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悪役令嬢は転生する

*短編版『悪役令嬢はネガティブに生きる』と同じ内容です。


目が覚めた時、目に飛び込んできたのは超絶美形男女の満面の笑顔だった。


「ああ、ソフィアが目を開けたわ!なんて愛らしいのかしら!貴方そっくりの緑色の瞳がとても綺麗・・・」


「真っ白なプラチナブロンドは君譲りだよ。将来、物凄い美女になるだろうな。可愛いソフィア・・・」


そして、私は自分が前世の記憶を持ったまま、どこかの異世界の貴族令嬢に転生したことを理解した。


相沢さんから異世界転生系ラノベの話も沢山聞いていたおかげで、大きく混乱することもなく現実を受け入れることが出来た。


まぁ、こんなこともあるよね。でも、私なんかを娘に持ってこの美形夫婦は気の毒に・・・。


体は赤ん坊でも意識は前世のアラサーのままだったので、私は周囲を観察し、自分が置かれている環境を把握するように努めた。


その結果分かったのは、私はソフィア・ブロンテ公爵令嬢だということ。


両親は社会的地位が非常に高く、更に裕福で仲睦まじく、大変恵まれた家庭に生まれた、ということである。兄弟姉妹はいないらしい。


前世との落差が凄まじいなぁ~。


私の前世の家族は、お世辞にも良い人達と言える状況ではなかった。


でも、おかげで(?)現実に過大な期待を抱かないことや、最悪の事態が起こっても当然という心構えが出来たと思う。


ソフィアとしての人生は順調過ぎて、強い不安に陥ることがあった。


話がうますぎる。


これは詐欺ではないのか?


朝から綺麗な服を着て、「おはよう。愛してる」なんてチュッとおでこにキスされて、アツアツホカホカの美味しい朝食がテーブルに並んでいて、家族全員で食事をするのだ。


こんなの現実ではありえない。


もしかしたら、私は夢を見ているのではないか?騙されているのではないか?としょっちゅう疑っていた。


私なんかにこんなに幸せな人生がもたらされることがあるだろうか?いや、ない・・・はずだ。


私の専属侍女はマリアと言って、若いがしっかり者で私をとても大切に扱ってくれる。


誰も私に嫌がらせしないし、家族だけでなく屋敷の使用人もみんな私にとても親切にしてくれる。


こういうのは自惚れが過ぎるし、口にするのも非常に気が引けるが・・・もしかしたら、私は周囲の人々から好かれているのかもしれない、と思うことすらある。


こんな私が今まで人から好かれることがあったろうか?いや、ない。


だから、勘違いだと思う・・・のだが、その勘違いを正してもらう機会もないまま、私は健やかに成長していった。



*****


私が10歳になった時、お父さまから


「明日は一緒に王宮に行ってみよう」


と声を掛けられて、私は意味が良く分からないながらもコクリと頷いた。


王宮って、王様が住んでいるところよね?


「王太子殿下はソフィアと同じ年なんだ。生まれた時期も近くてね。良い友達になれるんじゃないかって、国王陛下が仰って下さったんだよ」


この国のアビントン国王は、いかにも武人といういかつい顔をしている。国王の絵姿は屋敷にも飾ってあるので、私も知っている。国王は10年前にさきの正妃を産褥で亡くした。気の毒に王太子を産んですぐに亡くなったそうだ。


その後、側妃が正妃になったそうだが、彼女にも第二王子となる息子がいて、自分の子供を王太子にするためにはかりごとを画策しているという噂だ。王宮は王太子派と王妃・第二王子派に分断されている状況だという。


私は本棚からアビントン王族関連の文献を取り出してページを捲り始めた。王太子の絵姿のページでふと手を止める。


黒い髪に黒い瞳。いつ描かれたのか分からないが、まだ5歳くらいの時の絵姿じゃないかな?顔立ちは端整で可愛らしいのに、とても痩せていて・・・こう言っちゃなんだけど、風でも吹いたらポキリと折れてしまいそうだ。もっと天真爛漫でいるべき年齢なのに・・・。絵姿でも昏い表情が伝わって来る。


王太子の名前はレオポルド・アビントンと書いてある。


名前を聞いて『あれ?』と思った。どこかで確かに聞いたことがある。


そう言えば、自分のソフィア・ブロンテという名前にも聞き覚えがあったんだよな。


・・・絶対に知っている名前のはずだ。


うんうん唸ること数十分。私はついに思い出した。


ここは相沢さんが好きだった乙女ゲーム『ラブ☆キューピッド』(略して『ラブキュー』)の世界だ。


レオポルド・アビントン王太子は当然攻略対象で、魔法学院に入学すると同時にヒロインとドラマチックに出会う予定だ。そう、この世界では15歳になったら魔法を学ぶための学校に通うことになる。


そして、嫉妬に狂いヒロインに犯罪まがいの嫌がらせをして、最後は断罪され処刑される王太子の婚約者、悪役令嬢は・・・ソフィア・ブロンテだった。


・・・ああ、やっぱりな。そんなうまい話がある訳ないと思ったんだ。


私は妙に納得してしまった。安堵と言い換えても良い。そうだよ。私なんかにハッピーエンドが訪れるわけないじゃないか。


でも、私はもうお父さまやお母さま、屋敷の使用人のみんなが大好きになっていた。出来たら、彼らに累が及ぶのは避けたい。


相沢さんから教えてもらった悪役令嬢モノの小説の知識によると、悪役令嬢の転生者が、例えば攻略対象との婚約を避けようとしても、ゲームの強制力なるものが働き、結局婚約してしまうことが多いという。


・・・うむ。なるほど。


もしかしたら、明日王宮に行くというのも、婚約の下準備みたいなものなのだろうか?下見というか、値踏みされるのかもしれない。


国王や王太子が私を見てがっかりして、婚約回避というパターンもあるはずだよね。だって私が気に入られる訳ないし。


あるいは、政略的にどうしても婚約が避けられなかったとしても、入学前に婚約破棄して修道院に入ってしまえば、ヒロインに嫌がらせなんて出来っこないと釈明が出来る・・・はず。


ゲームの強制力があっても、悪役令嬢が生き残るラノベは数多くあると相沢さんが言っていた。多分、家族や使用人に迷惑を掛けないような生き方はどこかにあるはずだ。


私は世界の片隅(修道院)でひっそりと生きていられたら御の字だもの。


よし、取りあえず、明日王宮に行ってから考えよう。私は腹をくくった。



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