第50話 新王候補
「なんという、」
「このタイミングでユーシアまで」
「隊長が同時に2人。リッカも不在だしな」
「どうします?団長、」
「…ひとまず、ツートは6番隊を頼む」
「分かりました」
「ジゲン。モニカを7番隊に回せるか?」
「大丈夫っすよ」
「では頼む。今は新たに隊長を選んでいる時間がない」
リトートピアから戻った騎士団一行。
6番隊隊長アガリオの死と7番隊隊長のユーシアの投獄により騎士団は困惑の最中であった。
「よりにもよってこの時期に、」
「王選。1週間後ですね」
「ああ、騎士団は王選候補者の護衛任務があるからな」
「王選ね、正直、馬鹿げた話だとは思うんだが」
「仕方ないでしょうロッソさん、理由はどうあれ新たな王を決めるんですから」
「その理由が馬鹿げてるって言ってんだよ。楽園が絡んで対立なんて頭おかしいだろ」
「ロッソの言い分も分かるがな。王族が楽園に行きたいなんて言い出す方がどうかしていると思う」
「だろ?ジゲン。王が早々に退位してまでそんな存在するかも不確かなものに入れ込んでるってのがやべえ」
「今我々がそんな話をしても仕方がない。新王候補がこの国に到着し次第、それぞれの王の護衛は我々騎士団の管轄に入る。スザクはダイナ=ヴォーティー殿を、」
「っす」
「モニカはアシルヒィ=ギルネバートン殿を、」
「はい」
「ロッソはレイゲルト=オルター=ルガード殿を、」
「あァ」
「非常事態ではあるが重要な任務だ。疎かには出来ん。頼んだぞ」
人気のない、開けた森の空間。
刃と刃がぶつかり合う音、たぎる炎があたりに広がる。
「ハァ、ハァ、この強さ、異常だ、」
「ハァ、十二支覇円の1人、"地ノ王"だぞ。そりゃあ強ェに決まってる」
「お前たち、2人ともまだ力を使いこなせていないだろう。ヘルガは元の能力の性質は凄まじいものだよ。極めればあらゆる剣の使い手を大きく凌駕できる。しかしその剣の腕がまだ全然だな」
「あァッ!?」
「マモルは体術は相当だが剣は素人だな。剣の道を進むのかどうか決めるべきは今だ」
「…」
「何も剣で戦えるようになれとは言わん。お前はこれまでの人生で剣に触れて生きてはこなかったのだから。鍛えられた体術、格闘の技術は素晴らしい。そちらを伸ばす方が、
「剣がいいんです」
マモルの頭を過ぎったのはアガリオであった。
「剣が、俺の命を繋いでくれました」
「分かった。お前がそうしたいと言うならそれでいい」
レオンハウルは大きな炎の刻印を空中に生成した。
顔つきが変わる。
「では、今からお前たちに"剣"を教える」
「……そろそろルガルクロの国境を越えるあたりか」
「左様でございます。国境からはルガルクロの王国騎士団が護衛にあたるとのことでございます」
「そうか、もう時期我が国の騎士団となる者たちか。献身的で良い良い」
大きく、豪華絢爛な首飾りを召した上裸の男は大きく笑う。
楽園説推奨「独占」 第4新王候補 ダイナ=ヴォーティー
「我が新たな神の国の王となり、楽園の蓋をこじ開けるのだ」
「楽園というものを信じてないわけではない。しかし、もしその存在が明らかにされ伝説や言い伝えにあるような厄災が世界に降りかかるくらいなら、私は楽園など不要だと考える」
楽園説「不可侵」 第3新王候補 アシルヒィ=ギルネバートン
雪のように白い長髪の男は真剣な面持ちで竜車を走らせていた。
「まあ正直さ、楽園はどっちでもいいと思ってんだよね、俺新しい王様になれるって聞いたから来ただけだし」
赤髪の青年は八重歯を見せカッと笑う。
「そもそも、楽園なんてあるかもわからないものに固執する先代王様はちょっと頭いっちゃってんじゃないの?」
楽園説「無関心」 第2新候補 レイゲルト=オルター=ルガード
「先代の息子、本来なら新王になるはずだった彼は可哀そうだよね。父親の馬鹿げた思想のせいで王になれないんだからさ」
「なぜ父上が、いや先代の王が楽園にこだわるかは理解ができます。しかし僕はその危うさも知っている。父の決断も、世間で言われる意見も、全てわかっているつもりです」
楽園説「進出」 第1新王候補 ジーク=ストゥルグルフ (ストゥルグルフ家第1皇子)
「父の思想の真相は僕がこの身をもって明らかにする」
ルガルクロに身を置く第1新王候補ジーク=ストゥルグルフを除き、最も早くルガルクロの国境を越えた新王候補は第2新王候補レイゲルト=オルター=ルガードであった。
「君がルガルクロの騎士かい?」
「あァそうだ。俺様はロッソだ。あんたが新しい王様ってことか?」
「そうだよ。俺はレイゲルト=オルター=ルガード。護衛よろしく」
「あァ任せろ。王城に辿り着いて王選を迎えるまでは、
ロッソは大剣を引き抜き、振り向き様に迫りくる何かを切った。
しかし手応えはなく、刃と刃がぶつかる衝撃音と共にその何かは後退し、姿を現した。
「あァ?蟹、か?」
「いや、あれは、、化け物だね」
先ほどまで凄まじいスピードで動いていた何かの正体は巨大な黒い蟹の姿をしていた。
「早速かよ」
「ロッソ、君の実力見せてくれるかい?」
「当たり前だ。王様は俺の後ろに下がってろよ」
「そうさせてもらうよ」
レイゲルトは引き連れていた騎士たちに下がるように指示を出す。
「お前たちじゃ、あれには勝てないよ」
ロッソは大剣を構える。
蟹とにらみ合いタイミングを窺って飛びついた。
しかしロッソが飛びつくよりも一瞬早く蟹がこちらに飛び出した。
まずい、、、!!!
蟹は巨大な漆黒の爪を刀に見立て飛び掛かる。ロッソと相打ちかに思えたが、
「かっ、はぁッッ!!」
ロッソの大剣では蟹のボディに一切のダメージが通らない。
しかしロッソは漆黒の爪により胸を大きく切り裂かれる。
「ロッソ!!」
レイゲルトが声を上げた。
この時点で既に彼らから余裕は一切消えていた。
目の前にいるこの化け物の異常な強さ、生物としての格の違いを一瞬にして悟ったのだ。
そしてレイゲルトはある可能性に至っていた。
目の前のこいつ、、
もしや、
「十二支覇円の、"鎖蟹"か、?」




