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第1部 「2つの大国」編

※本作品は、2021年7月に電子書籍化した「無限軌道☆クリスタルロード」につきまして、一部、ストーリーを変更し、改編しています。前作「銀河大戦」のその後の物語になっています。


~争いのない世界を目指して~

 僕は、ペガサスの霧に包まれた荷馬車に乗って、不思議な少女イズミと地球を旅立った。壮大なスケールで描かれる本格SF小説。


 まことしなやかに言い伝えられる噂があった。

「銀河系の中心には、人と人とが思いやり、幸せを分かち合いながら暮らせる星がある。その星にたどり着くには、いつ現れるかわからない、2頭のペガサスに引かれた『荷馬車』に乗ればよい」と


序章

 時は2500年。銀河系では「ダートマス連邦」と「アシュトン帝国」という名の2つの国が、主導権争いをしながら戦っていた。

 銀河系最果ての星、地球も例外ではなく、地球の至るところで、ダートマス連邦とアシュトン帝国の間で、激戦が行われていた。地球の各国の政府は、「平和を目指した戦い」を掲げるダートマス連邦に忠誠をささげた。しかし、勢力を強めているアシュトン帝国から次々と送られてくる空母・戦艦・兵士たちからの攻撃に対して、防戦をしいられていた。空は、ダートマス連邦のトレードカラー「赤」とアシュトン帝国のトレードカラー「ダークグレー」の爆撃機に覆われ、空中戦が行われている。海は空母や戦艦による交戦が繰り広げられ、地上では、バズーカー、レーザー銃などを用いた戦いが繰り広げられている。山は焼き野原となり、海は油で泥まみれ、かつての都市は、建造物が跡形もなくほとんど崩れ落ち、瓦礫の山となっている。地球は戦火の中ですっかり変わり果てていた。

 僕は「ケンジ」。17歳~18歳くらいだと思う。自分が今何歳なのか?誕生日がいつなのか?まったくわからない。今、地球にいる。

 僕は物心ついたころから、ダートマス連邦の一員として、打倒 アシュトン帝国のために戦っている。なぜ、ダートマス連邦の一員なのか?なぜ、アシュトン帝国を倒さなければならないのか?明確な理由を理解していない。僕が属しているグループの長「マーカス」の


「ダートマス連邦はアシュトン帝国の独裁を阻止し、、銀河の人々を幸せに導くために戦っているのだ」


と言うことと、夜な夜な、ダートマス連邦の各兵士に渡されている携帯無線から聞こえる年老いた長、「ダートマス」の、


「アシュトン帝国は、独裁を目指し、銀河系の星々を我がものにしようとしている。我々ダートマス連邦は、有志各国が力を合わせて応戦している。平和な世の中をつくるためには、アシュトン帝国を滅ぼすしかない。戦わなければならないのだ。」


というメッセージを信じるしかなかった。しかし、本当は、僕は来る日も来る日も繰り広げられる殺し合い、戦いに疲れていた。


「2つの国が戦いをやめ、和平を結び、平和な世の中ができないものなのか?」


 戦いの最中のささいな休息の時、僕はいつもそう思っていた。しかし、生き残るためには、日々戦いつづけなければならない。敵を倒さなければ、自分が殺されるのだ。


 そのような子供心にも追い詰められた僕の記憶に残っているのは、僕のことを「ケンジ」と呼びながら、黒髪をなびかせ、とても40歳を過ぎているとは思えないくらい美しく、細身ながらも往々しく戦う赤い戦闘服を着た母の姿。 母は、他の人から「サチコ」と呼ばれていた。小さな僕を連れて、一生懸命、生き残るために戦ってくれた。僕には父の記憶はない。僕が物心ついた時には殺されていたようだ。

 ある日、母は僕に、首にかけていた空色に光る丸いペンダントを僕の首にぶら下げた。


「このペンダントは、私が戦っていた時に拾ったものなの。それから、私は何度となく、死のふちに追い込まれたけど、このペンダントに何度となく助けられた気がするの。私のお守り。あなたにあげるわ」


 小さな僕は、母が言っていることをあまり理解できていなかったが、そのペンダントを首に下げて、母について戦った。

 しかしその日、母は、僕を守りながら、戦火の中で、アシュトン帝国の兵士たちの放つレーザー光にハチの巣のごとく撃たれ、倒れてしまった。僕が鮮明に覚えているのは、母が涙を流しながら、


「もう、あなたのことを守れないの。ごめんね。そのペンダント。大事にしてね」


という言葉を残し、目を見開いたまま死んでいったことだ。僕は、その時、母と一緒に戦火の中にいたマーカスという男に助けられた。今は、マーカスのグループのメンバーになっている。マーカスも僕に、


「そのペンダントは母親の形見だ。大事に取っておけ」


と言った。僕は今も、そのペンダントを首から胸に下げている。

 最初は、アシュトン帝国を憎み、日々、アシュトン帝国の兵士たちをレーザー銃で殺す毎日を過ごした。しかし、ある日、僕がレーザー銃で腹を撃ちぬいたアシュトン帝国の兵士が、胸ポケットから家族の写真を出し、


 「俺はもう、お前たちのところへは帰れない。すまない。」


といいながら死んでいく場面を目の当たりにした。その時、アシュトン帝国の兵士にも大切な家族がいて、自国のために戦っていることを知った。その時から、アシュトン帝国への恨みがだんだん薄らいで来て、


「本当にこのまま戦い続ければ、幸せな世界が来るのか?」


と思うようになった。


「争いのない世界に行きたい。」


 僕の願いはそれだけだった。


 その中で、僕のグループの仲間内で誠しやかに言い伝えられている噂があった。


「銀河の中心には、人と人とが思いやり、幸せを分かち合いながら暮らせる星がある。その星にたどり着くには、いつ現れるかわからない、二匹のペガサスに牽かれた『荷馬車』に乗れば良い。」と。


第1章 旅立ち

1.白いレディースコートをまとった女性

 僕は今、4人の仲間とグループで戦っている。グループの長で初老の「マーカス」、細身で40代くらいのレーザー銃の達人「ダイナ」、大柄で筋肉質・力自慢でバズーカー片手に、次々と敵をなぎ倒す、30代半ばくらいの「コムソル」、そして、僕と同じくらい年齢で、ピング色のショートヘアー、戦闘の時は男性顔負けの素早い動きと銃さばきを見せるが、休息の時は、あどけない笑顔と愛嬌でみんなを和ませるかわいい女性。名前はなく、マーカスからつけられた愛称は「ベイビー・グランド」。マーカスが戦場の隠れ家で彼女を救った時はおそらく4~5歳だったのだろう。隠れ家の中で、何もわからず、ひたすら小さなおもちゃのグランドピアノを無造作に弾きながら座っていたらしい。隠れ家には彼女しかいなかったため、マーカスがおもちゃのグランドピアノごと連れて帰り、その愛称をつけたようだ。

 僕は今日も、マーカスの言う「ダートマス連邦の一員として戦う理由」を信じて戦っていた。


―――――


 いつ終わるともわからない戦いの中、ある夜、マーカスのグループは、崩れ落ちたビルとビルの合間の地下の隙間の隠れ家で暖をとっていた。

 マーカス、ベイビー・グランドは、部屋の中心で、たき火を囲むように座っている。僕は、一日の疲れを癒すように、うなだれながら部屋の片隅に壁に寄りかかり、首からぶらさがる母のペンダントを見ながら、ふさぎ込むように座っていた。


「武器と食料を仕入れてきたぜー」


 ダイナとコムソルが、ダートマス連邦の配給基地から帰ってきた。


「都の西側は、アシュトン帝国軍に占領されたようだ。破壊されていた。東側の配給基地から、武器と食料をもらってきたぜ」


 コムソルがそう言いながら、レーザー銃に装着する赤色のエネルギー管の入った段ボール箱と大量のロケット弾、マシンガンと手榴弾の入ったドラム缶を持ち込み、部屋の隅に下ろした。続いて、ダイナがプラスチックの灯油缶らしきものに入った飲み水とクッキーやパンが入った段ボール箱を持ち込んできた。


「ご苦労」


 マーカスがそう言うと、すぐに、ベイビー・グランドが立ち上がり、ダイナの持って帰ってきた食料を使って料理をし、パンと一切れのハムののった皿、手作りの空き缶に入れた水を人数分用意し、メンバーに配って回った。


「ケンジ。食べないと体が持たないよ。元気を出して」


 ベイビー・グランドが、パンののった皿と、空き缶に入れた水を持って、僕の横にニコッと笑いながら座り込んだ。


「ありがとう」


 そう答えると、僕はむさぼるように食料と水を胃に流し込んだ。

 その後、僕は小声でつぶやいた。


「この戦いに意味はあるのか?」


 それが耳に入ったのかどうかわからないが、


「つらいか?」


とダイナが僕に声をかけてきた。そして、こう続けた。


「でもな、今は生きるか死ぬか?その選択肢しかねえ。死にたくなかったら、敵を倒すしかない。そう割り切って戦うしかねえんだ」


「そうだな」


 半分ため息をつきながらコムソルが僕の変わりに答える。マーカスは何も言わず目をつむっている。

 僕らは食事を取った後、明日の戦闘に備えて、レーザー銃にエネルギー管を差し込み、ベルトにつけているポシェットに拳銃や弾、手榴弾を入れていた。

 その時いきなり地上から、ダークグレーのレーザー光が雨あられと打ち込まれてきた。僕が手に持っていた缶のカップは、粉々に撃ち抜かれた。


「散れ!」


 マーカスの一言で、僕らはそれぞれの武器を持ち、違う方向にバラバラになりながら、レーザー銃やバズーカーで応戦した。

 僕は、レーザー銃で自分の進路を切り開きながら、瓦礫をかけのぼり地上に出た。その時、僕はある視線を感じた。そして、条件反射のように、視線の方向にレーザー銃で撃った。しかし、僕の放ったレーザービームは、戦場の中で、涙を流しながら、瓦礫の盛り上がったところに立ち、こちらを見つめている一人の白いレディースコートをまとった金髪の女性の左腕を撃ってしまった。

 彼女は、血の流れる左腕を押さえ、僕のほうを見つめながら、


「もう戦いはやめて。これ以上、人と人が殺しあうのを見たくないの」


と叫んだ。

 僕は呆然と立ち尽くし、彼女を見守るしかなかった。しかし、容赦なくアシュトン帝国の兵士たちが立ち尽くす僕にレーザー銃で攻撃してくる。


「ケンジ。何をぼーっとしているんだ」


 マーカスが叫ぶ。僕が我に返ると、いつの間にか、コムソルはバズーカーを持って、僕の前に立ちはだかり、身をもって僕の盾になってくれた。彼は、バズーカーで敵を倒していったが、同時に、敵からのダークグレーのレーザー光を無数に浴びていた。


「生きろ・・・」


 コムソルは、力尽きて手に持っていたバズーカーを落とした。しかし、両手を広げ、僕の盾になるようになりながら、レーザービームに打たれ続けた。


 そして、僕の左右に回り込み、必死にレーザー銃で反撃するダイナとベイビー・グランド。マーカスは、銃撃をさけなれながら、僕を押し倒した。僕は、その衝撃で、ビルの瓦礫の角に頭を強く打ち付けて、気絶した。


2.イズミ

 どれくらいの時間が経ったのだろう? 僕は目を覚ました。徐々に意識が戻ってきた。どうも、かつてホテルであったであろう廃墟の一室にいるようだ。僕はベットに横たわっていた。体を起こしてみると、部屋の右側の、ひび割れたガラス越しに満月が見えた。仲間たちはいない。頭には包帯がまかれているようだ。天井には、ポツンと小さなLEDライトが点滅しながら、かろうじて灯っていた。

 そのような薄明かりの中、目を凝らしてみると、ベットの右わきの近くの椅子に、僕を悲しげな眼で見つめながら左腕に包帯を巻いて座っている一人の女性を見つけた。彼女は、僕がレーザー銃で撃った白いレディースコートの女性だった。


「気がついた?大丈夫?」


 その女性は椅子に座ったまま、僕を見つめて話しかける。思わず僕は、


「君は・・・?」


と言うと、彼女はこう答えた。


「私の名前は『イズミ』。ごめんなさい。私のせいで、あなたの仲間がかなり被害にあったみたい」


「みんな殺されたのか?」


「いえ。みんなじゃないと思うけど。私は、気絶しているあなたをここに運ぶのが精一杯だったから、あの後、あなたの仲間たちがどうなったかわからないの」


「なぜ、君は、あんなところに立って、叫んでいたの?」


「暗闇の中で、何かに反射して光る空色のペンダントと、それを首から胸にぶらさ下げたあなたが、悲しそうな顔をして、戦っているのを見かけたから。あなた、本当は誰も殺したくない。自分は、何で戦わないといけないのだろうって思っているんじゃないかと・・・。あなたなら、『もう戦いはやめて。これ以上、人と人が殺しあうのを見たくないの』って言う私の気持ちがわかってくれると思ったから」


「よくわかったね。僕は物心ついた時から、レーザー銃を持って戦っていた。ダートマス連邦やアシュトン帝国のことはあまり知らない。なぜ、戦いがはじまったのかもよく知らない。ただ、ダートマス連邦の一員として戦っていた。最初は、母を殺したアシュトン帝国を恨んでいたけど、戦いの中で、アシュトン帝国の兵士も自国を守るために戦っていることを知った。その時から、僕は、この戦争そのものが、『無意味な戦い』だと思い始めていたんだ。」


  僕は続けて話した。


「僕は2つの国が仲たがいをやめてくれたらといつも思っている。でも、2つの国は、対立しながら戦争をしている。僕は戦いたくないのに、敵が攻めてくる。生き残るためは相手を倒さないといけない。だけど、敵を殺し続けるたびに自分の心の中に罪の意識を感じることがある。僕は戦いのない幸せな生活をしたい。もう、味方も敵もない。人が死んでいくのを見ること、そのものがいやになんだ。」

 

 そう聞くと、おもむろにイズミはケガの治った左腕の包帯をとって立ち上がり、銃痕が残り、ヒビが入っている窓のそばに立った。

 窓から差し込む満月の光の中で見たイズミは、僕と同じくらいの背丈。金髪の髪を後ろで束ね、細身でとても美しい女性だった。おぼろげながら憶えている母の若い時の姿のように感じた。年齢は20代前半だろうか?

 彼女は、外の様子を見ながら、こうつぶやいた。


「あなた、銀河の中心に、『人と人とが思いやり、幸せを分かち合いながら暮らせる星がある』って聞いたら信じる?」


 僕は、かつて、仲間内の噂で聞いていたことを思いだした。


「その噂は聞いたことがあるけど、本当なの?」


「そう。もし、私の言うことを信じてくれるなら、私はあなたをそこに連れて行く手助けをできる。私はその星を『幸福の星』と呼んでいるの。ここから5kmほど先、廃墟となっている都の駅の鉄道のホームに、2頭のペガサスに引かれて宇宙を旅する『荷馬車』があるわ。それに乗れば、『幸福の星』に向けて出発することができるの」


「噂は本当だったんだ。君は行ったことがあるの?」


「あるわ。私は、あなたのように思っている人を『幸福の星』に連れていく『案内人』。でも、『幸福の星』にたどり着いた人はごくわずか。この旅の途中には、いろいろな試練があるの。その試練に耐えきれず、途中であきらめたて戦場に戻り、命を落とした人や、この世の不条理に憤りを感じ、同志を集めてダートマス帝国とアシュトン連合を敵に回して戦っている『レジスタンス』などを、何人も見てきた。それでもあなた、『幸福の星』に行きたい?」


「僕は、きっと、物心ついたころから、もう十数年は戦ってきたと思う。長の言うことを信じて。でも、いくら戦っても状況は一向に変わらない。この地球からすら出ることができないんだ。そんな僕が、今戦っている2つの国の戦いを止めることなんてできるわけがない。どうせその願いがかなわないんだったら、命をかけてでも。『幸福の星』を目指すよ」


 ケンジは続けて言った。


「ところで、君は、自分のことを『案内人』と言ったり、『幸福の星』に出発することができるが、途中で挫折する人が多いと言っていたね。『幸福の星』にたどり着くのは、そんなに大変なことなの?何か、厳しい条件があるの?」


「そうね。最後は、あなたがその時々に決断したことによって、『幸福の星』にたどり着けるかどうかが決まるわ。ただ、『幸福の星』に行くためにどうしても守らないといけない条件が一つだけあるの。これから先、『幸福の星』に着くまで、人を殺さないこと。旅の途中で人を殺した人は、その時点で、荷馬車に乗ろうとしても、荷馬車の入り口で乗車を拒否される。さっきも言ったけど、『幸福の星』に行くためには、何か所かの星を通らないといけない。でも、その星で、どんな醜いことを見ても、どんなに怒りを感じても、人を殺してはいけないの。でも、ほとんどの人がそれを守れず、途中で旅をあきらめ、戦場に戻って、命を落としていったの。中には、さっきも言った通り、同志を集めて、ダートマス連邦とアシュトン帝国を敵に回して、2つの国とも滅ぼそうとしている猛者もいるわ。『自分の生きる道は自分で決めるんだ』って言って・・・」


「そうか。でも、その時はその時。旅を途中であきらめるか、君のいう条件を守るかどうかは、その時の状況を見定めて、僕が決める。今は、『人と人とが思いやり、幸せを分かち合いながら暮らせる星』に行ってみたい」


「わかったわ。あなた、今、ダートマス連邦の制服を着ているわね。それではアシュトン帝国の兵士に狙われる。幸い、この廃墟のホテルは、水は使えるし、シャワーのお湯も出るの。頭はちょっと痛いかもしれないけど、シャワーで身も心も、今までの汚れを落として、私が渡す服に着替えなさい。そして、ひと眠りしたら、荷馬車に向けて出発しましょう」


「わかった。ありがとう」


 僕は、シャワーを浴びて、イズミの用意した服に着替えた。

 ダートマス連邦の制服は上下が赤色の戦闘服、アシュトン帝国の制服は上下がダークグレーの戦闘服だったが、イズミから渡された服は、下着は白、上着は緑色のシャツとジャケット、そして黄土色のズボンと靴下、茶色の靴だった。


「白は誠実の色、緑は自然の木々の色、黄土色や茶色は豊かな大地の色なの。あなたの空色のペンダントが映えるわ」


と彼女は言った。

 

「ああ。これは、僕の母の形見なんだ」


「そうだったの。さっきから気になっていたの。それで納得したわ。あなたのお母さんは、澄んだ空が好きだったのね。なんだか、あなたと話していたら、あなたを通して、あなたのお母さんがどんな人だったか、わかる気がする。わたしは、やっぱり、あなただけでなく、そのペンダントにも惹かれて、あの時、あなたを見つけてあなたに向かって叫んだのね」


 そう言うと、イズミは自分のショルダーバックから自分の着替えを出しながら、僕にこう言った。

  

