10-33 異種族の女
神経質そうな軍人と、作戦を立てている。
そいつによると、護衛のように付いてきている3人は戦力に数えるなと言う。
「ええっと、確認させてくれ。あんたや護衛は、戦いに参加しないってことか?」
「私のことはそうです。私は連絡とサポートが役割であり、戦いに参加しません」
「護衛たちは?」
「彼らは戦いますよ。仮にも現場の指揮役を担うヨーヨーさんの命令であれば、軍の利益と反しない限度で戦いに参加しますとも」
「じゃあ、戦力に含めるな、とは」
「ええ。単純に、力不足です」
「……」
3人の表情を伺う。
いたって真顔だ。
「別に、劣っていると言いたいわけではありません。しかし、彼らは新人です。戦場はもちろん、戦士としての経験も、ま、限定的です」
「限定的? 野盗や魔物と戦ったことは?」
「ゴブリン程度ならば」
「ゴブリン? 群れか?」
「いえ、はぐれ個体なら戦ったことがある。その水準です」
「……失礼だが、これは一応、一大作戦の補助的な作戦なのだよな?」
「ええ」
「あんたの、護衛でもあるんだよな?」
「ええ」
「もし……ないことだが、俺が反乱でも起こしたら、抑える役目でもあるよな?」
「まあ、そうですね」
「良いのか?」
神経質そうに見えた男、ニールは苦笑を浮かべて首を横に振ってみせた。
「良くありません。しかし、これはお伝えしなければなりません。作戦を成功させる気があるのならば」
「作戦を成功させる気があるなら……」
もっとマトモな人選をすべきでは、と言い掛ける。
「彼らは急募兵というやつです。戦争が始まってから各集落から集められた兵で、実態としてはまあ、食い詰め者です」
「……さっき、それぞれの得物を紹介されたが、武器は使えるんだよな?」
「ええ、それが前線に出す最低条件ですから」
「最低条件、か」
「しかし、ヨーヨーさん。あなたは運が良い。ここにいるリュズは狩人の家系だし、シタケは自警団で活躍していた。モクナに至っては、実用レベルの風魔法を使える! 幸運ですね」
「しかし、戦力にはならない?」
「はい。まともな敵戦士と戦えば、彼らはものの役に立たないでしょう」
「では、軍が3人を派遣する理由はなんだ?」
ニールは肩をすくめた。
「さて、何故でしょう? しかし少なくとも、実戦で彼らが経験を積み、一皮剥けることを期待していることは間違いないでしょう」
「……」
生き残った奴が使えるようになれば良いってことかね?
「俺には、別にそいつらを生かして返す義務はないんだよな?」
「仮にも指揮役ともなれば、その下で戦う兵に対して責務はありますよ。しかし、任務上、彼らを生かして返さなければならない義務があるかと言えば、ありません」
「だ、そうだ。聞いた通りだが、それでもお前らは付いてくるのか?」
護衛の3人に声をかけるが、いずれも無言で首肯するだけ。食い詰め者らしいし、彼らには彼らなりの事情があるのだろう。
「分かった。別に死ぬ覚悟があるなら止めないし、戦力として当てにならないという前評判は、覆してくれることを期待する。それでニール、お前はどういう立場なんだ? こいつらの上役か? 指導役か?」
「ある種の上役とも言えますが、私は戦闘ジョブではありませんから。指導役ではありません」
「話を付けるのはあんたで良いってことだよな。出発の日時とかは、ニールから情報が上がってくるのか?」
「ええ。丸鳥族のモクナがいるのに私が連絡役というのも妙ですがね。モクナは連絡役としての訓練を受けていませんから、今回は単に魔法使いとしての参加になります」
「そうか。行軍路は決まってるのか?」
「はい、軍の作戦ですから、自由な移動というわけにはいきません」
ニールから、行軍の道程の説明を受ける。
ここから南に、街道沿いに進んでいく。途中までは他の軍の部隊とも歩調を合わせて進むことになる。
そこから、目的地が近づいてきたら他の部隊から離れて南西に進む。
最後は細い道を辿って、目的の集落であるメジメリアの前に出る。
リームという町との間を結ぶ主要な街道とは逆に出るので、警戒は薄いはずとのこと。
メジメリア自体は防備が薄く、周囲にそれほど強い魔物もあまりいない、と思われる。
思われる、というのはニールが調べた周辺の情報からの憶測でしかないからだ。
防備が薄いというのも、リームの町周辺の一般的な集落はそれほど防備がしっかりしているという話がない、ということからの憶測にすぎない。
当地の戦士団員などと合流できればその辺は分かりそうだが、残念ながらメジメリア含め、リーム周辺の戦士団は会戦に敗れた後の動向が判明していない。
