第2部 「幸福の星」編
~争いのない世界を目指して~
僕は、ペガサスの霧に包まれた荷馬車に乗って、不思議な少女イズミと地球を旅立った。壮大なスケールで描かれる本格SF小説。
まことしなやかに言い伝えられる噂があった。
「銀河系の中心には、人と人とが思いやり、幸せを分かち合いながら暮らせる星がある。その星にたどり着くには、いつ現れるかわからない、2頭のペガサスに引かれた『荷馬車』に乗ればよい」と
第1章.それぞれの思い
1.ケンジとイズミの気持ち
ケンジは、イズミの部屋に入ってから、イズミのそばに寄り添い、氷のように冷たいイズミの右手を両手で握りしめながら、ずっと、イズミを見つめていた。
そして、僕は、自然につぶやいた。
「きっと、つらい旅を続けてきたんだね。君が地球で最初に叫んだ言葉を改めて思い出したよ。『もう戦いはやめて。これ以上、人と人が殺しあうのを見たくないの』って」
「そして、ニコルの工場で訴えたことも。『世の中の人が、それぞれの違いを認め合いながら、幸せに暮らせる日は来ないのかしら』って」
「君は、この2つのことができると信じて旅をして来た。僕に、『この旅の間、人を殺してはいけない』って言ったのも、その信念の表れだね。きっと、誰に何と言われようと、一人でその信念を貫ぬこうとして」
「でも、この前の惑星カルマンでの戦いで、君は、ダートマスやアシュトンたちを自らの手で殺してしまった。僕を守るために、自分の信念を曲げて・・・。すまなかった」
「君の服の色と指のリングが白から黒に変わった時、君は、自分を『邪悪な心を持った人間だ』と思い、そのショックで気を失ったはずだ」
「でもね。君は、ダートマスやアシュトンを殺す前に言ったじゃないか。『この人たちは、もやは、”人”ではないのね』って」
「君は邪悪な心を持った人ではない。あの行動はとっさにしたことではない。『人』ではないのね・・・と確認してから、君は、誠心誠意、僕を守ろうとしたんだよ。それは、邪悪な心ではない。この世の中の『不条理』に対して『自分を見失った怒り』ではなく、『理性』を持って立ちむかったんだ。無駄な殺し合いはダメだと思うけど、今回の『殺し』は、銀河の人たちすべてを生かすために必要な殺しだったんだよ。今回の出来事はしょうがないことだよ。誰も君を責めていない。みんなが認めてくれる行動だと思う」
「だから、もう、自分を責めないで、目を覚ましておくれ」
僕は、いつの間にか、涙を流していた。
涙が次から次へとあふれて出てきて、その涙は、イズミの右手を握っている僕のこぶしにとめどなく落ちて行った。
すると、イズミの右手がかすかにピクっと動いた感じがした。
「イズミ」
僕が、イズミの顔のほうに目をやると、少しづつ、イズミの目が開いた。
「ケンジ・・・?」
「ああ」
イズミは、元気はないが、少し微笑むと、
「あれからどうなったの?」
と尋ねた。僕は、イズミが気絶してからの出来事を話しはじめた。
「ああ。ダートマスも、アシュトンも、それから、武器商人のハンスも死んだ。そして、ダートマス連邦もアシュトン帝国も惑星カルマンも、マッド・ウルフが、エネルギー砲で爆破した。マッド・ウルフは自分が持っている『自分の信念』を貫いたのだと思う」
「そう」
そう言うと、イズミは深くため息をついてこう言った。
「結局、『力』には『力』でしか対抗できないのかしら?」
「そうじゃないと僕は思う。確かにダートマス連邦とアシュトン帝国をせん滅したのは『力』だけど、その後は、戦争は収まっている。ダートマス連邦とアシュトン帝国の呪縛が解けたみたいだ。クリスタル号は、まだ、アシュトン帝国とダートマス連邦が火花を散らしていた星域にいるけど、あの後、戦争は止まった。星通しが争う気配はない。これからどうなるかわからないけど、今のところ、イズミが行ってくれたことは、必要な措置だったと僕は思う。これから、イズミの言う『世の中の人が、それぞれの違いを認め合いながら、幸せに暮らせる時』を目指せばいいのだと僕は思うし、銀河系の『生きとし生けるもの』が力を合わせれば、それができると思う」
「ケンジ。やさしいのね。ありがとう」
イズミはそう言うと涙を流した。そして、続けた。
「あの時のわたし、怖かった?」
「ああ、今まで、マッド・ウルフに意見を言う時以外は、穏やかなイミズしか見たことがなかったからね。特に、服の色と指のリングが白から黒に変わった時はびっくりしたよ。でも、あの時の『黒いイズミ』は、邪悪な心をもったイズミではないと僕は信じている。『怒り』の中にも『理性』を持ったイズミさ。僕は、冷静なイズミも好きだけど、感情をあらわにしたイズミも、人間らしくていいと思う。僕は、白色のイズミも黒色のイズミも好きだよ」
「いじわるね。でも、あなたの言葉で、なんだか勇気が出てきたみたい。ありがとう」
徐々に、イズミは、顔が赤らみ、僕の手を握り締める力が強くなるのがわかった。
「大丈夫ですか?」
その時、アクアがイズミの部屋に入ってきた。
「イズミさん、意識を取り戻している。良かったぁ」
「心配をかけたわね。ケンジが私の横で、涙を流しながら、いろいろしゃべるから、目が覚めたのよ。もう少し、ゆっくり寝たかったのにね」
ちょっと軽く笑顔を浮かべ、イズミは答えた。
「俺がしゃべっているの、聞いてたの?」
「ええ、『君は邪悪な心を持った人ではない。あの時、君は、誠心誠意、僕を守ろうとしたんだよ・・・』ってところぐらいかなぁ」
「聞いているんなら、声かけてよ。はずかしいじゃないか・・・」
仲むずましい2人の会話を見て、なぜかアクアは、ちょっと頬を膨らませて、不機嫌そうに、
「点滴をとりますね。2週間もお眠りになっていたんですよ。お腹すいたでしょ。お食事をお持ちしますか?」
と聞いた。
「いえ、シャワーを浴びて、後で、ケンジといっしょに食堂に行くわ。アクアちゃん。あなたの得意料理、久しぶりに食べたいわ」
イズミがそう言うと、
「わかりました」
と言って、イズミは、手際よく、点滴をとり、道具を整理して、イズミの部屋から出ていった。
「アクアちゃん。ちょっと不機嫌だったね」
「わたしはうれしかったけど」
「それってどういう意味?」
「さあね・・・」
イズミは今まで見せたことがないようなあどけない笑顔で、「クスッ」と笑いながらつぶやいた。 僕には、どういう意味かわからなかったが、どうやら、イズミはいつもの元気を取り戻したようだ。良かったと思った。
「わたし、2週間も寝たきりだったのでしょ。シャワーを浴びて食堂に行くわね。
あなたも傷口に気をつけて、シャワーを浴びて。一緒に入り口で待ち合わせをして、一緒に食堂に行きましょう」
「わかった。とりあえず、イズミに元気が戻って良かった」
そう言うと僕は、イズミの部屋から出て、自分の部屋に戻り、シャワーを浴びた。
イズミは、自分の体調を確かめるようにしながら、少しずづ体を起こし、ベットから下りた。そして、自分の体とリングが白く元に戻っているのを見て、ホッとしたかのように、
「フウッ」
と息をはいて、シャワー室に入った。
2.アクアとオンジの気持ち
「オンジ。いつものコーヒー、入れてきましたよ」
アクアがちょっと頬を膨らませて、いつもより不機嫌な顔をしてオンジのマグカップにコーヒーを入れて来た。
「ちょっと、横に座っていいですか?」
アクアは、オンジ用のコーヒー入りマグカップを、いつもの、オンジの御者席の左テーブルのマグカップ置き場に置くと、オンジの右側に座った。