「じゃあ、シャワーを浴びて、先に寝ていて。私もシャワーを浴びて、ひと眠りするから」


 僕は再びベットに寝転んだ。すると、イズミは僕と入れ替わるように、シャワーを浴びに行った。僕は知らず知らずのうちに、今までの疲れがドッとこみあげてきて、深い眠りに落ちた。


3.荷馬車へ向かって

 どれだけ眠ったのだろう。起きると、あたりは昼。まぶしいくらいの日差しが、部屋の窓から降り注いでいた。


「ケンジ、起きた。」


「ああ。あれからどれくらい経ったの?」


「あなた、相当疲れていたみたいね。昨日は一日眠っていた。私と最初にお話ししたのは一昨日の晩。あなたは、昨日は起きずに、一日中寝ていたわ。そして、今はちょうどお昼くらいかしら。私の時計は12時をちょっと回ったところ」


「ごめん。荷馬車はまだ待っているの?」


「荷馬車は、私が行かないと動かないの。きっと、廃墟の駅で身を潜めて待っていると思うわ」


「それじゃあ、急ごう」


「ちょっと待って。ここから5Km歩くのよ。何か、食べていきましょう」


 イズミはそう言うと、非常食のスティック菓子とコップに入れた水を渡してくれた。


「それを食べたら出発しましょう。幸いなことに、このホテルの地下には、人が十分に立って通れるくらいの地下水路のトンネルがあるの」


「水路?」


「そう。でも、今は使われていないから、水が涸れ、ただのトンネルになっているわ。そのトンネルは、廃墟の駅の地下までつながっている。そこを通って、荷馬車が止まっているところまで行きましょう」


「わかった」


「それから、今持っているレーザー銃や武器を置いていって。その代わりに、これをあげるから」


 イズミは、形はレーザー銃とほぼ変わらないが、違う銃を渡してきた。


「それはショックガン。人を殺すなといっても、自分の身は自分で守らなければならない状況がある。この銃は、圧縮された空気をためて放つ『エアガン』のようなもの。人を殺すことはできないけれど、圧縮された空気が音速で放たれるから、人を吹き飛ばすくらいの威力はあるわ」


「ありがとう」


 それから、イズミと僕は、食事を取り、出発の準備をした。

 僕が持っていくのは、母親の形見のペンダントとベルトにつけたポーチのみ。ポーチの中には、銃を修理するための小道具、以前入れていたビスケットとレーザー銃に装着するエネルギー菅、拳銃と弾丸が数個入っていた。しかし、イズミの言う通り、武器は置いていく。そのかわりに、イズミにもらったショックガンを持った。イズミは、僕と同じショックガンとショルダーバック。そして、彼女の右の中指には、クリスタルのような少し白みがかった透明なリング、左の手首には腕時計がはめられていた。


―――――


 準備のできた僕たちは部屋から出た。

 部屋から出てと、そこは廊下になっていて、廊下の行き当たりには階段があるようだった。廊下の窓はすべて粉々になっており、壁には、無数のレーザービームの弾痕が残っている。


「2つの国の兵士に気づかれないように、窓から見えないように進みましょう」


「OK」


 僕とイズミは、敵に気づかれないように、しゃがみながら前に進んだ。進んでいる間にも、建物の外から、赤やダークグレーのレーザーの流れ弾が飛んでくる。それに当たらないように2人は進み、階段まで差し掛かった。


「ここから階段を降りるわよ」


「ああ」


 階段をどれだけ下りたことだろう。ようやく、地下トンネルにつながるドアまでたどり着いた。


「ちょっと待って、私が開けるわ」


 イズミはそういうと、彼女はドアのノブをひねり、ドアを開けた。

 そこは、ところどころ、電灯がうっすらと光っていた。直径20mくらいの大きさだろうか?地下水路の大きなトンネルが通っていた。床には5cmくらいの水が流れていた。トンネルの脇には、生き物の死体だったり、ネズミだったり、さまざまなものがいて、異臭を放っていた。また、このトンネルは、都市の地下にまんべんなく水を供給するためにつくられたのだろう。ところどころ、定期的に、側道につながるトンネルとつながっているようだ。


「水の流れる方向に5kmくらいまっすぐ歩けば、廃墟の駅の中央ホールに上るマンホールにたどり着ける。じゃあ、行きましょう」


 イズミが右指の中指につけているリングの先は、小さなLEDになっていた。イズミがリングをさわるとLEDライトが光を放った、その光をたよりに、僕とイズミは前へ進んだ。

 どれくらい進んだだろう。側道のトンネルの方から、赤とダークグレーのレーザーの閃光が見えた。


「こんなところまで、戦闘が及んでいるなんて・・・」


 イズミはそう答えると、左の手首につけている時計を見た。


「ホテルの入口から4kmくらい進んだわ。あと一息。あの閃光をよけ、走ってすり抜けましょう」


 イズミの時計は距離のGPS機能もついているようだ。今、どの位置にいるかがわかるようになっていた。

 イズミはおもむろに走りだした。僕もイズミについて走った。

 側道のトンネルからは、時折、僕らが進んでいるトンネルのほうにレーザービームの流れ弾が飛んでくる。


「あれに当たらないように気をつけてね」


「ああ」


 2人は、トンネルの側道の手前のところに差し掛かった。


「さあ、行くわよ。そのまま止まらずに、走り抜けましょう」


「OK」


 イズミに続いて、僕もトンネルの側道を突っ切ろうとした。その時、僕の左の太ももの後ろに激痛が走った。どちらの軍が放ったレーザービームかわからないが、流れ弾が、僕の左の太ももをかすめた。僕は、側道を突っ切った後、前のめりに転がり、左足を押さえながら転倒した。


「大丈夫?」


 イズミが聞く?


「ああ。太ももの後ろ側をレーザービームかかすめたみたいだ。血はでているけど大丈夫。何とか、走れるよ」


 僕はそう答え、立ち上がり、左足を引きずりながら、イズミに続いて走った。

 ところが、側道で戦っていた、2つの国の兵士が、僕たちが進んでいるトンネルに入り込んで来て、戦闘をしはじめた。

 僕やイズミの後ろから、レーザーの流れ弾が飛んでくる。


「後ろを振り向かず、走り続けて。もうすぐ、駅の上にあがる出口に着くはずだから・・・」


「わかった」


 その時、後ろから聞きなれた声がした。


「よう、生きてたか?」


 声をかけてきたのは、後ろから走ってきたダイナだった。

 戦闘をしていたのは、マーカス、ダイナ、ベイビー・グランドとアシュトン帝国の兵士たちだった。彼らは、薄暗闇の中、それぞれの人影を見極めながら、レーザー銃で戦闘していた。

 

「お前の前を走っているのは・・・『サチコ』・・・か?」


 ダイナはそう叫んだ時、彼は敵のレーザー光で背中を撃ち抜かれた。


「うおっ!」


 ダイナは、胸を押さえながら、その場にうずくまった。


「ダイナ」


 僕は叫びながら立ち止まった。

 イズミたちも立ち止まった。そして、イズミはダイナに答えた。


「私は『イズミ』。『サチコ』ではないわ。ケンジを『幸福の星』に連れて行くの」


「そうか。『サチコ』というのは、ケンジの母親の名前さ。あんたが若いころのサチコに似ていて面喰っちまった。俺は、サチコが好きだった。どうも、ケンジが俺の子供のように思えてなぁ。『幸福の星』か・・・。噂には聞いていたけど、本当にあるんだなぁ。わかったぜ。俺がここで食い止めるから、ケンジを『幸福の星』とやらに連れて行ってやってくれ」


 ダイナはそう言うと、後から連いてくるアシュトン帝国の兵士のほうを向いて座り込み、レーザー銃をかまえ、撃ち続けた。


「行こう」


 マーカスが言う。


「ごめんね」


 ベイビー・グランドが涙を流しながら言う。

 そして、僕たち4人は、ダイナを残し、再び走りはじめた。しばらくするとようやく、4人は廃墟と化している駅の中央ホールにつながっているマンホールにたどり着いた。


「3人は先に登っていけ。俺は最後に登る」


 マーカスはそう言うと、今まで走ってきた方向を振り返り、状況を見続けた。


「早く。急げ」


 マーカスの指示に従い、イズミ、ベイビー・グランド、僕はマンホールを上に登っていく。

 そのうち、今まで収まっていたアシュトン帝国の兵士の不気味に光るダークグレーのレーザービームが再び、こちらに向けて飛んでくるようになった。


ーーーーー


 ダイナは、力の限り、無数のアシュトン帝国の兵隊をレーザー銃で倒し続けたが、徐々に力尽き、アシュトン帝国の兵士のレーザービームに撃たれた。


「『幸福の星』へ。達者でな・・・」


 そう言うと、ダイナは前のめりに倒れ、死んだ。

 アシュトン帝国の兵士たちは、ダイナを乗り越えるようにして前に進み、再びレーザービームをマーカスたちの方に撃ち続けた。

 マーカスはマンホールの真下に立ち尽くして、アシュトン帝国の兵士たちにレーザー銃を撃ち始めた。


ーーーーー


 イズミ、ベイビー・グランド、僕は、マンホールを登りきり、廃墟の駅の中央ホールに出てきた。そこは、さまざまな銃の弾痕を残しながらも、大きな駅の様相を残していた。


「早く、『幸福の星』へ。俺はここで食い止める」


 マンホールの下からマーカスはそういう叫ぶと、上着を脱いだ。マーカスの胸と腹の周りには、無数の手榴弾がまかれており、もし、アシュトン帝国の兵士のレーザーが当たると、マーカス自身が自爆するようになっていた。


 ―――――


「向こうのほうが昔の列車の出発口。『幸福の星』に行く荷馬車はそこにいる。急ぎましょう」


 イズミはそういうと、荷馬車がある方向に走り出した。僕とベイビー・グランドも続いて走り出す。

 走っているうちに、後ろの方から、ものすごい爆音が聞こえた。きっと、マーカスがアシュトン帝国の兵士のレーザーに撃たれ、トンネルの中で自爆したのだろう。


ーーーーー


「この悪魔どもめ・・・。思い知るがいい」


 それがマーカスの最後の断末魔の叫びだった。


ーーーーー


 元列車の出発口は、駅の中央ホールの近くの階段を上がったところにあった。そこに、2頭のペガサスがつながれた荷馬車がイズミたちを待っていた。


「さあ」


 イズミがそういうと、3人は荷馬車に向かって走りはじめた。

 イズミと僕が、荷馬車の後方の入口へつながる階段を上り乗り込んだ。そして、ベイビー・グランドが荷馬車の入口への階段を上がろうとした時、アシュトン帝国の兵士のレーザーが、ベイビー・グランドのレーザー銃を破壊し、同時にベイビー・グランドの右肩を貫いた。ベイビー・グランドは、荷馬車の階段の下に転げ落ちた。


「ベイビー・グランド!」


 僕が叫ぶ。


「私にかまわず、飛び立って。私はあなたが好きだった。あなたには幸せになってほしいの・・・」


 ベイビー・グランドはそういうと、気絶してしまった。


「残念だけど、出発しましょう」


 イズミがそう言うと、2頭のペガサスの手綱を持つ御者がベガサスに鞭を打った。荷馬車はペガサスに引かれて走り始めた。そして、ペガサスは加速しながら、徐々に羽を広げていく。その浮力を使って、荷馬車は空へと浮かび上がった。そして、徐々に荷馬車は空へと舞い上がった。無事、2頭のペガサスに引かれた荷馬車は飛び立ったのだ。

 荷馬車が出発したところで、荷馬車の入り口の踊り場から、僕はベイビー・グランドが無数のアシュトン帝国の兵士に囲まれ、捕虜としてとして捕らえられているのを見た。ベイビー・グランドは気絶したまま、上半身を縄でまかれて取り押さえられていた。

 荷馬車に向けて、アシュトン帝国の兵士たちはレーザー銃で攻撃してきた。しかし、いつしかペガサスの羽から放たれていたクリスタルのような霧が、荷馬車を包むように守り、レーザーを跳ね返した。

 イズミと僕は、入り口から荷馬車に入り、廊下を通って、荷馬車の前方に来た。

 荷馬車の前方は、左右にそれぞれ向かい合わせで座れる食堂兼リビングのようなスペースがあった。イズミと僕は進行方向に向かって右側の座席に、テーブルをはさんで向かい合って座った。僕は、進行方向を背にして、イズミは進行方向に向けた椅子に。テーブルの右には、上下にスライドして開閉が可能なようになっている窓がついていた。

 イズミは座ると、何も話すこともなく窓を開け、荷馬車の窓から見える満月を、かすかに入ってくる風に髪をなびかせながら、暗い表情を浮かべ、うつろな目で見つめていた。僕は、ここまで導いてくれたマーカス、ダイナ、コムソル、ベイビー・グランドの最後の姿を思い浮かべた。涙がとめどなくあふれてきた。

 満月に照らされながら、2頭のペガサスに引かれた荷馬車は、クリスタルのような透明な霧に包まれながら、地球を旅立った。


―――――

 

 荷馬車は大気圏を抜け、宇宙に飛び出した。しかし、荷馬車の周りは、クリスタルの霧に包まれて空気があった。

 一しきり涙を流した後、僕は、下に見える、ところどころ爆弾やレーザーの光と思われる閃光に包まれた地球と、雲にさえぎられることなく鮮やかに光り輝く満月を目に焼き付けた。


(僕が、最後にみる地球の姿と月か。せつなく思えるほどきれいだなぁ)


と思いながら。

 イズミは、まだ、ずっと黙って、満月を見ていた。

 しばらく、地球と月を目に焼き付けた後、僕は、イズミを見た。

 僕は、改めて、その美しくもはかない彼女の横顔に、ただただ見入ってしまった。


第2章 クリスタル号

1.クリスタル号の乗組員たち

 イズミ、ケンジを乗せた荷馬車は、2匹のペガサスに引かれながら、無事、地球を出発した。ずっと、窓越しに満月を見つめていたイズミは、ようやく僕のほうに視線を移し、


「おつかれさま。あなたの仲間たちには大変な迷惑をかけてしまったわね。ごめんなさい。最後に見る地球の姿。覚えておいてね。もう、ここへ戻ってくることはないのだし、彼らのことを心に焼き付けて、彼らの分も、幸せになりましょうね」


と語りかけた。


「そうだね。みんなの思いも背負って、僕はこの旅を成功させる。『幸福の星』に必ずたどり着いてみせる」


と新たに決意を固めた。

 その時、食堂の後方から、僕らの席のところに一人の、15~16歳くらいのかわいい女の子が歩いてきた。青空色のブラウスとミニスカート、レストランのウェイトレスがつけるような純白のエプロンを身にまとい、肩あたりまで伸びた、服と同じ空色の髪の女の子だ。


「何か、飲み物か食べ物をお持ちしましょうか?メニューはテーブルの上にあります」


 その少女が話しかけてきた。


「初対面でしょ。お互いにお名前を紹介しておいたほうがいいんじゃないかしら?」


 イズミがそう言うと、その少女はこう答えた。


「私の名前は『アクア』です。この荷馬車のお手伝いさんをしています。よろしくお願いします」


「僕の名前は、『ケンジ』。呼び捨てでいいよ」


「はい。でも、私、呼び捨ては苦手なんです。『ケンジさん』って呼びますね」


 アクアは無邪気な笑顔でそう答えた。


「後ほど、ご注文を伺いに参ります。ちょっと待ってくださいね」


 気がつくと、彼女は手に一つの温かい飲み物を入れたマグカップを持っていた。彼女は、荷馬車の前方の席に座り、2頭のペガサスの手綱を引いているがっしりとした老人のところに行くと、


「オンジ。いつものコーヒー。ここに置いておきますね」


と言い、そのマグカップを、男性が座っている左横にあるテーブルのマグカップ入れに置いた。


「いつもありがとう」


 老人がやさしく答える。とても穏やかな顔をした、サンタクロースのように白髭を生やし、ゆったりとした上下の服を着た、がっしりとした体つきの老人だった。


「手綱を引いて、ペガサスを操っているのは『オンジ』という名のおじいさん。

 それから、2頭のペガサスは、右側が、『ポニー』、左側が『サニー』って言うの。

 2頭は双子よ。そして、この荷馬車の正式な名前は『クリスタル号』。

 クリスタル号の乗組員たちは、みんな、親切だから、わからないことがあればなんでも聞いていいのよ」


 イズミが説明してくれた。


「ご注文はお決まりですか?」


 オンジにマグカップを渡した後、アクアが戻ってきて、尋ねた。


「悪いけど、僕は、このような立派な食堂で、しかも、まともなものを食べたことがないんだ。注文したいけど、メニューを見ても、何がどんな食べ物かわからないよ。ごめんね。アクアさんが一番得意な料理を持ってきてもらうとありがたいなぁ」


「そうですか。それじゃあ、腕によりをかけて、『ミートソーススパゲッティーと搾りたてのオレンジジュース』を作りますね。イズミさんも同じものでいいですか?」


「ええ。いいわよ。ありがとう」


「じゃあ、ちょっと待ってくださいね」


 アクアはにっこり笑うと、クリスタル号の後方に急いで走っていった。


「どうじゃ。乗り心地は?」


 オンジが手綱を引きながら、ケンジに聞いてきた。


「こんなにゆっくりとした気分になったのは、生まれてはじめてだよ」

 

 ケンジはそう答えた。

 ほどなくすると、アクアが2人分のミートソーススパゲッティーとオレンジジュースをのせたワゴンを引いて現れ、それらを僕らのテーブルに並べてくれた。


「ゆっくりお召し上がりください。お食事が終わったら、クリスタル号の中がどうなっているかをご案内して、イズミさん、ケンジさんをお部屋へお連れしますね。それから、ケンジさん。怪我されていますね。治療もしますね」


 そう言うと、アクアは再び、にっこりしながらクリスタル号の後方にワゴンを引いていった。

 イズミと僕は、ゆったりと食事をとった。


「このクリスタル号の中そのものが『幸福の星』のようだね」


「でも、クリスタル号から一歩出れば、ダートマス連邦とアシュトン帝国の戦場なの。ここは、2頭のペガサスが放つ『霧』に守られているだけ。それは忘れないでね」

 

「そうだね。すっかり忘れていたよ」


 2人は、食事をしながら、窓から見える星々を眺めていた。


「あっ。火星だ」


 僕は火星を見つけた。しかし、火星もおそらく戦場になっているのだろう。ところどころ赤とダークグレーの閃光が放たれており、地球と同様、厳しい戦いが繰り広げられていることが想像できた。火星には地球から移住した人類がいる。その地球人たち(ダートマス連邦)とアシュトン帝国の兵士たちが戦っているのだろう。

