九話
裏道を使う事になって準備が必要無くなった私は、アルメッテ様に言われてとある部屋の前に来ていた。
扉をトントントンとノックする。
「いるよー」
気の抜けた声が聞こえたので部屋に入る。
部屋の中はあまり広くない。
その中央にある机の前で一人の線の細い栗毛の青年が本を読んでいる
アルメッテ様とロザリー様の次男でルシエール・アルメッテ様。
先ほどの声から考えられないほど真剣な目で本を読んでいますが、何故か妙な色気を感じてしまうその風貌。
ロザリー様に似たんでしょうね。幸いにも。
とっても頭が良くて町で学校の先生をしたり、町が良くなるように何か研究したりされています。
何なのか知りません。一度説明を受けたことがありますが天気を調べるとか何とか。
確かに明日が晴れるか雨かが判ると便利ですね。
「兄を探しに行くって聞いたよ」
パタンと読んでいる本を閉じたルシエール様。
「一つ君の耳に入れておきたい事があってね」
軽い言い回しとは裏腹にその目は鋭く尖っている。
何を言われるのかちょっと緊張します。
…はっ!?
まさか?
『君には兄の行方を探さないで欲しい』
『なに、難しい事ではない。探したけれどダメでした。それでいい』
『そうすれば、君も君の兄弟も友人も幸せになれるんだ。もちろん、恋人も…ね』
まさかの跡継ぎ争いですか。
偶然転がり込んできた次期男爵の座。長男が戻って来るのは甚だ不都合であると。
巻き込まれた私は示された選択に苦悩するのでした。
「この町を収めるのは楽しそうだけど、どちらかと言えば罰ゲームだよ」
はい、でしょうね。ランドルト様が居なくなって一番嘆いていたのはルシエール様ですから。多趣味でいらっしゃるのでご自分の時間が減るのが苦痛だとか。
というかルシエール様は人の思考を読めるんですか。
「ロカ考えそうな事くらいすぐわかるよ。君の想像力は母さんと良く似ているから」
ありがとうございます。よく言われます。
「こほん…それで何のお話でしょうか」
「正直話すべきか迷った。これは僕しか知らない事だし、誰にも言うつもりはなかったが兄を連れ戻す為に行くとなれば教えておいた方が見つけやすいと思ってね。」
「まさか、居場所をご存知なのですか?」
「場所はさすがに。ただ目的は聞いていたんだ。…聞いた翌日に出て行くとは思わなかったけど」
ルシエール様は静かに遠い目をされている。ランドルト様の行動力を甘く見たのですね。
「って!?ランドルト様が町を出た理由…ですか?かけ落ち以外で」
初耳だ。
カイリーアさんと結ばれる事に反対され、二人で町を出たという事になっているはず。
私も伝聞でしか聞いてませんが、何よりアルメッテ様がそうおっしゃってました。
それ以外の目的とは?
「カイリーア嬢にね。その…子供を作れるようになる術を探しに行くと言ってたんだ」