「ああ、いいよ。でもどうしたんじゃ。なんだか不機嫌じゃなぁ。今まで、そんなアクアをわしは見たことがないけどなぁ」
「ところで、さっきから、ポニーが徐々に元気を取り戻してきているんじゃが、イズミさんの様子はどうじゃ?」
そうオンジが聞くと、
「意識を取り戻されました。良かったです。ケンジさんにやさーしくされて、元気を取り戻したみたいです。お二人で、楽しそうに会話をされてましたし、イズミさん、もう、立ち上がって、シャワーを浴びれるくらいまで回復されているみたいです。私が、一生懸命、点滴や栄養剤を打つよりも、ケンジさんのやさーしい一言、励ましの一言のほうが、イズミさんの病気には効くみたい。ケンジさんとイズミさん、お互いにシャワーを浴びたら、一緒に食堂に来る約束されてました。もうすぐしたら、2人で仲よーく食堂に来られると思います」
アクアは、ちょっと、ツンとした顔で答えた。
「アクアがなぜ不機嫌かわかったわい。それで怒っておるのか?はっはっは」
「笑わないでください。全然、おかしくないです」
そう言いながら、一転して、ちょっと悲しそうな顔をして、アクアはこうオンジに尋ねた。
「イズミさんの意識が戻って、うれしいはずなんですけど、ケンジさんとイズミさんが仲良くしゃべっているのを見ると、なんだか、イライラするっていうか? 胸がモヤモヤして苦しくなるっていうか・・・。私、何かおかしくなったんですか?」
するとオンジはこう答えた。
「アクアは正常じゃよ。アクアの年頃になると、それが正常なんじゃ。アクアは、イズミさんに嫉妬しているんじゃよ」
「嫉妬?」
「そう、嫉妬。お前さんが、ケンジのことを好きになったってことじゃ」
そうオンジが言うと、アクアの顔が真っ赤になった。
「ケンジは、クリスタル号に乗ってきた時は、戦いに疲れて、生気がなかったが、この旅を続けてきて、いろいろなことを見聞きし、経験したことで、ずいぶん、力強くなった。最初は『自分だけが幸せになればいい』としか思っていなかったみたいじゃが、だんだん、周りの人への気遣いができるようになってきて、『銀河系の人たちを幸せにするにはどうしたらいいんだろう』と考えるまで、心の広い人間になった。もともと、心の広い人間だとわしは思っておったが、それに自分自身も目覚めたのじゃよ。その魅力に、イズミさんもアクアも、惹かれて行ったんじゃろ。もともと、やつは男前じゃしなぁ。わしゃ、うらやましいよ」
「これが『恋』なんですか?」
「そうじゃな。アクアは決して変ではない。アクアがイズミさんに嫉妬するのは正常な女性のあかしなんじゃよ」
「もうすぐこの旅は終わるはずじゃ。最後に難関が待ちかまえておるがのぉ。それを乗り越えれば、終着地の『幸福の星』じゃ。イズミさんには、今度こそ目をそらせない、つらくて乗り越えないといけない出来事がたくさんあると思う。だが今回、わしは、ケンジとならイズミさんは、『幸福の星』で起こる困難に立ち向かえるのではないかと思っておる」
「どうしゃ。『幸せの国』での出来事がハッピーエンドに終わったら、お前さん、勇気を出して、『ケンジさん、好きです』って言ってみては?」
そうオンジが言うと、アクアは、何も答えることなく、30分くらい、顔を真っ赤にして、オンジの横に黙って座っていた。
すると、後ろの廊下のほうから、イズミとケンジの話声が聞こえた。
その後、ケンジがキッチンをのぞきながら、
「アクアちゃん。来たよ。イズミさんも元気になったよ。いつもの、アクアちゃんの得意料理、お願いできるかなぁ? あれ、アクアちゃん、キッチンにいないや。どこに行ったのかなぁ・・・」
我に返って、アクアは、オンジに、
「今のお話は内緒ですからね。しゃべったら絶交ですからね」
と言い残し、
「はーい。すいません。今、そちらに行きます。料理しますね」
と答え、急いでキッチンに戻っていった。
「やっぱり、わしの思った通りじゃ。ケンジのやつ、とうとう2人の女性を虜にしおった。どうなることやら・・・。わしゃ、どう振舞えばよいのかのお・・・。どう思う、ポニー、サニー」
とオンジは小声でつぶやいた。ポニーとサニーは耳をふさぎ、「さあねぇ」というような表情をしながら、すっかり元気を取り戻し、白いクリスタルの霧を発しながら、走り続けた。
第2章.「幸福の星」
1.「コア・ワールド」到着前夜
クリスタル号は、ペガサス ポニーが元気になったこともあり、加速しながら順調に進んでいた。もうすぐ、銀河系の中心近くのクアット星系を抜けようとしていた。
僕とイズミは、暗黙の了解で定位置になっている食堂の椅子に座っていた。
「本来は、ここはアシュトン帝国の領域で、ダートマス連邦が攻めいっていたところじゃが、戦闘がすっかり収まっておる。両国を滅ぼしたのは正解じゃったかもしれませんなぁ」
オンジが言う。
「そうね。でも、ここまでは『力』と『力』のぶつかり合いだったから、それがなくなり、一時的に静かになっているだけかもしれないわ。本当に銀河系が平和になっているかどうかは、幸福の星のある銀河系の中心『コア・ワールド』に入ればわかるわ」
イズミがそう言うとオンジが、
「そうですなぁ」
と答えた。
「コア・ワールド?」
僕が聞くとイズミが、食堂の壁に貼ってある銀河の地図の上で、現在地と目指すべき場所を指した。
「今いるのは、クアット星系の端。ここから、幸福の星のある『コア・ワールド』に入るわ。ここは、ダートマス連邦もアシュトン帝国も手を出せなかった所。実は、『コア・ワールド』は『誠実な心』と『邪悪な心』が入り乱れているところ。銀河系を支配しているのは、ダートマス連邦でもアシュトン帝国でもないわ。銀河系の本当の支配者は2人。『誠実な心を持つ女王』と『邪悪な心を持つ女王』。『誠実な心を持つ女王』は、この『コア・ワールド』内のど真ん中にある『幸福の星』にいるけど、そこにたどり着くまでには、その周りを真っ黒な星雲で囲まれている『邪悪な心を持つ女王』が支配する領域を通らなくてはならないの。幸福の星にたどり着くためには、『邪悪な心を持つ女王』の領域内に『誠実な心の女王』がつくった『棘の道』を通り抜けなければならない。でも、その道、トンネルは、このクリスタル号が通れるかどうかわからないくらい暗くて狭いの。『邪悪な心を持つ女王』の力は強いわ。クリスタル号の出す『霧』でも、よほど、強力な霧を出さないと無傷では通り抜けられないわ」
「惑星カルマンから去る時に、マッド・ウルフが『最後の戦いが”幸福の星”で待っている』と言っていた。それがこのことなのか?」
「そうね。ある意味、ここが、最後にして最大の難関。ケンジ、ここが最後の選択よ。このまま進むか?ここで引き返すか?」
真剣な顔をしてイズミは聞いたが、僕の心は決まっていた。
「僕は、この旅の最初に、『みんなの思いも背負って、僕はこの旅を成功させる』『”幸福の星”に必ずたどり着いてみせる』って言ったはずだよ。そして、今もその気持ちは変わっていない。旅立ちを手伝ってくれた人たちの思いだけでない。この旅を続ける中でお世話になった人たちの思いも加わって、『幸福の星』に行きたいという思いはより強くなった。ただ、旅の目的は変わった。『自分が幸せになる』のではなく、イズミが言う『世の中の人が、それぞれの違いを認め合いながら、幸せに過ごせるための答え』を出すために進むんだ」