 たまに、レーザービームの流れ弾がクリスタル号に飛んでくる。それを、クリスタル号の周りを囲んでいる「霧」が跳ね返していた。

 2つの国が至るところで戦争をしていることが目に浮かび、改めて、現実に引き戻される気分になった。


2.クリスタル号の進路

 僕は、イズミの座っているほうの壁に貼られている、おそらく、銀河系の地図であろう壁紙を見つけた。


「イズミの後ろにある壁紙は、銀河系の地図かい?」


「そうよ。これは銀河系を上方から見た地図よ。銀河系には、今までは星がまんべんなくあると思われていたの。でも、この壁紙の地図にあるように、星は、この銀河系の右下に集中している。ちなみに、あなたがいた地球のある太陽系はここ。実はダートマス連邦もアシュトン帝国も銀河系すべてを二分して戦っているわけではないの。この地図の右下の、星が集結しているところの勢力をとりあっているだけ。銀河系の左上の星系は、星は少ないけど、どちらかというと平和なところ。

 クリスタル号は、できるだけ戦火を避けて進みたいのだけど、銀河系は、この地図でいう反時計回りに回転しているの。ポニーとサニーの馬力を持ってしても、クリスタル号は、この遠心力にどうしても引かれる。だから、ダートマス連邦とアシュトン帝国の戦火が一番厳しいところを通らざるを得ないの。ダートマス連邦とアシュトン帝国の勢力が交わっているところは、地球以上に戦火が激しいわ」


 イズミは、立ち上がり、銀河系の地図を指しながら、太陽系の位置、銀河系の星の分布、ダートマス連邦とアシュトン帝国の勢力域、クリスタル号の進路について、詳細に説明してくれた。


「戦火のはげしいところを通り抜けないと、『幸福の星』にはいけない。大変な旅になりそうだね」


「私は、『幸福の星』に着くまで、どうしても、2か所、立ち寄らないといけないところがあるの。そこは、あなたが地球で見たよりもさらにおぞましいことが起こっている。私はクリスタル号を降りて用事を済ませるわ。あなたは私と一緒に来て、この銀河で起こっている『不条理なこと』を見てほしいの。でも、決して私から離れないで。あなたに渡したショックガンだけではとても、自分自身を守ることができないわ。わかった?」


「わかったよ。でも、そんな危険なところに降りて、大丈夫なの?」


「わからないわ。もし、私が死んだら、オンジとアクアに頼んであるから、クリスタル号であなたは『幸福の星』へ向かって」


「・・・」


 僕は、イズミからの頼みに何も答えることができなかった。


「あのー。そろそろよろしいですか?クリスタル号の中をご案内しようと思うのですが・・・。」


 僕がイズミの話を聞き入って気づかないうちに、アクアが、僕たちの席の横にワゴンを置いて立っていた。


3.クリスタル号のレイアウト

「それでは、クリスタル号の中をご案内しますね」


 アクアはそう言うと、説明をはじめた。


「まず、クリスタル号の前を紹介しますね」


 アクアは、クリスタル号の前方の壁の丸い覗き窓を指した。


「ここから、クリスタル号の操縦部が見えます」


 僕は、窓をのぞいた。

 クリスタル号の前は、右にペガサス「ポニー」が、左がペガサス「サニー」が走っている。荷馬車の前は木の床になっており、中央に、オンジの座る椅子。オンジの左横に、オンジの飲食用のテーブルがあり、右側は、人が座れるようになっていた。

 オンジは、左手に2つの手綱をもって、2頭のペガサス「ポニー」と「サニー」をコントロールしている。また、右手は、2頭のペガサスのスピードを上げるために使う鞭も持っていた。2頭のペガサスは羽を広げて走っており、羽からは、地球から出発した時と同じように、クリスタルの霧が放たれていた。時折、どこからともなく飛んでくる「ダートマス連邦」の赤いレーザー、「アシュトン帝国」のダークグレーのレーザーを跳ね返していた。

 クリスタル号の室内の前方には、左右にそれぞれ4人掛けくらいの椅子とテーブルがある。ここは、みんなが集まる居間でもあり、食堂にもなっている。左右の壁には、上下に開閉可能な窓がついている。


「それでは、クリスタル号の内部に行きますね」


 アクアは、イズミと僕をつれて、クリスタル号の内部へ向かって中央の廊下を進んだ。

 食堂の真後ろは、クリスタル号の進行方向の右側が共用のトイレとシャワー室、医務室。左側が、キッチンや洗濯ものなどを行うスペースになっていた。


「ここは、主に私の職場です。トイレとシャワーはいつでも使えるように、私が清掃しておきますね。また、私は、看護師としての役割も担っていますので、多少の怪我だったら手術や治療を行うこともできます。体調の悪い時は言ってくださいね」


 さらにアクアは、クリスタル号の後方に進む。

 そこには、左右に2つの部屋があった。


「クリスタル号の前進方向に向かって右側は私の部屋。左側はオンジの部屋です。オンジも常時、手綱を引き続けるわけにはいかないので、戦火が収まっている時は、2頭のペガサスに運航を任せて、この部屋で休みます。私も一緒。夜は、お休みをいただきます」


 さらに後方にいくと、もう2つ、広い部屋が左右にあった。アクアは進行方向に向かって左側のスライドドアを開けて中に入った。僕たちも続けて入った。


「こちらは、お客様の部屋です。主にクリスタル号の進行方向に向かって右側は主にイズミさんが使われていますので、ケンジさんの部屋はここですね。中には、ベッドと、ちょっとくつろげるテーブル、椅子、鏡や洗面所があります。壁には、食堂と同じような窓がついています。操作方法も食堂の窓と同じですよ。また、仮設のトイレやシャワーもついていますので、ちょっと窮屈ですが、部屋の中でトイレや体を洗うこともできます。部屋の中は定期的に私がお掃除をしますので安心してご使用くださいね」


「結構、立派なんだね。外から見ると、古めかしくみえる荷馬車だけど、中は、しっかりした造りになっているんだね」


 その2つの部屋を突っ切ると、後方の出入り口につながっていた。ケンジが夢中でクリスタル号に乗り込んだ入り口だ。入り口を出ると小さな踊り場があり、クリスタル号の進行方向に向かって右側に、地上におりる階段がついている。


「これが、クリスタル号の内部です。ざっとしか説明していませんので、わからないことがあったら、私に声をかけてくださいね。それでは、ごゆっくりしてください」


「そうそう、ケンジさんの怪我を治療しなきゃ。後でケンジさんの部屋に行きます。部屋でお待ちくださいね」


 アクアはそういうと、食堂に戻り、ワゴンに僕たちの食べた皿をのせた上で、それをキッチンに運び、洗い始めた。

 僕はアクアが、最初はただ、かわいいだけの少女だと思っていたが、今はとてもしっかりとした少女に見えた。


「彼女、おっとりしているように見えるけど、とても自立していて頼りになるのよ。

 ちょっと『天然っぽさ』も残っていて、あどけないけど。あなたの相談事なども聞いてくれるから、遠慮しないで彼女に話すといいわ。

 それから、オンジは若いころ、銀河系内を自由に旅していたそうよ。いろんなところを旅したみたい。だから、どんな状況になっても生き抜く術を知っている『サバイバル』の達人よ。オンジも頼りになる人だから、話をするとあなたのこれからの人生の役に立つと思うわよ」


 イズミはさらに言った。


「さあ。今日は大変だったわね。そろそろ寝ましょうか。私は、自分の部屋に戻るわ。

 何かあったらノックをしてくれれば出るから、声をかけてね。あなたも休みなさい」


 そう言うと、イズミは自分の部屋に入っていった。

 クリスタル号の時計を見ると、いつの間にか地球時間の朝になっていた

 僕も、自分の部屋に入り、荷物を置いて、ベットに座っていた。

 すると、ノックの音がした。


「入っていいですか?」


「いいよ。」


 救急箱を持って、アクアが入ってきた。

 そして、手際よく、頭と左の太ももの傷口を縫い、薬をぬって、包帯をまいてくれた。


「大変だったんですね。痛くないですか?」


「大丈夫だよ、でも、手慣れているね。感心したよ、ところで、君はいつから、クリスタル号に乗り込んでいるの?」


「最初は、イズミさんに誘われて、私の母と一緒にクリスタル号に乗りました。私の星も大変な戦火の中にあったのだけど、イズミさんが私たちを救ってくれて、クリスタル号のお手伝いさんのお仕事を与えてくれました。料理の仕方や、怪我をした時の治療法なども、イズミさんが教えてくれました。私の母は、旅の途中で、イズミさんを守るために亡くなったけど、私は母の意思をついで、ここで働いています」


「つらい思い出を聞いてしまったね。ごめんね」


「いいんです。これからも、よろしくお願いします」


 治療が終わると、アクアは僕の部屋を出た。

 僕はベットに横たわり、そして、気がつかないうちに、眠りに落ちていた。


第3章 土星のリングの真実

1.「アクア」の洗礼

 どれくらい眠ったのだろう。僕は、目を覚ました。

 その時、僕はびっくりした。母のペンダントを残して素っ裸。僕の体には白いタオルがまかれていた。

 

「なんだぁ。こりゃ。」


 そう叫びながら、自分の大事なところを押さえながら、ベットの横にある椅子に呆然として座った。その時、ノックの音が聞こえた。


「入っていいですか?」


とアクアの声が聞こえる。


「ど、どうぞ」


 僕は、白いタオルをまきなおし、椅子に座りなおした。


「入りまーす」


 アクアは、手に、洗濯したであろう僕の衣類をきれいにたたんで持って現れた。


「ケンジさんがあまりに起きないし、お洋服がかなり汚れていたので、服を脱がせて洗っておきました」


「下着も?」


「ええ。私、こう見えて、力、強いんですよ」


(ぼくが気にしているのは、そこじゃないんだけどなぁ。この子、やっぱり『天然』なのかなぁ・・・)


 そう思いつつ、僕は続けて、アクアに聞いた。


「その時、僕の裸、見なかった?」


「見ましたよ。傷の治り具合も見たかったので」


 僕はそれを聞くと、僕は顔が真っ赤になったような気がした。


「どうしたんですか?顔が真っ赤」


 アクアは、ニコッと笑いながら言った。


「いやあ。なんと言うか、はずかしくて」


 僕がそう言うと、アクアは続けてこう言った。


「ケンジさん。シャワーも浴びて体を洗わなきゃ。とりあえず、私が、ケンジさんの体をお湯をつけたタオルですみずみまで拭いておきましたけど、後から、シャワー浴びておいたほうがいいですよ。傷口から黴菌が入るかもしれませんから」


「僕の体、全部、ふいたの?」


「はい。」


 再び、僕は顔が真っ赤になった気がした。


「なんだか今日のケンジさん、おかしい。熱でもあるのかしら」


 おもむろに、アクアは自分の額を僕の額にくっつけてきた。女性とこれほど顔を近づけるのははじめてだ。アクアの洗剤のような良い香りと吐息が僕の顔にかかる。今にも、キスをしてしまいそうな衝動にかられてしまったが、グッとこらえた。


「熱はないみたいですね。よかった。でも、傷が痛んだら言ってくださいね」


 そういうと、彼女は僕の部屋から出て行った。

 僕は呆然としながら、


「彼女は僕のことを『男』として見ていないんだろうか・・・?」


と思った。

 そう悩みながら、僕は部屋にあるシャワーを浴び、髪や体をピカピカに洗ってから、アクアが洗ってくれた服を着て、食堂に向かった。


―――――


 クリスタル号の進行方向に向かって、食堂の右側のスペースに、イズミがクリスタル号の進行方向に向かって座っていた。僕はイズミの前に座った。すると、イズミは、ピカピカになった僕を見て「クス」っと笑った。


「どうしたの。そんなにきれいにして」


 僕は、起きてからの、アクアとのやり取りをイズミに話した。


「悪気はないのよ。アクアはお世話好きなのよ。あなた、もしかして、『アクアちゃん』のこと、好きになっちゃったの?あなたもお年頃だものね」


 イズミは、いたずらっぽい笑顔を浮かべてこういった。


「そっ、そんなんじゃないよ。はずかしかっただけさ。からかうのはよしてくれよ」


 僕がそう言うと、


「はっはっは。クリスタル号に乗る者がいつもアクアから受ける最初の洗礼じゃな。見られたところで減るもんじゃないし、あきらめるんじゃなぁ。アクアは、クリスタル号の中で素直に育ち、擦れてなくて、どこか『天然』っぽさがあるんじゃ。アクアにとってはいつもの仕事じゃ。あの子は何とも思ってないよ」


 聞き耳をたて、手綱をさばいているオンジが大笑いしながら言った。


「トーストとコーヒー、持ってきますね」

 

 いつの間にか、横にいつもの笑顔でアクアが立っていた。


(今までの会話。聞かれていないかなぁ・・・)


 その心配をよそに、アクアは何事もなかったかのように、キッチンへ戻っていった。

 ほどなく、トーストとコーヒーが用意され、僕とイズミは窓から外を眺めながら、食事をしていた。窓の外には、リングに囲まれた土星が見えてきた。


 「オンジ。ここで止めてくれない」


 「わかりました。いつものお話をされるのですね」


 そういうと、オンジは手綱を引き、2頭のペガサスを止めた。


2.土星の衛星「レアル」

「ケンジ、これを」


 そう言うと、イズミは僕に双眼鏡を渡してきた。


「これを使って、土星のリングをよく見てみて」


 イズミは、双眼鏡を僕に手渡した。

 僕は言われるがままに双眼鏡を受け取り、窓から土星のリングを見た。

 土星の周りにはリングがある。昔からの言い伝えだと、土星の周りをまわっていた衛星が爆発し、そのかけらが、土星の引力に引き寄せらながら、土星の回転に合わせて回っているのだそうだ。

 なにげなく、双眼鏡越しに、土星のリングを見た。最初は、昔の言い伝えの通り、ただの岩石が回っているように見えた。しかし、次の瞬間、僕は、びっくりするものを見つけた。


「これは・・・」


 その光景に僕は絶句した。

 リングの岩石の合間合間に、明らかに人工物と思われる「戦闘機のかけらのようなもの」、「銃」、「戦闘服」など、戦争があったであろう”跡”だけでなく、「子供のおもちゃの車や人形」などが交じっていたのだ。


 「あなたも知っている通り、土星の周りには、昔、何らかの理由で、土星の近くを周っていた衛星が爆発し、そのかけらが回っている。それが、地球から見るとリングのように見えるの」


「でも、約50年前に銀河系で起こった大戦争の残骸や、その後、ダートマス連邦とアシュトン帝国の両方に逆らって爆破された土星の衛星『レアル』のかけらが混ざったの」


「衛星レアルには、地球から開拓民が移住してきた。太陽から土星までの距離はとても遠いわ。レアルは極寒の地。レアルを人が住む環境(空気、水をつくり、人口の太陽をつくり、地球と同じ温度、時間の周期をつくる)にしなければならなかった。それを成し遂げたのが、地球の優秀な科学者『ノア』とその協力者たち」


「ノアは大変優秀な科学者だった。ノアは仲間の科学者とそれに協力してくれる人たちをつれて、衛星レアルへ赴き、衛星レアルを地球と同じ環境に制御するさまざまな機材をつくった。そして、その過程で、ノアは副産物として、さまざまな軍事道具を作り出した。『天動説』のように、『レアル』を周回する人工の太陽をつくれる人だったから、兵器をつくることくらい、わけのないことだった。そして、レーザー銃やバズーカーをつくり、最後には、惑星や恒星を一撃で破壊できるエネルギー砲まで開発したの。自分の科学力がどれくらいあるかを知りたいっている『興味』だけでね。エネルギー砲は、最初は大規模な装置だったけど、最後には、バズーカーのような形とサイズで、人が一人で恒星を撃てば爆破できるように改造に改造を重ね、究極のエネルギー砲を開発したの。それが、伝説の『神の銃』と言われているわ。彼がつくった武器は、現在、ダートマス連邦やアシュトン帝国が使用している武器よりも優れているかもしれない。だから、衛星レアルの指導者たちは、ダートマス連邦やアシュトン帝国が服従を命じたときに、それに従うことなく、『独自の自由な国』を目指した。『アシュトン連邦やダートマス帝国が我が国を攻めるなら、我々はあなたたちの母星を破壊する』と反抗して」


 ここまで語ると、イズミは、一度、コーヒーを口にし、さらに続けた。


「実は、衛星レアルは、一度、ダートマス連邦、アシュトン帝国と戦争を行ったことがあるの。ダートマス連邦対レアル、アシュトン帝国対レアルという形で。でも、どちらも一対一の勝負では、レアルには勝てなかった。ダートマス連邦、アシュトン帝国とも、それぞれ大軍を率いてレアルに向かい、衛星ノアルの周りで戦闘になった。最初は、接戦だったけど、最後にとどめを刺したのは、ノアの開発した『エネルギー砲』。『エネルギー砲』の一撃で、ダートマス連邦、アシュトン帝国の軍隊は、一瞬にして木っ端微塵にされたわ」


「だけど、衛星レアルの指導者たちは、ダートマス連邦、アシュトン帝国の母星に攻め入ることはしなかった。レアルの指導者やノア、レアルに住む人たちが望んでいたのは、戦いではなく、自分たちの自由と平和だから。無駄な戦争を好まなかったの」


「そんな状況の中で、なぜ、衛星レアルは破壊されたの?」


「衛星レアルには唯一といっていい弱点があった。『衛星レアルの指導者たちも、ノアも戦争に興味がなく、“自衛”ということを考えなかったこと』『破壊兵器は自国を守るために最小限あればいいということで、ノアの開発したエネルギー砲は、当初1台しかなかったこと』。ノアは自身の科学力に自信はあったけど、自分の科学力を試すために、閃いた軍事兵器以外、余分な兵器はつくらなかった。彼は本当は平和主義者だったの。最後に完成させた『神の銃』もノアの『自分の科学力を試す』興味の一つに過ぎなかった。衛星レアルの指導者たちも、ノアも、それを使って戦争をする気はなかったの。ちなみに『神の銃』が出来上がったのは、衛星レアルが爆発されたちょうどその日だったの」


「それでも、ダートマス連邦とアシュトン帝国は、衛星レアルと科学者ノアの技術力を恐れた。だから、この時だけは限定的に両国は和平を結び、衛星レアルを協力して破壊する計画を立てたの。衛星レアルにエネルギー砲が1台しかないことを把握した上で、衛星レアルからの攻撃を受ける前に、それぞれの国が衛生レアルと和平を結んだ。でも、それはみせかけ。ダートマス連邦とアシュトン帝国は、ある日、申し合わせた上で、不意打ちで、それぞれの母星から同時に、ノアの『エネルギー砲』ほど強力ではなかったけど、衛星レアルを破壊できる程度のエネルギー砲を放ったの。」

 

