四話
「ロカ!」
講堂を後にした私をロザリー様が追いかけて来ました。
普段は凛としたお顔を悲しそうに曇らせています。
「すまないっ!最後の件は私も与り知らなんだ。いや、それも言い訳よな…今しばらく「けっこうです」」
失礼かと思ったが遮らせてもらった。
「閣下が問題を問題として先送りされる方ではないのは町の皆も私も知っています。その上でのお話であるなら解決の為に私が外に行くのは合理的とも言えます。王国府からの指示に従う意味でも丁度良い」
「しかしっ!」
「だいじょーぶです。しばらく会えなくなるだけです。あれですよ。会えない期間が長い程愛が深まり恋人達は燃えるのです」
ぐっと握りこぶしを作りおどけてみたが、ロザリー様の顔は晴れない。
お優しい。もう一人のお母様。
このような方だからこそ私達は命を賭けられる。どのような令でも信じられる。
「…彼と話してきますね」
◆
花とお弁当をバスケットに入れて裏門から森に向かう。
今日の警備のロブおじさんから、最近森がまた賑やかになってきたから気をつけろと言われた。
魔王がどうのというのと関係があるのでしょうか。
数年前にも山向こうから来るトカゲや大きなトリが出て来ては町人総出で闘ったりしていました。
さらに前になると、森のコボルトやゴブリンとも仲が悪かったので大変だったのです。
しばらく森を進むと町へ水道を引いている川が見えて来ます。
マザーロックから流れ出た水は冷たく、流れも速いです。ですが、この川があるおかげで町まで魔物が襲って来ないとも言えます。
その為、橋は有りません。
泳いで渡る事もできますが、今日はお弁当と花があるのでダメです。
少し上流の大木から対岸へロープが伝っているのでそれを渡って行きます。
たかだか100メル程度です。
口にバスケットを咥え、いざ。
川を越えて見えてくるのは断崖です。
上るにはまたバスケットを咥える必要があります。帰りは飛び降りるだけなので、川よりは楽かもしれません。
集団で上るときは先行が2名ほど登り、ロープを垂らしてくれます。
が、今は一人なので自力で登ります。えいや。
崖を登った先、少し開けた所に出ます。
ここがコボルトとの境界線あたりで、周囲は壊れた柵や塹壕跡などが今でも残っています。
そして広場中央あたりに立っている碑。
そこにはコボルトと人間の文字でこう書かれています。
『我等の戦友と強敵の闘争の地』
良い言葉です。戦人達は聖なる山に抱かれて永遠の喜びを得たことでしょう。
あまり汚れていませんが、碑の掃除をして花を碑に添え、碑の向こうに向け鳴らない笛を3回、ぴっぴっぴと音をイメージして吹きます。
その間に適当な木陰に持ってきたお弁当を広げ、昼食の準備をする。
シートを広げてパンを切って燻製肉を挟んだりしていると、いつもより早く森がざわめき鳥が飛び立った。
そこまで急がなくても良いのにと苦笑しつつも、近づいてくる何かを待つ。
黒い影と光る目がが森の隙間に見えた瞬間
ソレは信じられない様なスピードで私に飛び掛り、のど笛に牙を突き立てた。