「わかったわ。明日、コア・ワールドに入り、棘の道に入るわ。とてつもない攻撃を受けると思うけど、みんなで乗り切りましょう。オンジ、進みましょう」
「わかりました。明日、コア・ワールドに入り、棘の道を進みます」
オンジの鞭がしなり、2頭のペガサスを打つ。2頭のペガサスは、今まで以上に羽をはばたかせ、クリスタルの霧を発生させながら進んだ。
「乗り切るためには、アクアちゃんの心のこもった得意料理を食べる必要があるね。アクアちゃん、いつもの料理をお願いします」
ケンジがそう言うと、アクアは。
「いつもの料理って、ミートソーススパゲッティーと搾りたてのオレンジですけど、そればかりでいいんですか?もっと、いろいろ料理できますよ」
アクアは、ちょっと顔を赤らめながら聞いた。
「難局を乗り切るからこそ、アクアちゃんの心のこもった一番の料理が必要なのさ。よろしくね。」
ケンジの回答に、アクアは、満面の笑みで
「ハイ」
と答え、キッチンで料理をはじめた。
アクアの作った料理は、今まで以上においしく感じた。イズミとケンジは、明日からの難局を迎えるのを忘れ、アクアの心のこもった得意料理を楽しく食べつくした。
「おいしかったー。これで、明日は乗り切れるぞー」
ケンジがそう言うと
「そう言ってもらえてうれしいです」
とアクアは答えた。
「それじゃあ、明日に備えて、操縦は、2頭のペガサスにまかせて、みんな、休みを取りましょう。」
イズミがそう言うと、
「はい」
ケンジ、アクア、オンジはそろって返事をし、それぞれの部屋に戻った。
―――――
その夜、アクアは、不安でなかなか眠れなかった。勇気を振り絞って、青空のネグリジェ姿のまま、部屋を出て、ケンジの部屋に行こうと思った。スライドドアを開け、部屋を出ようとしたその瞬間であった。廊下には、白いネグリジェのイズミが、ケンジの部屋をノックしているのを見た。
イズミがノックをすると、ケンジの部屋のスライドドアが開いた。
「ケンジ。お願いがあるの。部屋に入って、話をしてもいいかしら・・・」
イズミがそう言うと、ケンジはとまどいながらも、
「何か言い忘れていたことでもあるの。いいよ」
と言って、イズミを招き入れた。
ちょっと悲しい思いをしたアクアだったが、ケンジの部屋に行くのをやめ、その代わり、オンジの部屋をノックした。
「どうしたんじゃ。アクア」
「明日のことが不安で眠れないんです。私が眠れるまで、手を握っておいていただけませんか?」
「わかったよ」
オンジは、アクアの部屋に入った。
「手を握っておいてあげるから、ゆっくりお休み」
「はい。ありがとうございます」
アクアは、オンジの温かい手をつないでもらい、ちょっと涙を流しながら、ベットに横になり、ほどなく眠りに入った。
オンジは、アクアの手を握りながら、アクアの部屋にある椅子に座り、眠った。
―――――
その間、ケンジの部屋では、ケンジとイズミがベットに並んで座り、会話をしていた。
「わたし、強がっているけど、まだ、本当は不安なの。惑星カルマンの時のような『邪悪な自分』がまた現れるんじゃないかって・・・」
「大丈夫だよ。この前も言っただろう。イズミが黒くなったのは、決して『自分を見失った怒り』や『邪悪な心』からではなく、あの色の中には『理性』もあった。だって、色が変わる前に、ちゃんと、『この人たちはもはや“人”でなくないのね』って『理性』をもって判断した上で色が変わったんじゃないか」
「あなたは心の強い人ね。あなたを旅のパートナーに選んで良かった。あなたには、旅の中でたくさん勇気をもらった気がする。あなたとなら、『邪悪な心を持つ女王』の攻撃を乗り切れる気がする。本当にありがとう」
イズミは部屋に入って来た時の不安な顔から、安堵したような笑顔に変わった。
「一つだけお願いがあるの。あなたの勇気を私に分けてくれないかしら。さっきまで、私、一人で眠れなかった。部屋に戻っても、また、不安な気持ちが出てくるかもしれない。もし、あなたがいやじゃなかったら、今晩、あなたの胸の中で眠りたいの」
僕は、一瞬、気が動転したが、まだ、時折不安そうな顔を浮かべるイズミの顔には勝てなかった。
「僕が君の役に立つのなら、君が安らぐのなら、いいよ」
「ありがとう」
そう言うと、僕がベットで横になった後、イズミが入ってきて、僕の腕を枕にし、手を僕の胸に添えて、安心するように眠った。
その寝顔は、とても愛らしく、この世のものとは思えないくらい美しかった。
いつの間にか、僕も、彼女のその美しい姿に見とれ、良い香りに包まれながら眠った。
―――――
次の朝、僕が起きた時、イズミはまだ、安心して、僕の腕を枕代わりに、僕の胸に手を添えて、相変わらず、美しい笑顔で寝入っていた。
(安心して、眠ることができて良かった。僕も、安らかに眠ることができたよ)
そう思っていると、イズミが目をさました。
「おはよう。そして、ありがとう。安心して眠ることができたわ。今日は頑張りましょうね」
そういうと、イズミは起き上がり、立ち上がった。
窓から、朝日が差し込んでくる。差し込んだ光に対して、輝くように見える白いネグリジェのイズミが天使のように輝いて見えた。
「じゃあ。部屋に戻るわね。本当にありがとう。今日は、あなたの勇気を私に分けてね。」
そう言うと、イズミは起き上がり、立ち上がった。
近くの恒星の光が窓から差し込んできた。その光を受け、輝くように見える白いネグリジェ姿のイズミが天使のように見えた。
「じゃあ、部屋に戻るわね。本当にありがとう。今日も、あなたの勇気を私に分けてね」
そう言うと、イズミは自分の部屋に戻っていった。
部屋には、イズミの残り香がただよい、思わず僕はデレっとしてしまった。
そうしていると、ノックもなく、ガラっと僕の部屋が開いた。
いつものお手伝いさんの衣装を着たアクアがプンプンしながら、ズカズカっと入ってきた。
「ケンジさん。起きてくださいね。今日は大変な戦いがあるんですから、気を引き締めてくださいね。デレっとした顔してますよ」
「はっ、はい。わかりました」
僕がそう答えると、アクアは、顔を僕の右耳の横に近づけてこう言った。
「昨日の夜、イズミさんに変なことしなかったでしょうね?変なことしてたら絶交ですからね」
そう言うと、プンプンしながら、荒めにスライドドアを閉めて出て行った。
「なんなんだぁ。昨日、イズミが僕の部屋に入るの見ていたのかなぁ?でも、イズミに変なことしたら、なんでアクアちゃんと絶交になるんだぁ?」
そう思いながら、僕は身支度を整え、食堂に行った。
食堂では、いつもの席にイズミが座っていた。
「おはよう」
イズミが僕に声をかけてきた。
「おはよう」
ちょっと他人行儀だが、僕はイズミに返答して、いつも座っている席に座った。
すると、トーストと目玉焼き、ミルクをワゴンにつんだアクアが現れた。
「イズミさん。どうぞ、トーストと目玉焼き、ミルクです」
「ケンジさん。はい、トーストと目玉焼き、ミルク」
そう言いながら、2人の前に朝ご飯を用意してくれた。
イズミの前に皿などを並べる時は丁寧に、僕に皿などを並べる時は雑に置いて行った。
「アクアさん、今朝からご機嫌斜めね」
「なんなんだぁ。この扱いの違いは?僕ってアクアちゃんに悪いことしたかなぁ」
イズミと僕がそう話していると、御者席に座っているオンジがこう言った。
「ケンジよ。お前、アクアから殴られなかったか?はっはっはっ。お前も鈍い男よなぁ」