「ノアはエネルギー砲を開発していたけど、自分の星を守るための『バリア』までは開発していなかった。両国からエネルギー砲が来たら、自身のエネルギー砲で跳ね返せば良いと思っていたの。でも、両国から同時にエネルギーを撃たれるとまでは想定していなかった。両国のエネルギー砲のどちらか一発を現在のエネルギー砲で、もう一発を出来上がったばかりの『神の銃』で粉砕することはできたかもしれないけど、操縦できるのはノア一人だけだったからそれは無理だった。さらに、ノアが衛星レアルに向かって来る巨大なエネルギーをセンサーで気づいた時には、両国のエネルギー砲は、衛星レアルのすぐそばまで来ていたから、飛んでくるエネルギー砲の一つを跳ね返しても、もう一つのエネルギー砲を跳ね返すだけの時間の余裕はなかった。最期を悟ったノアは、ちょうどその時、ノアのところに最新の武器の調達に来ていた人物に、自分の息子と、出来上がったばかりの『神の銃』を託した。その人物は、急いでノアに連れられ、ノアがつくった戦艦を使って、ノアの息子と『神の銃』を乗せて逃げた。ほどなく、衛星レアルは爆破された。ノアの息子を託された人物の戦艦は、爆風に巻き込まながらも、何とか逃げることができたの」


 そう言うと、イズミは、悲しそうに土星のリングを窓から眺めていた。


「だから、今、あなたが見ている土星のリングのかけらの中には、衛星レアルの残骸も混ざっているんだね。」


「逃げた人物と科学者ノアの息子はどうなったの?」


 僕がイズミに質問すると、イズミは答えた。


 「逃げた人物とノアの息子とは、いずれ、あなたは会うことになると思うわ。ちなみに、ノアの息子は、一緒に逃げた人物に、戦い方のすべてを教えてもらいながら成長した。ノアの息子は『衛星レアルの最後の戦士』とか『マッド・ウルフ』と呼ばれていて、今も、アシュトン連邦、ダートマス帝国と戦っているわ。一度は私の説得に応じ、過去の恨みを忘れて、私といっしょにクリスタル号に乗り、『幸福の星』を目指したのだけど、やはり、彼から『ダートマス連邦とアシュトン帝国への恨み』を消し去ることができなかった。その上に不幸な出来事が重なり、彼は、途中でクリスタル号を降りて行った。今も打倒 ダートマス連邦、アシュトン帝国を目指し、レジスタンスとして活動しているわ」


「ダートマス連邦もアシュトン帝国も血眼になって彼の行方を捜し、抹殺しようとしている。でも、彼は、神出鬼没で、彼の父の名前『ノア』と名乗る戦艦に乗り、身を隠しながら、『神の銃』を使って、ダートマス連邦、アシュトン帝国への復讐を狙っている」


「そうか。戦争の当事者にとって、『憎しみ』は消えないんだね。和平というのは、第三者が言えることで、当事者にとっては難しいことなんだろうか?」


「そうかもしれないわね。あなたが、お母さんやマーカスたちのことを思い、涙を流しながら、アシュトン帝国を恨んだ時のように、いつか、あななも、マッド・ウルフの本当の気持ちがわかる時が来るかもしれない。それでも、和平を目指せるか、戦場に戻るかは、あなた次第よ」


「ああ」


「じゃあ。出発しましょう」


 イズミがそう言うと、だまって御者席に座って聞いていたオンジが、


「わかりました。」


と答えた。

 オンジは手綱を緩め、鞭を打つと、2頭のペガサスは少しずつ、羽を広げながら、進み始めた。徐々に、土星が小さくなっていった。


 ケンジは部屋に戻り、遠ざかる土星を見ながら、こう思った。


(戦うことだけでは、銀河系全体を幸せな世界にすることはできない。でも、何か、戦うことなく、幸せな世界にする良い方法はないだろうか?)


(地球にいる時は、自分の幸せを考えることで精いっぱいだったけど、本当に僕だけが『幸福の星』に行って、幸せに暮らせればいいのだろうか・・・。そもそも、『幸福の星』って、この戦争がなくならない限り、存在し続けられないのではないか・・・?」


 土星で起こった惨劇を見聞きし、ケンジは、旅の目的が「自分が幸せになること」だけで良いのか?それだけで、永遠に幸せになれるのだろうか?と迷い始めていた。


第4章 2つの大国

 ダートマス連邦の母星は、「クリスタル号」にある地図でいう銀河系の左下、「ウエスタン・リーチ」星系の恒星「エンドア」の第3惑星である。ダートマス連邦の戦闘服と同じ、赤色の土に覆われた惑星だ。

 一方、アシュトン帝国は、銀河系の右側、「ミッド・リム」星域の恒星「ボウサイ」の第2惑星。この星系の惑星のほとんどがダークグレーの海に囲まれており、アシュトン帝国の母星には、中央部に、大きな都市をかかえた島があった。


1.ダートマス連邦

 ダートマス連邦の母星は、海はなく、赤い土で覆われている。惑星全体が近代化されており、中央の首都と思われるところには、象徴的な赤いタワーが建っており、そのタワーを中心に街が広がっていた。近代都市が、ここかしことに散らばっており、都市間は、透明な筒につつまれた道路でつながれている。都市と都市の間には、防御用の大砲や、戦闘機が飛び立てるであろう滑走路が配備されていた。

 ある日、中央のタワーの最上階に、ダートマスと、ダートマスと同盟を結んでいる各星の指導者たちが集まっていた。

 中央の椅子には、赤い肌をした年老いた男性が座り、その右横には、参謀と思われる大柄な男が立っていた。おそらく、年老いた男性は「ダートマス」であろう。ダートマスと大柄な男性の左右には、各星の指導者たちが赤いダートマス連邦の戦闘服を着て立っていた。


「戦況はどうだ。フガク」


 ダートマスが尋ねる。すると、ダートマスの右横に立っていた大柄な男性が応えた。


「拮抗しております。悪くもなく、良くもない状態です。最前線では、アシュトン帝国との激戦が続いております。早急に兵器を供給せねばならないでしょう」


 ダートマスの右横に立っている参謀は「フガク」と呼ばれる男のようだ。


「そうか」


 すると、ダートマスは杖を右手に持ちながら立ち上がり、左右に並んでいる者たちに向かってこう叫んだ。


「ダートマス連邦の同志よ。今、聞いた通り、アシュトン帝国との戦闘は、接戦状態じゃ。約50年前から銀河で起こった大戦争を収め、平和を取り戻すためにわしは立ち上がった。しかし、アシュトン帝国の出現で、状況は変わった。我々は連邦を組み、アシュトン帝国を倒さねばならない。アシュトン帝国を倒せば、我々連邦国家は、このダートマスの監視下の元、平和を取り戻すことができる。わしは、わしらと連邦を組んでいる星に、武器を供給し続ける。この戦いに打ち勝つのじゃ」


 そう言うと、左右に並んでいる各星の指導者から、


「オー」


という雄たけびがあがった。


 その時、一人の軍曹と思われる小太りの人物が走り込んできた。


「ケイ、なんだ。今は会議の途中なのだぞ」


 フガクの問いに対して、走りこんできた「ケイ」という名の小太りの軍曹は答えた。


「今、マット・ウルフの乗る『戦艦ノア』の位置をおおよそつかめました。やつらは、『マラスティア星域』にいるようです」


「衛星レアルの生き残りの『最後の戦士』とか『マッド・ウルフ』とその仲間のレジスタンスどもか?アシュトン帝国との戦いの時に目障りな。じゃが、マッド・ウルフは我々にとって、危険な人物。見過ごすわけにはいかんな。

 フガクよ。お前の戦艦『フガク』と、数隻の戦艦を率いて、マッド・ウルフを亡き者にしろ。その間、わしの世話をケイに命じる」


 ダートマスがそう言うと、フガクは、

 

「御意」


と答え、その場を離れ、自身の戦艦「フガク」へ、数名の兵士を引き連れて向かった。

 

「解散じゃ。皆の者、より一層頑張ってくれ。戦勝を祈る。」


 ダートマスはそう言うと、椅子に座った。

 その後、ダートマスはケイを呼んだ。


「わしは、若い頃、草木も生えないこの貧しい大地で苦労しておった。しかし、この『エンドア』星系の星々の地上の物質が、赤いレーザー銃の燃料の元『YAG(イットリウム、アルミニウム、ガーネット)』であり、これが武器になることを知った。その時から、この物質を使って、高性能なエネルギーを作り、このエネルギーを有効に使用できるさまざまな武器を考案・開発してきた。このウェスタン・リーチ星系の膨大なエネルギーのもとを有効に使えば、銀河を我々の傘下に収め、平和をもたらすことができるとわしは考え、この強大な『ダートマス連邦』を築いてきた。じゃが、わしも年をとった。フガクも、もしかするとマッド・ウルフとの戦闘で命を落とすかもしれぬ。これからのエネルギー加工業社・武器開発業社との取引はお前に任せる。各国に、戦闘に必要なエネルギーをそれらの業社を経由して、供給し続けるのじゃ。」


「わかりました」


 ダートマスは、かすかに、不気味な笑みを浮かべた。


2.アシュトン帝国

 アシュトン帝国の母星は、9割以上をダークグレーの海に囲まれた惑星。中央に、首都と思われる島が浮かんでおり、島上は、ダートマス連邦の母星同様に近代化されていて、中央に指令部と思われる頑強なドーム型建造物があった。ドームを中心にして、最新の街並みと、防御用の軍事施設が整備されていた。

 ドームの中の長の指令室では、頑強な男が窓から外を見ていた。この男が「アシュトン」であろう。その後ろには、アシュトンが使用する豪華な椅子と机があり、その向こうに、アシュトンの参謀と思われる、スマートだが武術に長けていると思われる男が立っていた。


「戦況はどうだ?アース」


 アシュトンと思われる男がそう言うと、


「拮抗しております。特に最前線は、激戦を極めています。武器の継続的な供給が必要です」


と答えた。おそらく、参謀の名前は「アース」というのだろう。

 それを聞くと、アシュトンは続けて尋ねた。


「同盟国は増えておるのか?」


「はい。拮抗を保ちながらも、我々に寝返る星が増えてきております」


「そうか・・・。わしは、銀河を我が物にする。わしがすべてを支配すれば、銀河系は平和になる。我がアシュトン帝国が銀河を制圧すれば、すべての争いを抑えることができるだろう。同盟国の指導者には、そう伝え、死んでも、ダートマス連邦を打倒するように伝えてくれ」


「了解しました」


 そういった後、アースはこう続けた。


「ダートマス連邦の戦艦の一団が、『マラスティア星域』に向かっています。何かあったのでは?」


「もしかしたら、レジスタンスなどと息がっている『マッド・ウルフ』を見つけたのかもしれんな。やっかいな奴だ。だが、今回は、やつはダートマスの戦艦に任せよう。マッド・ウルフは手を出すとやっかいなやつ。何をしてくるかわからない。今は、こちらから刺激をしないほうが良い。だが、ダートマス連邦とマッド・ウルフの戦闘の状況は報告しろ。マッド・ウルフの最新の手の内を知りたい。奴の始末は、ダートマス連邦をせん滅した後、我々に従う国と協力し、行えば良い」


「わかりました」


「下がってよし」


 そう言うと、アースは、指令室から退室した。

 その時、アースの代わりに、細身で長髪を束ね、鼻の下にひげを生やした、竜の模様をあしらった服を着た商人らしき人物が入ってきた。


「来たな。ハンス」


 アシュトンがそう言うと、その男は、


「お久しぶりです。アシュトン様」


と答えた。おそらく、その商人の名前は「ハンス」と言うのだろう。


「この星系の星々の海には、純度の高い『トリチウム』があります。それを化学反応させれば、ダークグレーの強力な放射能を帯びた、さまざまな武器につかえる強力なエネルギーをつくることができます。そろそろ、エネルギーの在庫がなくなってきましたので、アシュトン帝国に従う国々に新たなエネルギーを供給するため、その素材となる『トリチウム』の採取にこの星系に来ました。いつもは、私の部下に任せるのですが、久々にアシュトン様に会いたくなり、今回は私も訪れました」


「頼む。各国に、戦闘に必要なエネルギーをどんどん供給してくれ」


「わかりました。他にも、バズーカーやマシンガンなど、他の連合国から得た素材をベースに武器を開発し、供給いたします」


 そう言い残すと、ハンスは、部屋を出た。

 アシュトンは黙って、窓を見ながら、


「そろそろ、久しぶりにダートマスのじじいと会談をするか?」


とつぶやいた。


第5章 惑星「パイソン」

1.宇宙での攻防

 2頭のペガサスは、土星を後にすると、急速に速度を上げて進みはじめた。

 僕とイズミは、食堂から窓の外を見ていた。その時、イズミが言った。


「いよいよ太陽系ともお別れ。ここからが本当の旅よ」


 オンジが手綱と鞭で、2頭のペガサスを誘導する。

 すると、窓の外の星の光が帯のように見え、明らかにクリスタル号のスピードが上がったのがわかった。


「すごいスピードだね」


「ええ。なんせ、光速の何百倍のスピードで走れる能力を持っているからね」


 その時、クリスタル号の進行方向から見て右横、僕らが座っているほうに、大型のエネルギー砲の光が当たった。


「ドーーーン!!!」


 鈍い音をたてて、クリスタル号は、黒煙に包まれた。

 しかし、ペガサスの霧に守られ、クリスタル号そのものには傷一つつかなかった。だが、さすがにその衝撃で、クリスタル号は左側に傾いた。食堂のテーブルにのっていたケンジとイズミのコーヒーカップとトーストの皿が、床に落ちた。

 僕もイズミも、椅子に横に倒れた。

 イズミは、座りなおすと、こうつぶやいた。


「衛星爆破用レベルのエネルギー砲ね。ダートマス連邦かアシュトン帝国?どちらの国のものかしら?」


「すいません。大概のものは避けられるのですが、大きなエネルギーでしたので、無理でした」


 オンジが言う。

 

「みなさん。大丈夫ですか?」


 アクアが床を這いながら、僕たちの様子を見に来た。


「私たちは大丈夫。あなた方も大丈夫」


 イズミが問うと、


「大丈夫です」

「キッチンはちょっと散乱していますけど、大丈夫です」


とオンジもアクアも答えた。


「それにしても変ね。ダートマス連邦もアシュトン帝国も、めったに私たちのクリスタル号を狙ってこないのに」


 その時、クリスタル号の左側、僕らが座っているところとは反対側の椅子とテーブルのある窓から、超ド級の巨大戦艦が現れた。


「ノア号か・・・」


 オンジが言う。


 その戦艦は、中央部に操縦部があり、前方に2つ、後方に1つの巨大砲筒を持つ、黒づくめの巨大戦艦だった。しかし、戦艦の前方は平らになっていて、真っ白の長方形の船首には、金色の十字架の模様があしらわれていた。


「戦艦の前方のデザインは、衛星レアルの国旗のマークよ。マッド・ウルフの乗る『ノア号』ね。どうも、ダートマス連邦かアシュトン帝国の軍団とマッド・ウルフの一団の戦闘にまき込まれたみたい。ちょうど、私たちのクリスタル号は、ダートマス連邦かアシュトン帝国のどちらかの軍団と、戦艦ノアの間にいるわ」


 イズミが言う。

 

「わしらは、回避します」


 そう言うと、オンジは、2頭のペガサスに鞭を打ち、さらにスピードを上げた。

 僕はとっさに、以前、土星のリングを見る時に渡されていた双眼鏡を持って、窓から右側を見た。そこには、無数の真っ赤な巨大戦艦軍が隊列をなしてこちらに向かって来ていた。


「ダートマス連邦の戦艦だ」


 僕がそう言うと


「ダートマス連邦軍が、マッド・ウルフの戦艦ノアを見つけて、攻撃してきているのね」


とイズミが答えた。

 その時、軍艦ノアの中心の上側の操縦部があると思われるところから20代後半くらいだろうか?男性の声がかすかに聞こえた。


「すべての砲口を、ダートマスの戦艦へ向けろ。主砲を撃ち放て」


 戦艦ノアの3つの主砲から一斉にエネルギーが放たれる。

 戦艦ノアから放たれた一部のダートマス軍の戦艦に当たったようだ。何台かの戦艦が爆破された。しかし、クリスタル号の右に大挙しているダートマス連邦の軍艦から、複数のエネルギーが飛んでくる。それとともに、ダートマス連邦軍から、無数の赤い戦闘機が飛んできて、戦艦ノアを攻撃してきた。


「我々は、ダートマス連邦の戦団。私は、この戦団の責任者『フガク』だ。無駄な抵抗はせず、降伏しろ」


 どうも、赤い戦艦軍は、「フガク」が率いるダートマス連邦の一団のようだ。


「断る」


 戦艦ノアの男性が、きっぱりと短く返答した。おそらく、声の主はマッド・ウルフであろう。

 どうやら、クリスタル号は、オンジの手綱さばきで戦闘領域を抜けたようだが、クリスタル号の後方で多くの爆発音がする。両者が戦闘を繰り広げているようだ。

 僕は双眼鏡を持ち、クリスタル号の後方の入り口の踊り場に行き、戦闘の様子を見た。

 戦艦ノアの周りでは、ダートマス連邦軍の赤い戦闘機がミサイルで攻撃している。それを、戦艦ノアは操縦部を囲むように配置されている近距離用のレーザー砲で迎撃していた。しかし、両者の攻防は拮抗しており、戦艦ノアのレーザー砲筒もかなり破壊され、黒煙が立ち込めていた。

 その合間合間に、戦艦ノアの主砲の砲口からエネルギーが発射されるとともに、ダートマス軍からも、ほぼ同じ数だけのエネルギーやミサイルが飛んできた。

 ダートマス連邦軍側からは、戦艦「フガク」を守るように護衛艦が破壊する音がする。また、戦艦ノアにも、船首の近くの側面にエネルギー砲が命中し、大きな傷が入っている。戦況は、戦艦ノアのほうが不利のようである。

 その時だった。戦艦ノアの操縦部の上の甲板に、一人の、黒の上下で体にぴったりとフィットした軍服らしき服を来た男性が右手に銃らしきものを持って現れた。

 そして、ダートマス連邦の戦団があるほうを向き、片足の膝をつきながら、銃を肩にのせて構えた。その後、銃のどこかのボタンを押したのだろう。


「恒星爆破用バズーカーモード、セット」


 彼がそう言うと、最初は、レーザー銃のような細い銃が、バズーカーほどの大きさに巨大化した。

 ほどなく、その男はバズーカーから、エネルギーを放った。今までの双方がやりとりしているエネルギーとは比べ物にならないだろう。超ド級の閃光がアシュトン連邦の戦団側のほうへ、例えようのないうなりをあげて向かっていった。

 そうすると、クリスタル号の右にいたと思われる、ダートマス連邦軍のほうから、とてつもなく大きな爆音がした。僕は、ダートマス連邦軍のほうを双眼鏡で見た。すると、ダートマス連邦の船団は、ある軍艦たちは、彼が撃った巨大なエネルギーに貫かれ、その他の軍艦たちは、そのエネルギーに吸い込まれるようになったり、それぞれの軍艦が互いにぶつかり合ったりしながら、次々に爆破していった。


