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プロローグ

*短編版『悪役令嬢はネガティブに生きる』と同じ内容です。


ノックの音がした。


「失礼します」


と入って来たのは、2年生の相沢由香だ。


ここは都内の某高校の保健室で、私は養護教諭として働いている。


2年生の相沢さんは1年生の時にいじめを受けて、一時期不登校になっていた。最近ようやく学校に来られるようになったが、やはり教室にいると辛い記憶が甦るらしく、毎日のように保健室にやって来る。


私自身、中学生の頃酷いいじめを受けた経験があるので、彼女の気持ちは痛いほどわかる。生涯に渡って、傷が完全に癒えることはない、と思う。


彼女は保健室にいる時が一番ホッとすると言っていたので、せめて彼女が保健室に来た時は出来るだけリラックスできる空間を作りたいと思った。


校長も彼女のためなら多少の便宜を図ってくれて構わない、と言ってくれた。


なので、彼女が来ると、私はいそいそとお茶を入れて、美味しいスイーツを食べながらお喋りすることが日課となっていた。


相沢さんも私と話す時は楽しそうで、好きな小説や乙女ゲームの話をよくしてくれる。彼女が最近ハマっているゲームは『ラブ☆キューピッド』(略して『ラブキュー』)で、攻略対象だの、ヒロインだの、悪役令嬢だの、乙女ゲームを全くしたことがない私でも知識だけはしっかり身についた。


そんなある日、相沢さんがクラスで乙ゲー仲間が出来たと嬉しそうに報告してくれた。


初めて彼女の照れくさそうな、でも朗らかな笑顔が見られて、私まで嬉しくなった。


良かった・・・。



*****


もう私の役割は終わりかな・・・。


仕事が終わり、帰宅途中にふとそんなことを考えた。


相沢さんは私に世話になったと物凄く感謝してくれた。私が何かしたわけじゃない。相沢さんが頑張ったから友達が出来たんだよね。本当に良かった。


まぁ、私なんかがいつまでも彼女の傍にいて、いいことなんてない。必要なくなったら私はすぐに消えるから・・・って、彼女に気を使わせずに伝える言い方はあるかしら?


彼女は真面目な子だから、私に対して罪悪感を覚えてしまうかもしれない。


全然気にする必要ないのに・・・。


・・・なんてことをぼーっと考えていて、注意力が散漫になっていたんだと思う。歩道にトラックが突っ込んで来たことに全く気付かず、私はそのまま轢かれて死んでしまった。


私なんかを轢いたせいで罪に問われるなんて、トラックのドライバーさんが可哀想・・・。


それが最後の記憶だった。



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