「これだけはゆずれませんわ。これも一種の戦いかしらね」
イズミは「クス」っと笑って答えた。
(いったい何が起こっているんだぁ)
と思いながらも、イズミと食事を済ませた後、僕は、イズミと僕の食べ終わった食器類を持って、アクアのいるキッチンへ運んで行った。
「アクアちゃーん。食べ終わったよー」
(なんで僕がこんなに気をつかわなきゃならないんだ)と思いながら、アクアのご機嫌をとるようにアクアに声をかけた。
「そこに置いておいてください」
アクアは、僕が一生懸命、食器類をキッチンへ持ってきたのを見て、「プッ」と吹き笑いをこぼした。いつもの笑顔に戻っていた。
(良かったぁー)
僕は、内心、安心しながら、食べ終わった食器をキッチンの流しに置いて、食堂のイズミの席の前に戻った。
「まさか、このクリスタル号の中で戦争が起こるとは思わなんだ。ご愁傷様じゃな。
早く白黒はっきりつけんと、わしゃ知らんぞ。なあ、ポニー、サニー」
とオンジは小声でつぶやいた。ポニーとサニーは再び耳をふさぎ、「さあねぇ」というような表情をしながら、走り続けた。
2.棘の道
彼らが食事を終わるころ、クリスタル号の前方に、巨大な暗黒の球体の形をした雲に覆われた星域が現れた。そのど真ん中に、針の穴を通すくらいの一筋の真っ白な光が輝いている。
「これが、『コア・ワールド』よ」
イズミが言った。
「前回来た時よりも。暗黒の星雲が大きくなり、真ん中の光の部分が小さくなっております。『邪悪な心を持つ女王』の力が増しておりますなぁ」
「そうかもしれないわね。よほど、ポニーとサニーのクリスタルの霧を強くして棘の道を通らないと、このクリスタル号といえども、押しつぶされてしまうかもしれないわ」
その後、イズミは、ケンジにこう告白した。
「実は、私は『誠実な心を持つ女王』と呼ばれているイズミ。この銀河系を取りまとめている女王の一人よ。昔は、『誠実な心を持つ女王』の私と、これから戦う『邪悪な心を持つ女王』のイズミは一つの体だった。でも、私は、自分の中に『邪悪な心』が存在していることそのものに耐えきれなかった。なんとか、自分の中の『邪悪な心』を抑えようとしたけど、『邪悪な心』の方が勝ってしまい、抑えきれなくなった。そして、銀河系の中で『人』のような知的生命体が増え、銀河系のいたるところで戦争がはじまるようになったわ。
だから、私は、自分から、『邪悪な心』の部分を切り離してしまった。それから、これから行こうとする『幸福の星』と名付けた自分の母星をつくった。そして、ポニーやサニーが放っているようなクリスタルの霧で『幸福の星』を守り、あなたのような、『誠実な人たち』を集めて、その母星で暮らすことを目指した。だけど、それが大きな間違いだった。切り離した『邪悪な心』は、そのうち、『邪悪な心を持つ女王・イズミ』となり、まったく制御できなくなった。そのため、銀河系の中で、戦争がさらにひどくなった。そこで現れたのがダートマスやアシュトンのような人たち。彼らは、『邪悪な心を持つ女王・イズミ』の分身も同然。そのうち、私がつくった『幸福の星』は、見ての通り『邪悪な心を持つ女王・イズミ』のつくった『暗黒の雲』に覆われてしまったわ。
今、『幸福の星』に行く道は、私が切り開いてなんとか保っている、目の前に見える『棘の道』のみ。でも、その道もいつまで持つかわからない。いつかは『邪悪な心を持つ女王・イズミ』の力に負けて、押しつぶされてしまうかもしれない。これを打破するためには、私の中から生まれたであろう、ケンジ、あなたのような、『誠実な心』の強い人の助けが必要なの」
「わかったよ。イズミ。一人で苦しんでいてはダメだ。ここには純粋な心を持つアクアちゃんもいるし、これらのことをすべて理解し、助けようとしているオンジもいる。みんなで心を一つにすれば、棘の道を突破できるさ」
「その通りじゃ。ポニーとサニーが羽から放っているクリスタルの霧は、実は、今まで、イズミさんからポニー、サニーを経由して発せられたものじゃ。じゃから、どんなエネルギー砲やレーザーも跳ね返すことができた。じゃが、今回の『邪悪な心を持つ女王・イズミ』のエネルギーは、今までとは桁違いじゃ。おそらく、マッド・ウルフが持つ『神の銃』の最大級のエネルギーでもかなわんじゃろう。とても、ここにいるイズミさん一人の『誠実な心』だけでは耐えきれん。みんなが心を合わせて、ポニー・サニーにクリスタルの霧に自分の持つ『誠実な心』を送るんじゃ」
「それほどまでに、『邪悪な心を持った女王・イズミ』の力はすごいのか?」
「そうね。オンジが言った通り、マッド・ウルフの父、ノアのつくった『神の銃』をもってしても、『邪悪な心を持つ女王・イズミ』からしたら、銀河系のたった一人の科学者がつくったやわな武器にしか感じないわ。今のコア・ワールドを見ていると、その力はさらに増しているように感じるわ」
「そうなのか。ここでは『力』と『力』の勝負ではどうにもなりそうにないね。ここを乗り切るには、みんなの『誠実な心』を結集しなければならないんだね」
「そうよ」
そう、イズミと僕が会話をしているうちに、オンジが言った。
「それでは、棘の道に突入しますぞ。アクア。キッチンを片付け、食器類の入った戸棚、食料の入った冷蔵庫や箱に厳重にカギをかけて固定するんじゃ。それから、クリスタル号の入り口、各部屋の窓、私の後ろの戸も閉めて、鍵をかけろ。それが終わったら、食堂の真ん中の廊下に集まり、体を寄せ合って、『棘の道』を通り抜けれるように願うんじゃ。棘の道のトンネルからは、至るところから、どす黒い稲妻のような形をした棘が飛んでくる。相当な衝撃を受けるだろうし、ポニーやサニーが出す、クリスタルの鉄壁の霧でも、棘に破壊されるかもしれない」
「わかったわ」「わかりました」
イズミとアクア、僕は答えた。
その時、
「ちょっと待て」
という声が聞こえた。マッド・ウルフの声である。
振り向くと、クリスタル号の後方から「ゴー」という音を立てて近づいてくる戦艦があった。戦艦ノアである。クリスタル号の右側に、戦艦ノアが並走してきた。
「久しぶりにこの空間に来たが、『邪悪な心を持った女王・イズミ』の力は増しているようだな。」
「確かに、俺の親父、ノアの作った『神の銃』は、『邪悪な心を持った女王・イズミ』から見たら、銀河の一科学者のつくった、取るに足らない銃かもしれん。しかし、それでも、親父にとっては、科学者の力試しとはいいながらも、平和を願いながら、最大限の思いをこめてつくった銃だ。親父もこの『銀河系』の一員だったと考えるならば、親父のつくった銃から放たれる『エネルギー』も、この『邪悪な心を持った女王・イズミ』のつくる『暗黒の雲』に効くかもしれない」
マッド・ウルフが言った。続いて、戦艦ノアに乗っているニコルが、
「マッド・ウルフ。この戦艦レアのエネルギー砲と同時に、神の銃を恒星爆破バズーカーモードにして撃つぞ。狙いは、『棘の道』。『棘の道』を少しでも広げることができれば、クリスタル号は、少しでも安全に『棘の道』を通ることができる。じゃが、リスクも伴う。『棘の道』を撃つということは、場合によってはイズミさんのつくった『幸福の星』を撃つことにもなるかもしれん。もし、『棘の道』を広げるために『神の銃』が効くのであれば、その先にある『幸福の星』にもダメージを与えることになるじゃろう。『幸福の星』を守るために、幸福の星の『クリスタルの霧』にも、みんなの『誠意の心』を送ってほしい」
