10-30 普通
軍の守備隊の指揮官らしきヒトに呼ばれて、アアウィンダの話を聞いた。
それによれば、アアウィンダは曹長になっており、南方への転属を命じられた記録があるという。
目標が遠のいた感覚を覚えつつ、同時にもともとの目的を思い出す。
白ガキに依頼された「渡り鳥」の連中の排除だ。
そして、渡り鳥は南の方の公国軍に加わっている可能性が高い。南のルートの道中にいるミホに接触していたからだ。
なら、これはチャンスでもあるか。
堂々とアアウィンダ探しをしながら、渡り鳥も探せる。
「やはり、南に向かうつもりだな?」
隊長はこちらの思考を読んで話を進める。
「ああ、その通り。南方というが、具体的な場所までは分からないのだろうか?」
「いや、一応赴任地というか、向かうべき先は命じられてる。だがそこにいる可能性は低かろうな」
「え? なんでだ?」
「そこはもう、公国に制圧されているからだ。そもそも命令は少し前のものだし、向かうまでに陥落している。おそらく、ルートを変更して南のどこかに向かった可能性が高い」
なるほど……。
まあ、仮に陥落していなくても、戦時中の軍人なのだ。そこからどこに向かったかは分からないか。
「アアウィンダ曹長が南に派遣された理由はおそらく、援軍だろう。湖から上陸して来た連中に対しては、まともな戦線が構築できていなかったようだからな。今も無事なら、そちらの戦線のどこかにいると思うぞ」
「なるほど。なら、探すならやはり南と」
「ああ。そこでだ、ひとつ話が……いや、私から話すべきでもないか。依頼主の部隊長から話があるようだから、向かうと良い」
「? 了解した」
さらに何か、話があるのか。
しかし、良い情報が得られた。
ホクホクで出て行こうと思ったが、ふと足を止める。
「ん、何か?」
「いや、少し気になっただけなのだが……今回、反抗した鬼人族の連中はどうなる?」
「決まっている」
隊長は、地図で山の頂上あたりが描かれた場所を指揮棒でつついてカツンと鳴らした。
「もうヌルいことは言ってられん。魔導局の部隊も含めて、部下も何人も殺された。一掃する」
地図を睨む隊長の横顔は穏やかだが、目は爛々としている。
「一線を超えたこと、必ず後悔させてやる。手心は加えん」
「……ひとつ、提言を」
「なんだ?」
「底地の村、と呼ばれる集落がある。そこの連中は、鬼人族の他の連中に逆らえないながら、出来る限りの手で俺たちを助けてくれた。今回、救助が曲がりなりにも達成できたのは、その村のおかげだ。その時が来たら、うまく使ってやって、そして報いてやってほしい」
「底地か。あそこの村長は食わせ物だがな」
「あっちの立場を考えてやれば、話せない相手ではない」
「そうだな。参考にしよう」
ルキと部屋に戻り、今度は依頼をしてきた部隊を探す。
底地の村は、あれで少しは生き残る芽が出ただろうか。
あの村長にはくれぐれも、うまくやって欲しいものだ。
「君か」
前に依頼をされたときの部屋を探して尋ねると、前にも同じ部屋で見た部隊長がいた。
前来た時はレッキーとムレナがいた場所に、俺が救助した魔導局員がひとり座っている。
こちらに気付くと、胸に拳を当てて軍隊式の礼をしてきた。俺も真似して返しておく。
「いきなり訪ねてきて悪かった」
「いや、こちらから遣いを出すべきところを、すまなかった。こちらへ」
招かれて、部隊長の対面に座る。
「まずは感謝する。想定していたなかでもかなりハードな状況になったようだが、よく任務を果たしてくれた」
「助けられたのは僅かだったが……まあ、なんとか」
「おまけに、敵の主力級を倒したと聞いた。これなら、この時期に君たちを派遣した私の判断に物言いが入ることもあるまい」
「そいつは良かった。それで」
「ああ、報酬だな。まずは金だが、金貨5枚を予定している。功績に対して、少ないかもしれないが……」
多いのか少ないのか、分からんな。
まあ一財産ではある。
「代わりと言ってはなんだが、魔道具。敵の首魁が持っていた槍を君に渡そうと思う」
「ほう、『雷斬り』を?」
「ああ。買おうと思えばいくらするか分からん代物だ」
「ありがたく受け取ろう」
正直言うと、あれはちょっと欲しかったんだ。
槍だから、俺自身は使わないのだが。
「それと、探している軍属の話は?」
「守備隊長に聞いた。南方に転属したと」
「聞いていたか」
「それで、そのとき何か、俺に話があるということだった。あんたに聞いてくれということだったが」
「なるほど、それはまだか。これは提案というか、情報提供半分なのだがな」
「ほう」
隊長は今の情勢を、守備隊長よりはいくらか具体的に話してくれた。
具体的には前線になっているおおまかな場所と、南西軍の動きだ。
それによると。
今、南西軍というか、軍を含めたキュレス帝国の勢力はここ、南西でボロ負けしている。