「これが噂の『神の銃か・・・』」


 おそらく、ダートマス連邦軍の「フガク」の断末魔の声だろう。

 その直後、ダートマス連邦軍は、木っ端微塵に吹き飛び、跡形もなく消えていった。その後、戦艦ノアの甲板にいる男は、肩にしょっていた銃を普通のレーザー銃のサイズに戻し、次々と、戦艦ノアの周りを飛んでいる戦闘機を一機残らず撃ち落とした。

 すべての戦闘が終わり、大規模な爆音が収まるとともに、その戦闘空間は、先ほどの攻防がうそのように静寂になった。

 そうすると、銃を持った男は、甲板から操縦部に戻っていった。


「あれが『神の銃』。そして、巨大戦艦ノアに乗る『マッド・ウルフ』よ」


 いつの間にか、イズミが僕の後ろに立っていて、そうささやいた。


「すごい。たった一人で、たった一つの銃で、巨大戦艦や戦闘機たちをすべて破壊しつくしてしまうなんて・・・」


 僕は、その光景に絶句してしまった。


「やっぱり、『力』には『力』で対抗するしかないのだろうか?」


 僕がそう言うと、悲しげな顔をして、イズミは答えた。


「私はそうは思わない。『彼』は今、神にも悪魔にもなれる。だけど、彼も年を取り、いつか死んでしまうわ。『力』で勝ち取った世界は、長く続かない。きっと、永遠に、みんなが幸せに暮らせる方法があるはずよ」


「そうだね」


 戦艦ノアも無傷ではなかったようだ。戦艦の至るところからは黒い煙が立ちのぼっていた。ダートマス連邦軍の砲撃で、かなりの損傷を受けたようだ。

 戦艦ノアは、クリスタル号の左側に進路を取り、徐々に遠ざかっていった。


「『力』と『力』のぶつかり合いには、必ず、『代償』がつきもの。見ていて、あまり、良い気はしないわね」


 イズミはそう言うと、うつろいだ顔をしながら、自分の部屋に入っていった。


(そうだね)


 僕は、言葉にならなかったが心の中でつぶやいた。

 ホッとすると、僕は、食堂やキッチンで散らかっている食器類や食べ物を一生懸命片付けているアクアを見つけた。僕は急いで、彼女の手伝いに行った。


2.「オンジ」とのひと時

 ダートマス連邦軍のエネルギーの衝撃でクリスタル号が受けた被害(散乱したキッチンや食堂の皿、食べ物)をアクアと2人で片付けた後、


「ケンジさん。ありがとう。やさしいんですね」


とアクアに言われ、


「いやぁ・・・」


と僕は言った。


(悪い気はしないなぁ。やっぱり、アクアちゃんの笑顔はかわいいなぁ)


と考えながら、デレっとしていた僕を見透かしたのか、


「アクアはまだ、お前さんのことを何とも思っていないよ。お客様だと思っているだけじゃよ。はっ、はっ、はっ」


とオンジが言った。

 

「そんな大声で言うなよぉー」


と言うと、一通り片付けが終わった後、僕は、クリスタル号前方の、オンジが座っている右横に並んで座った。


「やっぱり、アクアちゃんは僕のことを『男』として見ていないよね」


「まだ、お前もクリスタル号に乗ったばかりだからなぁ。本当のお前さんのいいところに、イズミさんもアクアも気づいていなだけじゃ。そのうち、両方から、好きって言われるかもしれんぞ」


 そう、オンジが言うと、


「お前さん。イズミさんとアクア、どっちが好きなんじゃ?気が多い男じゃなぁ」


と、ニヤニヤしながら聞いてきた。


「そんなこと、聞くなよぉ。いじわるだなぁ」


「そういえばお前さん。地球にも彼女がいたじゃろが」


「ベイビー・グランドのことかい。彼女のこと、実は好きだった。ずっと一緒にいたいと思っていた。告白をしようと思ったこともあった。でも、日々の戦闘の最中に、告白する気持ちの余裕がなかったんだ。彼女、捕虜になった後、生きていてくれたらいいんだけど・・・」


「すまん。すまん。つらいことを思い出させてしまったなぁ。これでも食うか?」


 おもむろに、オンジは、左側のテーブルの皿にあったクッキーを渡してくれた。


「アクアの手作りじゃ。うまいぞ」


「ありがとう」


 僕は、クッキーを食べながら、オンジに話しかけた。


「さっきの戦いで、クリスタル号は、あれだけ強力なエネルギーを浴びても壊れなかったね。そんなに、ペガサスの放つ『霧』は強力なの?」


「そうじゃな。このクリスタル号は、攻撃用の装備がない。あくまでも、『守り』に徹し、頑強な造りになっておる。相手の攻撃を守るために、2頭のペガサスの『クリスタルの霧』のエネルギーを集中させて、跳ね返すようになっておる。ただ、2頭のペガサスの心に乱れが生じた時は、霧のエネルギーが弱くなる時がある」


「心が乱れる時?」


「ペガサスは、自分の心を『誠実』だと思っておる。その心に迷いが生じることがあった時、『霧』の防護力が弱くなる場合がある。めったにないことじゃがな」


「ふーん。」


 僕は、その時はオンジが言っている意味があまり理解できなかった。オンジの言った言葉の意味は旅の最後の攻防で知ることになる。

 続けて、もう一つ、疑問に思っていることをオンジに投げかけた。


「オンジはなぜ、このクリスタル号の騎手御者になったんだい?」


「いろいろあってなぁ」


 そう言うと、オンジは、おもむろに遠くを見ながらおもむろに語りはじめた。


「実は、わしも、マッド・ウルフ同様、誰にも縛られず、銀河を放浪する旅人じゃった。ただ、自由に生きたいってな。そうしている時に、ダートマス連邦とアシュトン帝国の2大勢力が現れて、銀河を今のような状態にしてしまった。ダートマス連邦やアシュトン帝国が頭角を見せる前も、銀河系内でさまざまな争いがあった。わしは、銀河系内で起こった2つの大国間の戦争の孤児だ。両親の顔も憶えちゃいねえ。気がついたら自分一人。毎日毎日、食える草を探し、獣を殺して食い、泥水を飲みながら、歯を食いしばって生きてきた。拾った銃を使って、自分自身を守り抜きながらなぁ。そして、戦火の中で転がっていた戦闘機の部品を集めて、自分で宇宙船をつくり、放浪の旅に出たのじゃ」


「その旅の中で知り合ったのが、さっき、イズミさんが言っていた衛生レアルの科学者『ノア』じゃ。わしとノアはなぜか気が合ってなぁ。わしのつくった宇宙船を修理して高性能にしてくれた。お互い、モノづくりが好きだったから、気があったのかもしれん。それからも、ちょくちょくノアのところには遊びに行ったよ。たまにノアが、つくりかけの空気砲や、レーザー銃、マシンガンなんかをくれた。『試してみて、感想を聞かせてくれ』ってなぁ。時には、『戦艦をつくったから、操縦してみないか?』ってこともあったなぁ。それが、この前見た『戦艦ノア』じゃ」


「わしは、無駄な戦闘はしなかった。わしが理不尽だと思った相手・弱いものいじめをしているやつらに、戦闘をしかけただけじゃった。そのうち、わしと志を同じくするやつら・行動を共にするやつらが出てきてなぁ。わしは良い気になっていた。わしらは銀河系の人々から『銀河系の用心棒』とまで呼ばれていた時期もあったんじゃ」


「その時に、ダートマス連邦とアシュトン帝国が頭角を現してきた。やつらの行おうとしていうことは、言い方は違うように思えるが、『独裁国家に守られた中での平和』じゃ。わしや衛星レアルの人たちは、それは違うと考えた。本当の平和じゃないと。

 だから、両国に逆らうレジスタンスとして戦った。その最中、わしはたまたま、新しい武器を調達しに、衛星レアルに自分の宇宙船で来ていた。その時、ダートマス連邦とアシュトン帝国が同時に衛生レアルにエネルギーを撃ってきた。ノアがセンサーで気づいた時には、もう、すぐそこまでエネルギーが来ていて逃げられなかったのじゃ。数分を争う出来事じゃったからのぉ。ノアは『この戦艦と今日出来上がった“人が一人で使える恒星破壊用の銃”をやるよ。だから、自分のつくった戦艦にわしの宇宙船をのせ、わしの息子をあずかって逃げてくれないか?』と頼んできた。じゃから、わしは、慌てて自分の宇宙船を戦艦ノアにのせ、ノアの息子をつれて逃げたんじゃ。『お前は逃げないのか?』とわしはノアに尋ねたが、『自分が育てたこの星を見捨てるわけにはいかない』と言って残った。それが、わしとノアとの最後の会話じゃった。わしらが飛び立って間もなく、両国のエネルギーが衛星レアルを直撃し、衛星レアルは爆破された。わしらが逃げられたことそのものが奇跡だったかもしれん。全速力にして逃げようとしたが、爆風の中で戦艦ノアは振り回された。なんとか逃げられたが、その時の記憶はほとんどない。ただ、鮮明に憶えているのは、ノアの一人息子が窓にしがみついて、自分の星が爆発している様子を涙を流しながら見ていたことだけじゃ」


「それじゃあ、イズミが言っていた『逃げた人』っていうのはオンジのことなのかい?」


「そうじゃ。わしは、戦艦ノアで、自分の基地に戻った後、仲間とともに、ノアの仇を打つため、打倒 ダートマス連邦、打倒アシュトン帝国を目指した。ノアの息子に『マッド・ウルフ』という名をつけて、戦闘のイロハから、わしが持っている『生き残るためのすべての知恵とノウハウ』を叩き込んだ。しかし、やつは、わしの思惑とは異なった育ち方をしてしまった。わしは、前にも言ったが「理不尽だと思った相手・弱いものいじめをしているやつら」にしか手を出さなかった。わしの狙いは、ダートマス連邦の長・ダートマスとアシュトン連合の長・アシュトンだけじゃった。じゃが、マッド・ウルフは違った。衛星レアルが破壊されていくのを何事もなかったかのように考えている『ダートマス連邦の人々』、『アシュトン帝国の人々』、すべての存在を『悪』と考えるようになったのじゃ。そのため、マッド・ウルフは、たとえダートマス連邦やアシュトン帝国の中に善人がいたとしても、それには見向きもせず、『ダートマス人』『アシュトン人』と名乗る者、ダートマス連邦やアシュトン帝国に忠誠を誓った者すべてをせん滅すると心に誓ってしまったのじゃ。」


「まずいと思ったその時、わしはイズミさんと出会った。そして、今まで一緒に過ごしていた仲間と袂を別って、マッド・ウルフを連れてクリスタル号に乗った。それまでは、イズミさん自らがペガサスを操っていたが、それからは、わしがペガサスを操るようになり、イズミさんは、戦場の中で救ったアクアのお母さんとともに、マッド・ウルフの心を解きほぐそうとした。しかし、マッド・ウルフの心は変わらなかったよ。それどころか、マッド・ウルフは、一緒にいたイズミさんとともに、ダートマス連邦とアシュトン帝国の罠にはまり、殺されかけたんじゃ。その時、命をかけてイズミさんとマッド・ウルフを救ったのがアクアの母親なのじゃ。マッド・ウルフが、その事件以来、さらにダートマス連邦、アシュトン帝国の存在そのものを『悪』と考えるようになったのは確かじゃ」


「わしはイズミさんと会って気づいたんじゃ。わしの今までしてきたことは、わしにとっての『正義』であって、相手にとっては、わしの行ったことは『悪』だったかもしれんと・・・」


「おまえは、ダートマス連邦の一員だったなぁ。ダートマス連邦のやつらからしたら、アシュトン帝国の連中は『悪』かもしれないが、逆に、アシュトン帝国のやつらからしたら、ダートマス連邦の連中は『悪』に見えるじゃろうなぁ。何が良くて何が悪いかは、自分が置かれた状況で変わるんじゃよ。そこのところをよく考えて行動しなければならない。

 とにかく、さっきも言った通り、今、マッド・ウルフは、ダートマス連邦、アシュトン帝国の存在そのものを『悪』と考えようとしている。今のマッド・ウルフは『慈悲』という心をわざと捨てているんじゃとわしは思う」


「今、マッド・ウルフが乗船している戦艦は、ノアが開発したものじゃ。だから、戦艦名は『ノア』になっている。そして、マッド・ウルフは、かつてのわしの同志とともに戦っている。打倒ダートマス連邦、打倒アシュトン帝国を目指して、ダートマス連邦に加担する者、アシュトン帝国に加担する者すべてをせん滅するまで、やつは戦い続ける」


 一通り話が終わると、オンジは、進行方向を見ながら、アクアの入れたコーヒーを飲みほした。

 

「そんなつらい過去があったのか?重たい話だね。言葉にできないよ。俺はどうすればいいんだろう」


「きっと、これからの旅の中のその場、その場でお前が体験し、考え、行動することが正解じゃと思う。わしはそう信じておる」


「オンジの言う通りに僕ができるかどうか、まだ自信はないけど、オンジやアクアちゃんがなぜ、クリスタル号に乗るようになったのかがわかって良かった。ありがとう」


 僕はそう言うと、僕はオンジの横を離れ、クリスタル号の中に戻り、食堂の椅子にすわった。ちょうど、食堂にはイズミが座っていたので、僕はイズミの正面に座った。


「オンジとのお話。どうだった」


「オンジとアクアちゃんが、なぜ、クリスタル号に乗ることになったのか、良くわかった。でも、これから先、僕はどうすれば良いか、正直悩むよ。自分だけが『幸福の星』に行って、幸せになれば良いのか?その前に、この世の中の生き物すべてが幸福を感じるようになるために、僕にできることはないのかって・・・」


 イズミは、何も言わず、ただ、僕のことを温かい目で見続けていた。


3.アクアとのひと時

 ペガサスは、加速しながらドンドン荷馬車を引いて進んでいく。

 数日間、そのような日々が続いた。

 手綱を引き続けていたオンジも、この日は、2頭のペガサスに運航を任せて、自室に入り、休みをとっていた。

 僕たちは、食堂にある時計と、それぞれの自室にある時計を見ながら、生活のリズムを崩さないように、数日間、生活をしていた。

 クリスタル号の外は、徐々に、星の数が多くなってきた。銀河系の、星々が多い地域に入ってきたのだなぁということがわかった。

 残念なことだが、星の数が増えるにつれて、宇宙を遊泳している壊れた戦闘機、銃、そして、無重力空間のせいだと思うが、血のついた赤やダークグレーの制服と人肉のついていない骸骨、髪の毛がへばりついたヘルメットなどが散乱していることが多くなった。

 時折、クリスタル号に向かってレーザービームが飛んでくる。それを、クリスタル号を守るように覆っている、ペガサスから放たれているクリスタルの霧が跳ね返していた。

 僕が、食堂に来て、今まであったことを頭の中で整理し、「これから自分ができることは何か?」とテーブルに額をつけて考えていたら、


「ケンジさん。どうしたんですか?退屈なんですか?」


とアクアが尋ねて来た。


(一生懸命考えていたのに、アクアちゃんから見ると、僕はボーっとしているように見えるのかなぁ)


と思いながら、


「こんな、平和なひと時を過ごしたことがなかったからね。でも、窓の外を見ていると憂鬱になってくる。ダートマス連邦やアシュトン帝国のものと思われる、壊れた戦闘機なんかが浮遊しているから・・・」


と答えた。


「そうですね。星はきれいだけど、目の前の戦闘機の残骸を見るのはつらいですね」


 アクアは、続けて言った。


「ところでケンジさん。私、ケンジさんが乗車されてからずっと気になっていたんですが、胸にきれいな青色のネックレスをぶら下げていますね」


「これかい。これは、戦場で殺された、僕のお母さんの形見だよ」


「そっ、そうなんですか・・・。つらいことを思い出させてしまいましたね。ごめんなさい」


「いいんだよ。このペンダントをつけていると、なぜか、いつも、母と一緒にいるような気がする。地球では戦闘で何度もくじけそうになり、疲れて座り込み、ふさぎ込むことがあったんだけど、そのたびに、このネックレスに『頑張れ』って言われているようでね。何とかここまで来られたのさ」


「私の母も、雲のない、真っ青な空が大好きでした。だから、私は、空色の衣装を身に着けています」


「そうだったのか・・・」


 一通り、今までの思い出を話した後、アクアがこう切り出した。


「ケンジさん。気晴らしに、リバーシでもしましょうか?」


「リバーシ?」


「ケンジさん。リバーシも知らないんですか?白と黒のコマを打ち合って、それぞれのコマで挟み込んだ部分が自分の色に反転させるゲームなんですよ」


 アクアはキッチンからリバーシの道具を持ってきて、リバーシのルールを僕に教えてくれた。そして、何回か、アクアと僕は、リバーシで対戦した。しかし、アクアはやたらリバーシが強い。ことごとく、アクアに負けた。挙句の果てに、リバーシの盤全体が、アクアのコマの色になることもあった。


「ケンジさん。弱―い」


「はいはい。弱いですよ。どうせ僕には何も取り柄がないですよ」


「ご、ごめんなさい。ちょっとでも、ケンジさんの気をまぎらわそうと思ったのに。怒ってます?」


「怒ってませんよー」


 僕はそっぽを向いた。

 そうすると、アクアは、キッチンに行き、チョコレートパフェをつくって、僕のところに持ってきてくれた。


「ごめんなさい。これで機嫌を直してくださいね」


 そう言うと、アクアはしょんぼりしながら自分の部屋へ戻っていった。


(悪いことしたなぁ。チョコパフェ食べたら、アクアちゃんにあやまろう)


と心の中で思っていた。その時、僕は、反対側のテーブルの席に、イズミがクスクス笑いながら座っているのに気づいた。


「あなたたち、恋人同士みたいね。仲のいいこと」


「いつから見ていたの?なんだかはずかしいなぁ」


 アクアと入れ替わるように、オンジが部屋から出てきて、御者席に戻っていく。


「なんだか、アクアがしょんぼりしていたぞ。お前、アクアをいじめたんじゃないか?アクアをいじめると、わしが黙っておらんぞ」


「いじめていないさ。リバーシっていうゲームで、僕がアクアにぼろ負けになってすねたから、それを気にして、アクアちゃんがしょんぼりしたのさ」


 オンジも、半笑いを浮かべながら、御者席に座り、手綱と鞭を持った。


「今、クリスタル号はどのあたりまで来ているの?」


 僕がイズミに尋ねると、壁に貼ってある銀河系の地図を指さして


「このあたりよ」


と答えた。地図の右斜め下の中央あたりに指をさしながら、イズミは説明をはじめた。


「このあたりは、銀河系の中で、『マラスティア星域』と呼ばれているの。星が密集しているところよ。ダートマス連邦とアシュトン帝国の戦団が入り乱れているわ。2つの国の戦闘の一番激しいところかもしれないわね」