と言った。
「わかったわ。」「わかりました。」
再び、イズミとアクア、僕が答えた。
「それでは、はじめよう。俺たちが「エネルギー砲」を撃って、棘の道に突入したら、クリスタル号もそれについてきてくれ」
マッド・ウルフがそう言うと、オンジがこう聞いた。
「わかった。でも、なぜそこまでしてくれる。お前の戦いは、ダートマス連邦とアシュトン帝国をせん滅することで終わったではなかったのか?」
「おれはイズミにこう答えたことがある。『ダートマス連邦とアシュトン帝国をせん滅した後は、その後の世界がどう変わるかを見た上で、自分の道を決める』と。今、行っていることがその答えだ」
マッド・ウルフは答えた。
「わかった。頼む」
オンジは、手綱を握り、ポニーとサニーに鞭を打ちながら、戦艦ノアに続いた。
「恒星爆破バズーカーモードセット。エネルギー最大!」
「撃て!」
戦艦ノアは、艦首の砲筒と、戦艦ノアの甲板に出ているマッド・ウルフの持つ「神の銃」から同時に、「棘の道」に向かって、エネルギーを放ちながら、棘の道に突入した。
「わしらも続くぞ」
オンジは、そう言うとともに、手綱を改めて強く握りしめ、ポニーとサニーに鞭を打ち、戦艦ノアの後に続いて、棘の道に突入した。
―――――
戦艦ノアと神の銃のエネルギーは、棘の道を切り崩し、トンネルを広げていった。しかしながら、トンネルの脇の雲の中から、棘が容赦なく、無数に飛んでくる。棘の道のトンネルは奥深い。エネルギーも棘の道の途中で途切れてしまった。
「エネルギー砲を、力の続く限り、撃ち続けろ。活路を見出すんだ」
マッド・ウルフは、そう言うと、戦艦ノアの艦首の砲筒と、マッド・ウルフの持つ神の銃から、エネルギーを撃ち続けた。しかしながら、操縦部の甲板に立っているマッド・ウルフにも、戦艦ノアにも、無数の棘が刺さりはじめ、徐々に、マッド・ウルフは血だらけになり、戦艦ノアの至るところに穴が開きはじめた。
「・・・」
マッド・ウルフが棘の痛みに耐えながら、「神の銃」でエネルギーを撃ち続けている時である。操縦部の下のほうから、ニコルが、
「マッド・ウルフ。わしに手がある。操縦部に下りてこい」
と声をかけてきた。さすがのマッド・ウルフも、血だらけになりながら、神の銃を持ち、転げ落ちるように、甲板から、操縦部に下りてきた。
「この方法を使ってみよう」
ニコルが言う。
「惑星パイソンで、エネルギー砲を修理している時に、この操縦部のノアの研究室のコンピュータの中から『ノア』のメモを見つけた。ノアは、このエネルギー砲と神の銃に、機能を付け加えようとしておったのじゃ。『クリスタル号の霧のようなバリアモード』をな」
「クリスタルのバリアモード?」
「そうじゃ。ノアは、わしにも内緒で、衛星レアルを守るためのバリアをつくろうとしておったのじゃ。このメモを見る限り、『クリスタルのバリアモード』でエネルギー砲を撃とうと考えておったようじゃ。このノアのメモに書かれている方法を使い、『恒星爆破用バズーカーモード』でエネルギー砲を撃てば、『クリスタル号』の霧のような『バリア』を放つことができるかもしれん。まず、わしが試してみよう」
そう言うと、ニコルは、操縦部の中央の、エネルギー砲を、『恒星爆破用バズーカーモード』にした上で、「ノア」のメモに書かれている通りのことを行ってエネルギー砲を撃った。すると、戦艦ノアの艦首のエネルギー砲の出口から、今までのような、恒星を破壊するような閃光ではなく、クリスタル号の霧ほど強力ではないが、クリスタルの霧が出はじめ、戦艦ノアを包み込んでいった。すると、突き抜けてくる棘も多少あるものの、「戦艦ノア」を包んだクリスタルの霧が、黒い雲から無数に飛んでくる棘をはじき、戦艦ノアは、棘の道を崩してはじめた。
「どうしゃ。これでもわしゃ、ノアの一番弟子じゃぞ。やりゃあできる。じゃが、『ノアのメモ』通りにエネルギー砲を操作するのは難しいのぉ」
そう言ったのもつかの間、どこからともなく、
(そうはさせるものか!)
と、まるでテレパシーのように、マッド・ウルフとニコルに「邪悪の心を持つ女王・イズミ」の心が伝わった。そして、稲妻のような形をした強固な棘が、戦艦ノアの操縦部の甲板を突き破り、ニコルの胸を貫いた。
「ニコル!」
マッド・ウルフがそう叫ぶと、ニコルは、マッド・ウルフのほうを向いて、こう答え、絶命した。
「マッド・ウルフよ。この戦いの結末を見ることはできんかったが、わしの仕事はこれで終わりじゃ。あとはお前にまかせる。この『ノア』のメモ通り、エネルギー砲を撃ってみろ。お前は約束通り、わしの死に場所を与えてくれた。ありがとうよ」
「ニコル・・・」
そう言いながら、マッド・ウルフは、ニコルから棘を抜き、ニコルが持っていた「ノアのメモ」を読み、ニコルが握っているエネルギー砲の引き金にニコルの手の上から自分の手を添えて、引き金を引き続けた。すると、戦艦ノアの艦首のエネルギー砲筒の出口から、クリスタルの霧が噴出し続け、先ほどよりもクリスタルの白い霧が濃くなり、戦艦ノアを包みこんだ。
「邪悪な心を持つ女王・イズミ」は、再び、稲妻の棘を戦艦ノアに放った。しかし、今回は、戦艦ノアが発するクリスタルの霧が、その棘を跳ね返した。戦艦ノアは、猛進しながら、棘の道を崩し、広げながら進んでいった。
(おのれー)
「邪悪な心を持つ女王・イズミ」は、マッド・ウルフに心の声を送った。
―――――
そのころ、戦艦ノアに続いて、クリスタル号も棘の道を進んでいた。
「戦艦ノアから、クリスタルの霧がでておる。どういうことじゃ・・・」
ポニーとサニーを操作しているオンジが、驚くような目をして、その光景を見ていた。
クリスタル号の中では、食堂の中心にイズミが座り込み、それにしがみつくように、ケンジとアクアが座り込んでいた。
前方を進む戦艦ノアと、3人の強い『誠実な心』に守られるかのように、クリスタル号は、棘を次々と跳ね飛ばしていた。
その時である、どこからともなく、邪悪な声が聞こえた。
(善人面をしているイズミよ。思い出せ。お前が惑星カルマンで行ったことを。お前は、ダートマスとアシュトンを斬殺した。その時、お前は、私と同じ、邪悪で真っ黒な醜い姿になったではないか。所詮、この世には誠実な心を持った者など存在しない。お前も善人面をしているが、その心の中には邪悪な心が残っているのさ)
「邪悪な心を持つ女王・イズミ」からの心の声がクリスタル号にいるメンバーに伝わった。
クリスタル号のイズミは動揺し、耳をふさぎ続けた。
その時、棘が、クリスタルの霧を突き破りはじめ、クリスタル号の至るところに突き刺さった。
「キャー。キャー」
荷馬車の壁を突き破り始め、小さな棘が食堂内を襲いはじめた。アクアが動揺して、叫び声をあげた。
窓の外では、ポニーとサニーにも棘がささりはじめ、血だらけになっていた。また、オンジの腹に大きめの棘が突き刺さった。
「邪悪の女王のささやきに動揺するんじゃない。3人の強い意志を取り戻すんじゃ。ケンジ」
オンジの断末魔の叫びに、我に返った僕は、イズミにささやいた。
「カルマンの時のイズミの行動は、誰も責めていない。あの行動が、銀河系の人々を助けたんだ。自信を取り戻そう」
クリスタル号のイズミは、震える手で僕の手を握り返し、こう言った。
「そうだったわよね。そう、あなたが一緒にいるんだものね。大丈夫。ごめんなさい」