前線では負けが続き、軍としては遅延作戦を展開している。会戦などでは悉く押されている一方で、この遅延作戦は想定外に功を奏しているようだ。
敵の攻勢限界みたいなものもあるのだろうが、破竹の勢いで攻め入って来た敵の勢いは削がれ、今は常識的なペースでの進軍になりつつある。
それでも、常識的なペースでは攻め上がって来ていて、それを止められていないようだが。
そして、そうなると今まで通り進む敵と、慎重になる敵が出てくる。
つまり、前線の足並みが乱れる。
それが顕在化しているのが、今、まさに攻め込まれている場所。この砦も端ながら属している、ヘジャ地方だ。
ヘジャの主要都市は今まさに攻撃されようとしている。
しかし、それに周囲の敵が追いついていない。
ヘジャはピンチであると同時に、千載一遇のチャンスを迎えている、らしい。
突出した敵を叩く。
それを指揮するのは、皆大好きな王弟殿下。
一大反攻作戦というわけだ。
こんなことを、俺が聞いてしまって良いのか。
興味深さより、ちょっとした怖さが優っている。
「なぜ、これを俺に?」
「情報提供がひとつ。そしてこれを踏まえて、提案のためだ。どうだ、作戦に参加しないか?」
やっぱり、そういう話か。
「……」
「ヨーヨー殿がこれから南に行くというのなら、ヘジャにいる敵は厄介だぞ。回り道しようものなら、どれほど遠回りで、かつ悪路になるか。なにせ、ヘジャの道は貧弱だ」
ここから南に向かうために、敵を排除する作戦に協力した方がスムーズという主張か。
にしても、戦争に、それもメイン級の反攻作戦に参加するのは色々リスクもありそうなものだ。
「作戦というのは……」
「反攻作戦に付随して、諸々の作戦が開始される。そのひとつに、信頼できる傭兵集団に任せたい案件が空いている。そこを依頼できないかという考えだ」
「それは……この場で答えるべきか?」
というか、断っても問題ないのだろうか。
「勘違いしてほしくないが、断ってくれてもこちらが問題にすることはない。答えも後日で構わない。これはあくまでも善意の提案だ。それも、条件もかなり良いとは思う」
「条件というと?」
「今回、依頼したいのは補助的な作戦への参加だ。地図を見てくれ」
言われたとおり、地図を見る。
「敵は今、かなり手を広げてきている。ヘジャの都市の周辺にある、小さな集落や狩人小屋までご丁寧に占領していってるようだ。そして今回の反抗作戦があることは、味方はおろか敵にも情報が隠されていない」
「何?」
「王弟殿下は自信がおありのようだ。敵の出鼻を挫くためには、敵が言い訳のしようもない勝利が必要だと考えてらっしゃるらしい」
「……」
「つまり、各地に散っていた敵はこの機に集結するだろう。当然、集結地点は今の最前線よりは後ろになるはずだ。そして、最前線はガラ空きか、最低限の守りのみになる見立てだ」
「俺に依頼される予定のものは、ガラ空きの拠点の奪還あたりか?」
「そのとおり。いわば、主攻に対する助攻の補助、といったところだな。もし敵が想定外の強度で抵抗してきた場合、無理攻めする必要はない。敵を牽制しながら、こちらに援軍を求めてくれれば良い」
「逃げてはならないと?」
「立場上逃げて良いとまでは言えないが、敵が強大ならそれもアリだ」
逃げてもいいのか?
戦時の、一大反攻作戦に関わるにしてはユルユルすぎないか。
「失礼だが、あまりに条件が良すぎないか?」
「だからこそだ。今回の救出劇、報酬が十分とは言えないことは承知している。だからこそ、他の傭兵団よりも好条件にしている。ただそれも、こちらの勝手な配慮だからな。意にそぐわなければ断ってくれても良い」
「……承知した、感謝する。前向きに考えているが、1日だけ仲間と相談させてほしい」
「構わんとも。もしその意思があれば、この部屋にまた来てくれ。そこで詳しいことを話そう」
「ああ」
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「どう思う、ルキ?」
自分たちの部屋に戻りつつ、ルキに話を振る。
彼女は話の途中も無言で後方待機しており、今は渡された「雷切り」を大事そうに抱えている。
こういうとき、ルキはもともと口数が少ないから、護衛に連れてても変に気を遣わなくて済む。
無口というわけではないので、話を振れば普通にしゃべるのだが。
「こちらにメリットがありそうな話ですね」
「裏があると思うか?」
「いえ、そんな風には見えませんでしたが」
ルキは何というか、感性が普通なのだよな。
「……すまんな、ルキは冒険がしたいだけで、戦争に参加したかったわけではないだろうが」
「え?」
「ん?」
「それも冒険のうちでしょう? 戦争が楽しみということではありませんが……」
「そうか」
そういう認識なのか。
……感性が普通?
