三話
アルメッテ様の屋敷に併設された集会所。
たまに会議を行うための場所に、町の代表が全員集められて去年の出来事や王都からの連絡事を伝えます。
後者については私の知る限り何かあったためしがありませんが。
「全員集まったようだね。ああ、ロカもその辺に座っていなさい」
ジゼルド・アルメッテ男爵。ここアルメッテ男爵領の領主様です。
目印は一人くらい入ってそうな大きなお腹と、微妙に光を反射するスダレ髪に鼻の下のチョビヒゲ。御歳54歳。
30年くらい前の戦争で大功を上げて男爵になったとか言っておりました。ご本人が。
何かを行うにしても常に先頭に立つ方で、優しくも厳しい町のみんなのお父さんのようです。
さて、そのお父さんから去年の出来事について教えてもらいました。
隣の国との国境かキナ臭いとか。
国軍増強のために、兵士を募っているとか。
どこかの国の公爵様が勇者を召喚したとか。
魔王の動きが活発化しているとか。
…勇者ってなんでしょう。
物語のように突然現れて、魔王を倒して、攫われた姫を攫って行くのでしょうか。
それ以外はあまり去年と変わらないですね。
今年も税金はナシとか。
ああ、アルメッテは税金がありません。産物もありませんし、保存の利く木の実や根菜を収めるにしても、輸送費のほうが高く割に合わない為らしいです。
そもそも王都の駐在官も居ませんからね。
…この領の存在すら知られてないかもしれません。ありそうです。
「そして王国府から要請が一つある…」
◆
集会所には私と領主様夫妻の3人しか居ません。
各代表方は連絡が終わると集会所を出て行きました。
何故かすれ違う人すれ違う人、私の頭をワシャワシャとなでまわすので、少し湿っていた私の髪は爆ぜたようになっています。
手櫛で適当に整えて、後ろ髪を三つ編みにします。右にツッパってしまいました。もういいや。
「ロザリーちゃんから話は聞いていたよね?」
「王都に行く件ですね」
『ロザリーちゃん』はもちろん奥様の事です。
ロザリー様は男爵様より14歳年下なので、結婚当初は子供扱いだったそうです。今の私より下ですから子供なのは確かでしょう。
その頃の呼び方で慣れてしまったとか。仲睦まじい事です。
「王国標準語は話せるね」
『こったら感じでいいだか?』
「うんうん。かなり訛ってるけど通じそうだね」
『先生にば、耳んタコできっほど言われましたわ』
曰く、おまえの王国語は田舎臭い、と。
田舎に住んでいるので間違っていません。それに書く方は問題ありません。
しかし…。
『礼儀作法ですだか?』
「王国府直属の官僚がどこだかの領主から無礼な歓待を受けたとかなんとかでね。必ず一人礼法教育を受けさせるようにだとさ。もう言葉は戻していいよ。」
無礼な歓待とはどういったものだったのかが気になります。ハナほじりながらケツソバットで案内でもされたのでしょうか。
正直、この領に派遣されて来る方がいるとは思えないので、無駄な気もしますが。
末端はともかく、王国自体にこの男爵領が知られてないわけありませんから誤魔化せないのでしょうね。
「でも、何故私なんです?町の外を見たいのは山々ですが、そういう教育を受けるなら身体も顔も見目麗しい方のほうが良い気がしますけど……くっ」
自分で言って傷ついてしまいました。
エルザお母さんからは『服を仕立て直さなくていいから助かるわ』と言われ。
ゴブリンのエリシアさんからは『男向けの服のほうがピッタリしている』と言われますが。
まだ14歳です。私は大器晩成。私は大器晩成。私は大器晩成。
それはさておき、先ほどロザリー様から伺った条件に合いそうで私より…な人は男女合わせて最低5人くらい思いつきます。
それをアルメッテ様に申し上げたところ、ややあって私が選ばれた理由をお話くださいました。
「…君の恋人の事で問題があってね。」




