舐めてんのか?」


「前世ですか?それなら・・地球の日本という国から来ました」


「・・・・は!?地球・・・?日本・・・!?」


今度は彼がポカンと口を開ける。


「はい。私は前世、交通事故で死んでソフィア・ブロンテとしてこの世界に生まれ変わりました」


彼の眉が上がる。眉の動きもイケメンだな、とくだらないことを考えた。


「・・・違うな。お前じゃない」


赤毛のイケメンはそう呟くと


「だが、お前にも関係はあるのかもしれない。事情は分かった。自由にしてやりたいが約束があるからな・・・悪く思うな」


と立ち上がった。


なんだなんだ?


彼が言った台詞の意味が全然分からない。私の頭の中は疑問符で溢れた。


「あ、あの・・・ここはどこですか?レオ・・王太子殿下に連絡して頂けませんか?」


と必死でお願いする。


野生の勘で、このままこの人に立ち去られたらお終いだ、という予感がした。


しかし、無情にも赤毛は全く動じない。


私の襟元に手を伸ばすと


「・・・面白いな。初めて見る」


そう言って、彼は襟のところを軽くつまんだ。


なに?初めて見る・・・何?


不安が募りパニックになる。


「た、助けて・・・」


赤毛は仕方がないというように肩を竦めて


「まぁ、大丈夫だろう。なんとかなる。ただ、念のため・・・」


と言うと、私の額に指を触れて呪文のような言葉を発した。


額から全身に痺れるような感覚が伝わる。そして、体がカッと熱くなり、エネルギーが体内を循環しているように感じた。


それでも、相変わらず体は動かないけど・・・(涙)。


自分に何をされたかも分からないまま、私はただ横たわっているしか出来なかった。


その時、部屋の扉を叩く音がした。ダンダンダンと苛立たしそうに連打している。


赤毛が扉の方を見て、ふぅっと息を吐いた・・・その瞬間に、彼の髪の毛と目の色が平凡な茶色に変わった。


茶色に変わっても超絶イケメンに変わりはないが、印象はまるで違う。


元赤毛は部屋の扉を開けて、苛々と連打していた人物を中に招き入れた。


入って来たのは金髪の男性・・・いや、体は大きいがまだ子供だ。


下手したら私と同じ年くらいかも・・・。


必死で目を見開いてそちらを見ると、その男とバッチリ目が合った。


そいつは面白くて堪らないというように嗤う。


「はは・・またレオポルドの泣き顔を見るのが楽しみだ」


「エドワード殿下。仮にも公爵令嬢ですから・・・無体なことはイザベル様も望んでいない」


「うるさい。母上は正式な婚約前に既成事実を作れと仰っていた。お前がこいつに訊きたいことがあると言ったから、わざわざ外で待っててやったんだ。用は済んだんだろう?さっさと出て行け」


「御意」


そういって元赤毛は無慈悲にも部屋から出て行った。


エドワード=第二王子

イザベル=意地悪継母の王妃


こいつか!?こいつなのか!?訳の分からない因縁をつけて、私とレオの婚約を邪魔した奴は!?


そして、子供の頃のレオを虐待した奴だ!許せない!最低!クズ!カス!


と脳内で散々罵ったが、恐怖で言葉にはならなかった。


しかも、そいつはニヤニヤと下卑た嗤いを浮かべて、近づいて来る。


キ、キモイ!!!来ないで!


そして、本当に今更だがハッと気づいた。


・・・さっき、既成事実って言ったよね?!


前世で『彼氏いない歴=年齢』だった私には当然既成事実の経験はない。


ああもう・・・こんな目に遭うんだったら、レオに既成事実を捧げておくんだった!


後悔してももう遅い(泣)。


レオ・・・レオ・・・助けて。


逃げたくても体が動かない。涙だけが溢れて来る。


「誰か!助けて!」


ようやく大きな声が出た。


しかし、


「叫んでも無駄だ。この辺りは人払いしてあるからな」


とエドワードが私に向かって手を伸ばしてくる。


怖くてギュッと目を瞑った瞬間、ウィーンという軽い機械音が聞こえた。


薄目を開けると、なんとテントウムシが目の前を飛んでいた。


テントウムシ・・・?


「なんだこの虫は!?」


苛立ったエドワードはテントウムシを手で潰そうと不器用に追いかけ回すが、テントウムシの方が素早さで優っている。


エドワードを嘲笑うかのように飛び回るテントウムシは突然、彼の顔面に向かって黄色っぽいガスを噴射した。


「うげっ!!!オエっ・・・なんだこれ・・・オエッ・・・ど、毒・・・?うっ、く、くさっ」


床に倒れ込みのたうち回るエドワード。黄色っぽいガスは彼の顔面を包み込み、それを蹴散らそうとしているのか滅茶苦茶に手足を振り回している。


・・・テントウムシ。あれはクリスが襟につけてくれたブローチだ。


そして・・・確かにくさい・・・・(呆)。


余りに予想外の出来事に私の涙は引っ込んだ。



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