「しかしそうなると、セラはどうだろうな? まだ悩んでいるのだろう。行き先が戦争の最前線となると流石に、か?」
セラは道中、そしてこの砦の中でもキスティやルキと話をして悩んでいるようだった。
「長年目標にしていたことがなくなったわけですから、混乱はしているでしょうね。しかし、戦争のことはセラさんもそれほど気にされていないのではないでしょうか?」
「……そうか?」
「むしろ、山の外の戦争というものに興味津々のようですよ」
これが世界間ギャップというやつか。
部屋に戻ると、セラがキスティと一緒に仁王立ちしていた。扉を開けた途端だったので、思わずビクッとした。
「なんだ、セラ? キスティの話を聞いてたのか」
「……俺がついていくとしたら、あんたの女になるのか?」
「ん?」
ついては来たいが、俺の相手は嫌みたいなことか?
何て答えよう。
「まあ、別に俺の相手は必須じゃない。ただ、好きな男ができても自由恋愛できるかは怪しいぞ」
色々秘密が漏れてしまうかもしれないし、外からハニートラップとかあるかもしれない。
「いや、そもそもあんたは、俺のことを女として見れるのか?」
「……ん?」
セラの顔を改めて見る。
こげ茶色のショートに、細く高い鼻。瞳はよく見ると縦長でやや異物感があるが、おしゃれカラコンと思えば特に気にならない。
ギリギリイケメンでも通りそうな顔立ちだが、美形かそうでないかで分ければ、間違いなく美形に入るだろう。
ただし、こめかみのあたりに小さな角が2本、生えている。まあこっちの人間族の見た目のバリエーションを考えれば、そばかすがあるくらいの差かもしれない。
「俺は村じゃ、鬼人族の女に見れないって言われてきた。正直恋人も出来たことはない」
「……まあ、種族の差は何とも言いづらいが。村には人間族もいただろう? 彼らに聞いたことはなかったのか。お前、普通に顔が整ってるぞ」
「なっ!?」
「中性的な見た目だとは思うが……一度人間族の里に行ってみろ、結構モテモテかもしれんぞ」
「い、いや、人間族からもそんなことは……」
ふむ。
まあ、仮にも村長の娘ポジションだったし、気楽に口説ける対象でもなかったのかもな。
しかしこの見た目だと、男以上に女性にモテモテな可能性があるな。
「そんなわけでまあ、セラを女として見れるかという話は、余裕で見れる。だが、別に強制するつもりはない。お前の場合、自分で身売りしたわけでもないし、流れで一緒にいるだけだしな」
隷属も、最悪しなくても良いと思っている。
その場合、旅には基本連れていけない。
が、各地に拠点も出来つつあるし、港都市の屋敷はワープポイントでもあるから、どれだけ守りが厚くても困らない。
「……分かった。正直、男女の話は俺にはまだ良く分からない。だから、まずは傭兵団の一員として仲間に入れてくれるか?」
「良いぞ」
「まずは、お前たちが探している、偉いヒトの娘の捜索を手伝うよ。そのあとも正式に雇うのかとかは、後々考えて欲しい。それでは虫が良すぎるか?」
「いや、まあ良いだろ。お前の育ての親である村長には世話になったしな。それくらいは特別扱いしてやる。もっとも、俺の女じゃなくたって、仕事はしてもらうぞ?」
「当たり前だ。俺は山の外に詳しくないが……偵察とか野宿とか、そういうのはちょっと自信がある。役に立つはずだ」
たしかに、斥候人材は何人いても困らないからな。
今までは、斥候と言えばアカイトくらいだった。が、あいつ本人が弱いのと、有効なときとポンコツなときの差が激しい。
セラはその点、魔物の巣窟である山脈で1人で生き延びるだけの知恵と経験がある。
悪くない。
先週更新スキップして申し訳ありませんでした。
急病により(命に別状はない)諦めました。
無事復活しました。