「そうか。だから、窓の外に、両軍の戦闘機の残骸が増えているんだね」


 続けてイズミが言う。


「私は、マラスティア星域の中にある恒星β―1の中の第2惑星『パイソン』に立ち寄るわ。数日前、戦闘で出会ったマッド・ウルフと最後の話し合いをするために。あなたも行く?」


「ああ。行くよ。僕も、マッド・ウルフという人に会って、話をしてみたいから」


「そう。でも、決して、パイソンを降りたら、単独で行動しないこと。私から離れないで。私から離れなければ、マッド・ウルフも、あなたに危害を加えないから」


「わかったよ。でも、マッド・ウルフって人はそんなに危険な人なの?」


「オンジからも聞いたでしょ。彼は、ダートマス連邦、アシュトン帝国に加担する人物をせん滅しようとしている。中立な人じゃなければ、彼に殺されるわ。今、彼は、『慈悲』という心を意図的に殺して行動している。自分の星を破壊され、父を殺され、しかも、自分をダートマス連邦、アシュトン帝国から守ってくれたアクアのお母さんのことが頭の中に鮮明に残っているから、彼の心は、ダートマス連邦、アシュトン帝国の兵士たちを見つけたらその人が良い人だろうが悪い人だろうが殺してしまう『殺人マシン』になっている。その価値観を元に戻すための最後の話し合いをするの」


「・・・」


 僕は言葉が出なかった。


「明日の朝には、惑星パイソンに到着できます。明日の準備をした後、お休みになってください」


 オンジが言う。時計を見ると、夜の7時を指していた。


 アクアが部屋から出てきて、


 「それでは晩御飯の準備をしますね。イズミさん、ケンジさん。それまでに、明日の準備をして、シャワーを浴びておいてください」


 僕とイズミは、それぞれの部屋に戻り、シャワーを浴びた後、衣服・ショックガン・持ち物のチェックをした後、再び食堂に戻った。


 「今日はビフテキを用意しました。明日、頑張ってくださいね」


 アクアはワゴンにビフテキとパン、コップに入った水を用意して現れ、僕とイズミに配った。

 明日への緊張感もあったのかもしれない。僕とイズミは、あまり会話をすることなく、もくもくと食事をして、何事も語ることなく、それぞれの部屋に戻り、睡眠をとった。


ーーーーー


「大丈夫でしょうか・・・?」


 アクアがオンジに聞く。


「『なるようにしかならん』としか言えんなぁ。明日は、わしとマッド・ウルフの父『ノア』共通の知り合いが立ち会ってくれるはずじゃ。それに期待しよう。ケンジにとっても、マッド・ウルフにとっても、明日は、それぞれが『自分の中の心の何かが変わる』日になることは間違いないとわしは思う」


 オンジはアクアに答えた。


ーーーーー


 僕は部屋に戻って、


「マッド・ウルフか・・・。どんな人物なんだろう」


と考えていた。


4.マッド・ウルフという男

 目を覚ますと、部屋にある時計が朝の8時を差しており、クリスタル号は惑星パイソンのあき地に着陸していた。

 僕は、顔を洗い、歯磨きをすませ、昨日用意した道具を持って食堂へ行った。

 食堂には、コーヒーとトーストが用意されていて、イズミがすでに食事をしていた。


「おはよう」


「おはよう」


 お互いに挨拶を交わすと、僕は、自分の席に座って食事をした。

 昨日と同様、何をしゃべってよいかわからない僕は、もくもくと食事をしてしまった。


「緊張・・・しているの?」


 イズミがこの日、はじめて口を開いた。


「緊張していないと言えばうそになる。なんせ、ダートマス連邦、アシュトン帝国の両国を敵に回して戦っている非情な男と会うんだから」


「わしらは、マッド・ウルフを非情な男とは言っておらんぞ。本当はやさしいやつだと信じておる。そうじゃないと、やつに同調する者たちがいるわけがないじゃないか。ただ、ダートマス連邦とアシュトン帝国については、今までの恨みが積み重なって、『慈悲』という心を殺して戦っているんじゃと思う。その心を、イズミさんと解きほぐしてくれんか?」


 手綱を引きながら、オンジが言った。

  

「あなたは、旅立った時のあなたとは変わってきた。旅立った時のあなたは『自分の幸せ』だけを求めていたけど、今は、『銀河系の人たちが幸せに暮らすにはどうしたらいいんだろう』って悩んでくれている。まだ、その答えが何かわからないけど、私と一緒に来て、マッド・ウルフと話をしましょう。私のことを手伝って」


 イズミはそう言った。


「わたしは、ケンジさんがその時感じたことをそのままマッド・ウルフさんに伝えれば良いと思います。それから、私の母のこと、気にしないでって伝えてください」


 横で聞いていたアクアが言った。


「わかった。僕に何がどこまでできるかわからないけど、イズミについていって、できるだけのことをするよ」


 ケンジは答えた。


「じゃあ、出発しましょう」


 イズミがそう言うと、ショックガンとショルダーバックを持って立ち上がった。僕も、イズミからもらったショックガンと、ポシェットをベルトにつけて、イズミについていった。


「いってらっしゃい。くれぐれも気をつけて」


 オンジとアクアに見送られて、僕らはクリスタル号の後方の出入り口の階段を下りた。その時である。


「お前さんたち、ここから自分たちだけで行くつもりか?危険じゃぞ」


と、クリスタル号の横から入り口の階段の下に歩いてくる、ランニングシャツに短パンの老人を見つけた。


「ニコル」


 イズミがそうつぶやいた。


「久しぶりじゃなぁ。イズミ。一段ときれいになりおったなぁ。ところで、そちらの少年は?」


「僕の名前は『ケンジ』といいます。イズミのお知り合いですか?」


「ああ。わしはこの星ではちょっと顔の利く人間じゃ。わしは3つの顔を持っておる。一つはダートマス連邦軍向けの武器をつくって売る技術者、一つはアシュトン帝国軍向けの武器をつくって売る技術者。そしてもう一つは、こっそりとマッド・ウルフに、ダートマス連邦やアシュトン帝国に納めている以上に威力のある武器をつくって売る技術者。だから、わしには誰も手出しをできない。本当の『悪人』っていうのは、わしのような人間かもしれんなぁ」


 そう言うと、


「イズミ。今日はわしの工場でマッド・ウルフと話そう。オンジから通信が入って、頼まれておってなぁ。マッド・ウルフも来るじゃろうし、さあ、行こうか。」


と言い、老人は、瓦礫になっている建物の間をすり抜けながら、路地に入っていった。


「ついていくわよ」


 僕とイズミは、ニコルと呼ばれる老人について行った。


 すると、路地の先の大通りから、子供たちの


「助けてー」


という声が聞こえてきた。

 路地の出口から見ていると、赤色の服を着た子供たちが右側から左側に走って逃げていた。その後、ダークグレーのレーザービームが右側から左側に放たれ、子供たちの悲鳴が聞こえた。

 それから、右側から、ダークグレーのアシュトン帝国の大人の兵士たちが、レーザー銃を持って走っていった。

 どうも、ダートマス連邦の子供たちをアシュトン帝国の兵士が容赦なくレーザー銃で殺しているみたいだ。

 ニコル、イズミ、僕が路地から大通りに見ていると、アシュトン帝国の兵士たちがダートマス連邦の子供たちを次々と殺していた。

 

「なんてひどいことを・・・」


 イズミが言うと同時に、僕は思わず、大通りに飛び出して、アシュトン帝国の兵士の一人にむけてショックガンを放った。ショックガンのエアは、そのアシュトン帝国の兵士の背中に命中し、その兵を5mほど突き飛ばした。

 ダートマス連邦の子供たちのほとんどは殺され、生き残った子供たちが死んだ子供のそばに寄り添って泣いていた。

 しかし、ショックガンは、あくまで、殺傷力はない。吹き飛ばしたアシュトン帝国の兵は立ち上がり、他のアシュトン帝国の兵士たちに声をかけ、こちらへレーザー銃を向けて撃ちだした。

 

「こちらから攻撃してしまった。こうなったら、わしでも止めることはできないぞ」


 ニコルがイズミをかばい、路地に隠れた。そう言っている間に、僕がショックガンを撃ったアシュトン帝国の兵士のレーザーが、ショックガンを持っている僕の右腕を貫いた。

 僕は思わず、ショックガンを手放し、ショックガンは転がっていった。


「ダートマス連邦の戦闘服は着ていないが、我々に逆らうものは、すべて敵だ。覚悟しろ」


 ニコルは、路地で、僕を助けるために飛び出そうとしているイズミを押さえている。

 僕は、アシュトン帝国の兵士たちに囲まて、レーザー銃で狙われた。殺されると覚悟を決めて


(もうダメだ)

  

と思ったその時である。

 次々と僕の周りを囲んでいたアシュトン帝国の兵士はすべて、どこからともなく飛んできた金色のレーザービームで倒された。

 気づくと、右側から、一人の男性が銃口をアシュトン帝国の兵士たちに向けて歩いてきた。


「ありがとう。」


と言おうとしたその瞬間、僕は、信じられないものを目にした。

 彼は、


「対人せん滅用バズーカーモード」


と言うと、レーザー銃をちょっと大きめのバズーカーに変形させ、ダートマスの子供たちに向けて撃ったのである。ダートマスの子供たちは、生きていた者も、死んでいた者もすべて一瞬で灰になった。

 何とも言えない憤りを感じた僕は、撃った男に向ってこう叫んだ。


「助けてもらったのはありがたいが、すべての人を殺す必要はないじゃないか」


 すると、その男は、


「ダートマス連邦の子供たちは、一瞬のエネルギー砲で、痛みも感じず、自分が死んだこともわからなかったはずだ。もう、苦しむことも、悲しむこともない。せめてもの俺の心遣いだ。ところで、お前は、ダートマス連邦の味方か? アシュトン帝国の味方か?」


と言って、逆に僕に尋ねた。


「マッド・ウルフ。こいつは『ケンジ』という若者じゃ。どちらの味方でもない。見のがしてくれ」


 路地に隠れていたニコルが叫びながら出てきた。そして、イズミが僕をかばうように、僕の前に立ちはだかった。


「ニコルとイズミか。久しぶりだなぁ。後で会おう」


 そう言うと、その男は歩いて去っていった。


「あれが『マッド・ウルフ』という男じゃよ。ダートマス連邦、アシュトン帝国に絡む人間は容赦なく殺す男さ」


 ニコルがささやいた。

 同時に、イズミはショルダーバックから薬と包帯を出して、僕の右腕の治療をしてくれた。僕は、一時の間、イズミが僕の右腕を治療しているのに気づかず、マッド・ウルフが去った方向を見ていた。


「さあ、わしの店に行こう」


 ニコルはそう言うと、大通りを横切って、再び、その先の路地に入った。イズミと僕は、彼についていった。

 2kmくらい歩いただろうか。路地を出ると赤い大きな軍需工場が立っていた。


 「さっきの一件があるからなぁ。誰がどこから見ていたかわからない。わしらをダートマス連邦の味方と思っている者が狙っているかもしれない。ダートマス連邦の兵士たちが守りを固めている、この工場から入ろう」


 そう言うと、ニコルは、赤い工場の右端の扉を開け、入っていった。


「親方。おかえりなさい」


 工場の店頭に2~3名の売り子。奥に、武器をつくっているであろう職人が数名いた。

 店の中は、レーザー銃、レーザー銃用のエネルギー管、バズーカー、手榴弾や、防弾チョッキ、ヘルメット、非常用の水と食料など、戦うために必要な武器や道具がずらりと並んでいた。

 

「武器をつくっているのはここだけではない。地下には、もっと広い製造工場がある」


 そう言うと、ニコルは、地下へつながる階段を下りて行った。僕とイズミも続いた。


「アシュトン帝国側の工場は5km先にある。じゃが、地下で、両方の工場は一つにつながっている」


 地下には、想像以上のスペースがあり、「ノア」級の戦艦も製造されていた。


「ここは、ダートマス連邦、アシュトン帝国の武器をつくる工場の一つさ。銀河系には、ここ以外にも、数か所、武器製造工場がある。わしらは、ここで武器をつくって、直売したり、専門の商人を経由して売ったりして、生計を立てておる。そして、その売り上げの一部を武器の商人の元締めに納めている。

 ただ、この工場が外の工場と違うのは、この奥にもう一つ、別の工場スペースがあることじゃ。そこへ行こう」


 ニコルは地下の工場のさらに奥に行き、奥の工場のドアを開いて入っていった。

 僕とイズミは、ニコルに続いた。

 奥の工場では、この前の戦闘で傷んでいた「戦艦ノア」が修理されていた。

 マッド・ウルフらしき男が、その光景を見ていた。


「ダートマス連邦とアシュトン帝国の武器を製造しているところはここだけなんですか?」


 僕はニコルに尋ねた。


「さっきも言ったが、銀河系には、ダートマス連邦専用の武器をつくる工場、アシュトン帝国の武器をつくる工場はここ以外にもある。しかし、ダートマス連邦、アシュトン帝国の両方の武器をつくっているのはここだけじゃ。ここは特別じゃ。あと、この工場でもう一つ特別なのは、マッド・ウルフの戦艦ノアの修理までしているところじゃな。戦艦ノアへ武器の供給をしたり、修理ができたりする工場はここしかないからなぁ」


「武器をつくることをやめることはできないのですか?」


 僕がそう尋ねると、ニコルはこう答えた。


「わしがやめたとしても、他の工場でダートマス連邦、アシュトン帝国の武器がつくられ続ける。ダート-マス連邦、アシュトン帝国、それから双方の武器の商人の元締めを殺さないと、武器の需要と供給はなくならないじゃろうなぁ。ただ、わしができることは、ダートマス連邦、アシュトン帝国、双方の味方をするふりをして、双方の軍事力を把握し、1ランク上の武器を、マッド・ウルフに納めることだけじゃ」


  イズミは悲しそうに、2人の会話を聞きながら、ニコルと僕の横に立っていた。

 そして、3人は、戦艦ノアの右横にある打ち合わせスペースに向かった。打ち合わせスペースは、テーブルをはさんで2対2で対面で話せるようになっている。

 テーブルをはさんでニコルの反対側に、イズミと僕は座った。

 そうすると、職人の2人がそれぞれ2つずつ、鉄のコップに入った飲み物を持ってきた。


「それは、地球の『お茶』さ。ちょっと渋いが、温まるぞ」


 僕が、お茶を一口飲んだ時、戦艦ノアのほうから、一人の男が歩いて降りてきた。マッド・ウルフだ。マッド・ウルフは、こちらに歩いてきて、ニコルの横に座った。


「工場の中だとうるさかろう。ちょっと待ってな」


 ニコルがテーブルの中央にあるボタンを押すと、打ち合わせスペースの下から透明な壁が現れ、打ち合わせスペースは、天井も含めて、透明な壁に囲まれ、静かになった。


「これで、外のうるさい音は聞こえん。ゆっくり話せるぞ」


 打ち合わせスペースが壁に囲まれると、ニコルが話を始めた。


「ところでマッド・ウルフ。ダートマス連邦、アシュトン帝国のやつらに気づかれないように、戦艦ノアを格納できたか?」


「いつもの、この惑星の南極の入り口を使わせてもらった。大丈夫だと思う」


「そうか。ただ、今回はひどくやられておるなぁ。ダートマス連邦の中でも、かなり、強力な戦艦が攻めてきたようじゃなぁ。もしかして、『フガク』か?」


「そのようだ。船長は『フガク』と名乗っていた。今回はてこずった。『神の銃』を使わざるを得なかった」


「そうか、あれなら、なんでも木っ端微塵にできるからなぁ。さすが、ノアのつくった銃だ。」


「見立ての通り、今回は戦艦ノアがかなり攻撃を受けてところどころ壊れている。ニコル。修理を頼む」


「わかっている。もう、何人か、職人が修理しているよ」


「ありがとう」


 そう言うと、マッド・ウルフはお茶を一口飲んだ。


「さっき、僕が言った返答を聞かせてくれないか?」


 僕は、先ほどの大通りの時に尋ねた問いを繰り返しマッド・ウルフに聞いた。そうすると、マッド・ウルフはしゃべりはじめた。


「俺は目の前で自分の星を破壊され、父を殺され、しかも、俺を守るためにアクアの母親がダートマス連邦やアシュトン帝国に殺されるところを見ている。その時に俺は心に決めた。ダートマス連邦の味方、アシュトン帝国の味方をする人間をすべてせん滅すると」


「でも、ダートマス連邦の人、アシュトン帝国の人であったとしても、良い心を持つ人まで殺す必要はないんじゃないか?」


「お前は善人・悪人がいるというふうに思っているのだろうが、それをどう見分ける?ダートマス連邦にいる『善人』は、アシュトン帝国のやつらから見ると『悪人』に見えるだろう。俺には、何が『善』で何が『悪』かわからないし、その見分けをつけることもできない。だから、ダートマス連邦の味方をする者、アシュトン帝国の味方をする者をすべてせん滅するしかないんだ」


「ニコルも両方の味方をしている。俺だって、元は、ダートマス連邦の兵士だ」


「そうかもしれん。ただ、ニコルは俺の親父、ノアの一番弟子で地球人だ。たまたま、衛星レアルが爆破された時、地球に戻っていて助かったしぶといじじいだが今は殺さない。ダートマス連邦、アシュトン帝国の味方のふりをして武器をつくっているが、ここにいる職人たちもそうだ。ダートマス連邦とアシュトン帝国の味方ではない。本当は、俺と同じ、戦艦ノアを修理するレジスタンスだ。見せかけのために、両国の武器をつくっているにすぎない。戦艦ノアをまともに直せるのはこの工場の職人しかいない。特に、戦艦ノアの心臓部を直せるのは、今は、この戦艦を親父とともにつくったニコルしかいない。だから、しょうがなく生かしている。

 ケンジ、お前もそうだ。心は中立のはずなのに、殺されそうになると、相手を殺してしまう。これは、人として持っているどうしようもない『心理』なんだ。ただ、今のお前は、心が中立の立場だから、イズミと旅ができているし、クリスタル号もお前を乗車拒否しないはずだ」


 横からイズミが、少し声を荒げて割り込むように、問いかけた。


「世の中の人が、それぞれの違いを認め合いながら、幸せに暮らせる日は来ないのかしら?」


 マッド・ウルフは答えた。


「本当は、俺もそのような世界が来ると良いと思っている。でも、それは『夢』だ。現実にそのような世界をつくるのは難しい。それを実感しているのはイズミ、お前自身じゃないのか?」


「ケンジ。お前、『幸福の星』に行くって言っているが、イズミがどれくらい苦労して『幸福の星』をつくり、守ろうとしているか知らないだろう。お前が、『幸福の星』に着いて、その現実を見た時、はじめてわかるはずだ」