そう言うと、クリスタル号のイズミは強い意志を取り戻し、再び、しっかりした顔で、「邪悪な心の女王・イズミ」に言い返すかのように、心の中で自分に言い聞かせた。
(わたしは善人ぶっていない。もし、私の中に邪悪な心があったとしても『誠実な心』でそれを跳ね返して見せる。私を倒せるものなら倒してみなさい)
ほどなく、今までクリスタル号を囲んでいたクリスタルの霧の力が再び強くなり、どんな棘も跳ね返していった。
「アクアもしっかりするんだ。さあ、3人で力を合わせなおして・・・」
「はい。すいません」
3人は再び、寄り添うように食堂の床によりそうように座りなおした。
どれくらい進んだであろうか。戦艦ノアとクリスタル号はようやく棘の道を通り抜けた。
そして、眼下には、黒い雲に囲まれ、無数の棘の攻撃を受けながらも、それをクリスタルの霧で跳ね返しながら、青空色に光輝く星があった。
僕は、クリスタル号の前方の戸の鍵を開け、戸を開いた。
「あれが『幸福の星』よ」
クリスタル号のイズミは、なつかしそうな顔をして、「幸福の星」を眺めていた。
クリスタル号の入り口からは、「幸福の星」の赤道部が見え、それはちょうど、戦艦ノアとクリスタル号の進行方向にあった。
戦艦ノアとクリスタル号は、クリスタルの霧をすり抜けて、「幸福の星」の内部に入った。
3.「幸福の星」へ
戦艦ノアとクリスタル号の到着した「幸福の星」は、緑色の木々と海に囲まれた、大自然の星だった。入り口の直下には、一本の大木があり、泉に囲まれた公園のような大きなスペースのある島があった。僕らは、その島の大きなスペースに不時着した。
戦艦ノアからは、全身、棘で血だらけのマッド・ウルフと数人の乗組員たちが降りてきた。
また、クリスタル号からは、ところどころ、棘で怪我をしている、イズミ、ケンジ、アクアが降りた。
戦艦ノアは、操縦部を貫くような太い棘以外は、小さな棘が無数に刺さっていた。
クリスタル号には、荷台部に無数の棘がささっていた。また、クリスタル号の前方は、悲惨な状況になっていた。オンジには、腹に大きな棘が刺さっており、ペガサスのポニー、サニーにも無数の棘が刺さっていた。オンジは眠るように安らかに死んでおり、ポニー、サニーは息も絶え絶えに、倒れこむように横になっていた。
「みんな、無事だったか?」
マッド・ウルフが問う。
ケンジが、答えた。
「見ての通り、オンジとポニー、サニーが命をかけて、ここまで運んでくれたよ」
ずっと、アクアがオンジに寄り添ったまま、泣いている。
「戦艦ノアでは、惑星パイソンから乗り込んだニコルが死んだよ。でも、命をかけて、親父のつくったエネルギー砲から『クリスタルの霧』を放ってくれた」
その後、2つの大きな穴を掘り、マッド・ウルフがニコルを抱きかかえて、僕がオンジを抱きかかえた上、2人を埋葬した。
アクアはオンジの埋葬されたところに座り込み、ずっと泣き続けていた。マッド・ウルフは、2つの墓を、立ってずっと見続けていた。
―――――
僕とイズミは、泉の横にあった椅子にすわった。そこで、2人は話をした。
「空が、真っ青だね」
「そう。この星の周りを保護しているクリスタルが自己発光して、真っ青できれいな空をつくっているの。クリスタルの霧がなければ、この星は暗黒に包まれているし、棘の山になっているわ」
「この環境をつくるために、君は努力したんだね」
「でも、『邪悪な心を持つ女王・イズミ』の力がどんどん強くなっている。あなたが以前言ったように、ここも、いつまで持つかわからない。私には自信がないわ」
「ところで、この星に着いてから思ったんだけど、この星で『人』を一人も見ていないね。
君は、旅立つとき、『人と人とが思いやり、幸せを分かち合いながら暮らしている星がある』って言っていたけど、この『幸福の星』で人を見かけないのはなぜ?」
「ごめんなさい。私はうそを言ってあなたをここへ連れてきた。この星のもう一つの秘密をお話ししないといけないわね」
そう言うと、イズミは、ニコルとオンジを埋葬したところにいるマッド・ウルフとアクアに向かって、
「これから、ケンジに、この星の本当の秘密をお話ししようと思うけど、あなたたちにも知っておいてもらいたいの。それを話すには、この星の秘密の場所に行かないといけない。ついてきてほしいの」
と叫んだ。
マッド・ウルフとアクアは、こちらのほうに歩いてきて、その後、4人は、この島の中央にある一本の大木の下に集まった。
―――――
木の下に来ると、イズミは、木についている木目調のボタンを押した。パッとみても気がつかないようなボタンだ。そのボタンを押すと、木のボタンの横の入り口がスライド式で開いた。この木は、人工的につくられたものだったのだ。僕ら4人は、そこから入っていった。
入ったところは、大きな広場になっており、中央に、人が一人入れるような、正六面体の部屋があった。その周りには最新鋭と思われる装置類が並んでいた。
「ここで何をするの?」
「これは、『誠実な心』を持つ人を、ホワイト・ホールを通して、恒星や惑星にする装置なの。
私が連れてきた人は、あそこにある中央の正六面体の部屋に入る。そして、私が、こちらの機材を使って、その人を「誠実な心を持つ星」の粒子に変化させるの。そして、この部屋に入った人は、部屋の天辺の丸い穴のところから粒子となって飛び出し、『幸福の星』につながっている『ホワイト・ホール』を通り抜けて、銀河系の『誠実な心を持つ星』になる。その星を増やしていけば、銀河系は、平和な星だらけとなって、争いがなくなると私は考えたのよ」
「だから、私は、あなたのような人たちをここへ連れてきて、事情を説明し、この装置を使って、『誠実な心を持つ星』になってもらってきたの。だから、この星には、人はいないのよ。ここに来た人は、星になって、銀河系を平和にしようと頑張ってくれているの」
その時、正六面体の部屋の後ろに隠れていた黒い服を着た人物が現れ、こちらに歩いてきた。
「これはこれは、偽善者のやりそうなことですねぇ」
その人物を見て、僕らは驚いた。一番驚いたのは僕かもしれない。思わず叫んだ。
「お前は、惑星カルマンで死んだはずの『ハンス』じゃないか」
「そう。私はハンス。でも、その正体は・・・」
そう言うと、ハンスは、一旦、真っ黒な霧となり、その霧は再び固まり、一人の女性の姿となった。
その女性の姿は、僕が惑星カルマンで見た、真っ黒なコート姿になったイズミに瓜二つだった。
「私は、あなたたちから『邪悪な心を持つ女王』と罵られているイズミです。ハッ、ハッ、ハッ」
すると、『誠実な心を持つ、僕と旅を共にした女王・イズミ』が問うた。
「あなた、どうやってここに入ってこられたの?この星はクリスタルの霧で守られているから、あなたは霧にはじかれて入れないはずよ」
「そうね。いつものあなたの力だったら私はここへは入れなかったわ。でも、棘の道を通る時、あなた、一瞬、私の一言で気持ちが動揺したでしょ? その時、私は、弱くなったクリスタルの霧を突き破って、この星に入ることができたのよ」
続けて、邪悪な心を持つ女王・イズミが言う。
「ここまで入ることができれば、もう、この星は私のものも同然。あなたたちを抹殺し、この装置を壊してしまえば、銀河系は暗黒の星雲になる。この星も消えてなくなるわ」
その時、マッド・ウルフが神の銃の恒星爆破用バズーカーモードで、『邪悪な心を持つ女王・イズミ』を撃った。エネルギーは、うなりをあげて『邪悪な心を持つ女王・イズミ』に向かったが、そのエネルギーはすべて、彼女に吸収されていった。
