次回はどうかモブでお願いします。
北帝倒産は一夜にして世界中を駆け回り、文字通り世界を震撼させた。
倒産は一瞬。
されど影響は向こう10年続くと言われた。
毎日毎日北帝倒産に関するニュースが流れる。
国会では北帝倒産前に救済措置を取らなかった事で総理大臣のクビが飛んだ。
ゲームが終わってもまだまだ北帝倒産関連ニュースは流れ続け終わりが見出せないでいる。
当然私も北帝の一人娘としてマスコミに追われる日々…は、送っていない。
一番最初の報道時点で両親が離婚してしまい、私の苗字が北帝から都築になったからだ。
今の私は都築良美。
一般人です。
北帝を名乗っていた時のような贅沢は一切できなくなりました。
今の私は北帝倒産となった日にあのお屋敷も引き払い、ワンルームのアパートに引っ越した。
あの無駄に広い屋敷からワンルームだ。
最初はきついかな?と思ったが前世の記憶持ちの私としては寧ろこの狭さが懐かしい。
ブランド物も宝石も家具も家電も全て売り払いお金にかえてしまったので、このワンルームは酷く殺風景でノエルに心配された。
でも、全然平気。
料理も洗濯もアイロンかけもやった事ないはずなのに、前世の経験で難なくこなせている。
新聞勧誘を鼻であしらえる程だ。
だが、いくら一人暮らしが可能なスペックを持っていてもお金を稼がなければ飢え死にだ。
私は、不正疑惑の時点で就職活動を行なった。
私にはお金がない。
必死に就職活動した結果、高卒ながら4月から新卒でとある会社に勤める事になった。
勿論、北帝とは縁も所縁もない会社である。
そして今日が初出勤だ。
「リクルートスーツが妙に似合うな。」
「でしょ?」
ふふん、とノエルにイッキュッパで買ったリクルートスーツを見せびらかしてやる。
そう、ノエルは国に帰るかと思いきや日本に残ったのだ。
現在、我が城たるワンルームの近所に住んでいる。
アランは一時帰国した。
あくまで一時であり、近いうちに戻ると言っていた。
本気で戻る約束の証として人質宜しく置いてかれたのだ。
「しかし、大丈夫なのか?
一応、未経験って設定なんだろう?」
「それを言うならノエルも同じでしょう?」
私が働かなくてはご飯が食べれないようにノエルも食べるために働く事になった。
彼も今日から初出勤でありスーツ姿だ。
しかし、彼は私と違い仕立てのよいフルオーダー品である。
会社に向かう為に電車を乗り継ぎ、ついた先は同じ会社だった。
特に示し合わせた訳ではなかったが何故か就職先が被ったのだ。
しかも希望だした部署も同じときた。
どうやら我々は考える事が同じのようだ。
さすが前世からの付き合いだ。
私達は受付に名前を告げると、受付のお姉さんは内線で配属部署の方を呼んでくれる。
少し待つと私達の先輩は姿を現した。
『!?』
配属部署の先輩は初対面である。
しかし、私達には見知った顔だった。
思わず、私とノエルは顔を見合わせる。
だってどうみても石竜子だったから。
顔も体も石竜子だった。
しかし、一つ違う物がある。
先輩は爽やかに笑う。
「どーも、君達が今日からの新人さんだね!
うちは結構普通にブラックだけど、やめないでね、死なないでね!」
初っ端からその一言。
てか、声も石竜子と同じだけど、笑顔だし口調が全然違うし…どう言う事?
「ちょっと、石崎さん!
初対面なんだから、まずは自己紹介!」
「あ、そうだよね、ごめんごめん!
僕は石崎竜也。
君達が配属される部署の課長をやってて、教育係を勤める事になってる!
うちはめちゃめちゃ忙しいから早く一人前になってね!」
『石』崎『竜』也。
なんだか作為を感じる名前だ。
「じゃあ、部署に行こうか!