その後は準備の打ち合わせをしてから、3護衛と手合わせするなどして、実力を確かめた。
これはなかなか、厳しいかもしれない。
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砦は活気付いていた。
山脈とは逆の出入り口ではいくつもの部隊が順繰りに出発していく。
その度に、どこそこの集落に向かうとか、部隊名をあげて最強だとか、気勢を上げて盛り上がっている。
中には、王弟殿下のもとで決戦に参加する部隊もあるようだ。生まれて間もない帝国旗を掲げて、テンション高く出ていく。
イケイケムードだなと思う一方で、これで負けでもしたらどうなるのだろうと思ったりもした。
今は全面的に押されているなかで、ついに来た反撃の時だと士気を盛り上げている。
だからこそ、その希望が潰えたとき、この国はどうなってしまうのだろうか。
「ヨーヨー隊長。一言を」
促され、武装した各員を見る。
長髪をまとめて、かっちりした鎧を着込んだニール。見た目は歴戦の戦士のようだ。
軍から支給されたのだろう、揃いの黒い薄鎧を身にまとった3護衛。
これまで多少キスティやルキと試合をさせて育ててみたが、素人に毛が生えた程度だ。
そしていつものサーシャ、キスティ、ルキ。
こうして見ると、見た目も身のこなしも、護衛たちより頼もしい。あと美人だ。
セラは、鎧も自前の古い皮鎧だし、キスティたちと比べると見劣りする。が、それはそれでベテラン兵のような貫禄が出ている気がする。
「特にないな。ニール、代わりに頼む」
「ごほん。それでは私から。この度の作戦は小規模ながら、戦争の帰趨を決する決戦に影響するものです。必ず成功裡にメジメリアを解放しましょう。ではご唱和ください」
ニールが皆を見渡す。
「メジメリア解放部隊! えい、えい、おーっ!」
「おーっ……」
バラバラな声が上がる。
なんとも締まらない出発だ。
次の出発部隊からの無言の圧に押されるようにして、街道に出る。
馬車をひいている部隊もいるが、俺たちはない。
それぞれの背中に荷物を背負って進む。
先行する部隊の背中を追って、作戦は開始された。
街道は道幅はあるものの、あまりきちんと整備されている感じはしない。
いくつもの部隊が連なっており、休憩なども同じタイミングで取る。が、交流はない。
見たところ、軍といっても雰囲気はまちまちのようだった。
きっちりと見張りを立てて、過剰なまでに秩序だった動きをする部隊もあれば、談笑しながら過ごしている、どこか緊張感に欠けた部隊もある。
後者は俺たちと同じく、補助的な作戦ってやつに駆り出された末端なのかも。
護衛の3人のキャラクターも少し分かってきた。
モブ男のシタケは真面目。ただキスティたちとのやり取りを見ていると、どうにも童貞っぽいというか。わかりやすく鼻の下を伸ばしている。
獣耳族のリュズは暗い。獣耳族って結構明るいやつの方が多い印象だったが、リュズはなんか暗い。常に何かに怯えているというか。
狩人の家系といっていただけあって、弓を撃つ動作はなかなかサマになっている。ただあまり的の中心に当たらない。俺がサーシャを見てきたから、感覚がおかしいのかもしれないが。
丸鳥族のモクナは風魔法が使える。というか、全ての丸鳥族は風魔法で補助して飛ぶらしいから、モクナは丸鳥族として最小限の魔法だけ使えるということだ。
いちおう、一瞬強風を吹かせたり、風の膜で矢を少し逸らしたりできるらしい。
風だからなあ。
火属性なら、そのレベルでも威力としては使えたりするのだが。
風となると、攻撃役としては不足している。
「モクナ、他の魔法属性はまったく使えないのか?」
「はい、私は昔から魔法が苦手で……。飛ぶのは好きなのですが」
「丸鳥族は郵便とかで就職することが多いんだろ? 飛ぶのが好きなら、そっちが向いていそうだが」
「はい。でも、とうちゃ……父が借金で羽根が重くなりまして。見習いでもお金をくれるのは軍だけでした」
「親の借金かよ。災難だな」
「はい……」
モクナは空からの偵察役とかの方が向いているかもしれん。
「そういえば……シュエッセンって丸鳥族は知ってるか? 『暴れ鳥』って二つ名の個人傭兵なのだが」
「名前までは知りませんが、『暴れ鳥』と呼ばれている同族がいるのは聞いたことがあります」
「へえ。どんな風に言われてるんだ?」
「え、どんな風に? そうですね、単なる噂話ですから……」
「噂話だと、どんな?」
「えっと〜、あくまで噂ですよ? イイトコのおぼっちゃまらしいのですが、異種族の女の羽根を追いかけてフラフラしているとか。同族だからといって気を許してはいけないとか」
……へー。