「私は銀河系そのものなのよ。たかが一つの項星系を破壊できる程度のエネルギーで私を倒せると思ったの。所詮、あなた方がつくった兵器は、私の手のひらの上にあるも同然。銀河系そのものは、すべて、そこにいる『偽善者』のイズミと私からできている。どんな武器も、私たちには通用しない。あなたたちでさえ、私たちの『分身』にすぎないの。私と対等に戦えるとすれば、そこにいる『偽善者』のイズミだけよ。でも、惑星カルマンで自分が『偽善者』と気づいてからは、私の力のほうがはるかに上回っている。あきらめなさい。私を切り離したそちらのイズミは、今度は逆に、私に吸収され、この銀河系を支配する私『邪悪な心を持つ女王』と忌み嫌われているイズミの一部になるのよ」
「まだ、勝負はついていないわ。あなたたちはよけていなさい。」
「誠実な心を持つ女王・イズミ」が、ややふらつきながらも真剣な顔をして、僕、アクア、マッド・ウルフの前に立ち、「邪悪な心を持つ女王・イズミ」と向き合った。最後の対決が始まろうとしていた。
4.誠実な心と邪悪な心の対決
「誠実な心を持つ女王・イズミは、右の中指につけているクリスタルのリングを「邪悪な心を持つ女王・イズミ」に向けた。それと同時に、『邪悪な心を持つ女王・イズミ』の右手には、スッと稲妻型の棘が現れた。
「今の『偽善者』のあなたに、私が倒せるかしら?」
「もう逃げはしない。あなたを全身全霊をこめて、抹殺する」
二人はそう言うと、お互い、向き合って、対決姿勢をとった。
まず、「誠実な心を持つ女王・イズミ」が、右手のクリスタルのリングから、真っ白なクリスタルのエネルギーを放つ。それと同時に、「邪悪な心を持つ女王・イズミ」は、そのエネルギーに向けて、稲妻型の棘からどす黒い稲光を発した。
リングのエネルギーと棘の稲光は、2人の中央でぶつかり合った。
長時間、一進一退の状況で、2人の中央で閃光が光り続けていた。
「うっ!」
「誠実な心を持つ女王・イズミ」が自分を奮い立たせるように右手の指のリングに力を注入する。
「ハアッ!」
不敵な笑いを浮かべながら、「邪悪な心を持つ女王・イズミ」が、棘に自身の右腕からどす黒い稲光を与え続けている。
徐々に、「誠実な心を持つ女王・イズミ」のエネルギー砲が弱まっていき、「邪悪の心を持つ女王・イズミ」の棘から放たれている稲光が「誠実な心を持つ女王・イズミ」の右中指のリングのほうで向かっていった。
「イズミ!」
僕が叫んだ瞬間、「誠実な心を持つ女王・イズミ」の右中指のリングのエネルギーが消失し、「邪悪な心を持つ女王・イズミ」の棘の稲光が、「誠実な心を持つ女王・イズミ」の右の中指のリングに向かって行き、リングを粉砕した。
「誠実な心を持つ女王・イズミ」は、その場に崩れ落ちるように座り込み、その前に「邪悪の心を持つ女王・イズミ」が歩いてきた後、仁王立ちして言った。
「だから、もう観念しなさいって言ったでしょ。さあ、今度は私があなたを吸収する番よ。あなたから切り離され、私のことを邪魔者扱いし、悪の汚名を着せられた時の私の屈辱。今でも忘れないわ。今度は私があなたを『支配してあげる』。ハッ、ハッ、ハッ」
その時、僕の横から、力強い声が聞こえた。
「もう、やめてください」
声の主はアクアだった。
アクアは、いつの間にか、いつもの、お手伝いさんの姿から、空空色のワンピースの衣装に姿が変わっており、「誠実な心を持つ女王・イズミ」を守るように、「邪悪な心を持つ女王・イズミ」の前に進んで出てきた。「邪悪な心を持つ女王・イズミ」は半歩、後ずさりをした。
アクアは、「邪悪な心を持つ女王・イズミ」に顔を向けながらも、「誠実な心を持つ女王・イズミ」にも聞こえるようにこう言った。
「私、今、思い出したわ。『誠実な心を持つ女王・イズミ』さんが、あなたを切り離した時に、もう一つ、切り離してしまったものがあるの。小さな存在だったのであなた方は気づかなかったかもしれないけど、それは、『理性』という心。私なの。『誠実な心を持つ女王・イズミ』さんが、『誠実な心を持った人』を見つけ、『幸福の星』に集め、ここから『誠実な心を持つ星』をつくろうとする、無限とも思える旅を続ける過程で、私と私のお母さんを拾ってくれて、このクリスタル号に乗せてくれたのは、無意識のうちに『誠実な心を持つ女王・イズミ』さんの中にかすかに残っていた『理性』の心が、切り落としてしまった私という大部分の『理性』という心を欲したのだと思う」
「私のお母さんは本当のお母さんではないわ。私のお母さんは、あなたたちに切り離され、子供のような姿になり、心細く戦火をさまよっていた私を救って育ててくれたの。私のお母さんは『理性』の持ち主だった。敵であろうが味方であろうが、誰にでもやさしくしていた私のお母さん。だから、あなたが、ダートマスやアシュトンを使って、『誠実な心を持つ女王・イズミ』さんとマッド・ウルフさんを殺そうとした時も、自らを犠牲にしたの」
「私のお母さんに育てられ、『誠実な心を持つ女王・イズミ』さんに導かれ、私はここまで来た。
これからは、『誠実な心』『邪悪な心』の女王のどちらかがこの銀河系を支配するのではなく、『誠実な心』と『邪悪な心』を『理性の心』で制御する。私たち3人が一つになるべきだと思う。それぞれが『支配』するのではなく、私たち3人が、それぞれの違いを認め合いながら『協調』して、この銀河系をより良くしていくべきなの。『邪悪な心を持つ女王・イズミ』さん。『誠実な心を持つ女王・イズミ』さんに『邪悪な心』や『理性の心』が残っていたように、『邪悪な心を持つ女王・イズミ』さんの中にも、『誠実な心』や『』が残っているはずよ。私たちは完全に分離できていないの」
そう聞いた『邪悪な心を持つ女王・イズミ』の胸の部分が、黒色から白色に変化した。
「何をたわ言を。それじゃあ、あなたたちが大切にここまでつれてきたあの少年を殺してやるわ」
「邪悪な心を持つ女王・イズミ」は、再び右手に、稲妻型の棘を出すと、僕のほうへ向けてどす黒い稲光を発してきた。
すると、どういうことだろう。その稲光は、僕の胸にぶら下がっていた母の形見のペンダントに当たったが跳ね返され、「邪悪な心を持つ女王・イズミ」の持つ棘に当たった。「邪悪な心を持つ女王・イズミ」の棘は砕け散った。
「おのれー!」
「邪悪な心を持つ女王・イズミ」は、次々に、棘を出し、稲光を撃ってきた。しかし、ことごとく、稲光は母の形見のブレスレットに当たり、跳ね返された。
(この子は、あなたには殺せないわ。「誠実な心」を持っていると気づいたあなたには・・・)
その場にいるみんなの心の中に、僕の母の声が聞こえた。
その声に、「邪悪な心を持つ女王・イズミ」は、すっかり、戦意をなくし、その場に座り込んで言った。
「私は『邪悪な心』を持っていたのではなく、アクアの言う通り、本当は『誠実な心を持った女王・イズミ』に捨てられたことを根に持っていただけかもしれない。私の中にも、『誠実な心』や『理性の心』が残っていたのかもしれない」
その時、うっすらとではあるが、僕の周りを囲むように、白い影が8つ現れたような気がした。死んだはずの「ノア」「ケンジのお母さん」「オンジ」「ニコル」「アクアの母」、それから、地球で僕が旅立つのを助けてくれた「マーカス」「ダイナ」「コムソル」だった。