「お前たちも知っての通り、俺はオンジに諭され、一時はクリスタル号に乗った。だが、アクアの母が俺のかわりにアシュトン帝国、ダートマス連邦たちに殺された時、俺はイズミの目指している世界をつくるのは無理だと思った。それに、直接、戦争の憂き目にあった人間にとっては、自分が受けた苦しみは一生、記憶の中に残っている。『和解』『和平』を言うのは簡単だが、心情的には難しいことだ。今、俺の頭の中には、ダートマス連邦のやつらとアシュトン帝国のやつらを抹殺することしかない。ケンジ。お前には俺は、『非情な人間』に見えたかもしれないがな」


「道半ばで、俺は、ダートマス連邦やアシュトン帝国のやつらから殺されるかもしれない。しかし、それはそれで良いと思っている。自分の意志を貫いたのだから。また、ダートマス連邦とアシュトン帝国をせん滅できたとしたら、その後の世界がどう変わるかを見た上で、自分の生きる道を決める」


「・・・」


 イズミは言葉につまった。そこで僕がかわりにこう続けた。


「僕も自分の母親をアシュトン帝国の兵士たちに殺された。ただ、俺は、自分が殺したアシュトン帝国の兵士の悲しみも目のあたりにしている。僕はこの戦いそのものが無意味なものだと思っている。だから、イミズの考えている世界を目指したいと思った。最初は戦争に疲れ、『自分だけが幸せになりたい』と思っていたけど、旅をするうちに、イズミの真意を知り、イズミの目指す世界をつくりたいとさらに思った。『幸福の星』には、まだたどり着いていないけど、僕は、イズミとともに、イズミの目指す世界をつくる」


 すると、マッド・ウルフはこう言った。


「俺は、お前は『意志の強い人間』だと思う。それに比べ、俺は弱い人間だ。それは認める。だが、俺は俺の決めた道を行く。俺は、イズミやケンジの目指す世界を否定はしない。手助けができるとまでは言わないが、お前たちの動向は見守る。オンジやアクアにもそう言っておいてくれ」


 ニコルが割って入るように。話した。


「どうじゃ、その辺で。ところでケンジ。お前はまだ旅の途中じゃ。わしも、イズミからしか聞いたことしかないが、イズミの言う『幸福の星』を見てから、自分の進むべき道を考えてみたらどうかのぉ」


「それがいいかもしれない。僕は旅の途中だ。『幸福の星』を見て、自分がどうするかをもう一度考えるよ。そうだ。アクアちゃんが、『マッド・ウルフさんに私の母のこと、気にしないでって伝えてください』って言っていたよ」


「わかった。それじゃあ、俺は、戦艦ノアを見に行く。オンジとアクアによろしく伝えてくれ」


「じゃあ、わしは、イズミとケンジをつれて、クリスタル号に戻ろう」


 話し合いは終わり、マッド・ウルフは戦艦ノアの格納庫へ向かい、僕とイズミは、ニコルにつれられて、来た道を通り、クリスタル号まで戻ってきた。


「じゃあ。達者でなぁ」


 ニコルは、クリスタル号の入り口の階段まで、僕とイズミを送り届けると、そう言って帰っていった。

 クリスタル号には、心配そうな顔をしているオンジとアクアがいた。


「おかえりなさい。どうでした?」


 アクアが尋ねる。


「マッド・ウルフを再びここへつれてくることはできなかったわ。でも、今の彼の気持ちやケンジの意志を聞くことができた。ケンジが、私の言いたいことを代弁してくれたわ。マッド・ウルフにも、私たちの気持ちが少しは伝わったはずよ。とても良かったと思っているわ」


「そうか。マッド・ウルフはどうじゃった?元気だったか?」


 オンジが尋ねる。


「ああ。元気だった。そして、マッド・ウルフは、オンジの言う通りの人間だったよ。今日、イズミと一緒に行って良かった。これからの旅の中で、僕はイズミを応援するし、僕の進むべき道を考えるよ。それから、マッド・ウルフは『オンジとアクアによろしく伝えてくれ』って言っていたよ」


 ケンジは、マッド・ウルフの話を聞いて、少し、今までの迷いがとれたような気がした。

 そして、改めて、「幸福の星を目指すこと」「旅の最後に、自分の進むべき道を考えること」を改めて決意した。

 オンジが御者席に座り、2頭のペガサスに鞭を打った。クリスタル号は、2頭のペガサスに引かれて出発した。

 ケンジとイズミは食堂に向かい合わせに座った。

 それから、おもむろに、イズミはこう言った。


「次に行くのは、ダートマス連邦とアシュトン帝国が唯一、和平交渉を定期的に行っているコレリア星域の惑星『カルマン』よ。きっとそこで、あなたは、ダートマス連邦とアシュトン帝国が戦っている本当の理由を知ることになると思う」


「わかった。いよいよ、両国の中枢に入ることができるんだね」


「そこは、今日の話題で出た、マッド・ウルフと私が殺されかけた場所。アクアのお母さんが、私たちのかわりに殺された場所でもあるの。今日以上に危険を伴うし、理不尽な光景を見るかもしれないわ」


「次の星での行動はあなたに任せる。あなたは、銀河系の人たちを幸せにしたいと言った。そのために、あなたが次の星でどのように行動するか、私は一緒に行って見届けながら、あなたを守る。でも、ショックガン一つで立ち向かわなければならないの。くれぐれも気をつけてね。少なくとも、今日のような無鉄砲なことはやめて。『幸福の星』にたどり着くためにも、自分の命を大事にしてね」


「わかった。どうすれば、ダートマス連邦とアシュトン帝国を和平させられるのか?どうすれば、銀河系の人々が幸せになるか?難しいけど考えてみるよ」


 窓の外を見ると、今までいた惑星パイソンが小さくなっていた。しかし、ニコルがいたであろう工場の付近からは、光が漏れ、華やかな色を放っていた。


ーーーーー


 惑星パイソンからは、ニコルが、「クリスタル号が旅立った場所」の近くの路地から、マッド・ウルフが、ニコルの地下工場の地上が見える窓から、それぞれ、クリスタル号を見守っていた。


第6章 惑星「カルマン」での攻防

1.マッド・ウルフの作戦

 クリスタル号が惑星パイソンを旅立ったあと、ニコルは再び、自分の工場に戻ってきて、地下にある、戦艦ノアの格納庫に向かった。

 戦艦ノアは、ニコルの弟子たちによって、外装、レーザー砲台、船首付近を着々と修理されていた。それを、マッド・ウルフは腕組みをしながら眺めていた。

 ニコルは、マッド・ウルフのそばに立って、こう切り出した。


「お前さんも相変わらずじゃなぁ。素直にイズミの手伝いをしてやればいいのに」


「その前にやることがある。ダートマス連邦とアシュトン帝国のせん滅だ」


「およそ1か月後に、それぞれの国の長、『ダートマス』と『アシュトン』が会談をするという噂があるが・・・」


「その情報は、俺もつかんでいる、戦艦ノアのセンサーが、ダートマスの母星から、ダートマスの乗る巨大戦艦『ダートマス』と思われる物体が出発したのを検知した。走行ルートを逆算すると、今日からちょうど1か月先に、ダートマスとアシュトンが会談を行うと思われる人工の惑星『カルマン』に到着する計算になる。俺にとっては因縁の惑星カルマンにな」


「お前さんたちのかわりに、アクアちゃんのお母さんが殺された場所だな」


「ショックガンを持って、イズミと一緒にダートマスとアシュトンのいる会談の場に乗り込み、彼らを説得した時、一旦、彼らは俺たちの要求をのむと言った。しかし、ちょっとスキを見せた時に、ダートマスとアシュトンがレーザー銃で俺たちを撃ってきた。やつらは裏切ったんだ。その時に、どうやってしのび込んで来たのかわからないが、こっそりついて来ていたアクアの母が、俺たちの前に飛び出し、かわりに撃たれた。俺とイズミは、会談をしているタワーから逃げた。周りを警備しているダートマス連邦、アシュトン帝国の兵士たちにレーザー銃で撃たれ続けたが、ショックガンでなんとか逃げた。その時の恐怖と恨みは忘れない。その時、俺はダートマス連邦とアシュトン帝国のせん滅を誓ったため、クリスタル号から乗車を拒否された。俺はそこでイズミやオンジたちと別れ、再び、戦艦ノアに拾ってもらい、レジスタンスになった。今度はしくじらない。やつらが何と言おうと、俺は、ダートマスもアシュトンも殺し、やつらの母星を、親父がつくったエネルギー砲で粉砕する」


「イズミたちも惑星カルマンに向かっていると思うが、手を組まないのか?」


「俺は俺のやり方でやる。非情と言われても、今回は、ダートマスとアシュトンを、そして、やつらの母星を、やつらを支援する者たちすべてをせん滅する。これは、俺の心の中で決めたことだ。俺のやり方は、イズミやケンジが行おうとしていることの妨げになる。だから、手を組まない。今考えている、両国をせん滅する作戦も教えない」


「作戦?」


「そう。それを達成するためには、この1か月のうちに、戦艦ノアの船首を完全に修理し、惑星カルマンに着いておく必要がある。戦艦ノアの修理を完璧なまでにできるのは、ニコル、お前だけだ」


「どういうことじゃ。艦首を修理することくらい、わしの弟子でもできるぞ」


「艦首の内部の、破壊されているところにいっしょに来てくれ」


 そう言うと、マッド・ウルフは、ニコルを連れて、戦艦ノアの艦首部分に行った。


「よく見てくれ。何か、身に覚えはないか?」


「これは・・・」


 戦艦ノアの内部には、艦首から操縦部の下の部分まで、巨大な砲筒が通っていた。しかし。艦首付近は、先日の戦闘で一部に傷が入っていた。


「この砲筒は、お前の親父、ノアが最初に開発した、恒星爆破用エネルギー砲の砲筒じゃないか。わしが、ノアと一緒にこの戦艦をつくり始めた時はなかったぞ。わしも、今までは、これほどノアが痛めつけられたことはなかったから、ノアの修理は弟子に任せ、ノアの中枢までじっくり見たことがなかった。ノアの中をここまでじっくり見るのは初めてじゃ。まさか、この砲筒を、この戦艦にノアがのせていたとはなぁ」


「親父は、この戦艦の外装ができる直前に、こっそりとこの砲筒を戦艦ノアに搭載していたんだ。衛生レアルが爆破される時に、オンジに、この戦艦ノアと俺、それから、完成したばかりの神の銃を託したんだ。この、戦艦ノアの砲筒と神の銃を使えば、同時に、ダートマス連邦の母星とアシュトン帝国の母星を粉砕するエネルギーを撃てる」


「ダートマスも、アシュトンも、最初につくった恒星爆破用エネルギー砲筒は、衛星レアルと一緒に消えてなくなったと思っている。しかし、ここには、そのエネルギー砲筒もあるし、『神の銃』もある。しかし、戦艦ノアに搭載している砲筒はこの前の戦いで傷ついた。もし、修理をしなければ、惑星カルマンでエネルギーを撃った時に暴発して、戦艦ノアそのものが爆発してしまうかもしれない。この砲筒を完璧に直し、このエネルギー砲と神の銃を同時に撃てるようにしなければならない。この修理を完璧にできるのはあんただけだ。早く、あんたに、完璧に直してほしい」


「わかった。ところでいつ、ダートマスとアシュトンの母星を撃つ気だ」


「1か月後。ダートマスとアシュトンが会談をする惑星カルマンから。

 俺は、ダートマスとアシュトンを殺した後、惑星カルマンから同時にダートマス連邦の母星、アシュトン帝国の母星に、エネルギーを撃つ。惑星カルマンにダートマスとアシュトンがいる限り、やつらは、カルマンにそれぞれの母星から、やつらのエネルギーを撃つことはできないはずだ」


「わしの見立てでは、修理ができて、惑星カルマンに着くために必要な時間はぎりぎり1か月。急ごう」


「頼む」


「それまで、戦艦ノアがここにあるのをダシュトン連邦、ダートマス帝国に知られてはなるまい。やつらは、特殊なセンサーで戦艦ノアを探索している可能性がある。この前、ダートマス連邦の『フガク』に見つかったようにな。防御の電磁バリアを張っておこう」


「ところでのう、マッド・ウルフ。修理が終わったら、わしを殺してくれないか?わしは、生きるために、まがりなりともダートマス連邦にもアシュトン帝国にも武器を売ってきた。魂を売ったんだ。もう、年老いたし、毎日、罪の意識を感じている。わしはもう十分生きた。思い残すことはないよ」

 

 ニコルが言った。


「修理が終わったとしても、今回の作戦が成功するとは限らない。また、たとえ今回の戦いが成功に終わったとしても、新たな戦いが待っている。イズミがかかえている戦いだ。また、戦艦ノアを修理してもらうかもしれない。あんたは、もう少し生きてくれ」


 マッド・ウルフは答えた。


「わかったよ。ただ、わしが今言ったことも、頭の片隅に憶えておいてくれ」


「あんたの死に場所は、俺が考えるよ」


 マッド・ウルフがそう言うと、ニコルはバリアの稼働とエネルギー砲筒の修理、マッド・ウルフは、ニコルの弟子や、戦艦ノアの乗組員とともに、できる範囲で、ノアの修理にあたった。


2.惑星カルマン

 惑星パイソンから出てちょうど1か月後、クリスタル号は、コレリア星域の惑星カルマンの真下を飛んでいた。

 惑星カルマンは、人工の星。星の両端に巨大な戦闘艇が停泊できる滑走路が何段にも重なりながら建築されており、中央には、巨大なタワーのような建造物が建っていた。タワーの周りは、左側にはダートマス連邦軍が、右側にはアシュトン帝国軍が守りを固めていた。星の真下には、ちょうど、クリスタル号が停留できるスペースと、おそらく、地上につながっているであろう透明なガラスでできているエレベーターとその入り口があった。

 

「あそこにクリスタル号を停めてみましょう。ケンジ、準備をして」


 イズミが言った。


「ああ」

 

 僕は、いつものショックガンを持ち、ポシェットをベルトにつけて、クリスタル号が星の真下の停留所に降り立つと、出入り口から出て、階段を下りていった。続いてイズミも下りた。この惑星は、両軍が中立地帯として管理しているのだろう。クリスタル号にも、降り立ったイズミ、ケンジにも、なにも攻撃をしてこなかった。どこからか、さわやかなそよ風が吹いて、僕らの髪をなびかせる。妙な静寂だ。


「この前はこんな入り口、なかったのに。なぜつくったのかしら?」


「なんだか、かえって、不気味だねえ。わざわざ、僕らに『来てください』って言っているようで」


「そうね。不気味ね。きっと、罠があるわ。気を抜かないで」


「ああ」


 僕とイズミが会話をしていると、オンジが御者席から降りてきて、こう言った。


「手綱を引いている時に見て、思っておったんじゃが、このエレベーターは、そのまま、この上のタワーの最上階までつながっておる。やつら、わしらが来ることを予測し、わざとクリスタル号用の停留所とエレベーターをつくったのではないか?そして、エレベーターが昇っている時に、わしらが逃げられないことをいいことに、四方八方からレーザー銃でハチの巣にする気じゃないかと思うがのぅ」


「なるほど。そうかもしれない」


「ダートマスとアシュトンが会談を行う部屋は、この上のタワーの最上階だわ。そこまで行かないと、ダートマスやアシュトンとは会えない。ケンジ、どうする?」


「このエレベーターを昇るしかない。一晩考えたけど、やはり正攻法しかないと思った。ダートマスとアシュトンに直接、戦争をやめるように直訴しようと思う」


「前にマッド・ウルフも同じことを試みて、殺されかけたわ。それでも?」


「ああ。2つの国の戦力は拮抗していて、戦況はどんどん悪化している。両方の戦士たちも疲弊しているはずだ。もう、戦争をやめる時期じゃないかと僕は思う。ダートマス、アシュトンに良心があるなら、そうするはずだと僕は信じる」


「わかったわ。あなたがそう信じるなら、もう一度、エレベーターを昇って交渉してみましょう」


 そう言っていると、オンジが割って入り、話を切り出した。


「最上階まで無事に着ければいいんじゃな。わしに考えがある。耳をかしてくれ」


 オンジは、最上階まで無事に着ける策を、僕とイズミに託した。


「わかったわ。その方法で屋上までエレベーターで昇ってみましょう」


―――――


 イズミたちがこのような会話をしている時、上空では、左右から爆音をあげながら、左側の滑走路に超ド級の赤い戦艦が、右側の滑走路にこれまた超ド級のダークグレーの戦艦が着陸しようとしていた。

 おそらく、左側は、ダートマス連邦の長「ダートマス」を乗せた戦艦、右側は、アシュトン帝国の長、「アシュトン」を乗せた戦艦だろう。

 2つの戦艦は、それぞれの陣地の滑走路に着陸すると、それぞれの艦の入り口から、それぞれ、長と思われる人物とそれを守る衛兵が出てきた。

 左側からは、赤い服をまとい、杖をついた老人「ダートマス」とその衛兵「ケイ」が、右側からは、頑強な体つきの男性「アシュトン」とその衛兵「アース」が。

 4人は、タワーの中央にあるエレベーターまで来ると、エレベーターに乗り、タワーを昇っていった。


―――――


「ダートマスとアシュトンが来たみたいね。エレベーターがタワーを昇っている」


 イズミが、下の入り口のエレベーターの横にあるメーターを見ながら言った。


―――――


 タワーの最上階では、ダートマスの一団とアシュトンの一団がエレベーターから降りた。

 エレベーターの前には、大きな部屋の入り口があった。


「お前たちはここで待っておれ」


 ダートマスとアシュトンの2人は、ケイとアースを制し、扉を開けて中へ入っていった。部屋の奥の窓際には、細身の男性が背を向けて立っていた。


「お待ちしておりました。さあ」


 部屋に入った2人は、中央のテーブルをはさんで、細身の男性が入り口の対面するテーブルの向こう側に、テーブルの左側にダートマスが、右側にアシュトンが座った。


「遠路はるばるおつかれさまです。ダートマス様、アシュトン様。早速ですが、こちらが、今回のあなた方の分け前です」


 テーブルの上には、あふれんばかりの大量の金貨と財宝がダートマス側、アシュトン側に分けられ、山のように積まれていた。すると、ダートマスとアシュトンは、そろって高笑いをはじめた。


「今回も、多くの国から儲けを得たようだな。ハンス。戦闘道具はそんなに売れるのか?」

 

 ダートマスが言う。


「この戦争は、これがあるからやめらんなぁ」


 アシュトンがそれに答えた。


 ダートマスとアシュトンとその男性はまるで友人かのように話し始めた。

 ちなみに、細身の男性は、武器商人ハンスであった。


「お二人のご尽力で、私も潤っております。ありがとうございます」


 改めて、3人は高笑いをした。


3.カルマン・タワーでの戦闘

「エレベーターが最上階に着いたみたいね」


 イズミが言うと、オンジはこう答えた。

 