スタッフを紹介するよ!」
石崎のセリフに私達は恐る恐る彼についていく。
着いた先には狭い部屋に5人の先輩方が目を血走らせながら働いていた。
机の上に並んだ栄養ドリンクがこの部署のヤバさを物語っている。
「みんな注目!今日からの新人達だよ!」
石崎の声に皆が私達を注目する。
「じゃあ、自己紹介してもらえる?」
言われて私達は自己紹介をした。
私達の自己紹介を聞いてある女性スタッフが目をキラキラさせていた。
絶対お仲間だ。きっと近いうちに彼女と仕事をすることになるだろう。
早く仕事ができるようになりたいな。
その日はその後石崎による研修で一日が潰れた。
出来るか心配だったが、前世の知識で問題はほとんどなかった。
最新の知識がないのは痛いが、すぐに埋まるだろう。
研修終了後、特に約束してなかったが私とノエルは一緒に帰る。
帰る途中ファミレスによって夕飯を取る。
メニューは二人とも一番安いラーメンだ。
「しかし、あの石崎には驚いた。」
「うん、あれはまんま石竜子だった。」
注文を取った後私は頷いた。
そう、性格や話し方は全然違うから別人なんだろうけどあれは石竜子だ。
「爪の形が石竜子と同じだった。
間違いない!」
「爪の形で見極めるって…。
でも少なくても体は石竜子だったな。」
「中身は別人だけど。」
そう、あの石崎、体は石竜子、中身は別人という人だった。
普通に考えてあり得ないが、事実としてそうなのだ。
私達は神のなり損ないという非現実的なモノを見て、ここが乙女ゲームの世界だと知っているからこそ、断定出来る。
でなければ、頭がおかしい人だ。
「なんで、あんな感じでいるんだろう?」
「さあ?中身は本物の神様に滅ぼされて空いた体に適当な魂いれてこの世界に戻した…とか?」
「或いは、中身も石竜子とか。」
お冷をすすりながらノエルは言う。
ドリンクバーは頼んでません。
「まさか!」
「いや、あり得ると思うぜ。
全く関係のない魂を勝手に作った世界に送るより、既にこっちの世界に転生済の魂を送り返した方がこれ以上の予定外転生を生まなくてよいし。
石竜子の前世、今世全ての記憶を魂レベルで完全消去の上擬似記憶を上書きし、名前も新たに再登場。
この方が石竜子らしくね?」
「…確かに。
最後の悪あがきに成功したのかも?」
「石竜子の事だ、記憶を消してもまた出会えば恋に落ちると確信し、良美攻略に再挑戦してやる!って意気込んだんじゃね?」
「うわ、ないない、だって本物の神様が記憶を消したんでしょ?」
「でもあの石竜子だぜ?
なんかあいつの執念は神様だって止められなさそう。」
「やめてよ!怖い!」
「まあ、全ては憶測。
でも、この憶測が当たっていれば、この世界の消滅を回避したとも言える。」
「そうならいいわね。
正直、毎日明日こそこの世界が滅んで私達も消滅してしまうんじゃないかって気が気じゃないもの。」
「心配してもどうにもならないが、やはり気分は最悪だからな。」
ここでラーメンが届く。
ラーメンうま!
しばし、二人とも無言でラーメンをすする。
食べきり水を飲む。
「まあ、明日から頑張ろうぜ。」
「そうね。あれの中身が石竜子かどうかなんてわからないものね。」
「世界の終わりだってわからない。」
だからこそ、精一杯やりたい事をやるべきだ。
私達のやりたい事は意外にも、いや、予想通り被っており、だからこそ同じ会社の同じ部署にブラックと知りつつ入社した。
明日から私達はゲームを作るエンジニア。
前世でもゲーム会社に勤めていた我々らしい。
死んでもなおゲーム好きは直らない。
寧ろ死んでからの方が不可抗力とはいえゲームの世界に生きた訳だしゲームとの関係が深まったとも言える。
私達は作る。
神様が己の世界にしてしまいたいと望む程の乙女ゲームを。
この世界が滅ぶより前に。
そしてもしそんなゲームが出来たのならばこの世界が滅ぶ前にその世界に転生してみるのも悪くない。
だけど、もう低スペック悪役令嬢で隠しの主人公役だけは勘弁被る。
次回こそはモブになりたい。
ご愛読ありがとうございました。