「この星では、過去に死んだ人の『幻影』を見ることができるの」
「誠実な心を持つ女王・イズミ」が顔を上げ、そう言った。
そして、死んだはずのマッド・ウルフの父、科学者ノアの白い幻影が、「心の声」で、この部屋にいる者すべてにメッセージを送ってきた。
(息子よ。お前が持っている『神の銃』をケンジ君に渡しなさい。そして、彼に、『誠実な心を持つ女王・イズミさん』、『邪悪な心を持つ女王・イズミさん』、『理性の心を持つ女王・アクアさん』を『恒星爆破用バズーカーモード』で撃たせなさい。ケンジ君は、この旅の中で、『誠実な心』と『邪悪な心』を持ち合わせながらも、それを『理性の心』で完全に制御できるようになった人間。彼には、本当にわしのつくった『神の銃』を使ってもらいたいと思っていた。わしが探し求めていた人間じゃ。この3つの心をバランス良く持つ人間が、わしのつくった『神の銃』を最大エネルギーモードで撃てば、『すべてを破壊するエネルギー』ではなく、『すべてを浄化するエネルギー』を放つことができる。わしが本当につくりたかった『神の銃』とは、すべてを『破壊』しつくす銃ではなく、すべてを『浄化』する銃なのじゃ。わしの銃で『破壊』するか『浄化』するかは、銃の使い手の『心』によって異なってくる。これが、わしがメモに残した、最後の研究成果じゃよ)
そうすると、マッド・ウルフは僕に銃を渡し、こう言った。
「棘の道の中で、ニコルや俺が、戦艦ノアのエネルギー砲を使って、クリスタルの霧を出した時と同じだ。あの時は、たまたま、俺は、この銃で『浄化のエネルギー』を撃つことができたが、今の俺はまだ、この銃で完璧に『浄化のエネルギー』を撃つための心の制御を行う自信がない。それができるのはお前しかいない。頼む」
「わかった。やってみるよ」
僕は、『神の銃』を受け取り、恒星爆破用バズーカーモードにした上で、銃を、3人の女王に向けた。
そうすると、僕の胸にぶら下がっていた空青色のペンダントが光り輝きはじめ、
(頑張って)(頑張るんじゃ)
という心の声が、8人の白い幻影から聞こえたように思えた。
僕は、「人と人とが思いやり、幸せを分かち合いながら暮らしていける銀河系になりますように」と祈りながら、3人の女王に向けて、エネルギーを撃った。
すると、神の銃からは、今までにないほどの光り輝くクリスタルの霧が閃光のように発射され、3人の女王を包み込んだ。
そして、閃光が消えると、3人の女王は、青空色のコートを着た一人のイズミになっていた。そして、いつしか、僕らは、大木の横に立っていて、さっきまで人工物であった大木が、雄々しくそびえたつ自然の大木に変化していた。
(ありがとう。)
「ノア」「ケンジの母」「オンジ」「ニコル」「アクアの母」「マーカス」「ダイナ」「コムソル」の心の声が聞こえた気がした。
マッド・ウルフは何も言わず、ただ、澄み渡った空を見上げていた。
僕は、マッド・ウルフに「神の銃」を返し、こう言った。
「これはやはり、あなたが持つのが一番いいよ。お父さんの形見だから・・・」
「そうだな。今の光景。目に焼き付けておく」
マッド・ウルフは答えた。
「ありがとう。ケンジ。私は間違っていた。ごめんなさい。銀河系の生きとし生ける生物に迷惑をかけたのは私だと思う。私たちの心を開いてくれたのはあなたよ」
一つになって、青空色のコートを着たイズミは、そう言うと、僕を抱きしめた。
――――
青空色のコートを着たイズミ、ケンジ、マッド・ウルフは、泉のある広場まで戻ってきた。
「ケンジ。あなたはこれからどうするの?」
「僕は地球に帰るよ。まず、故郷の地球を『幸福の星』にするために頑張るよ」
「マッド・ウルフ。あなたは?」
「おれは、ニコルの最期をニコルの弟子たちに伝え、戦艦ノアを修理するために、惑星パイソンに行く。その後は、親父の残してくれた戦艦ノアと神の銃を持って、オンジのように、銀河系を旅する。いろいろな世界を見て、ケンジのように『神の銃』を操作できるようになるまで旅をする、でも、もし、手伝うことがあったら、連絡してくれ」
「わかったわ。私は、銀河の中心のこの星であなた方を見守るわ。ケンジを地球に送ったら、ここに戻る」
「それじゃあ。それぞれの道へ出発しましょうか? これからのクリスタル号の操縦は、私が行うわ。もともと、私が行っていたからね」
到着した時は、瀕死の状態だった2頭のペガサスのポニーとサニーは、この星の草と水を食べて、すっかり元気になっていた。
イズミとケンジはクリスタル号に、マッド・ウルフとその仲間たちは戦艦ノアに戻って、それぞれ「幸福の星」を出発した。
クリスタルの霧をすり抜けると、来る時にあった暗黒の雲も、棘の道もすっかり消えてなくなっていた。
戦艦ノアは惑星パイソンへ、クリスタル号は地球に旅立った。
最終章 それぞれの「無限軌道」
イズミ、ケンジは、クリスタル号で地球に戻ってきた。
到着したのはちょうど昼間だった。地球ではすっかり争いはなくなっており、赤い戦闘服を着た者と、ダークグレーの戦闘服を着た者が力を合わせて、瓦礫を片付けたり、食べ物を確保するために畑を耕したりしていた。
クリスタル号は、瓦礫と瓦礫の間のスペースに降り立った。イズミは前方の御者席から、ケンジは後ろの出入り口から地上に降り立った。
「これで、お別れだね」
ケンジが言うと、イズミはこう答えた。
「お別れじゃないわ」
「えっ?」
僕が、けげんそうに聞くと、イズミはさらに続けて言った。
「私は銀河系自身。地球も、この大地も、空気も、あなたも、あなたの仲間たちもすべて、私の一部なの。だから、いつも、私はあなたのそばにいる。あなたが私のことを想えば、いつでも、私とあなたはつながっている。だから、私とあなたは、永遠にお別れではないわ。これからは、周りのすべてのものを、私だと想って愛し続けてね」
「ああ。わかったよ。僕はいつも、君を想っている。微力だけど、この銀河系を、きっと良い場所にしてみせるよ」
2人は、見つめ合った。それからすぐ、イズミは、僕の右手を引き、急に抱きついてきたかと思うと、熱いディープキスをして来た。僕は、直立不動で、10秒ほど、キスを受け止めていた。その後、イズミは僕の肩に手をやり、
「それじゃ。頑張ってね」
というと、イズミは少し涙を流しながらクリスタル号に乗った。2頭のペガサスはいつものように翼を広げ、クリスタルの光を放ちながら、走りだした。そして、飛び立ち、「幸福の星」に戻っていった。
僕は、イズミとのキスの余韻に浸りながら、クリスタル号の姿が見えなくなるまで見送った。イズミの乗ったクリスタル号は、まるで白い彗星のようになって、徐々に消えて行った。
いっとき、僕は、クリスタル号が旅立った先を見続け、この旅の思い出に浸った。
その後、歩き出し、復興していく街並みを小高い丘から眺めていた。その時、
「ケンジー」
と言って、後ろからいきなり抱きついてきた女の子がいた。旅立ちの時、地球に残してしまったベイビー・グランドである。
「地球に帰ってきたのね。うれしい。あなたに、もう一度会えるとは思っていなかった」
「あなたが旅立つ時に言ったかどうか、意識が薄れていて覚えていないけど、一緒に戦っている時から、ずっと、あなたのことが好きだった。もう、二度と離れない」
ケンジは、何も言わず、ベイビー・グランドをぎゅっと抱きしめた。
(この地球を、彼女といっしょに「幸福の星」にしよう)と心に誓いながら。
終わり