「わしとアクアはここに残ってクリスタル号を守ります。イズミさんとケンジはエレベーターで昇るのですよね?」


「そうよ」


 イズミは、エレベーターの横のボタンを押す。すると、エレベーターは最上階から、降りて来て、扉が開いた。


「ちょっと待ってくだされ。仕掛けを用意するから」


「仕掛け?」


 イズミの問いに対して、オンジはうなずき、エレベーターの中に仕掛けをすばやく用意した。


「用意できました」


 オンジがそう言うと、


「行きましょう。覚悟はいい?」


 僕はイズミに聞かれた。


 「ああ」


と僕は答えた。


 僕とイズミは、その「仕掛け」に守られるようにして透明なガラスでできたエレベーターに乗って昇りはじめた。


「うまくいくでしょうか?」


 アクアがオンジに尋ねると、オンジはこう答えた。


「うまくいくさ。なんせ、わしが授けた作戦を最初に考えたのは、イズミさんとマッド・ウルフを助けに行く時に、アクア、お前のお母さんが考えた作戦だからなぁ」


「えっ!」


「そう。前回、イズミとマッド・ウルフがここに来た時に、アクアのお母さんは、ポニーの羽に包まれて、カルマン・タワーの最上階に行ったのさ」


 そう。オンジが授けた「仕掛け」というのは、ポニーをエレベーターに一緒に乗せて、ポニーにイズミとケンジを守らせるというものだった。


「そうだったんですか。わたし、まだ、小さくて覚えていなかった」


ーーーーー


 アクアとオンジが会話をしている間に、エレベーターが、地上に差し掛かった。その時、


「皆殺しにしろ」


という兵士の声とともに、エレベーターには、赤とダークグレーのレーザービームが四方八方から飛んできた。しかし、僕とイズミは、ペガサスの1頭「ポニー」の羽に包まれ、ポニーが放つクリスタルの霧に守られて無傷だった。

 

 無数の銃に撃たれ、エレベーターの透明なガラスは粉々になっているが、エレベーターは地上で止まらず、そのまま、タワーの最上階に向けて動き続ける。そして、無事にタワーの最上階に着いた。


「エレベーターの扉の先にも兵士たちがいるはずよ。ポニーの後ろに回って」


 イズミは僕の手を引いて、ポニーの後ろに隠れた。


 案の定、最上階でエレベーターが開くと、ケイとアースとそれぞれつれてきた両軍の兵士たちから、僕らはレーザー銃で嵐のように撃たれた。しかし、ポニーの放つ霧が、僕やイズミを包んで、すべてを跳ね返していた。そのまま、ポニーは、目の前の部屋の扉へ突進し、ドアをこじ開けた。僕とイズミは、ポニーの手綱を持って引っ張られていった。ポニーの勢いで、ケイやアースたちは吹き飛んだ。


 ―――――


 その最中、下の入り口のほうも、ダートマス連邦、アシュトン帝国の両軍の戦闘機と空飛ぶ兵士からクリスタル号が攻撃を受けていた。

 しかし、もう1匹のペガサス「サニー」がその攻撃を、サニーの放つ「霧」で防いでいた。

 とはいえ、衝撃により、クリスタル号は揺れる。


「キャー、キャー」


 アクアはクリスタル号の中で、床に伏せている。


「イズミさんとケンジを待つんじゃ。大丈夫。ここはサニーが守ってくれるから」


 オンジがそう言った。

 その時、クリスタル号の背後から、戦艦ノアが現れた。


「ダートマス連邦、アシュトン帝国の戦闘機と兵士たちへ、主砲・レーザー砲を放て」


 戦艦ノアは、クリスタル号の周りにいた戦闘機、兵士をすべて一蹴した。

 

「イズミさんとケンジがタワーの最上階にいる。助けに行ってやってくれ」


 オンジがそう言うと、戦艦ノアの操縦部にいるマッド・ウルフがうなずいて、ノアは、タワーの最上階のほうに向かっていった。


「わしらも行こう」


 オンジがそう言うと、御者席に座り、クリスタル号につながれているサニーの手綱を引き、クリスタル号を出発させた。


―――――


 タワーの最上階では、ポニーに守られてきたケンジとイズミが、ダートマス、アシュトン、ハンスのいる部屋に入り、3人の前に立った。

 僕は、目の前の光景を見ながら、こう話しかけた。


「僕の名前はケンジ。あなた方がダートマスとアシュトンか? もう、戦争はやめにして、和平を結んでくれないか? 戦闘の現場では、あなた方の兵士たちが毎日のように死に、疲弊している。戦いは何も生まない。両軍が戦っていても何も進まない。2人で協力して、銀河系をみんなが幸せを感じる場所にしないか?」


 すると、ダートマスとアシュトンに割って入るように、ハンスが話だした。


「戦争で生むものは何もないですって?とんでもない。ここに戦争で得られたものが光り輝いているではありませんか?あなたにはこの光景が見えないのですか?ダートマス様とアシュトン様は敵対関係ではありません。敵対関係の「ふり」をしているだけなのです」


 そう言うと、ハンスはこう続けた。


「私の名前はハンス。ダートマス連邦とアシュトン帝国の武器の商人の元締めです。私はダートマス連邦、アシュトン帝国の両国に武器を納めています。ダートマス連邦とアシュトン帝国が「仮の」かつ「拮抗した」戦争を続けてくれているおかげで、この戦争は永遠に続きます。銀河系の各星は、双方の長の言うことを信じ、表面上は「供給」ですが、裏では、私は、各星に武器を売っています。永遠に戦争が続き、武器は売れ続ければ、その収益が、あなたが目の前にしているこの金貨や財宝の山になるのです。我々は、この戦争で潤っているのです。イズミさんは、この前、マッド・ウルフと来た時に同じ光景を見たはずですが・・・?もっとも、前回は、会合が終わった後で私は部屋にいませんでしたが・・・」


「何だと。あなた方の言葉を信じ、戦闘している国や兵士たちは、お互いを倒せば平和な世の中になると思って戦っているんだぞ。その人たちのことを考えたことがないのか?自分たちだけ良ければそれでいいのか?」


 僕は、地球で死んでいったマーカス、ダイナ、コムソルや生きているかどうかわからないベイビー・グランド、そして、自分の母、アクアの母とアクア、ノアをはじめとした衛星レアルの人たち、マッド・ウルフなど、過去に悲惨な目に合った人たちのことに思いを馳せながら、訴え続けた。


「しょうがないじゃないですか?人には、それぞれ、生まれ持った「地位」や「使命」というものがあるんです。ダートマス様も、アシュトン様も、私も生まれながら持っている、今の地位や使命を実行しているだけ。それのどこが悪いのですか? ハッ、ハッ、ハッ」

 

とハンスが言った。


「わしらは、『自分たちのことは自分で守れ。自分で考えろ』と教育しているのじゃよ」


 ダートマスが続ける。


「わしらは、生きる残るすべを、身をもって体験する場を与えている。役に立って良いことではないか?この世は、『善悪』で満ちあふれている。『善悪』を見極め、どう対処すれば良いかの訓練をさせているのだ」


 アシュトンがニヤッと笑いながら続ける。

 僕の訴えに、ダートマス、アシュトン、ハンスは笑って返すことしかしなかった。

 その時、ハンスの後方から、レーザー銃が放たれ、タワーに衝撃が走った。


「来ましたね」


 ハンスがニヤッとしながら振り返る。窓越しに、タワーの後ろから、マッド・ウルフがハンスに向けて、「神の銃」をレーザー銃モードで撃ったのが見えた。


「マッド・ウルフさん。私はあなたの『行動パターン』や『神の銃』のことをずいぶん研究しましたよ。あなたの銃の『レーザービーム』では、この部屋はビクともしないように『耐レーザー用防弾ガラス』で囲まれているのです。あなたが、私たちを殺したいのなら、この部屋を吹っ飛ばすくらいの『エネルギー砲』レベルの威力が必要です。ただ、それを撃てば、私たちだけでなく、イズミさんやケンジさんも殺すことになります。あなたが『非情』な人ではないことはわかっています。あなたにそれができますか?」


「・・・」


 マッド・ウルフはうなり声をあげるも、今回ばかりはなすすべがなかった。

 ペガサス「ポニー」は、ケイやアースが率いる兵士たちが放つレーザービームを防ぐために、部屋の入り口で立ち往生の状態で動ける状態ではなかった。


「きさまらー」


 とっさに僕はダートマス、アシュトン、ハンスをショックガンで撃とうとした。しかし、逆に、僕はダートマスから右胸を、アシュトンから右腕を、ハンスから左のふくらはぎをレーザー銃で撃ち抜かれた。

 

「くそーっ。きさまら、きさまら、人間じゃねえ!」


 僕が涙を流し、そう叫びながら右腕をおさえ、左の膝をつくと、イズミが僕に寄り添いながら、こう言った。


「そうね。この人たちはもはや『人』ではないわね。私は、この旅のはじまりに、あなたに『人を殺さないこと』と言った。あなたが目指したように、もう一度、私もこの人たちを説得しようと思ったの。彼らの中に『良心』が残っているならと・・・。でも、ダメだったようね。あなたの言うように、この人たちは、もやは、『人』ではないのね」


 そう言うと、イズミは今まで見たことのないような険しい顔をし、ひざまずいた僕を、自分の右脚にしがみつかせながら、ダートマス、アシュトン、ハンスを睨んで仁王立ちになった。

 その時、みるみる、イズミの白い服や中指につけていたリングが、真っ黒になっていった。

 同時に部屋の外から、兵士の悲鳴が次々に聞こえた。イズミ同様、ポニーも真っ黒になり、今まで防御のみだったものが、翼を刃物がわりに、ケイ、アースをはじめに、次々とダートマス連邦軍、アシュトン帝国軍の兵士たちを殺していったのである。

 ダートマス、アシュトン、ハンスは、イズミに向けてレーザー銃を撃つ。しかし、イズミの体をレーザーが透過していく。イズミにはまったくダメージがない。


「最期に言い残すことはない?」


 ダートマス、アシュトン、ハンスは土下座をし、命乞いをした。


「わかりました。今度こそ、もう、戦争はやめます」


 それを聞くと、イズミはダートマス、アシュトン、ハンスに背を向け、左肩を僕に貸して左膝をついている僕をかかえ上げた。


「帰りましょう」


 その時である。僕は、左肩付近2か所をレーザー銃で撃たれた。ダートマス、アシュトンがレーザー銃で再び僕を撃ったのである。


「この男を殺してやる。この前の女のように・・・」


 彼らはそう叫び、僕のほうにレーザー銃の銃口を向けていた。


「もう、許さない」


 イズミは、僕を下ろしながら振り返ると、右の中指につけているリングをダートマス、アシュトン、ハンスのほうに向けた。その後、イズミの黒光りをしている右中指のリングから、どす黒いエネルギーが放たれた。真っ黒な、稲光のようなエネルギーだ。そのエネルギーが彼らを包んだ。

 その“黒い”閃光によりダートマス、アシュトン、ハンスは跡形もなく燃え尽き、灰になった。


―――――


 その光景を見届けたのだろう。間もなく、窓の外の戦艦ノアから、声がした。


「ノアの艦首をアシュトン帝国の母星に向け、艦首からエネルギー砲の砲筒を前に出せ」


「任せとけ!」


 船内から聞き覚えのある声がする。惑星パイソンからニコルが戦艦ノアに乗り込んでいたのだ。


「年は取っても、戦艦レアとこのエネルギー砲の操縦の腕は落ちていないぞ」


 彼は、正確に、エネルギー砲の砲筒の目標をはるかかなたのアシュトン帝国の母星の中央部にセットした。

 そうすると、戦艦ノアの艦首の先頭部の「衛生レアル」の国旗が描かれた甲板部が垂直方向に真ん中から2つに割れて開き、中から、エネルギー砲の砲筒が飛び出してきた。その間、マッド・ウルフは、操縦部の甲板の上に「神の銃」を持って現れ、「神の銃」を「恒星爆破用バズーカーモード』にした上で、その銃の目標を、ダートマス連邦の母星の中央部にセットし、片膝をつきながら、構えた。


「恒星爆破用バズーカーモードセット。エネルギー最大!」


「撃て!」


 マット・ウルフの号令とともに、戦艦ノアのからのエネルギーは、ニコルがアシュトン帝国の母星のほうに、マッド・ウルフの「神の銃」からのエネルギーは、ダートマス連邦の母星のほうに、ものすごい閃光とうなりをあげながら、発射された。

 ほどなく、それぞれの母星のある方向から、大爆発の稲光らしいものが見えた。おそらく、ダートマス連邦、アシュトン帝国の母星だけでなく、その星系そのものが木っ端微塵になったのだろう。


―――――


「イズミ」


 僕がイズミのほうへささやきかけると、イズミの黒い服と指のリングは白色に戻り、それとともに、イズミはその場所に気絶するように倒れこんだ。


「大丈夫ですか?」


 下の入り口にいたはずのオンジとアクアが飛び込んできた。


 オンジがイズミを抱きかかえた。僕は、ショックガンを拾って、アクアの肩を借り、左脚を引き釣りながらその部屋を歩いて出た。

 左右の廊下には、ケイ、アースをはじめとしたダートマス連邦、アシュトン帝国の兵士たちが皆殺しにされていた。

 目の前のエレベーターは粉々になって崩れ落ちており、ちょうど、クリスタル号の入り口がそこにはあった。クリスタル号の前には、先ほど、黒色になり、あばれていたポニーも、オンジになだめられて白色に戻り、相棒のサニーとともにつながれていた。

 気絶したままのイズミを抱きかかえ、オンジが、クリスタル号の入り口からイズミの部屋へ入り、イズミをベットに寝かせた。

 続いて、アクアの肩を借りて、僕が入り口に入ろうとした。その時、後ろからマッド・ウルフの声が聞こえた。


「ケンジ。これで戦いが終わったわけではない。最後の戦いが『幸福の星』で待っている。イズミは、自分自身に『誠実な心を持っている』と言い聞かせてきた。しかし、さっき、自分が真っ黒になり、ダートマスやアシュトンを殺した時に、自分の中に残っている『邪悪な心』に気づいてしまった。かなり、傷ついて、気絶したはずだ。その傷心を癒せるのはケンジ、お前ししかいない。イズミが意識を戻すまで、ずっとそばにいてやってくれ」


「わかった。幸福の星で何があるのかわからないが、今は、イズミのそばにいるよ。」


 オンジは、御者席に座り、2頭のペガサスに鞭を打ち、急いでクリスタル号を惑星カルマンから出発させた。


―――――


 惑星カルマンから、ダシュトン連邦、ダートマス帝国のものと思われる戦艦が次々と逃げるため、出発しようとしている。


「逃がさん」


 そう言うと、マッド・ウルフは、次々と戦艦ノアの主砲で、ダートマス連邦とアシュトン帝国の戦艦を撃ち落とした。そして、クリスタル号が、惑星カルマンからある程度離れたのを見計らって、「神の銃」を「恒星爆破用バズーカーモード」にして、惑星カルマンを撃った。

 惑星カルマンとその周辺を飛んでいたダートマス連邦、アシュトン帝国の戦艦群はすべて、木っ端微塵に吹き飛んだ。


「親父。仇は取ったぞ!」


 戦艦ノアの操縦部の上の甲板で、マッド・ウルフは、ニコルと並ぶように立ち、まるで天国にいるであろう父親に伝えるかのようにさけんだ。その様子を僕は、クリスタル号の入り口の踊り場から、アクアに支えられながら見ていた。マッド・ウルフの後ろ姿しか見えなかったが、なにか、マッド・ウルフの目のあたりから、涙のようなものが風に乗って流れているように感じた。


ーーーーー


 僕は、アクアにつれられ、クリスタル号の医務室に向かった。


「ケンジさんも大変な怪我をしています。治療を急ぎましょう」


 アクアはそう言うと、治療をはじめた。

 右胸、左肩の傷は、幸い、肺や心臓など、主要な臓器を避けており、大事には至らなかった。右腕も、左のふくらはぎも、筋肉の一部をえぐられてはいたが、これも大事には至らなかった。

 僕が動けるようになるには2週間を要した。しかし、2週間後には、松葉杖をつく状態で歩けるまでに回復した。


―――――


 僕は、久しぶりに食堂に行ったが、そこにはイズミの姿はなかった。

 オンジは、いつもと変わらず、2頭のペガサスの手綱を引いている。ただ、どことなしか、ポニーの元気がないように見えた。

 僕が、食堂の席にすわるとアクアが話しかけてきた。


「久しぶりに、何か食べますか?点滴と栄養剤ばかりだったから、お腹、すいたでしょ?」


「そうだなぁ。定番の、アクアちゃんの得意料理がいいなぁ」


「はい」


 アクアは、復調した僕をうれしそうに見ながら、笑顔で答えた。


「ところでイズミは?」


「栄養剤と点滴を続けているのですけど、ずっと、意識が戻らないんです。外傷はないんですけど・・・」


 一転して、心配そうな顔になったアクアはキッチンのほうに向かっていった。


「あの戦いで、ポニーがかなり疲れているようでなぁ。今は、サニーがそのかわりに一生懸命、クリスタル号を引いている。じゃが、サニーもあまり調子が良くない。ポニーの不調は、双子のサニーにも伝わるんじゃ。お前さんが『幸福の星』に急いで行きたいのはわかるが、ゆっくり進むぞ。ここは、銀河系の中の『クアット』と呼ばれる星域。アシュトン帝国の領域内だが、惑星カルマンでの戦いの後、ぱったりと戦闘がなくなっている。それに、ここは、星が少ない箇所で穏やかなところだ」


「わかった」


 その時、惑星カルマンでの戦いの最後で、マッド・ウルフが叫んだ言葉を思い出した。


「ケンジ。これで戦いが終わったわけではない。最後の戦いが『幸福の星』で待っている。イズミは、自分自身に『誠実な心を持っている』と言い聞かせてきた。しかし、さっき、自分が真っ黒になり、ダートマスやアシュトンを殺した時に、自分の中に残っている『邪悪な心』に気づいてしまった。かなり、傷ついて、気絶したはずだ。その傷心を癒せるのはケンジ、お前ししかいない。イズミが意識を戻すまで、ずっとそばにいてやってくれ」


 僕は食事を済ますと、イズミの部屋に向かった。

 イズミの部屋に入ると、右側の壁の窓は少し開けられており、ベットには、点滴を打たれているイズミがいた。まるで、死んでいるかのように、真っ青な顔をして眠っていた。


「イズミ・・・」


 僕は、そう言うとイズミの傍らに座り、右手をさわった。

 イズミの手は、氷のように冷たくなっていた。僕は改めて、両手で、イズミの手を温めるように、イズミの右手を包み込むように握りしめた。


                                       (第1部 完)












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